FF10-2.5以降(10-2.5最終のザナルカンドへ二人旅の前)LM未満。
ティユウが10-2.5のことを思い返したりちゅうしたりえっちしたり。
公式よろしく視点があちこち変わる相変わらず仕様です。

恋はまぼろし

 村の広場でティーダやオーラカのメンバーたちと雑談し、ユウナはビサイド寺院の自室へと戻っていた。
 千年前、永遠の平和を夢見た都市が召喚された。その街からやってきたティーダは、幻の平和を夢見た祈り子たちの夢であり、召喚された存在であった。つまり、二年前にスピラへやってきたティーダは幻ということになる。
 スピラを永遠に巡る厄災シンを倒す旅へ出た時、ユウナは召喚獣という幻から戦う力を借りた。彼からはどんな困難にも立ち向かう姿勢を教わった。生者だと信じて疑わなかった。恋をしてはいけない相手だと疑いもしなかった。幻に恋をしたその恋心こそ幻想。帰ってきた彼と愛し合ったのも幻想。彼への想いすべてが幻想。そう思いたくはないが、そう考えてしまう。
 ねえ、クシュ。あなたはブライアを祈り子にしたくなかった。なのに、なぜ死にゆく彼の幻光を固定化したの?ねえ、ジョイト。あなたは、なぜクシュへの想いを押し殺してまで召喚獣であるクシュを守り続けたの?ねえ、ブライア。あなたは、なぜ記憶を封じられても必ずクシュへとたどり着いたの?心の底から愛したのはメロウとモーラだと言ってたけど、クシュの本当の名前はメロウじゃないの?
 ユウナは帰宅してからずっと窓の外を眺めながら召喚された島に上陸していたことを思い返していた。集落の広場からティーダに別れを告げた時は夕焼け空であったが、日はとうに暮れ、星空が広がっている。脱いだブーツは床に倒れ、ベッド上で両膝を抱えては、たまに抱え直す。
 クシュの本当の名前を知りたい。けど、今さら知ってもどうにもならない。だって、みんな千年前の幻。
 シューインとレンもそうだった。本人の意思とは関係なく歩き出した影。残っていた召喚士の想い。千年前の機械戦争で生まれた恋人たちの悲劇。互いを死なせたくないと強く思っていた。
 わたしたちと同じだった。
 帰ってきた彼は、おそらく祈り子たちの思いでできていたであろう。召喚された島で事故に遭い、召喚士の魔法と引き換えに戻ってきた彼は、自分の思いでできていた。
 わたしが自分勝手に彼の生を操作した。
 ジョイトがブライアに言っていた。
――あなたは撃たれ、命を落とした。クシュは、たぶん気が触れた。僕はそう思う。あなたから吹き出す幻光を、自らの、ありったけの思いを注ぎ込んで固定化した。あなたはクシュの思いで幻光体になった今この瞬間も、クシュに思われることで存在しているんだ――
 恋人を祈り子にしたくなくて自ら祈り子になった召喚士クシュと同じ。気が触れた。そして、どこか矛盾している。やっぱり、わたしと同じ。クシュ、ジョイト、ブライア、シューイン、レン――彼らは異界へ還るのに千年かかった。彼とわたしには、どれだけの時間が必要なのだろう。
 自室の扉がノックされ、扉越しにティーダの声が聞こえた。
「ユウナ、大丈夫?」
 ベッドに腰掛けていたユウナは姿勢を正し、大き目な声で返す。
「あ、うん、大丈夫。……って、どうしたの?」
「それは、こっちの台詞。晩飯食いに部屋から出てこないって、大騒ぎ。ルールーもワッカもみんな順番で声かけてたけど反応なくて、みんな心配してる。具合、悪いの?」
「ううん、そういうわけじゃなくて、ちょっと考え事」
「新しいお祈りのこと?」
 ティーダの他にも人がいるような気配にユウナは話を合せようと頷く。
「えっと、そう、うん。それで、キミにも意見、聞きたくて、あの、キミだけ、入ってきてくれないかな……」
「うん、わかった。じゃあ、飯も持たされてるから、それ持って入るな」
「了解っす」
 扉の外でティーダをはじめ、ワッカと村の年配者たちの声がしていたがそれが遠ざかると再び扉がノックされてティーダが入ってきた。
「ユウナ様ぁ、夕飯の時間ですじゃよぉ。食えるときに食っておかないとあとで後悔するぞ」
 高音と低音と微妙な早口で誰かを真似ているようなティーダに笑みをこぼす。
「えっと、誰?」
