2010年WJ29号、42号、43号既読前提の近妙補完。
一週休載してる間(41号-42号間)の妄想話です。
一週休載してる間(41号-42号間)の妄想話です。
永久就職のススメ
新ちゃんが修行の旅に出て早一年。
そろそろいつまでもこんな関係のままいるのもどうかと思っていたのよ。
まさかそう来られるなんて思いもしなかったから、もうどうしようもなかったの。
***
仕事帰りで足早に歩く妙の後から、いつもの呼び声がした。
「お妙さァァァん!」
妙は振り返ることも足を止めることもなく、自宅へと向かう。
ほんとよく飽きないわね。女の後をつけ回してどこが面白いのかしら。
妙に追いついたらしい男は一定の距離を保って歩く。
「……」
今日も仕事だったのね。
妙は溜め息をつき、不意に足を止めた。後ろの男は、それに追いつけず、妙の背中と己の胸をぶつけてしまった。
「わっ、す、すみません!大丈夫ですかっ」
慌てた声が耳元で聞こえる。妙はそのままで言った。
「近藤さん、こういうのは、もう終わりにしませんか?」
「え……」
「私、言いましたよね。野球観戦を最後に後をつけ回したり、店にも来ないでって。でもあなたは変わらず、こうやって私の後をつけ回す。近藤さんだって本当は疲れてるんでしょう?」
妙は振り返り、着物の袖を押さえて近藤の顔に手を伸ばした。いつもにこやかに微笑んでいる頬は微かにこけ、 目の下には薄らとくまが出来ているのが街灯の明かりで見えた。
私に会うために忙しいのに無理して来てる。
「あなたが倒れてしまったら真選組はどうなるんです?真選組が倒れてしまったら江戸の街はどうなるんです?」
近藤は薄く笑い、自分の頬に触れる妙の手を取った。その手を下ろし、握り直す。
「ありがとうございます。けど、俺は可能な限りお妙さんに会いたい。多少の無理は」
「だから!」
妙に声を荒げられ、近藤は黙ってしまった。
「無理をしてるんでしょう?それが嫌なんです。あなたが勝手に私の後をつけようが、つけまいが、私はどっちでもいいの。……けど、体を大事にして下さい」
以前、新八から聞いた父親の話を思い出した。
体が丈夫で健康そのものだった父親は病に伏しても尚、竹刀を握ろうとしたり、借金の工面に走り回っていた。妙や新八が止めるのも聞かず、養生せずにいた為、死期を早まらせたと。
近藤は居ても立っても居られず、妙を引き寄せ、その背中を抱いた。
「……何をしてるんですか……?」
至って冷静な妙の声に近藤は答える。
「すみません。これほど女性に心配されたことは初めてで、嬉しくてつい……」
「つい?……ていうか早く離せよゴリラ」
毒づく声に思わず笑みを浮かべた近藤は、妙を更に抱き締めた。
「やっぱり俺はお妙さんが好きです」
飾る言葉もなく好意を率直に告げられ、妙は頬を熱くした。
「俺は今までお妙さんほどのいい女に出会ったことがない。だから、お妙さんにどうしようもなく惚れてます。俺と一緒になってくれませんか?」
妙は近藤の腕の中でこれ以上とないくらい顔を火照らせる。
「て、言ってもダメか」
と、近藤は皮肉交じりに笑った。
「ダメに決まってるじゃないですか」
「ですよね」
微笑む近藤は妙を抱く手を下ろし、妙は頬を赤くしたまま近藤を見上げた。
「だって近藤さんの一番大事なものは私ではないでしょう?」
「え……?」
「あなたは女より、家族より、自分の一番大事なものを必ず優先するわ。そうでしょう?」
近藤は痛い所を突かれたと片眉を上げた。
「ははは、やっぱりお妙さんには敵わないなァ」
と、苦笑する。
「そうですね。確かに俺はお妙さんより真選組を優先するかな」
「ほら、やっぱり」
妙の拗ねた表情に近藤は柔らかく笑った。
「じゃあ、お妙さん、真選組辞めてただの近藤勲になったらまたプロポーズしに来ますね」
近藤の申し出をすぐに理解出来なかった妙は、目を丸くして瞬きを繰り返した。
「……は?辞める?何を?」
「や、だから真選組を」
「……え?」
「だからね、俺ちょっと真選組辞めてくるんで、お妙さんは部屋で布団敷いて待ってて」
と、近藤は自分の唇に右の人差指と中指を当て、その二本の指で妙の唇に触れた。
「なっ!」
妙の声が上がると近藤は、すぐに妙から離れた。妙の方を向いたまま満面の笑みを浮かべる。
「辞めるってどういうことよ!」
「辞めた後の再就職は完全永久就職なんでご心配なく!お妙さんに責任取ってもらいます!」
「はァ?!んな心配してねーよ!責任って何勝手なこと言ってんだよゴリラ!」
「それじゃあ、お妙さん、また明日!」
そう言うと近藤は路地を曲がって姿を消した。
近藤さんが真選組を辞める?そんなことできるはずないじゃない。あの人、局長なのよ。ムリよムリ。それに土方さんがそんなこと許さないでしょう。ありえないわ。私が近藤さんと結婚するくらいありえないわ。それにしてもあのゴリラ、断りもなく間接……キス……なんてして!
