銀+妙で、銀←妙、一←妙の最終的近←妙。
野球デート回、尾美一回前提です。
野球デート回、尾美一回前提です。
憧れと親愛と
大江戸警察二十四時。テレビの特別番組ね。それでゴリラの仕事ぶりを見かけたことがあった。知らない顔つきのゴリラは、特殊警察の幹部を演じていた。あんな真剣な目、私の前ではしないもの。いつも表情筋緩々のデレデレとした締りのない顔だもの。たまに真剣な表情をしても、冗談みたいな口説き方をして私に崩させる。いつも軟派な誘い方で、こちらが断るのを待ってるみたい。あの人、わかってるのよ。私に答えが出せないことを。本当にふられるのを避けるために、いつもストーカーを演じてる。本当の近藤勲はどこにいるの?知りたかったから野球の観戦チケットを持ってきた時は素直に応じたのよ。正当法でくるなら、私もそれ相応に対応するまで。だから、教えて欲しいの。本当の近藤さんのことを。
***
妙は、コンビニエンスストア大江戸マートの雑誌コーナーで若者向けの情報雑誌をめくっていた。何気なしに目が止まったページは、デートスポットの特集が組まれていた。
「ふーん、2回目のデート計画でも練ってんのか?」
前触れなく背後から声をかけられ、妙の肩が竦む。ふてぶてしい声の主は、苺牛乳を手にしている。
「ちょっと銀さん、驚かせないでくださいよ。買う気のない大江戸ウォーカーを落としそうになったじゃないですか」
「あ、わりぃわりぃ」
流すように言われ、妙の目が細くなる。
ちっとも悪いと思ってないじゃない。
「行き遅れる前になんとかしようって、ようやく焦ってきたのか?しっかし、まあ、一度は断ったゴリラのプロポーズを受けるとは、マジで焦ってんだな」
にやつく銀時の言葉に妙は、にこりと微笑み、片眉を引き攣らせた。
「は?何言ってるんです、銀さん?どうして私がゴリラと結婚するんです?」
「あれ?違うの?いつだったか、えれー嵐の日にゴリラとメスゴリラが野球観戦デートしたって、小耳にはさんだんだけどな」
と、小指で耳の穴を掻きほじる。
「メスゴリラって誰のことです?それ、私じゃありませんよ」
「あー、そっか、思い出した。真選組局長とお妙って名の娘だったっけ」
改めて、しかもわざとらしく事実を突きつけられ、妙の笑顔が更に引き攣った。
「何?忘れたい感じなの?アイツとのデート、よくなかったの?あ、入れる前にアイツいっちゃったとか、そんな、ぐェェェ!」
みぞおちに妙の肘が入り、銀時は腹部を抱えた。妙は何事もなかったように立ち読みしていた雑誌を棚へ戻して銀時が落としてしまった苺牛乳の会計を済ませて店を出る。
そんなんじゃないわよ、銀さん。私と近藤さんは、そんな深い関係じゃない。私は、近藤さんのことを何一つ知らない。あの人、何も教えてもくれないのよ。あ、そんなことないか。私よりも、困っている人を優先させるって、あのデートで教えてくれた。
「婚活ってわけじゃねーのか」
まだ腹部を軽く擦りながらではあるが、銀時も店を出てくると妙は歩き出す。
「わからないんです。あの人を男の人として好きなのか、わからないの……」
こぼされた本音に、今なら聞けるのではないかと、以前から気になっていたことを妙の背中に訊ねた。
「オビワンのことが気になってるのか?」
妙は首を横に振る。
「一度はいなくなったと、もう帰って来ない人だと思ってたんだもの。尾美一兄様のことをずっと引きずってたってことじゃないわ。それに……」
一歩後ろを歩く銀時に妙は振り返って、その生気が不足している瞳を見つめる。
「ん?何?やっぱ俺に惚れてたのか?」
妙は口元に手をやり、くすりと笑った。
「銀さんがそう感じたのなら、そうなんでしょうね」
「え……」
肯定されると思わなかったらしい銀時は微かに照れている。
「でも、きっと尾美一兄様を見ていたんだと思います」
穏やかな妙の声に銀時は唇の片端を上げた。
「で?ゴリラは?あ。そういや、オビワンとゴリラって似てなくないか?ああ、だからか」
束の間の穏やかな笑顔であった妙のこめかみに青筋が立つ。
