泥棒は泥棒でも恋泥棒さ!ってことで。
嘘つきは恋泥棒のはじまり
白昼、かぶき町の道端で近藤は妙の両手を握った。
「お妙さん」
妙の瞳をじっと見つめ、何かを思い詰めて眉間に皺を寄せると一度目を伏せ、それを振り切るかのように自分を見上げる妙を見据えて口を開く。
「俺はお妙さんのことが嫌いです」
妙は瞬きをひとつして近藤の目を見る。黒い瞳に近藤を見上げる自分が映っている。耳を疑わざるを得ないことを言われ、妙は近藤の言葉を胸の内で繰り返した。
――俺はお妙さんのことが嫌いです――
何を言ってるの、近藤さん。あなたは私のことが好きで好きで仕方がないのでしょう?なのに、私のことが嫌い?冗談じゃないわ。それじゃあ、あなたのキャラが崩れるじゃない。
「そんなわけないじゃないですか、おかしなこと言わないで下さい、そして手を放して下さい」
「いいえ、放しません」
きっぱりと言い放った近藤を妙は見つめた。
嫌いだと言うなら放せばいいじゃない。そもそも、そんなこと言うために手を握る必要がどこにあるの?
そうではないと言わんばかりに優しく力を込める近藤の手を心地よく感じてしまい、相反する気持ちが妙の中で火花を散らして小さく煙を上げた。
好きなら好きって、いつものように言えばいいじゃない。そんなこと言って、こんな風に手を握って、どうしようというの?
眉を顰めて下唇を噛む妙に、近藤はどきりとして慌てた。
え、お妙さん、怒ってる?!
「いや、あの、これは、今日は嘘ついてもいい日だっでェぐゥゥゥ!」
妙の右拳が近藤の顎下に入る。近藤は後方にあった電柱に頭を打ちつけ、背中で電柱を伝うように卒倒した。妙は菩薩の笑みを浮かべ、再び右手に拳を作る。
何よ、ゴリラのくせに。嘘をついてもいい日だからって許さないんだから。
「いてて……。お妙さん、俺ァやっぱりお妙さんには嘘をつけねェ」
近藤は打ちつけた頭を擦り、妙を見上げた。
「俺はお妙さんが好きです。大好きです」
真っ直ぐに見つめられ、妙はもう一発食らわせてやろうと握った拳を開く。その手で近藤の胸倉を掴み、目の前でにこりと笑った。
「私も近藤さんのこと大好きです」
「え……」
思ってもみなかった言葉に近藤は目を白黒させ、頬を赤くする。
「今日は大嘘ついてもいい日ですから、ね?近藤さん」
「え、違っ、俺がお妙さんを好きなのは嘘じゃないからね、ホントに大好きなんだからね、マジで嘘じゃないからね、ていうかさすがに大嘘はマズイですよ、お妙さん」
「じゃあ、あなたが私のことを嫌いだというのは大嘘ではないんですか?」
「や、だっていっつも好きだって言ってるし、すぐに嘘だってわかると……」
ん?ひょっとして嫌いだって言ったことに怒ってるとか?
「お妙さん、ひょっとするとホントは俺のこと……」
「ああん?!」
「あ、あははは、なんでもないです……」
睨みを利かせて威嚇され、近藤は言うのをやめた。妙は掴んでいた胸倉を放し、近藤に背を向けると口元だけで笑った。
――俺はお妙さんが好きです。大好きです――
やっぱり私のこと好きなんじゃない。
「お妙さん」
行こうとしたが声を掛けられ、顔を後ろの近藤に向ける。
「今晩、店にいらっしゃるんでしょう?」
近藤は立ち上がり、隊服についた砂埃を掃う。
「はい、仕事終わったらすぐに行きます!」
元気のいい返事に妙は、くすりと笑った。
ほんと、打たれ強い人ね。
「それじゃあ、ドンペリ五十本入れて下さいね」
「ええェェェ!ごじゅうゥゥゥゥ?!」
目を見開いたままの近藤に、妙は笑みをこぼす。
「嘘ですよ。いつもより水割り一杯多く頼んで下さい」
楽しそうに笑う妙に近藤は胸を温め、微笑んだ。
やっぱ、お妙さんってかわいいなァ。
近藤が妙の肩を抱くと、妙はその手の甲を抓った。
「この手はなんですか?」
「ははは、いやァ、なんだかんだ言ってやっぱ俺のこと好きなんじゃブゥボォォォォ!」
腹部にとてつもない衝撃を受けた近藤は、呼吸を詰まらせ、目に涙を浮かべた。
「お妙さん」
妙の瞳をじっと見つめ、何かを思い詰めて眉間に皺を寄せると一度目を伏せ、それを振り切るかのように自分を見上げる妙を見据えて口を開く。
「俺はお妙さんのことが嫌いです」
妙は瞬きをひとつして近藤の目を見る。黒い瞳に近藤を見上げる自分が映っている。耳を疑わざるを得ないことを言われ、妙は近藤の言葉を胸の内で繰り返した。
――俺はお妙さんのことが嫌いです――
何を言ってるの、近藤さん。あなたは私のことが好きで好きで仕方がないのでしょう?なのに、私のことが嫌い?冗談じゃないわ。それじゃあ、あなたのキャラが崩れるじゃない。
「そんなわけないじゃないですか、おかしなこと言わないで下さい、そして手を放して下さい」
「いいえ、放しません」
きっぱりと言い放った近藤を妙は見つめた。
嫌いだと言うなら放せばいいじゃない。そもそも、そんなこと言うために手を握る必要がどこにあるの?