「次に会ったら二度と顔見れないようにしてやるんだから!」
***
翌日、話があると言われ、妙は近藤を客間へ上げた。仕事帰りらしい近藤は真選組隊服を着て、妙の淹れた茶を飲んでいる。
どの辺りが真選組を辞めてきたっていうの?いつもと変わりがないじゃない。
昨晩の怒りは治まらず、仕事が休みだった妙は自宅や、買い物帰りに近藤の気配を少しでも感じれば容赦なく鉄拳を食らわせてやろうというつもりでいた。だが、昼間は一度も姿を見せることなく、日も暮れ、夕食を済ませた後、近藤は珍しく玄関から訪ねてきた。
「お話って?」
「はい」
近藤は湯呑を置き、姿勢を正して妙を見つめた。いつになく真剣な表情の近藤に、妙も姿勢を正す。
「今、俺の一番大事なものはあなたです。あなたと、あなたの大事なものを俺に護らせて下さい」
それじゃあ、ほんとに真選組を辞めてきたの?それに私の……。
「大事なものって新ちゃんのことですか?」
「新八くんもそうですが、恒道館道場もです」
「え……」
近藤は頷き、微笑む。
「お妙さんはお父上の残された道場を復興するためにすまいるで働いていた。そこで俺たちは出会って、お妙さんは俺をケツ毛ごと愛してくれた」
「ちっとも愛してなんかいませんけど」
と、微笑みながらこめかみに青筋を立てるが、近藤は構わずに続けた。
「お父上が俺たちを引き合わせてくれたと思いませんか?」
妙は、近藤を見つめた。
そ、そうね。確かに父上には玉の輿にのれと言われていたし、いつの間にか私にメスゴリラフラグが立てられてたり、気まぐれに野球観戦に行こうとしたり、なんだか見えない糸で操られていたみたいだと感じていたわ。だけど、この一週休載中に近藤さんが真選組を辞めるなんて夢にも思わ……。
まだ信じられない妙は訊ねた。
「本当に真選組を辞めたんですか?」
「はい」
と、近藤は笑顔で頷く。
「ならダメだわ」
「え?」
「父上には玉の輿にのれと言われたんです。幕臣でないあなたと結婚はできません」
妙がきっぱりと言うと、近藤は青ざめた。次第に滝のように汗を掻き、目を白黒させる。つい先程まで満面の笑顔を浮かべていたのに、今は打って変って顔色がかなり悪い。妙は耐えられなくなり、噴き出した。
「あはは、ほんとに真選組辞めちゃったんですね」
一頻り笑うと目尻に浮かんだ涙を拭う。
「ふふふ、バカだわ、バカよ。廃刀令のご時世に侍の魂である刀を自ら捨ててしまうなんて。高が知れてる小娘ひとりのために、どうして……」
妙は込み上がってきた涙を堪えようと歯を食いしばる。が、胸の熱さを誤魔化せず、吐き出すように言う。
「どうして、あなたは……そんなに私のことを想ってくれるの……?」
膝の上で着物を握り締め、その手の甲に涙を落とす。近藤は妙の手をそっと握り、肩を抱き寄せた。
「理由なんてありません。だたあなたに惚れてる、それだけです」
近藤の温かく大きな手の平が妙の右頬に触れ、唇に親指が触れた。
「泣かないで下さい、笑って下さい」
優しく微笑まれ、つられて妙も微笑む。
「で、責任取って下さい」
と、近藤は笑う。
「え、責任?」
「お妙さんの所に永久就職させて下さい。お妙さんも俺に永久就職です」
「婿に取れと?」
「その辺りは、いずれじっくり話しましょう、ね?」
「ね?って、顔が近いんですけど」
少しでも動けば唇が重なってしまいそうな距離に鼓動を速め、頬を赤く染める。
「ですね……」
近藤は目を閉じ、唇を重ねた。幾度か妙の唇を啄ばむとゆっくりと深く口づける。唇を離すと、瞳を潤ませる妙を間近に見つめた。
「こんど、さん……責任、取って?」
