2012年WJ29~33(恒道館道場復興話)既読前提ネタバレ満載。
勲視点、近→妙。ハートブレイク勲がいます。
原作台詞そのままだったり端折ったり妄想したりしてます。
ミツバ回からも台詞拾って端折ったりも。
勲視点、近→妙。ハートブレイク勲がいます。
原作台詞そのままだったり端折ったり妄想したりしてます。
ミツバ回からも台詞拾って端折ったりも。
ゴリラアニキの矜恃
昨日は仕事中、恒道館道場で門下生を募集しているという張り紙を見かけた。真選組が贔屓にしている情報屋に聞いたところによると、長いコートを纏った男がお妙さんにつきまとっているという。
この近藤勲を差し置いてお妙さんをストーキングするなんざ、一体どういう了見だと息巻いて噂の天堂無心ビームサーベ流が門下生勧誘活動している河原へ向かっていたら、九兵衛くんとばったり出会った。何も言葉は交わさなかったが、交わさずとも腹に抱えたことは互いに知れていた。
ビーチグソマ流だのビーチサンダ流だのとけなしてやったが、ビームサーベ流は人間業ではなかった。銀河剣聖(ギャラクシーソードマスター)尾美一。半分人間ではないお妙さんの初恋の男はマジ半端なかった。
しかし、驚異的な力とは裏腹にその身体は俺の肛門括約筋並みにデリケートだった。体内に取り入れる物と言ったら焼酎ガソリン割りのみ。お妙さんの手料理は異物扱い。いや、ま、地球上のみならず宇宙上でも存在しない暗黒物質……いや、残念な卵焼きだったりだけど。
機械に生かされている尾美一(おびワン)塾頭は、いつ身体機能停止……つまりいつ死んじまってもおかしくない。家族同然に思っているはずの新八君やお妙さんを悲しませるような結果になることは目に見えていたはずだ。
野郎はなんのために戻ってきた?障子の向こうで気を失って処置を受けている野郎は、本当にお妙さんの初恋の男なのかと疑問を抱いた。
けれど、お妙さんは信じていた。
―いいか、ふたりとも。涙っつーのはな、流せば辛い気持ちや悲しい気持ちも一緒に洗い流してくれる便利な代物だ。だが、いつかふたりも大人になったらしる。人生には涙なんかじゃ流せん大きな悲しみがあることを。涙なんかじゃ流しちゃいかん大切な痛みがあることを。だから、本当に強い人間ってのは泣きたい時程笑うのさ。痛みも悲しみも全部抱えて、それでも笑って奴らと一緒に歩いていくのさ。今は泣きたい時に泣けばいい。でもいつかふたりも、そんな強い侍になれ―
どんな形であろうと、もう一度あの笑顔を見ることができた、それだけで充分じゃないの。
障子の向こうのお妙さんは、きっと笑顔で新八君を諭していただろう。俺が初めてお妙さんと出会って、ケツ毛まで愛してくれたあの笑顔と同じ笑顔で。淨も不浄も包み込むその笑顔は、俺に向けられたものじゃなかった。俺が惚れたのは、俺の向こうにいた尾美一塾頭へ向けられていた笑顔だった。
相手が、死んだ魚の目ェした万年金欠ちゃらんぽらん白髪侍なら、腕の立つ名門剣士でも子供をなせないのなら、俺にも僅かな勝機があると思っていた。とはいえ、新八君じゃないが、お妙さんが心底惚れた奴なら、別に銀時でも九兵衛くんでも良かった。けどまあ、40巻まで来て0巻的なとこでアンタみたいなのいたの?!な野郎にお妙さんを持っていかれるとはケツ毛ほどにも思ってなかったのが正直なところだ。なんにせよ、終わった。江戸っ子ロボッ子の登場で、俺の恋もストーカー生活も何もかもが終わった。
もう去るしかないと、踏み出したのは俺だけじゃなかった。お妙さんと長いつき合いだった九兵衛くんも一緒だった。何も言葉は交わさなかったが、交わさずとも腹に抱えたことは互いに知れていた。
九兵衛くんと別れてから、江戸の街に出た。お妙さんと一緒に花見した公園。お妙さんと一緒に買い物したスーパー。お妙さんと一緒に買い物した八百屋。お妙さんと一緒に石鹸カタカタ鳴らした銭湯。お妙さんとの思い出がいっぱいのスナックすまいる。
思い出の場所の前を通る度に痛感する。お妙さんのことが好きで堪らなかったと。まだ諦めたくないと。
夜通し歩き回って屯所に戻った。棒のように硬くなって張った足を曲げて布団を被った。目から水分流しきって砂漠化した眼球は瞼を下ろすことを阻むように、ただ一点を見つめたままじっとしている。
疲労困憊?何ソレ。ちっとも眠たくないんだけど。下手したら地球終わるかもしんねーぞ?トシ何言ってんの。てか別にいいんじゃないの。
