銀魂NL版深夜の60分一本勝負(https://twitter.com/GntmNL60m)2015/12/18(月)付のお題。
電話
妙は、昨日の昼間から起こった強盗立て籠もり事件について報じるテレビに顔を向けたまま、座卓上に置いた桜色の携帯電話をちらりと見やった。
『明日は必ず店に行きますからッ!』
顎髭の男が言った言葉を思い出して溜息をつく。
一昨日のこの時間帯、男はそこにいた。仕事が忙しく、自分の勤める店へ顔を出せずに申し訳ない、明日は必ず行くからと勝手に謝罪し、約束した。
「お忙しくて、ろくに休んでいないんじゃありませんか?無理してお酒を飲みに来る必要はありませんよ。というか、もう来ないでください」
「イヤです。行きます。だから、そんな怒んないでください。ドンペリ頼みますからッ」
と、男はいつの間にか自分の携帯電話を手にしていた。部屋の隅に置いた巾着の傍に置いていたはずのものをいつの間に盗んでいたのだ。妙は、目を剥いたが、すぐに微笑んで見せた。
「あら、随分と手癖がよろしいんですね、近藤さん」
と、眉を引き攣らせる。
「え、そですか?手癖わりィ奴だってのはガキの頃によく言われてましたが、いいなんて言われたの初めてだなァ」
と、照れながら隊服の胸ポケットから黒色の携帯電話を取り出した。
「……別に褒めてねーよ、皮肉だよ……」
ぼそぼそと嫌味を呟くが聞こえなかったらしく、近藤は桜色の携帯電話を妙の前へと差し出した。
「そういえば、僕たち番号交換してませんでしたよね。お妙さん、番号教えてください。あとメールアドレスも」
と、笑顔で言う。
「イヤです」
「え、なんで」
「お断りします」
「や、だから」
「ごめんなさい」
頭を下げる妙だったが、近藤は素知らぬ顔で黒色の携帯電話を開いた。
「赤外線で交換しましょうか」
と、妙に笑顔を向ける。
「人の聞いてます?イヤだって言ったんですけど」
語気を強めてみるが、近藤は変わらず笑顔でいる。
「何かあったら連絡ください。すぐに駆けつけるんで」
真面目な顔をされて妙は張っていた意地を視線と共に横へやる。すぐに駆けつけるなどできもしないくせに、よくもまあ、そんなことを言えたものだ。悔しいのに心配してそう申し出てくれていることが少し嬉しかった。何かあれば助けを呼べる存在があるのとないのとでは心の持ち方が変わる。おまけに相手は警察も管理職の人間だ。確かに何かと心強い。
「わかりました。赤外線ですね」
妙は、渋々と言った顔で桜色の携帯電話を開いた。機能を立ち上げると訊ねる。
「私が受信すればいいんですか?」
「いえ、俺、今受信します。お妙さんは送信してください」
「え、もう受信してるのっ?」
と、慌てて送信の決定ボタンを押す。
「あ……」
近藤の発した声に送信が間に合わなかったのかと窺うと、彼に笑顔を向けられる。
「来ましたよ、お妙さんの番号」
と、液晶をこちらに向けて声を弾ませる近藤に思わず後悔する。
「変な電話してこないでくださいよ」
「変なって言うと?」
「何色のパンツ穿いてるの?みたいなイタズラ電話」
「えッ!今までそんな電話かかってきたことあるんですかッ!」
「いえ……ありませんよ。でも……」
と、近藤に疑いの眼差しを送る。
「お妙さん、なんか疑ってる?誤解しないでください。俺は武士です。ボディーガードはしてもイタズラ電話なぞしません!ていうか、パンツの色なら電話越しじゃなくて面と向かって聞きたいです!お妙さん、今何色のパンツ穿いてるんですギャァァッ!目がッ!目がァァァッ!」
妙は真顔で訊ねてくる近藤の両目を指で突いてやった。
テレビ画面の中で小さく映る隊服を着た後ろ姿が事件関係者のみが立ち入りを許されたブルーシートの中へ入って行くのを見つめる。強盗立て籠もり犯は無事に逮捕されたらしいが、警察の仕事はまだ終わらないだろう。この分だと近藤が顔を出しに来るのは早くて明日。遅くて三日後くらいだろうか。
妙は座卓上の桜色の携帯電話を眺めた。背面ディスプレイに着信表示は、やはりない。
番号もアドレスも交換したのだから昨夜の約束をすっぽかしたことについての言い訳でもしてこればいいのにと溜息をつく。