口づけの余韻で、うまくしゃべれない。自分でも聞いたことのない甘い声を発している。わかっているがどうにもならない。今まで知らぬ振りをしてきた近藤への想いをどう伝えればいいのかわからない。
切なげな眼差しで見つめられた近藤は頷き、妙を畳へと寝かせた。妙は、どきりとし近藤の胸を力なく押す。
「あの……その、今日は……」
「……」
近藤は真顔で自分を見下ろしており、妙はその視線に頬を熱くする。
「そういうことはなしで……あの、キス……だけ、いっぱい……」
言ってしまってから自分がとんでもないことを言っていることに気づく。我に返った為、更に顔が茹だる。
「あ、ちがっ、そうじゃなくて、違います!さっきのは間違っ、んっ」
唇を塞がれ、その口づけに溶かされた妙は、角度を変える近藤に合わせて顔の向きを変え、ゆっくりと目を閉じた。口づけから近藤の想いを存分に感じた妙は、肘を突いて自分を見下ろす近藤の首に手を回す。近藤を引き寄せ耳元で言った。
「私も、あなたが好きです」
***
新ちゃんが修行の旅に出て早二年。
そろそろ新ちゃんが帰って来る頃ね。
うふふ、きっと驚いちゃうわね。
「お妙さん、どうしたの?思い出し笑い?」
「うふふ、ナイショ」
「ええ~?気になるなァ、教えてよ~」
「勲さんにもまだナ・イ・ショ」
「んもぉ~、お妙さんのイジワル~」
そろそろいつまでもこんな関係のままいるのもどうかと思っていたのよ。
まさかそう来られるなんて思いもしなかったから、もうどうしようもなかったの。
***
仕事帰りで足早に歩く妙の後から、いつもの呼び声がした。
「お妙さァァァん!」
妙は振り返ることも足を止めることもなく、自宅へと向かう。
ほんとよく飽きないわね。女の後をつけ回してどこが面白いのかしら。
妙に追いついたらしい男は一定の距離を保って歩く。
「……」
今日も仕事だったのね。
妙は溜め息をつき、不意に足を止めた。後ろの男は、それに追いつけず、妙の背中と己の胸をぶつけてしまった。
「わっ、す、すみません!大丈夫ですかっ」
慌てた声が耳元で聞こえる。妙はそのままで言った。
「近藤さん、こういうのは、もう終わりにしませんか?」
「え……」
「私、言いましたよね。野球観戦を最後に後をつけ回したり、店にも来ないでって。でもあなたは変わらず、こうやって私の後をつけ回す。近藤さんだって本当は疲れてるんでしょう?」
妙は振り返り、着物の袖を押さえて近藤の顔に手を伸ばした。いつもにこやかに微笑んでいる頬は微かにこけ、 目の下には薄らとくまが出来ているのが街灯の明かりで見えた。
私に会うために忙しいのに無理して来てる。
「あなたが倒れてしまったら真選組はどうなるんです?真選組が倒れてしまったら江戸の街はどうなるんです?」
近藤は薄く笑い、自分の頬に触れる妙の手を取った。その手を下ろし、握り直す。
「ありがとうございます。けど、俺は可能な限りお妙さんに会いたい。多少の無理は」
「だから!」
妙に声を荒げられ、近藤は黙ってしまった。
「無理をしてるんでしょう?それが嫌なんです。あなたが勝手に私の後をつけようが、つけまいが、私はどっちでもいいの。……けど、体を大事にして下さい」
以前、新八から聞いた父親の話を思い出した。
体が丈夫で健康そのものだった父親は病に伏しても尚、竹刀を握ろうとしたり、借金の工面に走り回っていた。妙や新八が止めるのも聞かず、養生せずにいた為、死期を早まらせたと。
近藤は居ても立っても居られず、妙を引き寄せ、その背中を抱いた。
「……何をしてるんですか……?」
至って冷静な妙の声に近藤は答える。
「すみません。これほど女性に心配されたことは初めてで、嬉しくてつい……」
「つい?……ていうか早く離せよゴリラ」