大失恋と寝不足、疲労で思考が働かない俺にトシは毘夷夢星(びいむせい)やら何やらを説明し出し、総悟はテレビをつけた。
す、宇宙大戦争(スターウォーズ)って、俺が大失恋で打ちのめされてる間になんかえれェことになってるじゃねーか。火種屋……銀河剣聖……秘密兵器・時限起動型星間波動ビーム砲……ビームを……出しそうな奴?それって……。
そして隊士たちが、いざ出動しようとした時、あの不逞野郎の声がした。腰にはいつもの洞爺湖木刀。手には見慣れない得物を持っている。
オビワン塾頭は俺が生きたまんまとっつかまえる。だから、それまで手ェ出さずに待っててくれねーか。と、奴は言った。
そうはいかねェ、そこを退け、でないと叩き切るぞと、屯所出入り口に立ち塞がる銀時にトシが言うと、野郎は両膝を地面につかせた。
頼む、俺が必ずとっつかまえる。だからどうか、それまで手ェ出さずに待っててくれねーか。
中身なんてこれっぽっちもない軽い空っぽの頭を見事に地べたにこすりつけやがった。決して他人に頭を下げねェ野郎が見事に他人に物頼む姿勢でいやがる。
俺は空っぽの頭の前で声を上げて笑った。
「我らが尾美一塾頭の目ェ覚ましてやれ。奴らのほうは任せておけ。宇宙大戦争なんぞ起こさせはせん。ビームサーベ流が門下近藤勲に二言はない」
顔を上げた時の奴のマヌケ面は堪らなかった。お陰で笑いが止まらなかった。
「九兵衛くんとともにビームサーベ流の名を轟かせてみせる。そして天下、いや、宇宙を取ろう、坂田塾頭」
不敵に笑った奴を見て思った。俺たちは同じなんだと。銀時も、尾美一塾頭も、俺も。大切に想う仲間がいて、護りたい弟分がいて、同じアニキ分なんだと。
そして尾美一塾頭が半分ロボッ子になってまで新八君たちの元に帰ってきた理由がわかった。アンタ、新八君たちに殴ってもらいにきたんだな。俺も半分ロボッ子なんぞになっちまったら、トシや総悟に殴られに行くだろうよ。その気持ち、よーくわかるぜ。
誰かがねじ曲がれば、他の奴がぶん殴ってまっすぐに戻す。だから永遠に曲がらねェ。ずっとまっすぐ生きていける。トシと総悟、俺ァ悪友を人生でふたりも得たと思っていたが、どうやら違ったらしい。てめェを入れて3人だったな、銀時。俺たちゃ幸せもんだぜ、なァ尾美一塾頭。新八君とお妙さんに野郎。アンタも悪友を人生で3人も得たんだ。半分ロボッ子人生も捨てたもんじゃねェだろうが、半分江戸っ子は決して捨ててくれるなよ。悪友3人にきっちり殴られて帰ってこい、尾美一塾頭。
この近藤勲を差し置いてお妙さんをストーキングするなんざ、一体どういう了見だと息巻いて噂の天堂無心ビームサーベ流が門下生勧誘活動している河原へ向かっていたら、九兵衛くんとばったり出会った。何も言葉は交わさなかったが、交わさずとも腹に抱えたことは互いに知れていた。
ビーチグソマ流だのビーチサンダ流だのとけなしてやったが、ビームサーベ流は人間業ではなかった。銀河剣聖(ギャラクシーソードマスター)尾美一。半分人間ではないお妙さんの初恋の男はマジ半端なかった。
しかし、驚異的な力とは裏腹にその身体は俺の肛門括約筋並みにデリケートだった。体内に取り入れる物と言ったら焼酎ガソリン割りのみ。お妙さんの手料理は異物扱い。いや、ま、地球上のみならず宇宙上でも存在しない暗黒物質……いや、残念な卵焼きだったりだけど。
機械に生かされている尾美一(おびワン)塾頭は、いつ身体機能停止……つまりいつ死んじまってもおかしくない。家族同然に思っているはずの新八君やお妙さんを悲しませるような結果になることは目に見えていたはずだ。
野郎はなんのために戻ってきた?障子の向こうで気を失って処置を受けている野郎は、本当にお妙さんの初恋の男なのかと疑問を抱いた。
けれど、お妙さんは信じていた。
―いいか、ふたりとも。涙っつーのはな、流せば辛い気持ちや悲しい気持ちも一緒に洗い流してくれる便利な代物だ。だが、いつかふたりも大人になったらしる。人生には涙なんかじゃ流せん大きな悲しみがあることを。涙なんかじゃ流しちゃいかん大切な痛みがあることを。だから、本当に強い人間ってのは泣きたい時程笑うのさ。痛みも悲しみも全部抱えて、それでも笑って奴らと一緒に歩いていくのさ。今は泣きたい時に泣けばいい。でもいつかふたりも、そんな強い侍になれ―
どんな形であろうと、もう一度あの笑顔を見ることができた、それだけで充分じゃないの。
