5月23日は、日本初キスシーン登場『はたちの青春』という映画が公開された日で、キスの日だったということで。
近妙がぶっちゅーとちゅうしてます。
お妙さん、九ちゃんと初キス済という柳生編後で、男子とはこの話の勲が初キスという設定。
勲は数人とキスやらその先やらも経験済設定。
近妙がぶっちゅーとちゅうしてます。
お妙さん、九ちゃんと初キス済という柳生編後で、男子とはこの話の勲が初キスという設定。
勲は数人とキスやらその先やらも経験済設定。
二十歳と三十路の青春
妙は、静まり返った我が家の広間に再び戻ると、襖をぴしゃんと閉めた。激しく鳴る鼓動を落ち着けようと胸元に右手を当て、ゆっくりと呼吸をするように心がける。
いやに静かだわ、あのゴリラ、まだうちにいるのかしら。
妙は部屋の隅々に目を配らせ、誰もいないことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。が、不意に視線をやった座卓に、先ほど起こった出来事を突きつけられて唇を結んだ。
遡ること数十分前。それは、あの男によってもたらされた。
いつものように仕事へ出かける新八を送り出し、家事を済ませて広間で茶を飲んでいた。勤め先で贔屓にしてもらっている客から頂戴した玉露は、最高級と聞いていただけに香りも口当たりも申し分ない。
「おいしい……」
思わず素直な感想をこぼし、湯呑みの茶を見て微笑む。
やっぱり日本茶はこうでなくちゃ。
『ということ今日、キスの日の由来は日本ではじめてキスシーンが登場する映画が公開された日でした~』
つけていたテレビには朝の情報番組が映し出されており、キスの日だということで司会者やゲストたちのはしゃいだ声が聞こえてくる。
「キスの日、ねえ……」
呟き、手の中の茶を眺めた。
そういえば、九ちゃんの唇柔らかかったわね。
湯呑みに口をつけ、温かい茶を口内に注ぐ。
男の人の唇は硬いのかしら、柔らかいのかしら。
「おお、今日はキスの日ですかァ、ハッハッハッ」
と、いつもの野太い声が聞こえて妙は肩を竦ませた。いつものように庭から侵入してきた近藤は、当然かのように部屋へ上がりこむ。
「呼んでませんけど」
妙の低く冷たい声に近藤は怯むことなく、妙の隣へと座った。
「呼ばれてませんが、キスの日とならばお邪魔しないわけにはいきません」
と、隊服姿でにこにこと笑っている。
「警察って朝っぱらから暇なんですか?」
「あ、お妙さん、昨日、俺がすまいるにいけなかったこと怒ってます?」
妙は空になった湯呑みを座卓に置くと、近藤のほうへ向いて微笑んだ。
「怒ってませんけど?」
と、座卓の下から取り出した薙刀の刃先を近藤の顎へと突きつけた。
「あ、アハ、お妙さん朝っぱらから準備万端ですね」
近藤の額に汗が滲む。
「うふふ、今日はキスの日じゃなくて、ゴリラが死亡する日ですから、ね?」
菩薩の微笑みが一転、般若の形相で睨み上げられ、近藤は乾いた笑みをこぼしながら、この危機をどうにか回避しようと模索するため視線を泳がせる。すると妙は、着物の裾を乱して片膝を出していた。普段、見ることのない白い素肌を目の当たりにし、近藤は喉を上下させた。
薙刀から気の逸れた近藤を不思議に思った妙は、その視線の先を辿って我に返る。近藤は素肌を晒した己の太ももに気を取られていたのだ。妙は足を閉じ、乱れた裾を直そうと手にしていた薙刀を離してしまった。近藤は、はっとして妙を抱きかかえて畳の上を転がった。
「得物持ってる時は自分の身なりに気を取られちゃダメ!めっですよお妙さん!避けずにいたらお妙さんの足、傷ついてたんですからね!」
畳に寝転がされた妙は、両眉を吊り上げて諭す近藤を見上げて、その近さにどきりとした。
「私の身なりに気を取られてたのはあなたのほうだわ……」
と、近藤から視線を逸らす。
「当たり前じゃないですか!お妙さんのナマ足ですよ!見惚れるに決まってるじゃないですか!」
