銀魂NL版深夜の60分一本勝負(https://twitter.com/GntmNL60m)10/26(月)付のお題。

嫉妬

 来ない。今日こそ来ると思っていたのに、あの男は来ない。なぜ来ない。こちらだって困っているのに。今月の売上成績が中位止まりのままだというのに。
 接客中だった妙は、会話の合間に赤絨毯の階段上を見やった。ちょうど店に客がやって来たのだ。顎に髭を蓄えてはいるが、他の従業員の客だった。やはり、特定の常連客に頼るのは無理があるのだろう。諦めながら視線を戻した。空いたグラスに酒を注ぐ。
 それでも、あの男ならきっと助けてくれる。ライバル従業員に売上額を引き離されている妙に焦りの苛立ちが募る。
 あの男は今日もどこかで困っている誰かのために、ひと肌でもふた肌でも脱いでいるのだろう。それが仕事なのだから当然のことだ。寧ろ、自分の元へやって来ては、ひと肌でもふた肌でもなく、すべてを脱ぎ捨てていることこそが常軌を逸しているのだ。なぜ普通でいられない。仕事は普通にこなせる。しかし、自分と対面すれば普通に対応できない。何も仕事と私のどっちが大事なの、などということを問いただしたいわけではない。江戸の平和は彼らによって護られている。なのに、一番好きらしい自分は都合のいい女だというのか。
 支離滅裂な思考を頭の片隅で冷ややかに眺めている自分がいる。わかっているのに、体の動きが鈍い。しゃっくりも出る。
 妙の仲の良い従業員が黒服と一緒に困り果てているところに、短髪で顎髭を蓄えた男が来店した。ぐらぐらと揺れる視界に、いつものゴリラを見た妙は右拳を男の鼻へと当てた。
「遅い!」
と、不満をぶつけ、気が抜ける。妙は、ふわふわとした夢見心地で男にのしかかり、寝息を立てた。
嫉妬
Text by mimiko.
2015/10/27

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