「婆さん。んで、途中でアーロン。あれ?似てない?」
「ふふ、ちょっと似てた」
「だろ?よし。村の婆さんもレパートリーに入ったな。でもさ、これするとワッカすっげぇ似てるって笑うんだけど、必ず殴られるんだよな。似てるんだからいいよな?」
 同意を求める言葉尻にユウナは笑顔で頷く。
 やっぱり、キミはすごいね。あんなに悩んでたのに、わたし、もう笑ってる。
「はい、ユウナ。飯、食おう!」
 テーブルに置かれた料理からは湯気がたちこめている。
「おいしそう……」
 部屋の前での声かけの度に温め直されたであろうそれらは、ビサイド島の自然の恵みで満ちている。そこに村人たちの笑顔が見えた。
「うん、すっごく美味かった。だからユウナもアツアツのうちに食っちゃおう。あ、それとも、俺にしとく?」
と、ティーダの右手がユウナの顎を掬う。
「デザートはあとにしまーす」
 デザートといわれ、満更でもないティーダはにこりと笑ってユウナから手を下ろした。
 ユウナはテーブル前の椅子に腰かける。手を合わせてから箸をとり、ほぐした魚の身を口にした。体に優しい塩分とふっくらとした甘みを実感するように目を閉じる。
「ダメだね、わたし。みんなに心配かけちゃって……」
 膝の上に箸を握る手を落とす。ティーダはユウナの箸をとった。
「だな」
と、ティーダは新たにほぐした魚の身を箸で挟んでユウナの口元へ運んだ。
「おまけに赤ちゃんみたいだし。ほら、ユウナの好きな魚」
 言われてユウナは目を開けた。
「ん?フーフーする?」
 首を横に振ったユウナは素直に口を開き、ティーダに食べさせてもらう。
「ユウナ、考えるのはちょっと休憩。今は食べることに専念すること。わかった?」
「うん、ありがとう」
「ありがとうは、俺よりみんなに言うこと」
 強めの語気にユウナは頭を下げるしかなかった。
「了解っす」
 頷いた後のティーダの笑顔にユウナもにこりと頷いた。
***
 ユウナの食事が済むとふたりでベッドに上がり、ティーダは窓辺の壁に背をもたれさせた。
「で、考え事って?」
 ティーダの両膝の間に座るユウナは、真後ろからの声にどきりとする。
「ひとりで考えて、飯食うのも忘れて、部屋に閉じこもって、みんなに心配かけた。で、俺ひとりだけが聞く権利を与えられたのにも関わらず何も聞けず仕舞い。んで、俺は婆さんや爺さんたちに首絞められる。……ってのは嫌ッスよ」
「うん……」
 こちらから打ち明けようとしたわけでもなく、気づいてくれた。思い詰めるのはよくない、話して気を楽にしたほうがいい。ティーダの気遣いが嬉しかった。だが、言えない。言ってしまったら終わってしまう。
 ユウナはティーダの右腕に顔をもたれさせた。ティーダの肌に触れる頬の温かさに心が安らぐのを実感する。
 そこに召喚されているならば、召喚をやめればそこにはいなくなる。必要ならば、その都度、召喚すればいい。しかし、それでは彼という人の存在を否定することになる。確かにティーダは千年前の祈り子たちが夢見た存在である。だが、スピラにやって来た。永遠を望んだ夢を祈り子たち自ら終わらせるため、ティーダと同じく祈り子たちの夢であったジェクトがシンとなった身で息子を呼び寄せた。アーロンは隠された真実へと導き、ティーダは皆から託された願いを叶えた。召喚士を死なせることなく、シンを復活させない方法でスピラを死の螺旋から救った。自分で考え、自分で決めた。祈り子たちが思い描いた夢の存在を越えていたのだ。祈り子たちが思い描かずともティーダはティーダであり、他の何者でもない。そう思うのに、不安になる。
 ジョイトが召喚する島で、幻光と融け合うキミを見た。帰ってきたキミが召喚された存在だというのはわかった。けれど、今はどこから召喚されてるの?ジョイトの島はなくなってもキミは変わらず存在した。やっぱりわたしが召喚してる?今、この腕を掴んで幻光を辿って確かめる?でも、確かめるには、まだわたしの覚悟が足りない……。
 ユウナは顔を上げた。ティーダの吐息を髪に感じる。
 召喚の主導権は祈り子のほうにある。キミが今も変わらず召喚された存在だったとする。キミの祈り子はどこ?キミ自身が祈り子なの?だとしたら、キミは、わたしの究極召喚なの?