そうではないと言わんばかりに優しく力を込める近藤の手を心地よく感じてしまい、相反する気持ちが妙の中で火花を散らして小さく煙を上げた。
好きなら好きって、いつものように言えばいいじゃない。そんなこと言って、こんな風に手を握って、どうしようというの?
眉を顰めて下唇を噛む妙に、近藤はどきりとして慌てた。
え、お妙さん、怒ってる?!
「いや、あの、これは、今日は嘘ついてもいい日だっでェぐゥゥゥ!」
妙の右拳が近藤の顎下に入る。近藤は後方にあった電柱に頭を打ちつけ、背中で電柱を伝うように卒倒した。妙は菩薩の笑みを浮かべ、再び右手に拳を作る。
何よ、ゴリラのくせに。嘘をついてもいい日だからって許さないんだから。
「いてて……。お妙さん、俺ァやっぱりお妙さんには嘘をつけねェ」
近藤は打ちつけた頭を擦り、妙を見上げた。
「俺はお妙さんが好きです。大好きです」
真っ直ぐに見つめられ、妙はもう一発食らわせてやろうと握った拳を開く。その手で近藤の胸倉を掴み、目の前でにこりと笑った。
「私も近藤さんのこと大好きです」
「え……」
思ってもみなかった言葉に近藤は目を白黒させ、頬を赤くする。
「今日は大嘘ついてもいい日ですから、ね?近藤さん」
「え、違っ、俺がお妙さんを好きなのは嘘じゃないからね、ホントに大好きなんだからね、マジで嘘じゃないからね、ていうかさすがに大嘘はマズイですよ、お妙さん」
「じゃあ、あなたが私のことを嫌いだというのは大嘘ではないんですか?」
「や、だっていっつも好きだって言ってるし、すぐに嘘だってわかると……」
ん?ひょっとして嫌いだって言ったことに怒ってるとか?
「お妙さん、ひょっとするとホントは俺のこと……」
「ああん?!」
「あ、あははは、なんでもないです……」
睨みを利かせて威嚇され、近藤は言うのをやめた。妙は掴んでいた胸倉を放し、近藤に背を向けると口元だけで笑った。
――俺はお妙さんが好きです。大好きです――
やっぱり私のこと好きなんじゃない。
「お妙さん」
行こうとしたが声を掛けられ、顔を後ろの近藤に向ける。
「今晩、店にいらっしゃるんでしょう?」
近藤は立ち上がり、隊服についた砂埃を掃う。
「はい、仕事終わったらすぐに行きます!」
元気のいい返事に妙は、くすりと笑った。
ほんと、打たれ強い人ね。
「それじゃあ、ドンペリ五十本入れて下さいね」
「ええェェェ!ごじゅうゥゥゥゥ?!」
目を見開いたままの近藤に、妙は笑みをこぼす。
「嘘ですよ。いつもより水割り一杯多く頼んで下さい」
楽しそうに笑う妙に近藤は胸を温め、微笑んだ。
やっぱ、お妙さんってかわいいなァ。
近藤が妙の肩を抱くと、妙はその手の甲を抓った。
「この手はなんですか?」
「ははは、いやァ、なんだかんだ言ってやっぱ俺のこと好きなんじゃブゥボォォォォ!」
腹部にとてつもない衝撃を受けた近藤は、呼吸を詰まらせ、目に涙を浮かべた。
嘘つきは恋泥棒のはじまり
Text by mimiko.
2010/04/01