「だから、尾美一兄様を引きずってるわけじゃねーって言ってんじゃねーか」
と、大江戸マートで妙が購入した銀時の苺牛乳が入った袋を銀時の目の前でがさりがさりと音を立てながら揺らす。青ざめた銀時は、慌てて謝罪した。
「ごめんなさい、もう二度と言いません、この通り!」
高が苺牛乳パック一本のためだけに土下座する銀髪に妙は溜息をついた。
「お侍さんの頭は苺牛乳一本の価値なんですね」
と、銀時の傍にそっと苺牛乳の入った袋を置いて膝を折る。
「いいですか、銀さん。苺牛乳を奢ったのは口止め料なんですからね。もし、変な噂を流したら、町中の苺牛乳買い占めて下水に流しますからね」
「は、はい!肝に銘じます!ありがとうございます!お妙様!」
あからさまに持ち上げられた妙は、はいはいと軽く受け流して立ち上がった。
「なァ、あのゴリラと互角に渡り合えると思ってんのか?」
と、銀時も立ち上がり、帰路を行く。
「え?」
「アイツ、天然で女こますタイプだろ。モテねーって言ってる割に実際にはモテてるって奴」
「それ、自分のこと言ってます?」
「え?そうなの?!」
嬉しそうに訊きかえされて妙は溜息をついた。
天然で女こましてるのは銀さんのほうだと思いますけど。義理堅くて、不器用な優しさで助けてくれる。最後には、必ず大事なものを護ってくれる。
ふと、妙はあのデートの日の近藤を思い出した。身を挺して隕石の前に立ちはだかった近藤の背中を鮮明に思い浮かべる。
あの人、それが空回りしてるのね。あれもこれも欲張りすぎなんだわ。だから、私がその背中から転がり落ちるのよ。いつも真っ先に私の元へやってくるくせに、いつも私は後回し。大変なことがあっても一切こぼさない。微塵も感じさせない。馬鹿な人。いつもにこにこして、大変なことなんて痛くも痒くもないって、云ってるつもりなのかしら。本当に馬鹿なんだから。
急に妙の胸が切なさでいっぱいになった。締めつけられる心は、隣に歩く男性が銀時であることを残念がる。
好きかどうかなんてわからないの。だけど、あの笑顔を今、一目でも見たい。一目以上は見てるとイライラするから、多分、一目見たら殴り蹴り飛ばしちゃうけど。
「ゴリラがストーカーを続ける限りは私のほうが優勢だと思いますけど」
「そうかァ?アレでも一応人間の男だからなァ。ま、せいぜい気ィつけろよ」
「何をです?」
小首を傾げる妙に銀時は耳打ちした。
「婚前交渉で孕むと弟が泣くぞ」
***
妙は、コンビニエンスストア大江戸マートの雑誌コーナーで若者向けの情報雑誌をめくっていた。何気なしに目が止まったページは、デートスポットの特集が組まれていた。
「ふーん、2回目のデート計画でも練ってんのか?」
前触れなく背後から声をかけられ、妙の肩が竦む。ふてぶてしい声の主は、苺牛乳を手にしている。
「ちょっと銀さん、驚かせないでくださいよ。買う気のない大江戸ウォーカーを落としそうになったじゃないですか」
「あ、わりぃわりぃ」
流すように言われ、妙の目が細くなる。
ちっとも悪いと思ってないじゃない。
「行き遅れる前になんとかしようって、ようやく焦ってきたのか?しっかし、まあ、一度は断ったゴリラのプロポーズを受けるとは、マジで焦ってんだな」
にやつく銀時の言葉に妙は、にこりと微笑み、片眉を引き攣らせた。
「は?何言ってるんです、銀さん?どうして私がゴリラと結婚するんです?」
「あれ?違うの?いつだったか、えれー嵐の日にゴリラとメスゴリラが野球観戦デートしたって、小耳にはさんだんだけどな」
と、小指で耳の穴を掻きほじる。
「メスゴリラって誰のことです?それ、私じゃありませんよ」
「あー、そっか、思い出した。真選組局長とお妙って名の娘だったっけ」
改めて、しかもわざとらしく事実を突きつけられ、妙の笑顔が更に引き攣った。
「何?忘れたい感じなの?アイツとのデート、よくなかったの?あ、入れる前にアイツいっちゃったとか、そんな、ぐェェェ!」
みぞおちに妙の肘が入り、銀時は腹部を抱えた。妙は何事もなかったように立ち読みしていた雑誌を棚へ戻して銀時が落としてしまった苺牛乳の会計を済ませて店を出る。