「わからないんだ……」
 どこから召喚されているのかがわかった時、キミとわたしのナギ説が終わる――そんな気がする。だから、考えたくない。でも、考えたくなくても気になって仕方がないのも正直な気持ち。
 わからないと呟いたきり、再び黙ってしまったユウナにティーダは言った。
「なら、俺と一緒だな。わからないことだらけ」
「え?」
「なんで俺は二年もの間、スピラに戻って来れなかったんだろう、つうか消えちゃうって覚悟決めてエボン=ジュ倒したのに、なんで戻れたんだろう、とか、イファーナルが召喚してた千年前のビサイド島って、俺がいたザナルカンドと同じ仕組みなのかな、似てるだけなのかな、とか」
 あれこれ挙げられる疑問にユウナは頷いた。
「今、一番知りたいのは、ユウナがなんでお膳に上げられた御馳走してくれたのかなってことだけど」
「え、それってどういう意、味っんっ」
 ティーダはユウナの頬に手を当て、ユウナの唇を寄せると自分の唇を重ねてすぐに離した。
「俺が本当に本物かどうか確かめたかった?」
 ユウナは、真顔で訊ねるティーダの目を見つめた。
「体に聞くのが一番だもんな」
と、ティーダはユウナを抱きかかえ、ベッドに寝かせた。
「俺もさ、ずっとユウナのこと考えてた」
 ティーダを見上げるユウナの頬がほんのり赤い。
「ああ、違うよ。ユウナのえっちい姿を思い出してたんじゃなくて、その後のこと」
「え……?」
「わかんないならいいんだ。考えなくていい」
「でも、それじゃあ……」
「ユウナさ、俺が一体何かってわかってないよな?」
 ユウナの顔から赤みが消えるのを見て、ティーダは右の人差し指でユウナの唇に触れた。
「大丈夫。俺もわかってない。本人もわかってないんだから、ユウナにはわかんない」
「召っ……」
「召喚士だからわかるってのは、なしな。つうか、召喚士って言うんなら俺の正体わかってんじゃないの?」
 ユウナは瞳に涙を滲ませた。
「って、やめてくれよ。今、アーロンみたいに送ったりしないで。俺、まだスピラに未練ある」
「……なに?」
 涙を含んだ声に切なくなったティーダは眉を寄せた。
「ユウナと子供つくってない」
 悲願の表情を崩さないティーダを見上げたままのユウナは、ぽかんとした。見事な呆気のとられ方に耐えきれなくなったティーダは吹き出し笑いだす。
「はは、ごめん。ユウナと子供つくりたいの、別に冗談じゃないよ。けど、ユウナ、その顔ダメ。すっげーマヌケ」
 爆笑するティーダは、反論してこないユウナに嫌な予感がして笑いを収めた。案の定、ユウナは複雑そうな顔をしている。
「俺は、自分のこと死人だと思ってない。で、未練はユウナとの普通の生活。たとえば、ルカのその辺にいるような恋人同士みたいにユウナといちゃいちゃすること。前にも言ったけど、ユウナのいないスピラは嫌だ。俺にとっては、ブリッツボールがないブリッツの試合みたいな意味がないものになる。ユウナのことを前より知っちゃった俺は、ユウナに捨てられたらスピラで生きてけません。……こんな男は嫌?」
「わたしも嫌……」
「え、やっぱ嫌?」
「ああ、違うよ、そういう意味じゃなくて……。キミがいなくなるのは嫌」
「うん。じゃあ、たとえば死人だったりしたら、送るの、迷う?」
「うん。きっと、すごく迷う……」
「なら、いいや」
 安心したティーダはユウナに添い寝する。
「結果的に送られたとしても、真面目なユウナはすごく迷ってくれる。迷うことなく即決で送られたら、俺ってユウナにとってなんだったの~?ってさ。けど、そうじゃない」
「ずるいわたしでもいいの?」
「うん」
「正しくないわたしでもいいの?」
 ユウナの髪を撫でるティーダの手が止まる。
「うーん、それはわからないな。正しい、正しくない、って誰が決めるの?インチキエボンの教え?」
「あ、そっか。それを新しいお祈りで決めればいいんだね」
「んー……、それもなんか怖くない?誰かが偏った考え方で掟なんかを作ったら、結局は何が善で悪なのか、わかんなくならない?って、ユウナが偏った考え方してるとか言ってるんじゃなくて……。あ、でもある意味そうなのかも。だって、ユウナはスピラ育ちで、エボンの教えを真面目に守ってたわけだろ?ワッカもルールーもそうだった」
「そうだね」
