買い物中のお妙さんを電信柱の陰から見守っている近藤さん。ギャルたちにナンパされている所にお妙さんが店から出てきてお妙さんヤキモキ状態な様子です。
誤解
大江戸マートの買い物袋を左手に提げ、足早に先を行く妙の背中に向かって近藤は弁解する。
「誤解です、お妙さん。あれは道を訊ねられて、いつの間にか世間話になって……」
「誤解も何も始めからあなたに対してなんの感情も持ち合わせてませんけど」
語尾が強く、遮った声には苛立ちの色が込められているのがよくわかる。
俺はさァ、別に遊んでたわけじゃないんだよ。ただ相手が本気じゃなかったり、俺のことが煩わしくなったり、そんなでさ。けど、再会すると決まって手の平返したように振られた時とは態度が違ってた。幕臣と知ったか、あれは多分そういうことだよな。やっぱ身分とか稼ぎとかが最重要で人柄がどうの、生き様がどうのは二の次、三の次なんだよね。だからバカな俺もいい加減、学習した。学習代高くついたけど。真選組局長であり何者でもない近藤勲というただの男を好いてくれる女を貰う。それに相応しく、ただ帰りを待っていてくれるだけでいい。そうでなければ女など遊びで充分だ。
近藤は掴んだ左手を自分の方へ引き寄せ、振り返った妙の瞳を見つめた。
だから惚れた相手の非も含めて全て愛すると言ったこの女しかいないと思った。上辺だけかも知れん。けどそれでいい。人斬り集団の頭には上辺だけの癒しで大金の釣りが出る。俺には勿体ないくらいだが、あいつらにあの笑顔を向けてやって欲しいと思った。
下唇を噛み、眉を顰めたその瞳には憤りか憎しみが込められているように感じる。
青筋でも立てて、いつもの笑みを浮かべながらいつものように殴ればいいのに、なんでそんな顔してんの。どうする、このまま抱き締めれば事は納まるのか?つき合ってもないのに抱き締めんの?男に免疫なさそうな娘を?まァ免疫ないからそういう手もあるけど、それしたらダメってバカなゴリラでもわかってる。年中ムラムラしてもストーカーしても、そういうのだけはダメ。や、まァ妄想ではあんなこんなそんなでアレだけど。
視線を逸らせることなく睨まれ内心、苦笑する。
ははは、何この可愛い顔。いつも問答無用で殴ってくんのに、たまにこういうことあんだよね。これだから諦められん。てか、わかっててやってんのかな。
「放して下さい!」
ホントにイヤ放して!って、思ってんの?殴ればいいじゃん。利き手の右の手、自由なんだからさ。
近藤は妙に顔を近づけ、もう一方の手で腰を抱き寄せた。妙の桃色の唇を見つめ呟く。
「そんな顔するからつけ上がるんです……」
左手を握っていた右手を放し、その手で妙の左頬に掛っていた髪を梳く。妙は瞬きも忘れ、ゆっくり瞼を閉じる近藤の顔を間近で見つめていたが、唇の先が自分のそれに掠めそうになって我に返った。
「やっ、近藤さんっ……!」
唇は重ならず、胸を強い力で押されて近藤は後ずさった。肩で息をする妙は、速く打つ鼓動を治めようと右手で胸を押さえる。
「何するんですか、やめて下さい。警察に突き出しますよ」
「だってお妙さん、なんか妬いてるみたいだったしィ」
「あらイヤだ、空耳が聞こえたわ。何か憑いてるのかしら、お祓い行った方がいいわね。こういうのって早い方がいいはずだわ、今から行こうかしら」
「んもう、お妙さんテレちゃってカワイイ~」
妙は、頬に両手を当てて体をくねらせる近藤の胸倉を左手で掴み上げた。
「ああん?もっぺん言ってみろゴリラァァ」
「んぐ、ぐるじ、はは、これも照れ隠しなんンンブグぉぉぉぉ!」
左頬に妙の右拳が捻じ込まれ、拳の勢いのまま近藤の体は一度浮いて地に倒れた。妙は乾いた音を立てて両の手の平を祓うと、鼻の先の我が家へと向かった。近藤は体を起こし、妙の後ろ姿を見つめる。
はァ抵抗されて良かった。ダメだってわかってても拒否されないと待った利かねェんだよなァ。お妙さん、カワイイからさ。
近藤は殴られた頬を擦り、ふっと笑った。
「お妙さァん、待って下さァァい!俺もお祓い一緒に行きますゥゥゥ!」