障子の向こうのお妙さんは、きっと笑顔で新八君を諭していただろう。俺が初めてお妙さんと出会って、ケツ毛まで愛してくれたあの笑顔と同じ笑顔で。淨も不浄も包み込むその笑顔は、俺に向けられたものじゃなかった。俺が惚れたのは、俺の向こうにいた尾美一塾頭へ向けられていた笑顔だった。
相手が、死んだ魚の目ェした万年金欠ちゃらんぽらん白髪侍なら、腕の立つ名門剣士でも子供をなせないのなら、俺にも僅かな勝機があると思っていた。とはいえ、新八君じゃないが、お妙さんが心底惚れた奴なら、別に銀時でも九兵衛くんでも良かった。けどまあ、40巻まで来て0巻的なとこでアンタみたいなのいたの?!な野郎にお妙さんを持っていかれるとはケツ毛ほどにも思ってなかったのが正直なところだ。なんにせよ、終わった。江戸っ子ロボッ子の登場で、俺の恋もストーカー生活も何もかもが終わった。
もう去るしかないと、踏み出したのは俺だけじゃなかった。お妙さんと長いつき合いだった九兵衛くんも一緒だった。何も言葉は交わさなかったが、交わさずとも腹に抱えたことは互いに知れていた。
九兵衛くんと別れてから、江戸の街に出た。お妙さんと一緒に花見した公園。お妙さんと一緒に買い物したスーパー。お妙さんと一緒に買い物した八百屋。お妙さんと一緒に石鹸カタカタ鳴らした銭湯。お妙さんとの思い出がいっぱいのスナックすまいる。
思い出の場所の前を通る度に痛感する。お妙さんのことが好きで堪らなかったと。まだ諦めたくないと。
夜通し歩き回って屯所に戻った。棒のように硬くなって張った足を曲げて布団を被った。目から水分流しきって砂漠化した眼球は瞼を下ろすことを阻むように、ただ一点を見つめたままじっとしている。
疲労困憊?何ソレ。ちっとも眠たくないんだけど。下手したら地球終わるかもしんねーぞ?トシ何言ってんの。てか別にいいんじゃないの。
大失恋と寝不足、疲労で思考が働かない俺にトシは毘夷夢星(びいむせい)やら何やらを説明し出し、総悟はテレビをつけた。
す、宇宙大戦争(スターウォーズ)って、俺が大失恋で打ちのめされてる間になんかえれェことになってるじゃねーか。火種屋……銀河剣聖……秘密兵器・時限起動型星間波動ビーム砲……ビームを……出しそうな奴?それって……。
そして隊士たちが、いざ出動しようとした時、あの不逞野郎の声がした。腰にはいつもの洞爺湖木刀。手には見慣れない得物を持っている。
オビワン塾頭は俺が生きたまんまとっつかまえる。だから、それまで手ェ出さずに待っててくれねーか。と、奴は言った。
そうはいかねェ、そこを退け、でないと叩き切るぞと、屯所出入り口に立ち塞がる銀時にトシが言うと、野郎は両膝を地面につかせた。
頼む、俺が必ずとっつかまえる。だからどうか、それまで手ェ出さずに待っててくれねーか。
中身なんてこれっぽっちもない軽い空っぽの頭を見事に地べたにこすりつけやがった。決して他人に頭を下げねェ野郎が見事に他人に物頼む姿勢でいやがる。
俺は空っぽの頭の前で声を上げて笑った。
「我らが尾美一塾頭の目ェ覚ましてやれ。奴らのほうは任せておけ。宇宙大戦争なんぞ起こさせはせん。ビームサーベ流が門下近藤勲に二言はない」
顔を上げた時の奴のマヌケ面は堪らなかった。お陰で笑いが止まらなかった。
「九兵衛くんとともにビームサーベ流の名を轟かせてみせる。そして天下、いや、宇宙を取ろう、坂田塾頭」
不敵に笑った奴を見て思った。俺たちは同じなんだと。銀時も、尾美一塾頭も、俺も。大切に想う仲間がいて、護りたい弟分がいて、同じアニキ分なんだと。
そして尾美一塾頭が半分ロボッ子になってまで新八君たちの元に帰ってきた理由がわかった。アンタ、新八君たちに殴ってもらいにきたんだな。俺も半分ロボッ子なんぞになっちまったら、トシや総悟に殴られに行くだろうよ。その気持ち、よーくわかるぜ。
誰かがねじ曲がれば、他の奴がぶん殴ってまっすぐに戻す。だから永遠に曲がらねェ。ずっとまっすぐ生きていける。トシと総悟、俺ァ悪友を人生でふたりも得たと思っていたが、どうやら違ったらしい。てめェを入れて3人だったな、銀時。俺たちゃ幸せもんだぜ、なァ尾美一塾頭。新八君とお妙さんに野郎。アンタも悪友を人生で3人も得たんだ。半分ロボッ子人生も捨てたもんじゃねェだろうが、半分江戸っ子は決して捨ててくれるなよ。悪友3人にきっちり殴られて帰ってこい、尾美一塾頭。
ゴリラアニキの矜恃
Text by mimiko.
2012/07/20