 確かにティーダの言う通りである。生まれてからずっと信じてきたエボンがそうだったのだ。永遠に繰り返すことを良しとし、偽物の平和とした。その平和が束の間でしかないのは罪が償われていないのだと、スピラの人々に永遠に罪を償わせた。
「なあ、ユウナ。ワッカにも相談したらいいんじゃない?もちろん、ルールーもだけど。ワッカがエボンの教えガッチガチの時は、異界詣でで、なんで会いたい人が出てくるのか説明されてもいまいちよくわかんなかったんだ。けど、帰ってきてからワッカに異界詣で仕組みを教えてもらったら単純明解だった。なるほど納得!ってさ」
「うん、そうする」
 少し元気を取り戻したユウナの声音にティーダは笑顔で頷く。
「ん。じゃあ、本題入っていい?」
 こちらの悩みの素であったティーダの正体のことは本人に誤魔化されてしまったし、ティーダだけを部屋に招き入れる口実とはいえ、お祈りの話はできた。話の本題としてもよかったのだが、まだ何か話したいことがあるのだろうかとユウナは不思議そうにティーダを見た。
「得体のしれない俺とえっちするの嫌?」
 直球で訊かれてユウナの顔が熱くなる。ユウナは頭を横に振った。
「キミだから、いいよ……」
 恥ずかしさでいたたまれなくなり、顔を隠すようにティーダの胸に頬を寄せた。
「よかった」
 穏やかに微笑んだのも束の間、ティーダの顔が綻んだ。いやらしく口角が上がっている。
「ごめん。顔が勝手ににやける。ユウナ様行方不明事件からこんなふうにふたりきりってなかったし、いつできるのかなーって思ってた」
 包み隠さない正直な告白にユウナは思わず笑みをこぼした。
「ほんとにキミは正直者だね」
「ウッス、ありがとう」
 にやける口元を手で覆いながらユウナを見る。
「別に褒め言葉じゃないんだけどなぁ」
と、自分から視線を逸らすユウナも恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「とか言って、ほんとはユウナも期待してた?」
 どきりとしたユウナはティーダと瞬間、視線を合わせたが、また視線を逸らした。
「ううん。わたしはキミとこうやってゴロゴロしてるだけでも充分幸せ」
 ユウナはティーダの背中へと腕を回して抱きつく。
「あー……、やっぱ痛かった?だから、そんなにしたくないとか?」
 声に不安な気持ちがあふれ出ている。ユウナはくすりと笑った。
 ほんとにキミは正直者だね。
「ううん。肌と肌が直接触れるのって、すごく気持ちよかったよ。だから、前は正直すんごく痛かったとしても、次はしたくないってことはありません」
 顔を火照らせながら言うユウナは、勢いをつけて服の間から覗くティーダの素肌に口づけた。
「えっと、それじゃあ……」
と、ユウナを自分の腹の上へと引き上げる。ティーダは目を閉じて続けた。
「デザート召し上がれ」
 口づけを待っているらしいティーダの顔をユウナはじっと見つめた。一向に反応のないユウナにティーダは痺れを切らせて茶化す。
「なんて言ったりして」
 ユウナは、ふふっと笑った。
「ごめんね。どんな反応するのかなって眺めてた」
「ああ、ひでぇ」
「だって、改まっちゃうと、すごく照れちゃう」
 ユウナは火照る顔の熱を散らそうと手の平でつくった扇であおぐ。
「俺だって恥ずかしいのにっ」
「うん、ごめん。……これで許して」
 拗ねるティーダの唇にユウナが自分の唇を押し当てると、ちゅっと小さな音が鳴った。
「うん、許す」
 にこりと笑ったティーダに、ユウナもつられて笑顔になる。口づけは重なるごとに熱を帯びる。
「……ふぁ、んっ……」
 唇の角度が変わるごとにユウナのくぐもった声がティーダの舌に届く。時折ぴくりと揺れるユウナの細い腰を掴んで服の下ですでに猛っているもので突き上げたい。眉を寄せたティーダは唇を離した。ユウナを抱いたまま上半身を起こす。ユウナの服の裾を捲り掴んでゆっくりと脱がせた。すぐに自分の胸を両腕で覆うユウナに愛おしさを感じる。
「あ、ネックレス、はずしとく?」
「うん」
 ユウナが首の後ろに手を回そうとするが、先にティーダの両手が回った。
「いいよ、俺がはずしてあげる」
 ティーダは、はずしたネックレスをサイドテーブル上のビサイド織り小物入れに落とした。自分も上の服を脱ぎ、エイブスマークのネックレスをサイドテーブルの上へと置く。
