ちょいと沖→近、銀←神な発言あったり。

あの日の神楽

 女のブルーデーはホント、ブルーアル。
 昼下がり、いつものようにかぶき町の通りを歩いていた神楽だったが、下腹部の痛みと腰のだるさに耐えられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。月に一度の周期でやってくる痛みを誤魔化そうと、ひと息ついてみたが、少しも痛みは軽減されない。
 今日は、やけに痛いアル……。
 道行く人々に時々、大丈夫かと声を掛けられたが、神楽は礼を言い、心配無用と答える。そうこうしていると、痛みの波が引いて幾らか楽になった。ほっと息をついた神楽の前に人影が止まる。
「雨降ってるわけでもねェのに傘差してるおじょーさん、どうかしやしたかィ」
 聞き覚えのある男の声に、晴れたはずの神楽の顔が曇った。
 番傘をよけてその声の主の顔を確認する。頭にアイマスク、耳にイヤホンを装着し、両手をポケットに入れながら風船ガムを膨らませる沖田がいた。真選組隊服を着ているが、とても仕事中だとは思えない。
 嫌な時に嫌な奴に出くわしたアル。
「なんでもないネ、ほっとくアル」
「なんだよ、拾い食いでもして腹壊したか?」
「……」
「それか、こんな往来のある所でわざとしゃがみ込む新しい遊びか?」
 むっとした神楽は逸らせた視線を沖田に戻した。睨むが、痛みの波がまたやって来る。神楽は俯き、目を瞑って下唇を噛み締め堪える。
「うるさい、黙るアル、男のおまえに何がわかるネ」
 辛そうな声に沖田の勘が働く。
 ふーん、コイツも一端の女か。
「……」
 痛みをこらえている神楽を見下ろした。可愛い顔が引き攣っている。沖田は鼻で息をつくと、隊服の内ポケットを探った。
「おいチャイナ、手ェ出せよ」
「何ヨ」
「いーから出せって」
 神楽が、しぶしぶ手を出すと沖田は、その手の平に錠剤を落とした。鎮痛剤だ。その次に使い捨てカイロの袋を置かれる。更にその上に数種類のハーブの飴を落とした。
「それ飲んどけ、使っとけ、舐めとけ」
「……おまえの制服は四次元に繋がってるアルか……」
 沖田は鼻で笑い、神楽の正面にしゃがむ。
「これァ近藤さんが、いつでもあの日になってもいいように常備してんでィ」
「おまえ、ゴリラのことホントに好きだナ」
 くすくすと笑う神楽に、沖田は内心、微笑んだ。
「あの人は俺の女房だからな。土方より俺の方が断然愛してんでィ。てめーも旦那のこと愛してんだろ、それと同じだ」
と、神楽の額を人差し指で軽く突いた。
「水買ってきてやるから待ってろ」
 沖田は立ち上がり、傍にあった自動販売機でミネラルウォーターを買うとそれを神楽に差し出す。
「てめェのことだ、どうせ今も腹いっぱいなんだろ。さっさと薬飲んどけよ」
 神楽はペットボトルに手を伸ばし、沖田を見上げる。
 コイツがモテる理由がわかったネ。
「……スケコマシ……」
 神楽が小さく言った。
「オイ、これだけ親切にしてやってんのに何だそりゃ」
 沖田のこめかみに青筋が立つ。
「思ったままを言ったまでアル」
 神楽は立ち上がり、先程受け取った使い捨てカイロや飴を沖田に持たせる。鎮痛剤をミネラルウォーターで服用し、沖田に持たせた物を取ると言った。
「もう行っていいヨ」
 しっしっと手で払われ、沖田はあからさまに、むっとする。動こうとしない沖田の背中を押し、両手で隊服を握ったまま額を寄せた。
「おい?」
「また来たネ……っ……」
「……」
 苦しそうな声に、沖田は神楽が楽になるまで、そのままでいることにした。
 暫らくして隊服を握られていた力が弱まる。沖田が行こうとすると、また握られる。後ろへ引っ張られて踏ん張った。
「……助かったネ、ありがと、ドラえもん……」
 呟くように言われてくすぐったくなり、自然と顔を綻ばせる。
「のび太くん、次に会う時は体で返してね」
と、沖田は背中越しに手をひらひらと振って行ってしまった。
「……」
 ちょっと見直したのに最後ので台無しネ。
あの日の神楽
Text by mimiko.
2010/04/19

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