「でも、きっと顔を見て謝りたかったとか言うんでしょうね」
と、微笑んだ。
『明日は必ず店に行きますからッ!』
顎髭の男が言った言葉を思い出して溜息をつく。
一昨日のこの時間帯、男はそこにいた。仕事が忙しく、自分の勤める店へ顔を出せずに申し訳ない、明日は必ず行くからと勝手に謝罪し、約束した。
「お忙しくて、ろくに休んでいないんじゃありませんか?無理してお酒を飲みに来る必要はありませんよ。というか、もう来ないでください」
「イヤです。行きます。だから、そんな怒んないでください。ドンペリ頼みますからッ」
と、男はいつの間にか自分の携帯電話を手にしていた。部屋の隅に置いた巾着の傍に置いていたはずのものをいつの間に盗んでいたのだ。妙は、目を剥いたが、すぐに微笑んで見せた。
「あら、随分と手癖がよろしいんですね、近藤さん」
と、眉を引き攣らせる。
「え、そですか?手癖わりィ奴だってのはガキの頃によく言われてましたが、いいなんて言われたの初めてだなァ」
と、照れながら隊服の胸ポケットから黒色の携帯電話を取り出した。
「……別に褒めてねーよ、皮肉だよ……」
ぼそぼそと嫌味を呟くが聞こえなかったらしく、近藤は桜色の携帯電話を妙の前へと差し出した。
「そういえば、僕たち番号交換してませんでしたよね。お妙さん、番号教えてください。あとメールアドレスも」
と、笑顔で言う。
「イヤです」
「え、なんで」
「お断りします」
「や、だから」
「ごめんなさい」
頭を下げる妙だったが、近藤は素知らぬ顔で黒色の携帯電話を開いた。
「赤外線で交換しましょうか」
と、妙に笑顔を向ける。
「人の聞いてます?イヤだって言ったんですけど」
語気を強めてみるが、近藤は変わらず笑顔でいる。
「何かあったら連絡ください。すぐに駆けつけるんで」
真面目な顔をされて妙は張っていた意地を視線と共に横へやる。すぐに駆けつけるなどできもしないくせに、よくもまあ、そんなことを言えたものだ。悔しいのに心配してそう申し出てくれていることが少し嬉しかった。何かあれば助けを呼べる存在があるのとないのとでは心の持ち方が変わる。おまけに相手は警察も管理職の人間だ。確かに何かと心強い。
「わかりました。赤外線ですね」
妙は、渋々と言った顔で桜色の携帯電話を開いた。機能を立ち上げると訊ねる。
「私が受信すればいいんですか?」
「いえ、俺、今受信します。お妙さんは送信してください」
「え、もう受信してるのっ?」
と、慌てて送信の決定ボタンを押す。
「あ……」
近藤の発した声に送信が間に合わなかったのかと窺うと、彼に笑顔を向けられる。
「来ましたよ、お妙さんの番号」
と、液晶をこちらに向けて声を弾ませる近藤に思わず後悔する。
「変な電話してこないでくださいよ」
「変なって言うと?」
「何色のパンツ穿いてるの?みたいなイタズラ電話」
「えッ!今までそんな電話かかってきたことあるんですかッ!」
「いえ……ありませんよ。でも……」
と、近藤に疑いの眼差しを送る。
「お妙さん、なんか疑ってる?誤解しないでください。俺は武士です。ボディーガードはしてもイタズラ電話なぞしません!ていうか、パンツの色なら電話越しじゃなくて面と向かって聞きたいです!お妙さん、今何色のパンツ穿いてるんですギャァァッ!目がッ!目がァァァッ!」
妙は真顔で訊ねてくる近藤の両目を指で突いてやった。
テレビ画面の中で小さく映る隊服を着た後ろ姿が事件関係者のみが立ち入りを許されたブルーシートの中へ入って行くのを見つめる。強盗立て籠もり犯は無事に逮捕されたらしいが、警察の仕事はまだ終わらないだろう。この分だと近藤が顔を出しに来るのは早くて明日。遅くて三日後くらいだろうか。
妙は座卓上の桜色の携帯電話を眺めた。背面ディスプレイに着信表示は、やはりない。
番号もアドレスも交換したのだから昨夜の約束をすっぽかしたことについての言い訳でもしてこればいいのにと溜息をつく。
「でも、きっと顔を見て謝りたかったとか言うんでしょうね」
と、微笑んだ。
電話
Text by mimiko.
2015/12/19