開き直る近藤に妙はその顎に拳を見舞ってやろうとしたが、それより先に近藤に覆い被さられた。
「……よかった……」
耳元で呟かれ、妙は握っていた拳を開いた。
得物の扱いなら自分より近藤のほうが心得ている。うっかりしていた自分を叱り、護ってくれたのは近藤だ。そんな彼に鉄拳を食らわせるなど、道理に外れている。
「……ごめんなさい……」
ぽそりと言った妙に、近藤は、こくりと頷いた。
「ありがとう、ございます……」
礼を言うと、その近さと近藤の重みと温もりに妙は鼓動を速めた。
「はい。ちゃんと気をつけてくださいね」
「じゃあ、もう退いてください」
相手はゴリラなのよ、こんなにドキドキするなんてありえないわ。今日はどうかしてるのよ。
「……はい……」
「その間はなんですか」
「だって、せっかくお妙さんが俺の胸の中にいるのに、こんなチャンス滅多に……」
近藤は顔を上げて、妙に抗議するも、頬を真っ赤にした妙を見て言葉を失くす。視線が合うと妙は更に頬を紅く染めた。
「はは、お妙さん、なんて顔してるんですか……」
と、眉を下げて苦笑する。
「だって、ゴリラでも、男の人、だから、その、んぅっ」
恥ずかしそうに視線を逸らす妙に堪らなくなり、近藤は妙に口づけた。
「やっ、んっ」
啄むような口づけを繰り返され、その度に妙は近藤の胸を両手で押しのけようとするが、効き目は全くなかった。次第に近藤の唇の動きがゆっくりになっていき、少しずつ熱が帯びる。弾力を確かめられるように唇を押さえつけられ、ちゅっと音が鳴るように優しく唇を吸われる。やがて妙の唇は解れ、近藤は舌を差し込んだ。
「んっ!」
ぬるりとうねる舌の感覚に驚き、身を硬くする。が、舌先を擽られて、体の力が抜けだす。閉じた瞳は濡れはじめ、近藤の舌に与えられる刺激が心地よくなってくる。
あ……キスって、すごい……。
「ふぅ、ん、はぁ、んっ、ぅんっ」
近藤の舌を伝ってくる唾液を妙が美味そうに飲むようになると、近藤は目の前の妙を愛おしそうに見つめては重ねる唇の角度を変える。
うわ、なにコレ、すげー気持ちいい。キスだけでこんないいの初めてかも……。
「ん、お妙、さ、ん……好き、だ、……」
口づけながら言われて、妙の胸が熱くなる。近藤の声が舌に響き、体がびくりと揺れた。名残惜しそうに唇を離した近藤は、妙の前髪を掬って額に口づけた。そこで我に返った妙は硬直した。
何やってるのよ、私!本当にどうかしてるわ!近藤さんとキスするなんて!
妙は、再び唇を重ねようとする気配を感じ、自分の唇を両手の指で押さえた。
「キスの日は、もう終わりです」
「いいえ、今日一日はキスの日です」
退かない近藤に、妙の眉がぴくりと動いた。
「調子乗んなよ、このゴリラ」
唇を押さえたまま毒づき微笑む。
「乗ってませんよ、気持ち良かっただけです。キスだけでこんなに良かったのお妙さんが初めてだしィ」
大の男が照れる様を間近で見た妙は、その鬱陶しさに苛立ちを覚えた。
「ああ、そうですか、私とキスできて良かったですね、でもこんなことは天地がひっくり返ろうとも、もうありませんから、とっとと他の女とキスしろや、エロゴリラ」
一切、起伏しないその口調に、近藤は、はっとした。
「ち、違うっ、お妙さんっ、俺そんなに経験ない、ぅんぐェェェェ!」
妙は自分の唇を押さえていた両手で近藤の顎を力いっぱい押し上げた。近藤が怯んだ隙に両足で腹部を蹴り上げる。宙に浮いた大男は、一度は起き上がったものの身体に受けた衝撃が強かったため、畳に伏した。妙は、両手を打ち払って気絶する近藤を見下ろす。
何が―キスだけでこんなに良かったのお妙さんが初めてだしィ―よ。馬鹿にするのも大概にしてほしいものだわ。
気を切り替えるように一息つくと、座卓の上の急須と湯呑みを回収して台所へ向かった。残りの家事をこなしていると近藤の気配がし、妙は、その都度、出会わぬようにと逃げていた。だが、着実に近藤は自分に迫ってきている。先ほど捕まりそうになって慌ててあの手から逃れた。