毒づく声に思わず笑みを浮かべた近藤は、妙を更に抱き締めた。
「やっぱり俺はお妙さんが好きです」
飾る言葉もなく好意を率直に告げられ、妙は頬を熱くした。
「俺は今までお妙さんほどのいい女に出会ったことがない。だから、お妙さんにどうしようもなく惚れてます。俺と一緒になってくれませんか?」
妙は近藤の腕の中でこれ以上とないくらい顔を火照らせる。
「て、言ってもダメか」
と、近藤は皮肉交じりに笑った。
「ダメに決まってるじゃないですか」
「ですよね」
微笑む近藤は妙を抱く手を下ろし、妙は頬を赤くしたまま近藤を見上げた。
「だって近藤さんの一番大事なものは私ではないでしょう?」
「え……?」
「あなたは女より、家族より、自分の一番大事なものを必ず優先するわ。そうでしょう?」
近藤は痛い所を突かれたと片眉を上げた。
「ははは、やっぱりお妙さんには敵わないなァ」
と、苦笑する。
「そうですね。確かに俺はお妙さんより真選組を優先するかな」
「ほら、やっぱり」
妙の拗ねた表情に近藤は柔らかく笑った。
「じゃあ、お妙さん、真選組辞めてただの近藤勲になったらまたプロポーズしに来ますね」
近藤の申し出をすぐに理解出来なかった妙は、目を丸くして瞬きを繰り返した。
「……は?辞める?何を?」
「や、だから真選組を」
「……え?」
「だからね、俺ちょっと真選組辞めてくるんで、お妙さんは部屋で布団敷いて待ってて」
と、近藤は自分の唇に右の人差指と中指を当て、その二本の指で妙の唇に触れた。
「なっ!」
妙の声が上がると近藤は、すぐに妙から離れた。妙の方を向いたまま満面の笑みを浮かべる。
「辞めるってどういうことよ!」
「辞めた後の再就職は完全永久就職なんでご心配なく!お妙さんに責任取ってもらいます!」
「はァ?!んな心配してねーよ!責任って何勝手なこと言ってんだよゴリラ!」
「それじゃあ、お妙さん、また明日!」
そう言うと近藤は路地を曲がって姿を消した。
近藤さんが真選組を辞める?そんなことできるはずないじゃない。あの人、局長なのよ。ムリよムリ。それに土方さんがそんなこと許さないでしょう。ありえないわ。私が近藤さんと結婚するくらいありえないわ。それにしてもあのゴリラ、断りもなく間接……キス……なんてして!
「次に会ったら二度と顔見れないようにしてやるんだから!」
***
翌日、話があると言われ、妙は近藤を客間へ上げた。仕事帰りらしい近藤は真選組隊服を着て、妙の淹れた茶を飲んでいる。
どの辺りが真選組を辞めてきたっていうの?いつもと変わりがないじゃない。
昨晩の怒りは治まらず、仕事が休みだった妙は自宅や、買い物帰りに近藤の気配を少しでも感じれば容赦なく鉄拳を食らわせてやろうというつもりでいた。だが、昼間は一度も姿を見せることなく、日も暮れ、夕食を済ませた後、近藤は珍しく玄関から訪ねてきた。
「お話って?」
「はい」
近藤は湯呑を置き、姿勢を正して妙を見つめた。いつになく真剣な表情の近藤に、妙も姿勢を正す。
「今、俺の一番大事なものはあなたです。あなたと、あなたの大事なものを俺に護らせて下さい」
それじゃあ、ほんとに真選組を辞めてきたの?それに私の……。
「大事なものって新ちゃんのことですか?」
「新八くんもそうですが、恒道館道場もです」
「え……」
近藤は頷き、微笑む。
「お妙さんはお父上の残された道場を復興するためにすまいるで働いていた。そこで俺たちは出会って、お妙さんは俺をケツ毛ごと愛してくれた」
「ちっとも愛してなんかいませんけど」
と、微笑みながらこめかみに青筋を立てるが、近藤は構わずに続けた。
「お父上が俺たちを引き合わせてくれたと思いませんか?」
