近←妙でツンでたまにデレ。
縁側の狸寝入り
たとえばいつものように軒下に隠れていたとする、見つかり次第、行儀よく揃った草履に鼻を潰されるのは我ながら手に取るようにわかる。
ならば堂々と縁側で寝ていてはどうだ?いくら正体がストーカーとは言え、縁側で気持ちよさそうに昼寝しているゴリラを無碍にはできんだろう。我ながらなかなかの奇策だ。
近藤は留守になっていた志村家の縁側に腰を掛けると両腕を組んだまま横になり、瞳を閉じた。
はァ今日はえらくいい日和だよね。
暖かい日差しと昼食だった鯖の味噌煮は眠気を誘い、近藤は腕を組んだまま浅い眠りについた。しばらくすると妙が帰宅し、枕元でその声がする。
「こんのゴリラぁぁ!人ん家の縁側で何気持ちよさそうに寝てやがる!」
大声で言ったものの目を覚ます気配がなく、妙は溜め息をついて背を屈めると近藤の右肩を揺すった。
「近藤さん、起きて下さい。いくら暖かいからって、こんな所で寝てたら風邪引きますよ。まだ風だって冷たいんですから」
――起きて下さい、勲さん――
そうそう、君と結婚したらそんな優しい声でうたた寝した俺を起こしてくれるんだろうな……。
「近藤さん、起きて」
耳元で妙の声が聞こえ、近藤は妙の腕を引き寄せて自分の左脇へと寝かせた。
「妙はここ……」
と、髪に口づけ、一度両腕で妙を抱きしめると右腕を離す。
「なっ……!」
今、妙って言ったわ、この人!それになんなの、この密着は!
腰に回された左腕にしっかりと抱かれており、身動きがならなかった妙は諦めたように一息つくと気持ちよさそうに瞳を閉じている近藤の顔を見つめた。
本当に寝てるの?起きてたら承知しないんだから。
妙は楽な姿勢を取ろうと近藤に体を預ける。右耳に響く規則正しい音に耳を澄ませていると眠りを誘われたのか自然と瞼を閉じた。
左半身に温もりを感じ、近藤は瞳を閉じたまま目を覚ました。瞼の裏を見つめたまま体を硬直させる。
あれ、えっと、この左のヌクイのって何?なんか人っぽくね?
近藤は恐る恐る左目を薄く開いた。
ええェェェ!この頭、お妙さんんんん?!
目を固く瞑り、置かれている状況を取り急ぎ、整理してみる。
俺の左胸にお妙さんの頭。俺の左手はお妙さんの腰。俺の左足にはお妙さんの太ももォォォ?!
姿勢をそのままに瞬きを目まぐるしく繰り返す。
なんで、ええ、なんで、どしてェェェェ!?
近藤はぎこちない動きで頭だけ起こし、様子を窺う。妙が自分の左胸に頬を擦り寄せていた。いつもの妙ならば ありえない行動だ。
お妙さん、寝てる?コレ万が一、起きててやってるんならひょっとしてホントは俺のこと……。
「……す、き……」
なんてななんてな、うォォお妙さんすみませんんんん!!……んんんん?!
妙の消え入りそうな呟きに、はたと、近藤は目を見開いた。
マ、マジでか?!ていうか幻聴だよな、ハハハ、俺もついにここまで来たか。ていうか寝ぼけてお妙さん引っ張り込んで、こんなことしてタダじゃあ済まねェよな……。
青ざめる近藤の右胸に妙は左手を伸ばした。
「……」
近藤は幾度かゆっくりと瞬きをする。
アレ?何コレ。嫌よ嫌よも、なフラグですかコレ。
「お妙さん……?」
再び妙を窺うと、妙は静かな寝息を立てて眠っていた。
近藤は微笑み、妙の姿勢を崩さぬようにそっと引き離す。縁側へ寝かせて隊服の上着を妙の背中に掛けた。
無意識だろうか、寝ぼけていたのだろうか。どちらにしろ、自分は完全に対象外ではないらしい。日頃から感じていたことも確かなものへと変わる。
いつもぶっとばされているが、あれは裏返しだととってもいいですか?
心の中で問うてみても返事はあるはずもない。近藤は自嘲し、縁側に受ける日和を心地よさそうにしている妙を見つめた。
もし本当にそうなんだったら……。
「俺はいくらでも待ちますよ」
妙の目に掛っていた前髪を指で梳くと、頭を撫でて庭から去った。
近藤の気配を感じなくなると妙は体を起こし、通って行ったであろう庭の先を見つめる。
起きてたのはあなただけじゃないんだから。
妙は肩に掛けられている大きな隊服を抱き締めるように羽織り直した。
「こんなの置いて行ってどうするのよ、もう」
と、返す時のことを考え、溜め息をつく。
口にするつもりなどなかったのに思わず零してしまったのは、両親の温もりを思い返していたからだと自分に言い聞かせ、また溜め息をついた。
観念しなければならないのだろうか、けれどまだその時ではないと思う。
――俺はいくらでも待ちますよ――
お言葉に甘えてそうさせてもらいます。あれは血迷ったんです。だから名前を呼び捨てにされてもちっとも嬉しくないんだから。むしろ腹立たしいんですからね!