 アーロンはユウナレスカにやられた。それでもガガゼト山を下りた。いくら鍛えてた坊さんだからって不死身じゃない。アーロンは、仲間との約束のために死人になった。
――こういう体で得したこともある。シンに乗っておまえのザナルカンドにも行けたしな――
 アーロンが死人の体だったからこそ召喚された俺のザナルカンドに行けたっていうのなら、ユウナは気を失っていたんじゃなくて……。
「ユウナ、見せて」
と、ユウナの胸を覆う腕に口づける。腕の力が遠慮がちに抜けるとティーダは綺麗なふたつの膨らみを眺めた。
「綺麗だよ」
 緊張のためか左の胸が僅かに速く上下する。
 オーラカ・エース号の時と変わらない。つうか、あの時は暗くてぼんやりで、こんなに明るい所で見るのって初めてで、やばい、感動……。
 胸が熱くなり、目頭も熱くなる。
「あの、そんなに見られると、すごく恥ずかしいです……」
 軽く握った右手を口元へやり、視線を落として肩を微かに震わせている。頬は紅潮し、口元へやった腕によって右胸は軽く押し潰され、左胸は先程より速く鼓動を打っている。
「ごめん。その、感動しちゃって。前の時は、灯り消してたから、こんなにちゃんと見れなくて、ほんとにすごく綺麗で、俺、触っちゃっていいのかなって」
 早口で言う自分がおかしかった。自覚があるものの、落ち着いていられない。
 なんだよコレ。前の時よりすっげぇ緊張してる。見えるってだけなのに、こんなにエロいんだな。って違う。ユウナの体を確かめようと、って確かめるってそういうことじゃなくて、ああークソッ、俺、挿れることしか考えてないのかよ!?我慢しろ俺の下半身!
 心内の葛藤を悟られぬように静かに深呼吸する。ほんの少し気を取り直したところでユウナに右手を掴まれた。そのままユウナの左胸にその手を当てられ、手の平に柔らかさと温かさを感じる。
 なっ、ちょっ、ユウナ、それはマズイッスよ!
「触っていいよ、こんなことティーダだけだよ。キミだから、いいの。いっぱい触って、前の時みたいに……」
 瞳を潤ませたユウナにティーダは、まんまと誘惑されてしまった。右手で膨らみを掴み、優しく押し潰す。その柔らかさに感嘆の溜息をつく。
 って、これじゃあ、どの道ダメだって。
 嵐がやってこようとしていたあの晩、オーラカ・エース号で自分たちは初めて結ばれた。初めて異性を知ったユウナは声というほどの声を発さなかった。痛いと抗議もしなかったのだ。自分も緊張していたとは言え、もっとユウナの心をほぐしてやるべきだったと、自分たちのビサイド島へ戻ってきてから後悔した。つい先日のことだ。そんなことさえすぐに気がつかなくてどうするのだと情けなくなった。二度目のチャンスがないのは、己の不甲斐なさのせいだとも思った。
 せめて、もっとこう、声を出してくれたらいいんだけど、でも、声って気持ちよくなかったら出ないよな……。
 ティーダはユウナの胸の先を指で転がしていた。ユウナは声を堪えながら肩をびくびくと揺らしている。
「ユウナ、痛い?」
「んっ、ううん、っ、大丈夫」
 もう一方の胸の先も同じように指で転がすと、声を堪えた溜息がこぼれた。胸の先を刺激していた指をそのまま滑らせ、胸の膨らみの下、臍へと下げていく。ティーダの指を意識したユウナの体はびくりびくりと揺れている。
 やっぱ、いきなり感じるとこ刺激するよりじわじわ行ったほうがいいかな……。
 脳内で作戦変更をしたティーダは服をすべて脱ぎ捨て、ユウナの服をすべて脱がせ、ベッドへ寝かせた。
「えっと、じゃあ、やっぱり俺のほうがデザートいただきます」
と、ユウナに軽く口づけた。
「うん、柔らかくて、美味いよ」
 顔を赤くしながら言うティーダにユウナは思わず吹き出した。
「あ、笑うなよ~」
「だって、前の時と違うんだもん」
「そ、それは、ユウナに夢中だったから……」
「今は、違うの?」
「今も夢中だよ。こんなユウナ目の前にして夢中にならないはずないって。……その、ユウナ、声、出さなかっただろ」
「声?」
「痛いとも、やめてとも、言わなかった」
 ユウナは、ああと、目を伏せた。
「それは、やめて欲しくなかったから。ほら、痛いと生きてるって実感できるでしょ?」
 ティーダは、じっとユウナの目を見つめた。
