紅桜篇と寺門通一日局長回で見た銀さんと近藤さんについての妙視点。

二人の侍

 万年金欠であるにも関わらず、銀時は職人の意地と探究に憑りつかれた兄を止めて欲しいと万事屋を訪れた鉄子に依頼料を突き返した。面倒くさいのは御免だと。しかし、事情を根掘り葉掘りと訊ねただけあって、ただでは引くことはないとわかっていた。かつて自分を救ってくれた時のように、おそらく銀時ならば鉄子の兄、鉄矢を救いに行く。だが、先の戦いで対戦艦用機械機動兵器・妖刀紅桜によって深手を負ったのだ。行けばその人工知能を有す生きた刀が待ち受けている。今度こそ命を奪われるかもしれない。銀時がいなくなれば、新八も神楽も師を失うことになる。無茶をするのはやめてくれと申し出たら、あっさり了承した。ヤンチャなことはもうしない、もうどこにも行かないなどと言っていても、結局、銀時は行ってしまった。馬鹿な男だ。帰ってきたはいいが無茶をしたせいで傷の治りが悪い。ヤンチャしていた頃ならいざ知らず、若くもないのだからやはり無茶はするものではない。
 テレビでお正月特別番組を観ていたら攘夷浪士による立て籠もり事件の緊急生中継が始まった。泣く子も黙る真選組の醜態は目に余るものだった。連続婦女誘拐犯の言いなりになる警察。物騒で馬鹿で救いようがない。局長を斬れという要求を呑めないというならば、人質の代表であるアイドルの寺門通が代わりに死ぬだけだとリーダー格の誘拐立て籠もり犯が宣言する。無茶な要求にテレビ中継を見ているこちらが冷汗を掻いた。今朝は新八がお通ちゃんと一緒に仕事をすると張り切っていた。万事屋に依頼された仕事だ。無茶をする銀時がそこにはいる。自分を賭けた決闘では姑息な手段で近藤に負けをもたらした銀時だ。真選組局長である近藤を見くびっているわけではないが、隙につけいられてしまうかもしれない。人質は複数人いるし誘拐立て籠もり犯の数も多い。真選組と万事屋の分が悪い。となれば、おそらく銀時はまた無茶をする。が、無茶をしたのは銀時ではなく隊服の上着を投げ捨てた近藤だった。包み隠さず心の内を晒すのはいつもの近藤と大差なかった。ただ護るべきものも護れん不甲斐ない男にだけは絶対になりたくないと、叫んだ広い背中に迷いは微塵も感じなかった。昔からいる真っ直ぐな侍がそこにはいた。
 見せ物が終わるとバズーカーを天に向ける真選組、人質を救出する潜入していた真選組とイメージマスコットが分裂した万事屋が画面に映し出された。歴史的建造物を半壊することにはなったが人命は失われることはなく、それは鮮やかな救出捕物劇だった。
 こちらにはどこにも行かないと言いつつ行ってしまう男に、こちらには何も言わずに行く男。どちらもただの馬鹿だ。ただの馬鹿で侍だ。
 雲一つない快晴の日。妙は、父の墓前にいた。
「父上、江戸にはまだ沢山の侍がいますよ」
二人の侍
Text by mimiko.
2015/04/10

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