事の始まりの場所へ戻った妙は、静まり返った広間中央の座卓の前に腰を下ろした。
いい加減、諦めてよ。もう、あんなキスするなんて御免だわ。またあんなキスされたら……。
妙は、指で自分の唇に触れる。
「やっぱりお妙さんも、さっきのキス良かったんだよね?」
姿は見えないものの、すぐ傍で近藤の声がして妙は警戒した。部屋のあちこちにはその気配がしない。はっとして座卓の下を覗くと、そこに近藤はいた。
声にならない悲鳴を上げた妙は、尻もちをついて後ずさる。
「いや……やだ……」
妙は、かぶりを振りながら自分に迫ってくる近藤に訴えかけた。
「いやだなァお妙さん、そんなに怖がらないで下さいよ、気持ちいいことするだけなんですから」
「いやよ、近藤さん、許して」
部屋の壁に突き当たり、妙は瞳に涙を浮かべながら近藤を見上げた。壁に手を突き、妙の唇に自分のそれを寄せる。
「キスの日は今日だけです。今日だけは、お妙さんに好きだって、キスで伝えてェ」
唇に近藤の吐息がかかり、妙は堪らなくなって顎を上げた。唇は重なり、近藤は唇を離して微笑む。
「良かったんですね、お妙さん」
軽く口づけ、妙の返事を待つ。妙は頷き、一度は視線を落としたが顔を上げた。
「ずるいわ、近藤さん、こんなことして」
困ったような妙の表情は間違いなく非難しているものの、明らかに自分を許している。
「すみません」
と、苦笑して再び軽く口づける。
「近藤さんの……唇も柔らかくて気持ちいいけど……」
妙は視線を逸らせて続けた。
「あの……深いのも、してください……」
自分の目を見ずに顔を赤くしてねだられ、近藤は表情を緩めて言う。
「もう、しょうがないなァ、お妙さん、今日だけですよ?」
「あ、当たり前です。こんなの、今日だけに決まってます」
慌てた妙に、近藤は思わず、声を出さずに笑みをこぼした。
お妙さん、かわいいなァ。ますます惚れちゃったよ俺。
「じゃあ、しますね」
近藤が妙の頬に手を当てると、妙は顔を上げて目を伏せ、返事した。
「はい……」
ぐはァァァやばいィィィこんなお妙さん見ただけで昇天しそう!けど、勲頑張る!キスだけでお妙さん昇天させる勢いで勲頑張る!
いやに静かだわ、あのゴリラ、まだうちにいるのかしら。
妙は部屋の隅々に目を配らせ、誰もいないことを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。が、不意に視線をやった座卓に、先ほど起こった出来事を突きつけられて唇を結んだ。
遡ること数十分前。それは、あの男によってもたらされた。
いつものように仕事へ出かける新八を送り出し、家事を済ませて広間で茶を飲んでいた。勤め先で贔屓にしてもらっている客から頂戴した玉露は、最高級と聞いていただけに香りも口当たりも申し分ない。
「おいしい……」
思わず素直な感想をこぼし、湯呑みの茶を見て微笑む。
やっぱり日本茶はこうでなくちゃ。
『ということ今日、キスの日の由来は日本ではじめてキスシーンが登場する映画が公開された日でした~』
つけていたテレビには朝の情報番組が映し出されており、キスの日だということで司会者やゲストたちのはしゃいだ声が聞こえてくる。
「キスの日、ねえ……」
呟き、手の中の茶を眺めた。
そういえば、九ちゃんの唇柔らかかったわね。
湯呑みに口をつけ、温かい茶を口内に注ぐ。
男の人の唇は硬いのかしら、柔らかいのかしら。
「おお、今日はキスの日ですかァ、ハッハッハッ」
と、いつもの野太い声が聞こえて妙は肩を竦ませた。いつものように庭から侵入してきた近藤は、当然かのように部屋へ上がりこむ。
「呼んでませんけど」
妙の低く冷たい声に近藤は怯むことなく、妙の隣へと座った。
「呼ばれてませんが、キスの日とならばお邪魔しないわけにはいきません」
と、隊服姿でにこにこと笑っている。
「警察って朝っぱらから暇なんですか?」