妙は、近藤を見つめた。
そ、そうね。確かに父上には玉の輿にのれと言われていたし、いつの間にか私にメスゴリラフラグが立てられてたり、気まぐれに野球観戦に行こうとしたり、なんだか見えない糸で操られていたみたいだと感じていたわ。だけど、この一週休載中に近藤さんが真選組を辞めるなんて夢にも思わ……。
まだ信じられない妙は訊ねた。
「本当に真選組を辞めたんですか?」
「はい」
と、近藤は笑顔で頷く。
「ならダメだわ」
「え?」
「父上には玉の輿にのれと言われたんです。幕臣でないあなたと結婚はできません」
妙がきっぱりと言うと、近藤は青ざめた。次第に滝のように汗を掻き、目を白黒させる。つい先程まで満面の笑顔を浮かべていたのに、今は打って変って顔色がかなり悪い。妙は耐えられなくなり、噴き出した。
「あはは、ほんとに真選組辞めちゃったんですね」
一頻り笑うと目尻に浮かんだ涙を拭う。
「ふふふ、バカだわ、バカよ。廃刀令のご時世に侍の魂である刀を自ら捨ててしまうなんて。高が知れてる小娘ひとりのために、どうして……」
妙は込み上がってきた涙を堪えようと歯を食いしばる。が、胸の熱さを誤魔化せず、吐き出すように言う。
「どうして、あなたは……そんなに私のことを想ってくれるの……?」
膝の上で着物を握り締め、その手の甲に涙を落とす。近藤は妙の手をそっと握り、肩を抱き寄せた。
「理由なんてありません。だたあなたに惚れてる、それだけです」
近藤の温かく大きな手の平が妙の右頬に触れ、唇に親指が触れた。
「泣かないで下さい、笑って下さい」
優しく微笑まれ、つられて妙も微笑む。
「で、責任取って下さい」
と、近藤は笑う。
「え、責任?」
「お妙さんの所に永久就職させて下さい。お妙さんも俺に永久就職です」
「婿に取れと?」
「その辺りは、いずれじっくり話しましょう、ね?」
「ね?って、顔が近いんですけど」
少しでも動けば唇が重なってしまいそうな距離に鼓動を速め、頬を赤く染める。
「ですね……」
近藤は目を閉じ、唇を重ねた。幾度か妙の唇を啄ばむとゆっくりと深く口づける。唇を離すと、瞳を潤ませる妙を間近に見つめた。
「こんど、さん……責任、取って?」
口づけの余韻で、うまくしゃべれない。自分でも聞いたことのない甘い声を発している。わかっているがどうにもならない。今まで知らぬ振りをしてきた近藤への想いをどう伝えればいいのかわからない。
切なげな眼差しで見つめられた近藤は頷き、妙を畳へと寝かせた。妙は、どきりとし近藤の胸を力なく押す。
「あの……その、今日は……」
「……」
近藤は真顔で自分を見下ろしており、妙はその視線に頬を熱くする。
「そういうことはなしで……あの、キス……だけ、いっぱい……」
言ってしまってから自分がとんでもないことを言っていることに気づく。我に返った為、更に顔が茹だる。
「あ、ちがっ、そうじゃなくて、違います!さっきのは間違っ、んっ」
唇を塞がれ、その口づけに溶かされた妙は、角度を変える近藤に合わせて顔の向きを変え、ゆっくりと目を閉じた。口づけから近藤の想いを存分に感じた妙は、肘を突いて自分を見下ろす近藤の首に手を回す。近藤を引き寄せ耳元で言った。
「私も、あなたが好きです」
***
新ちゃんが修行の旅に出て早二年。
そろそろ新ちゃんが帰って来る頃ね。
うふふ、きっと驚いちゃうわね。
「お妙さん、どうしたの?思い出し笑い?」
「うふふ、ナイショ」
「ええ~?気になるなァ、教えてよ~」
「勲さんにもまだナ・イ・ショ」
「んもぉ~、お妙さんのイジワル~」
永久就職のススメ
Text by mimiko.
2010/09/28