ふと隊服に残る匂いがし、先程の温もりを思い返すと穏やかに微笑んだ。
ならば堂々と縁側で寝ていてはどうだ?いくら正体がストーカーとは言え、縁側で気持ちよさそうに昼寝しているゴリラを無碍にはできんだろう。我ながらなかなかの奇策だ。
近藤は留守になっていた志村家の縁側に腰を掛けると両腕を組んだまま横になり、瞳を閉じた。
はァ今日はえらくいい日和だよね。
暖かい日差しと昼食だった鯖の味噌煮は眠気を誘い、近藤は腕を組んだまま浅い眠りについた。しばらくすると妙が帰宅し、枕元でその声がする。
「こんのゴリラぁぁ!人ん家の縁側で何気持ちよさそうに寝てやがる!」
大声で言ったものの目を覚ます気配がなく、妙は溜め息をついて背を屈めると近藤の右肩を揺すった。
「近藤さん、起きて下さい。いくら暖かいからって、こんな所で寝てたら風邪引きますよ。まだ風だって冷たいんですから」
――起きて下さい、勲さん――
そうそう、君と結婚したらそんな優しい声でうたた寝した俺を起こしてくれるんだろうな……。
「近藤さん、起きて」
耳元で妙の声が聞こえ、近藤は妙の腕を引き寄せて自分の左脇へと寝かせた。
「妙はここ……」
と、髪に口づけ、一度両腕で妙を抱きしめると右腕を離す。
「なっ……!」
今、妙って言ったわ、この人!それになんなの、この密着は!
腰に回された左腕にしっかりと抱かれており、身動きがならなかった妙は諦めたように一息つくと気持ちよさそうに瞳を閉じている近藤の顔を見つめた。
本当に寝てるの?起きてたら承知しないんだから。
妙は楽な姿勢を取ろうと近藤に体を預ける。右耳に響く規則正しい音に耳を澄ませていると眠りを誘われたのか自然と瞼を閉じた。
左半身に温もりを感じ、近藤は瞳を閉じたまま目を覚ました。瞼の裏を見つめたまま体を硬直させる。
あれ、えっと、この左のヌクイのって何?なんか人っぽくね?
近藤は恐る恐る左目を薄く開いた。
ええェェェ!この頭、お妙さんんんん?!
目を固く瞑り、置かれている状況を取り急ぎ、整理してみる。
俺の左胸にお妙さんの頭。俺の左手はお妙さんの腰。俺の左足にはお妙さんの太ももォォォ?!
姿勢をそのままに瞬きを目まぐるしく繰り返す。
なんで、ええ、なんで、どしてェェェェ!?
近藤はぎこちない動きで頭だけ起こし、様子を窺う。妙が自分の左胸に頬を擦り寄せていた。いつもの妙ならば ありえない行動だ。
お妙さん、寝てる?コレ万が一、起きててやってるんならひょっとしてホントは俺のこと……。
「……す、き……」
なんてななんてな、うォォお妙さんすみませんんんん!!……んんんん?!
妙の消え入りそうな呟きに、はたと、近藤は目を見開いた。
マ、マジでか?!ていうか幻聴だよな、ハハハ、俺もついにここまで来たか。ていうか寝ぼけてお妙さん引っ張り込んで、こんなことしてタダじゃあ済まねェよな……。
青ざめる近藤の右胸に妙は左手を伸ばした。
「……」
近藤は幾度かゆっくりと瞬きをする。
アレ?何コレ。嫌よ嫌よも、なフラグですかコレ。
「お妙さん……?」
再び妙を窺うと、妙は静かな寝息を立てて眠っていた。
近藤は微笑み、妙の姿勢を崩さぬようにそっと引き離す。縁側へ寝かせて隊服の上着を妙の背中に掛けた。
無意識だろうか、寝ぼけていたのだろうか。どちらにしろ、自分は完全に対象外ではないらしい。日頃から感じていたことも確かなものへと変わる。
いつもぶっとばされているが、あれは裏返しだととってもいいですか?
心の中で問うてみても返事はあるはずもない。近藤は自嘲し、縁側に受ける日和を心地よさそうにしている妙を見つめた。
もし本当にそうなんだったら……。
「俺はいくらでも待ちますよ」
妙の目に掛っていた前髪を指で梳くと、頭を撫でて庭から去った。
近藤の気配を感じなくなると妙は体を起こし、通って行ったであろう庭の先を見つめる。
起きてたのはあなただけじゃないんだから。
妙は肩に掛けられている大きな隊服を抱き締めるように羽織り直した。
「こんなの置いて行ってどうするのよ、もう」
と、返す時のことを考え、溜め息をつく。
口にするつもりなどなかったのに思わず零してしまったのは、両親の温もりを思い返していたからだと自分に言い聞かせ、また溜め息をついた。
観念しなければならないのだろうか、けれどまだその時ではないと思う。
――俺はいくらでも待ちますよ――
お言葉に甘えてそうさせてもらいます。あれは血迷ったんです。だから名前を呼び捨てにされてもちっとも嬉しくないんだから。むしろ腹立たしいんですからね!
ふと隊服に残る匂いがし、先程の温もりを思い返すと穏やかに微笑んだ。
縁側の狸寝入り
Text by mimiko.
2010/02/27