「あ、お妙さん、昨日、俺がすまいるにいけなかったこと怒ってます?」
妙は空になった湯呑みを座卓に置くと、近藤のほうへ向いて微笑んだ。
「怒ってませんけど?」
と、座卓の下から取り出した薙刀の刃先を近藤の顎へと突きつけた。
「あ、アハ、お妙さん朝っぱらから準備万端ですね」
近藤の額に汗が滲む。
「うふふ、今日はキスの日じゃなくて、ゴリラが死亡する日ですから、ね?」
菩薩の微笑みが一転、般若の形相で睨み上げられ、近藤は乾いた笑みをこぼしながら、この危機をどうにか回避しようと模索するため視線を泳がせる。すると妙は、着物の裾を乱して片膝を出していた。普段、見ることのない白い素肌を目の当たりにし、近藤は喉を上下させた。
薙刀から気の逸れた近藤を不思議に思った妙は、その視線の先を辿って我に返る。近藤は素肌を晒した己の太ももに気を取られていたのだ。妙は足を閉じ、乱れた裾を直そうと手にしていた薙刀を離してしまった。近藤は、はっとして妙を抱きかかえて畳の上を転がった。
「得物持ってる時は自分の身なりに気を取られちゃダメ!めっですよお妙さん!避けずにいたらお妙さんの足、傷ついてたんですからね!」
畳に寝転がされた妙は、両眉を吊り上げて諭す近藤を見上げて、その近さにどきりとした。
「私の身なりに気を取られてたのはあなたのほうだわ……」
と、近藤から視線を逸らす。
「当たり前じゃないですか!お妙さんのナマ足ですよ!見惚れるに決まってるじゃないですか!」
開き直る近藤に妙はその顎に拳を見舞ってやろうとしたが、それより先に近藤に覆い被さられた。
「……よかった……」
耳元で呟かれ、妙は握っていた拳を開いた。
得物の扱いなら自分より近藤のほうが心得ている。うっかりしていた自分を叱り、護ってくれたのは近藤だ。そんな彼に鉄拳を食らわせるなど、道理に外れている。
「……ごめんなさい……」
ぽそりと言った妙に、近藤は、こくりと頷いた。
「ありがとう、ございます……」
礼を言うと、その近さと近藤の重みと温もりに妙は鼓動を速めた。
「はい。ちゃんと気をつけてくださいね」
「じゃあ、もう退いてください」
相手はゴリラなのよ、こんなにドキドキするなんてありえないわ。今日はどうかしてるのよ。
「……はい……」
「その間はなんですか」
「だって、せっかくお妙さんが俺の胸の中にいるのに、こんなチャンス滅多に……」
近藤は顔を上げて、妙に抗議するも、頬を真っ赤にした妙を見て言葉を失くす。視線が合うと妙は更に頬を紅く染めた。
「はは、お妙さん、なんて顔してるんですか……」
と、眉を下げて苦笑する。
「だって、ゴリラでも、男の人、だから、その、んぅっ」
恥ずかしそうに視線を逸らす妙に堪らなくなり、近藤は妙に口づけた。
「やっ、んっ」
啄むような口づけを繰り返され、その度に妙は近藤の胸を両手で押しのけようとするが、効き目は全くなかった。次第に近藤の唇の動きがゆっくりになっていき、少しずつ熱が帯びる。弾力を確かめられるように唇を押さえつけられ、ちゅっと音が鳴るように優しく唇を吸われる。やがて妙の唇は解れ、近藤は舌を差し込んだ。
「んっ!」
ぬるりとうねる舌の感覚に驚き、身を硬くする。が、舌先を擽られて、体の力が抜けだす。閉じた瞳は濡れはじめ、近藤の舌に与えられる刺激が心地よくなってくる。
あ……キスって、すごい……。
「ふぅ、ん、はぁ、んっ、ぅんっ」
近藤の舌を伝ってくる唾液を妙が美味そうに飲むようになると、近藤は目の前の妙を愛おしそうに見つめては重ねる唇の角度を変える。
うわ、なにコレ、すげー気持ちいい。キスだけでこんないいの初めてかも……。
「ん、お妙、さ、ん……好き、だ、……」
口づけながら言われて、妙の胸が熱くなる。近藤の声が舌に響き、体がびくりと揺れた。名残惜しそうに唇を離した近藤は、妙の前髪を掬って額に口づけた。そこで我に返った妙は硬直した。
何やってるのよ、私!本当にどうかしてるわ!近藤さんとキスするなんて!
