ティ→ユウ、10ED後ティーダ視点。
未練タラタラのティーダがいます。けど前向きです。
10ED、10-2彼復活ED前提。
原作寄りではありますが、アルティマニア見ても謎の部分は捏造自分設定があります。

夢が見る夢

 スピラで命を落とした人間は、召喚士によって異界へ送られる。慰めの舞に誘われた魂が召喚士の祈りに答えて死を受け入れたなら、そのまま異界へ直行。恨みや妬みがあるのなら、人の姿を捨てた魔物と成り果て、スピラにとどまる。それより更に、スピラへの強い執着があるのなら人の姿をとどめたまま死人(しびと)としてスピラに紛れこんで目的を果たそうと画策する。
 オレは、そのどれにもならず、どれにもなった。想いは分散し、スピラに散り散りになった。おそらく、オレのザナルカンド―たくさんの祈り子たちが見た夢の中のたくさんの人たちも同じ。
 それは、打倒シンとするスピラ中の人たちの願いが叶った次の時代を、スピラにいるみんなを見てみたかったから。そして、たくさんの笑顔を増やす手助けをしたかったから。
 エボン=ジュに吸い上げられていた膨大な幻光虫は、シンという殻を失くして一斉にスピラに散った。
 ユウナが異界送りをしている同時刻に各地で召喚士たちが延々と送り続ける中、スピラを幻光虫の毒気から守ろうと、夢の住人たちも、昔の大召喚士たちも、各寺院にいた祈り子も、ユウナのオヤジさんも、シンだったオヤジも、アーロンも、仲間に詫びて別れをすませたオレも、その膨大な幻光虫を異界へと回収しまくった。
 だけど、その全部を異界へは連れて行けなかった。
 大抵の幻光虫は素直に異界へ行ってくれたけど、スピラにとどまろうとする幻光虫もいたんだ。
 夢の住人のオレの元になった男。オレであって夢のザナルカンドのティーダでない千年前のザナルカンドに実在した男。ザナルカンドをホームタウンとするブリッツボールチーム、ザナルカンド・エイブスのエースだったシューイン。
 シンがスピラで暴れ出すきっかけになった機械戦争で召喚士の恋人と一緒に死んでしまったそいつの影が、その素直に異界へ行こうとしない恨み妬みの幻光虫をスピラへ連れてった。
 オレはそいつの光の部分を夢見た存在なんだって。昔のスピラのザナルカンドに住んでた人の幻光虫が教えてくれた。
 オレの元になった男ってなんだよ、オレはオレだ!って思った。けど、妙に納得したんだ。オレに影の部分がなかったから、シンを倒すために究極召喚を発動させるとユウナが死んじゃうって知っても、恨んだり妬んだりしなかった。ただ、ユウナが死なない方法をどうにか考えるんだって、仲間と一緒になって悩んでた。
 ひとりで突っ走って敵の秘密兵器を奪いに行こうだなんて強行は犯さなかった。
 いくら大好きな女の子がそのうち死んでしまうとわかっていて、それを避けようとしても、そんな目先だけのやり方なんて、なんの解決にもならない。争いを終わらせるために兵器をぶっ放して暴れまわるだなんて、戦争を知らないオレでさえ、新たな恨みや妬みを生むだけだと考えるまでもなくわかる。
 だから、オレは消えてしまうとなんとなく予感してても、やっぱ消えちゃうんだとわかっても、それが優勝決定戦の最善攻略法なら、オレは迷わねッスよ。余裕でジェクト様シュート3号をお見舞いしてやる。目標は迷うことなく優勝ッス。ワッカが言ってた『順位は関係ないんだ。いい試合ができればそれでいい』じゃあ、千年も続く死の螺旋なんて断ち切れない。
 あ、違う違う。ジェクト様シュートじゃなくて、ティーダ様シュート3号な!なんせシンと書いてオヤジと読むデッカイ魔物倒したんだ。もう、オヤジには負ける気がしねッスよ!へへん!
 なあ、シューイン。オレはそう思いながら戦ってた。ただの夢なのにイギョウってやつを成し遂げたんだ。おまえもいい加減諦めろよ。戦争はとっくの昔に終わってるし、おまえができなかったことは、おまえの夢であるオレが代わりにやっといたからさ。召喚士の女の子を死なせることなく、敵にも勝てた。シン討伐大会の優勝だぞ?これ以上のことはないだろ。
 いいよ、おまえの影が少しでも早く異界に行けるようにオレが憑きにいってやる。どうせオレは、夢を召喚していたエボン=ジュを倒したせいで、オレを保てないんだ。ユウナを見守るついでに、おまえをどうにかできないか考えといてやる。
 恨み妬みの幻光虫の毒気にやられてても、隙なんていくらでもある。オレが何度かシンに近づいた時、オヤジの夢を見たように、おまえにも何かあるだろ。
 ま、考えるまでもなく召喚士レンのことだろうけど。おまえどんだけレンのこと好きなんだよ。とはいえ、オレも負ける気さらさらないけどな。オレのユウナ、すっげー強いんだからな。そんで、すっげーかわいいの。一見、素直そうなんだけど、実はすっげー頑固者でさ。心が強いんだ。こうと決めたら曲がらない。
 だから、仲間としてのオレのことだけ覚えてくれてたらいい。男としてのオレのことなんかすぐに忘れて、オレより強い奴と幸せになってくれないかな。あ、でも、オレより強くても、シーモアみたいに陰険な奴はお断りだけど。
 立つ鳥跡を濁さず。夢のザナルカンドのオレんちの隣のおばさんが言ってた。オレさぁ、なんとなく消えるって予感してんだったらキスするのやめとけよな。しかも、あんなに何回も。跡を濁したままで、ごめん。オレのザナルカンドを案内できなくて、ごめん。
 それと、ありがとう。恋とか愛とか、どっちかっていうと苦手だった。ああいうのは、頭でどうこう考えるものじゃなくて感じるものなんだって、教えてくれてありがとう。オレの想いを何回も受け止めてくれてありがとう。すごく嬉しかったんだ。男として生まれてきたことに感謝するくらい嬉しかった。キスくらいでって思うかもしれないけど、大袈裟じゃないよ。ほんとにそう思った。
 マジで、オレのほうこそありがとう!オレはスピラのあちこちでユウナのこと、いつでも見てるから、打倒シンの次の時代――永遠のナギ説の時代を頑張ってくれよな、大召喚士様!
夢が見る夢
Text by mimiko.
2013/06/03

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