 気づいてるのか?いや、まさか。ユウナが召喚士で幻光に敏感なら、気づいてるのかもしれない。普通に考えたら気づいてるはずだ。でも、死人っていうのは本人が気づいてなくてもなってることがあるって、召喚士の旅でユウナに教えられたぞ。それに、ユウナは自分のことについては鈍感だ。
 ただならぬティーダの雰囲気に、ユウナは訊ねた。
「どうしたの?」
「あ、いや……、俺、やっぱ下手なのかなって思ってさ」
 く、苦しい。自分で言っておきながら苦しい言い訳。つうか自分で自分の首絞めてさらに苦しい。
 苦笑するティーダにユウナは弁明する。
「そんなことないよ。痛いと生きてるって実感するのは、本当にキミと繋がれたんだなって実感できて……」
 ユウナはティーダの右手を自分の左頬に当てさせた。
「キミの手がすごく優しくて、温かくて、えっちで、すごく幸せで……、夢の中の出来事じゃなくて、現実に起きてることなんだって、キミが入ってきてることは、本当に夢じゃないんだって、んっ」
 涙をあふれさせるユウナの唇を口づけで塞ぐ。熱く深い口づけに、ユウナの瞳には切なさの色は消えた。口内でティーダに愛撫される舌が甘く痺れる。首の後ろにぞくりとしたものが駆け、無意識に身じろぐ。
 こんなキス、知らない。マカラーニャの泉のキスと全然違う。どうしよう、わたしの体、前の時と違う。こんなの知らないのに、わかってる。
「……ん……」
 不意に聞えたティーダのくぐもった声に、ユウナは腰を震わせた。
 やだ、こんなの……、キスだけなのに、わたし感じちゃってる。わたしの体、おかしくなってる。
 唇を離すと、ユウナはとろりとした瞳でティーダを見つめた。
「ん?気持ちよかった?」
 額の髪を愛おしそうに梳くティーダに、ユウナは微笑み頷く。
「そっか、よかった」
 髪を梳いた手が肩に落ちる。二の腕、脇腹と移動し、太腿へ行ったところでユウナの視線に気づいたティーダは微笑んだ。
 ああ、よかった。感じてくれてるみたい。やっぱじわじわ行ったほうがいいみたいだな。前は暗かったし、必死だったしで余裕なかったけど、やっぱり見えるってことは大事だな。どこでビクッてするかわかるし、エロいし。ダメだ、やっぱ顔が勝手ににやけてきそう。うーん、綺麗なおっぱい吸いたい。転がして押し潰して、ちょっと噛んだりなんかして。そしたらユウナがティーダぁってえっちな顔して言ってくれるっていうイメージトレーニングな。いっぱいじらして、ユウナから欲しいって言ってくれるようになるまでは、焦って勢いにまかせない。ああ、見えるっていいな。
 ユウナの全身にくまなくキスを落とし、優しく撫でる。すっかり余分な力が抜けたユウナの素肌はほんのりと赤らんでいる。
 美味そう。どこでもいい反応してくれそう。 
「ユウナ、触るな?いい?」
 優しい声で確認され、ユウナは素直に頷く。両胸に触れた両方の指は乳房を優しく掴む。不意に頂に触れた人差し指がいやらしく動き、ユウナの背に力が入る。電流が奔ったような感覚に声が自然とこぼれた。
「あっ、んっ」
 甲高い女の声がいやらしい。ユウナは顔を真っ赤にし、自分の口元を手で覆った。
「声、我慢しないで」
 両胸を弄ぶ愛撫に視線を落としたままのティーダはいやに落ち着いている。自分だけが恥ずかしいのは堪らない。
「やっ、いや、声、恥ずかしっ、んんっ、ダメ、ひっぱっちゃ、いゃ、ぁあんっ」
 甘い声が上がった。不本意だ。硬くなった胸の先はそれぞれの親指と人差し指で摘ままれ、軽く引っ張られたり捏ねられたりしている。
「はぁ、前の時より、キミの指、いやらしいよぉ」
 甘い鳴き声が堪らない。ティーダは穏やかに微笑み、ユウナの胸を中央に寄せた。右の胸の突起を口に含んで舌先で転がし、次いで左の突起も同じように転がした。声を出すのをなんとか堪えようとするユウナが意地らしく、かわいらしい。ティーダはユウナの膝を開いた。まだ触れていないのに、透明の蜜が滴っている。
 前の時より、感じてくれてるんだ、ユウナ。
 ティーダは、自分の指を舐め、潤した指でユウナのそこを開いた。奥まったピンク色の襞はほんの少しひくついている。
「あの、そんなに、見ないで……」
「ごめん。そのお願いは聞けない」
と、ティーダは襞の上にある小さな突起にそっと触れた。ユウナの悲痛な喘ぎにどきりとする。
「あ、ごめん。ここはもっと慣らしてからにするな、んっ……」