そんなんじゃないわよ、銀さん。私と近藤さんは、そんな深い関係じゃない。私は、近藤さんのことを何一つ知らない。あの人、何も教えてもくれないのよ。あ、そんなことないか。私よりも、困っている人を優先させるって、あのデートで教えてくれた。
「婚活ってわけじゃねーのか」
まだ腹部を軽く擦りながらではあるが、銀時も店を出てくると妙は歩き出す。
「わからないんです。あの人を男の人として好きなのか、わからないの……」
こぼされた本音に、今なら聞けるのではないかと、以前から気になっていたことを妙の背中に訊ねた。
「オビワンのことが気になってるのか?」
妙は首を横に振る。
「一度はいなくなったと、もう帰って来ない人だと思ってたんだもの。尾美一兄様のことをずっと引きずってたってことじゃないわ。それに……」
一歩後ろを歩く銀時に妙は振り返って、その生気が不足している瞳を見つめる。
「ん?何?やっぱ俺に惚れてたのか?」
妙は口元に手をやり、くすりと笑った。
「銀さんがそう感じたのなら、そうなんでしょうね」
「え……」
肯定されると思わなかったらしい銀時は微かに照れている。
「でも、きっと尾美一兄様を見ていたんだと思います」
穏やかな妙の声に銀時は唇の片端を上げた。
「で?ゴリラは?あ。そういや、オビワンとゴリラって似てなくないか?ああ、だからか」
束の間の穏やかな笑顔であった妙のこめかみに青筋が立つ。
「だから、尾美一兄様を引きずってるわけじゃねーって言ってんじゃねーか」
と、大江戸マートで妙が購入した銀時の苺牛乳が入った袋を銀時の目の前でがさりがさりと音を立てながら揺らす。青ざめた銀時は、慌てて謝罪した。
「ごめんなさい、もう二度と言いません、この通り!」
高が苺牛乳パック一本のためだけに土下座する銀髪に妙は溜息をついた。
「お侍さんの頭は苺牛乳一本の価値なんですね」
と、銀時の傍にそっと苺牛乳の入った袋を置いて膝を折る。
「いいですか、銀さん。苺牛乳を奢ったのは口止め料なんですからね。もし、変な噂を流したら、町中の苺牛乳買い占めて下水に流しますからね」
「は、はい!肝に銘じます!ありがとうございます!お妙様!」
あからさまに持ち上げられた妙は、はいはいと軽く受け流して立ち上がった。
「なァ、あのゴリラと互角に渡り合えると思ってんのか?」
と、銀時も立ち上がり、帰路を行く。
「え?」
「アイツ、天然で女こますタイプだろ。モテねーって言ってる割に実際にはモテてるって奴」
「それ、自分のこと言ってます?」
「え?そうなの?!」
嬉しそうに訊きかえされて妙は溜息をついた。
天然で女こましてるのは銀さんのほうだと思いますけど。義理堅くて、不器用な優しさで助けてくれる。最後には、必ず大事なものを護ってくれる。
ふと、妙はあのデートの日の近藤を思い出した。身を挺して隕石の前に立ちはだかった近藤の背中を鮮明に思い浮かべる。
あの人、それが空回りしてるのね。あれもこれも欲張りすぎなんだわ。だから、私がその背中から転がり落ちるのよ。いつも真っ先に私の元へやってくるくせに、いつも私は後回し。大変なことがあっても一切こぼさない。微塵も感じさせない。馬鹿な人。いつもにこにこして、大変なことなんて痛くも痒くもないって、云ってるつもりなのかしら。本当に馬鹿なんだから。
急に妙の胸が切なさでいっぱいになった。締めつけられる心は、隣に歩く男性が銀時であることを残念がる。
好きかどうかなんてわからないの。だけど、あの笑顔を今、一目でも見たい。一目以上は見てるとイライラするから、多分、一目見たら殴り蹴り飛ばしちゃうけど。
「ゴリラがストーカーを続ける限りは私のほうが優勢だと思いますけど」
「そうかァ?アレでも一応人間の男だからなァ。ま、せいぜい気ィつけろよ」
「何をです?」
小首を傾げる妙に銀時は耳打ちした。
「婚前交渉で孕むと弟が泣くぞ」
憧れと親愛と
Text by mimiko.
2013/08/19