「ついてこないで下さい!ゴリラの霊を祓いに行くのにゴリラがついてきたら意味ないじゃないですか!」
「誤解です、お妙さん。あれは道を訊ねられて、いつの間にか世間話になって……」
「誤解も何も始めからあなたに対してなんの感情も持ち合わせてませんけど」
語尾が強く、遮った声には苛立ちの色が込められているのがよくわかる。
俺はさァ、別に遊んでたわけじゃないんだよ。ただ相手が本気じゃなかったり、俺のことが煩わしくなったり、そんなでさ。けど、再会すると決まって手の平返したように振られた時とは態度が違ってた。幕臣と知ったか、あれは多分そういうことだよな。やっぱ身分とか稼ぎとかが最重要で人柄がどうの、生き様がどうのは二の次、三の次なんだよね。だからバカな俺もいい加減、学習した。学習代高くついたけど。真選組局長であり何者でもない近藤勲というただの男を好いてくれる女を貰う。それに相応しく、ただ帰りを待っていてくれるだけでいい。そうでなければ女など遊びで充分だ。
近藤は掴んだ左手を自分の方へ引き寄せ、振り返った妙の瞳を見つめた。
だから惚れた相手の非も含めて全て愛すると言ったこの女しかいないと思った。上辺だけかも知れん。けどそれでいい。人斬り集団の頭には上辺だけの癒しで大金の釣りが出る。俺には勿体ないくらいだが、あいつらにあの笑顔を向けてやって欲しいと思った。
下唇を噛み、眉を顰めたその瞳には憤りか憎しみが込められているように感じる。
青筋でも立てて、いつもの笑みを浮かべながらいつものように殴ればいいのに、なんでそんな顔してんの。どうする、このまま抱き締めれば事は納まるのか?つき合ってもないのに抱き締めんの?男に免疫なさそうな娘を?まァ免疫ないからそういう手もあるけど、それしたらダメってバカなゴリラでもわかってる。年中ムラムラしてもストーカーしても、そういうのだけはダメ。や、まァ妄想ではあんなこんなそんなでアレだけど。
視線を逸らせることなく睨まれ内心、苦笑する。
ははは、何この可愛い顔。いつも問答無用で殴ってくんのに、たまにこういうことあんだよね。これだから諦められん。てか、わかっててやってんのかな。
「放して下さい!」
ホントにイヤ放して!って、思ってんの?殴ればいいじゃん。利き手の右の手、自由なんだからさ。
近藤は妙に顔を近づけ、もう一方の手で腰を抱き寄せた。妙の桃色の唇を見つめ呟く。
「そんな顔するからつけ上がるんです……」
左手を握っていた右手を放し、その手で妙の左頬に掛っていた髪を梳く。妙は瞬きも忘れ、ゆっくり瞼を閉じる近藤の顔を間近で見つめていたが、唇の先が自分のそれに掠めそうになって我に返った。
「やっ、近藤さんっ……!」
唇は重ならず、胸を強い力で押されて近藤は後ずさった。肩で息をする妙は、速く打つ鼓動を治めようと右手で胸を押さえる。
「何するんですか、やめて下さい。警察に突き出しますよ」
「だってお妙さん、なんか妬いてるみたいだったしィ」
「あらイヤだ、空耳が聞こえたわ。何か憑いてるのかしら、お祓い行った方がいいわね。こういうのって早い方がいいはずだわ、今から行こうかしら」
「んもう、お妙さんテレちゃってカワイイ~」
妙は、頬に両手を当てて体をくねらせる近藤の胸倉を左手で掴み上げた。
「ああん?もっぺん言ってみろゴリラァァ」
「んぐ、ぐるじ、はは、これも照れ隠しなんンンブグぉぉぉぉ!」
左頬に妙の右拳が捻じ込まれ、拳の勢いのまま近藤の体は一度浮いて地に倒れた。妙は乾いた音を立てて両の手の平を祓うと、鼻の先の我が家へと向かった。近藤は体を起こし、妙の後ろ姿を見つめる。
はァ抵抗されて良かった。ダメだってわかってても拒否されないと待った利かねェんだよなァ。お妙さん、カワイイからさ。
近藤は殴られた頬を擦り、ふっと笑った。
「お妙さァん、待って下さァァい!俺もお祓い一緒に行きますゥゥゥ!」
「ついてこないで下さい!ゴリラの霊を祓いに行くのにゴリラがついてきたら意味ないじゃないですか!」
誤解
Text by mimiko.
2010/02/23