 ティーダはユウナの敏感なところを舌で撫でた。ユウナの反応が穏やかになってくると舌先を滑らせ、そこへ直に触れる。優しいのに逃すことなく刺激され続け、快感の波が急速に押し寄せてきた。
「や、ダメ、ティーダ、やめてっ、お願い、あ、ダメ、何か、きちゃう、そこやめっ、んんっ」
 ぴたりと止んだ刺激に安心するも、何か物足りなさを感じたユウナは膝の間にいるティーダを見下ろした。
「苦しい?」
 問われてユウナは首を横に振った。
「じゃあ、気持ちよかった?」
 素直に頷くユウナに、ティーダは笑みをこぼす。
「何かくるのが恥ずかしい?」
 こくんと頷くユウナが、とても愛おしい。
「きてくれないと俺が困るんだけどな~」
 ティーダは呟くように言って口を尖らせた。
「どうして?」
「俺がいく時にユウナのここにもくると上手に飲みこめるの」
と、ティーダは中指をユウナの中へ沈めた。中指の先はユウナの中を探るように動く。ぬめった内壁を優しく撫でまわす。
「で、ここ」
 関節を曲げたそこを指の腹で擦る。
「ここもいいところだから、覚えて。俺のにここ擦られて俺のこと締めつけて……」
 前回のことを思い返したティーダは恍惚とした表情で溜息をついた。想像しただけだというのにうっとりとした表情をするティーダの指をユウナは締めつけた。
「うん、そう。そうやって締めるの」
 ティーダは指をもう一本足した。ぬちゃっと鳴った粘着質な水音にユウナの腰が揺れる。
「指、足すの?」
 できれば足して欲しくないと言わんばかりのユウナにティーダは眉を下げた。
「うん、ごめん。でも、俺って、さすがに指一本じゃないだろ?」
「うん。二本でもなかったっす……」
「そんなに大きかった?」
 指をゆっくりと動かし出す。
「うん、大きかった……です……」
 なんてことを口にしているのだろうと恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてティーダから視線を逸らした。
「はは、やばいな。挿れる前にいきそう。ユウナ、すごくかわいいから……」
 ティーダの切なげな表情に、ユウナもまた切なくなった。自分が苦しくならないようにと時間をかけてほぐしてくれているのが嬉しかった。が、こんなティーダを見てしまったら我慢ができない。確かに体は不慣れで、まだ挿入されたくないと思っている。だが、心が今すぐにでも繋がりたいと言っている。
「いいよ、もう、入ってきて……」
 涙で濡れた瞳に見つめられ、理性が飛んだ。ユウナの膝をより開き、先走りで濡れ光った分身をユウナのそこへあてがって思いとどまった。我に返って安堵する。なけなしの理性でユウナの秘裂を分身の裏側で往復する。
「ユウナ、それ、反則技ッスよ、んっ、くっ」
 互いの敏感なところが擦れ合い、繋がっている時よりも卑猥な水音が響き続ける。
「や、ん、ダメ、はぁ、そんなに擦っちゃダメぇ、はぁぅ、やぁんっ」
 小さくとても敏感なところをティーダの熱いもので刺激され、ユウナはあえなく達してしまった。体をびくびくと揺らした後、くったりとするユウナのそこへティーダの先が侵入した。
「えっ、あっ、ティーダ、ダメ、今は、あっ、や、入って……」
 達したばかりの不慣れなそこへ熱い塊が埋められる。ユウナの背中にぞくぞくと快感が走る。じっくりとティーダに愛された体は充分潤っており、苦しくはなかったのだ。
「ユウナ、ごめん。もう、我慢できなくて」
 眉根を寄せて切なげな声で謝罪され、ユウナは何も言えなくなる。一息ついたティーダは、ユウナを抱き起こし、膝の上に座らせた。ティーダの熱い吐息がユウナの頬にかかる。
「まだ苦しい?」
 気遣う言葉を嬉しく感じ、ユウナはティーダに口づけた。ティーダがしてくれるような舌遣いで彼の舌を愛撫する。くぐもった声がティーダの舌から伝わってくると、繋がっているところが熱くなり、またティーダの分身が硬くなるのがわかる。とてもいやらしいのに、彼の舌を貪るのをやめられない。体中が敏感になり、ティーダをきゅうきゅうと締めつける。ユウナは快感の渦の中にいた。
「ん、キミの、わたしの一番奥にあるの、気持ちいの、ごめんね、んぁ、わたし、こんなにいやらしくて、はぁ、ティーダ、ごめんね」
 体が深く繋がってるのがこんなにいいとは思いもしなかった。前の時はわからなかったのだ。きっと互いに勢いだけだったのだとユウナは心内で頷いた。だが、とても嬉しく、恥ずかしく、幸せな時間であったのは変わりない。