妙は、再び唇を重ねようとする気配を感じ、自分の唇を両手の指で押さえた。
「キスの日は、もう終わりです」
「いいえ、今日一日はキスの日です」
退かない近藤に、妙の眉がぴくりと動いた。
「調子乗んなよ、このゴリラ」
唇を押さえたまま毒づき微笑む。
「乗ってませんよ、気持ち良かっただけです。キスだけでこんなに良かったのお妙さんが初めてだしィ」
大の男が照れる様を間近で見た妙は、その鬱陶しさに苛立ちを覚えた。
「ああ、そうですか、私とキスできて良かったですね、でもこんなことは天地がひっくり返ろうとも、もうありませんから、とっとと他の女とキスしろや、エロゴリラ」
一切、起伏しないその口調に、近藤は、はっとした。
「ち、違うっ、お妙さんっ、俺そんなに経験ない、ぅんぐェェェェ!」
妙は自分の唇を押さえていた両手で近藤の顎を力いっぱい押し上げた。近藤が怯んだ隙に両足で腹部を蹴り上げる。宙に浮いた大男は、一度は起き上がったものの身体に受けた衝撃が強かったため、畳に伏した。妙は、両手を打ち払って気絶する近藤を見下ろす。
何が―キスだけでこんなに良かったのお妙さんが初めてだしィ―よ。馬鹿にするのも大概にしてほしいものだわ。
気を切り替えるように一息つくと、座卓の上の急須と湯呑みを回収して台所へ向かった。残りの家事をこなしていると近藤の気配がし、妙は、その都度、出会わぬようにと逃げていた。だが、着実に近藤は自分に迫ってきている。先ほど捕まりそうになって慌ててあの手から逃れた。
事の始まりの場所へ戻った妙は、静まり返った広間中央の座卓の前に腰を下ろした。
いい加減、諦めてよ。もう、あんなキスするなんて御免だわ。またあんなキスされたら……。
妙は、指で自分の唇に触れる。
「やっぱりお妙さんも、さっきのキス良かったんだよね?」
姿は見えないものの、すぐ傍で近藤の声がして妙は警戒した。部屋のあちこちにはその気配がしない。はっとして座卓の下を覗くと、そこに近藤はいた。
声にならない悲鳴を上げた妙は、尻もちをついて後ずさる。
「いや……やだ……」
妙は、かぶりを振りながら自分に迫ってくる近藤に訴えかけた。
「いやだなァお妙さん、そんなに怖がらないで下さいよ、気持ちいいことするだけなんですから」
「いやよ、近藤さん、許して」
部屋の壁に突き当たり、妙は瞳に涙を浮かべながら近藤を見上げた。壁に手を突き、妙の唇に自分のそれを寄せる。
「キスの日は今日だけです。今日だけは、お妙さんに好きだって、キスで伝えてェ」
唇に近藤の吐息がかかり、妙は堪らなくなって顎を上げた。唇は重なり、近藤は唇を離して微笑む。
「良かったんですね、お妙さん」
軽く口づけ、妙の返事を待つ。妙は頷き、一度は視線を落としたが顔を上げた。
「ずるいわ、近藤さん、こんなことして」
困ったような妙の表情は間違いなく非難しているものの、明らかに自分を許している。
「すみません」
と、苦笑して再び軽く口づける。
「近藤さんの……唇も柔らかくて気持ちいいけど……」
妙は視線を逸らせて続けた。
「あの……深いのも、してください……」
自分の目を見ずに顔を赤くしてねだられ、近藤は表情を緩めて言う。
「もう、しょうがないなァ、お妙さん、今日だけですよ?」
「あ、当たり前です。こんなの、今日だけに決まってます」
慌てた妙に、近藤は思わず、声を出さずに笑みをこぼした。
お妙さん、かわいいなァ。ますます惚れちゃったよ俺。
「じゃあ、しますね」
近藤が妙の頬に手を当てると、妙は顔を上げて目を伏せ、返事した。
「はい……」
ぐはァァァやばいィィィこんなお妙さん見ただけで昇天しそう!けど、勲頑張る!キスだけでお妙さん昇天させる勢いで勲頑張る!
二十歳と三十路の青春
Text by mimiko.
2012/05/29