「うん、俺も。俺も、すごくいいよ。ユウナの奥当たってるとこ、すごく気持ちいい。謝る必要なんてない。いやらしくないよ、すごくかわいい、んっ」
 ティーダの上擦った声が切ない。我慢しなくてもいい。もう、思うままに動いて構わない。動いてとユウナが願うとティーダはようやくユウナを揺さぶりだした。絶頂を迎えるその時、ユウナはティーダと心が繋がっていると靄のかかる思考の片隅で感じた。
***
――失礼。それはわたしのやり方だ。同じ精神状態が作り出せるなら、別の方法で構わない。後に、もっと簡単な方法を思いついた。手抜きみたいなものだから、たいしたものは召喚できないがね。ともあれ、獣芯は半分死んで、半分生きている。残酷な話だ。だから、慎重にね――
 ユウナは徐々に回復する意識下でジョイトの言葉を思い出していた。
 同じ精神状態――。体を重ねることで同調するのは確かにわかりやすい。後でもっと簡単な方法を思いついたというのは、きっと体を慰め合って達することであろう。獣芯との心の絆を深められなかったジョイトは馴染のあるものしか召喚できなかった。だが、心も体も深く繋がれる自分たちならばどうだろう。きっと向かうところ敵なしのはずだ。
 ユウナは頷き、決意を固めつつあった。これまでのことを整理するために思案する。
 幻光体は分離と結合する度、それまでに得た記憶を取り出しにくくなる。ジョイトはそれを意図的に『魔法』と称して行っていた。記憶を回復するなら、その記憶にまつわる人や場所に近づけばいいはずだ。現に、自分は似た状況になってジョイトの島に上陸してから起こったあの事件の記憶を取り戻した。
「ねえ、ティーダ……」
 ひとり用のベッドでシーツを被り、ふたり一緒に横になっていたティーダへと振り返った。気持ちよさそうに寝息を立てている。
「えいっ」
 ティーダの鼻を人差し指で突き、押したり指先で引き上げたりするが、変わらずに眠っている。ユウナは仕方がないと苦笑した。が、ぴくりと動いた肩と薄ら開いている瞳をじっと見つめる。狸寝入りだ。
「せっかく、ふたりっきりで行く旅行の計画があったんだけどな~」
と、ユウナはわざとらしくひとり言を呟いてティーダに背を向けた。ユウナがしばらく待っていると、ティーダはユウナを後ろから羽交い絞めた。
「ちょっ」
「それって、新婚旅行的な?」
 耳元で聞こえるティーダの声が弾んでいる。
「どうかな~。あれからキミ、アーロンさんみたいにかっこいい男になれたのかな~」
「うっ、それは……どうだろ、やっぱダメッスか?」
「まだまだっすね」
「ぐあ~、厳しいッスね」
 ユウナは、ふふっと笑った。
「キミは二年間のスピラを知らないでしょう?だから、召喚士の旅のルートでスピラ旅行。どうかな?」
「行きたい!」
「じゃあ、決まりね」
「あ。その旅行、ほんとにふたりきり?」
「うん、そうだよ。どうして?」
「召喚士の旅だろ?こういういちゃいちゃアリなのかな~て、気になって」
 ユウナは、ふふんと含み笑いし、ティーダはその答えを若干緊張して待った。
「楽しみにしてます」
 言われてティーダは、やったー!と声を上げた。耳元で大きな声を出されてユウナは怒り、ティーダは謝る。
「ちょっとね、夢だったんだ。好きな人とふたりきりで旅するの、いいなって憧れてた。もちろん大勢でも楽しいんだけどね。召喚士の旅で、ほんとにちょっとだけ、そう思ったの」
 召喚士の旅を思い返しているであろうユウナの髪にティーダは、そっと口づけた。
「うん、行こうな」
 ユウナは返事の代わりに自分の首元にあったティーダの腕に口づけた。
 決めたよ。わたしがキミを獣芯に変える。たとえ誰かが召喚した存在であっても、わたしの獣芯にする。勝手に決めてごめんね。わたしにとってのキミという存在を確かなものにしたいの。ダメだね、これじゃあクシュと変わらない。千年経ってもずっと続いていた幻の恋。わたしの恋は、ずっと続く。彼がわたしと一緒にいたいと思ってくれる限り、ずっとずっと。
恋はまぼろし
Text by mimiko.
2014/01/14

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