2巻第八訓(ケツ毛ごと愛します)、3巻第十七訓(花見)、55巻第四百九十四、四百九十五訓(愛染香)前提の近←妙です。
花より卵焼き
ケツ毛がボーボーに生えていることを気にしていたお客さんを励まそうと返事した。
勤め先のキャバクラにやって来る人なんて大抵、コンプレックスがあってそれをキャバ嬢にそんなことないよ、素敵ですよ、と言って欲しい人だったり、財力や武勇を誇示してキャバ嬢にすごいですね、素敵ですね、と言って欲しい人がやってくる。前者だった近藤勲という人は、廃刀令がしかれているこの国で帯刀の許された侍にもかかわらず、気弱な印象だった。
太い眉毛に切れ長の一重、整えられた顎髭を蓄えて肉つきのよい長身、男らしい人なのに勿体ない。私が男ならその精悍な顔で私のような美人の娘でも娶るのに。
そう思いながらの返事だった。ケツ毛ごと愛すと。
近藤さんは瞬く間に元気になって結婚を申し込んできた。
本当に素敵な人だと思った。男に生まれたらそうなりたいと思うような、絵に描いたような理想の侍だと思った。だけど、出会ったその日に結婚を申し込んでくるなんて信用ならなかった。幕臣だとわかっていたから尚更かもしれない。だって、私、お妾さんになるつもりはないもの。幕臣に玉の輿で正妻になりたいもの。そして開店休業中の道場を立て直したいもの。
お妙さん、結婚してくれ。一度や二度、振られたくらいじゃ倒れない。女は愛するよりも愛されるほうが幸せなんだ。
なんて言ってたくせに、どこへ行っても潜んでいたくせに、異常なほどの愛情を向けられていると思っていたのに、いざとなればケツ毛の濃さを悩む近藤勲(ゴリラ)はどこへやら。数日間、ちっとも姿を見せなかった。あの異常なまでのつきまといはなんだったの。肩透かしを食らわされた気分よ。いい大人の男が虜になるほど私っていい女だったのね気分を味わえていたのに。
おてがら真選組。攘夷浪士大量検挙。幕府要人犯罪シンジゲートとの癒着に衝撃。
新聞の記事でケツ毛に悩む近藤勲(ゴリラ)の不在の理由を知る羽目になるなんて。ちゃんと警察してたのね。数日前までストーカーしてたのに。
またストーカーしてるのね、数日前まで警察してたのに。
買い物帰りに物陰から私のことを窺ってる近藤さんの姿を見かけてなんだか嬉しくなってしまった。だって、あの人やっぱり私のこと好きなんだもの。しつこくつきまとうあの人の顔を見る度ムカムカしてたけど、私の後ろからあの人がいなくなって気づいてしまった。
だけど、ダメよ。今更どの面さげてやっぱり結婚お願いします、なんて言える? 言えないわよ。断るために万事屋に依頼して、あまつさえ銀さんと春に結婚するって言っちゃったわよ。もう、あんなこともこんなこともしちゃってるって、だから私のことは諦めてって。
ホント余計な嘘なんてつかなきゃよかったわ。やっぱり近藤さんにしますゥ♡ とか言えない。言えるわけないわよ。これじゃ私、とんだアバズレじゃない。近藤さん、そんなことまでしちゃってるって誤解してるし。正真正銘の生娘なのに。
はァ。こうなったら意地でも私の意地を突き通さなきゃ。銀さんと結婚前提の交際をしていたけれど突如現れたストーカーに交際をメチャクチャにされて破談した体で、いつしか近藤さんの愚直さに惹かれてしまいました、みたいな感じで行くのよ。だって、ストーカーするほど私のこと好きなのって、心が真っ直ぐすぎるからよね。それに、私を賭けた決闘前の近藤さん、落ち着いててちょっとかっこよかったし、ああいう人が旦那様ってちょっといいじゃない。ちょっとかっこいいじゃない。
ヤダ、どうしよう。顔熱くなってきちゃった。って、なんで卵焼き焼きながら照れてるの私。今日は新ちゃんとふたりでお花見なのよ。近藤さんなんて関係ないじゃない。近藤さんなんてどうせ、私の後つきまとってるだけなのよ。あわよくば一緒にお花見しちゃったりなんかして、私が焼いた卵焼き美味しいですねって言って桜の花も綺麗だがお妙さんのほうが綺麗です、とか言ってくれたりなんかして。
って、ダメダメっ! 変に期待しちゃダメよ。新ちゃんと姉弟水入らずのお花見なんだから。そうよ、まずは新ちゃんを優先するんだから。あの子が立派な侍になれる日まで結婚しないって決めてるんだから。近藤さん、つきまとってくれてるかもしれないなんて浮かれてちゃダメよ。
勤め先のキャバクラにやって来る人なんて大抵、コンプレックスがあってそれをキャバ嬢にそんなことないよ、素敵ですよ、と言って欲しい人だったり、財力や武勇を誇示してキャバ嬢にすごいですね、素敵ですね、と言って欲しい人がやってくる。前者だった近藤勲という人は、廃刀令がしかれているこの国で帯刀の許された侍にもかかわらず、気弱な印象だった。
太い眉毛に切れ長の一重、整えられた顎髭を蓄えて肉つきのよい長身、男らしい人なのに勿体ない。私が男ならその精悍な顔で私のような美人の娘でも娶るのに。
そう思いながらの返事だった。ケツ毛ごと愛すと。
近藤さんは瞬く間に元気になって結婚を申し込んできた。
本当に素敵な人だと思った。男に生まれたらそうなりたいと思うような、絵に描いたような理想の侍だと思った。だけど、出会ったその日に結婚を申し込んでくるなんて信用ならなかった。幕臣だとわかっていたから尚更かもしれない。だって、私、お妾さんになるつもりはないもの。幕臣に玉の輿で正妻になりたいもの。そして開店休業中の道場を立て直したいもの。
お妙さん、結婚してくれ。一度や二度、振られたくらいじゃ倒れない。女は愛するよりも愛されるほうが幸せなんだ。
なんて言ってたくせに、どこへ行っても潜んでいたくせに、異常なほどの愛情を向けられていると思っていたのに、いざとなればケツ毛の濃さを悩む近藤勲(ゴリラ)はどこへやら。数日間、ちっとも姿を見せなかった。あの異常なまでのつきまといはなんだったの。肩透かしを食らわされた気分よ。いい大人の男が虜になるほど私っていい女だったのね気分を味わえていたのに。
おてがら真選組。攘夷浪士大量検挙。幕府要人犯罪シンジゲートとの癒着に衝撃。
新聞の記事でケツ毛に悩む近藤勲(ゴリラ)の不在の理由を知る羽目になるなんて。ちゃんと警察してたのね。数日前までストーカーしてたのに。
またストーカーしてるのね、数日前まで警察してたのに。
買い物帰りに物陰から私のことを窺ってる近藤さんの姿を見かけてなんだか嬉しくなってしまった。だって、あの人やっぱり私のこと好きなんだもの。しつこくつきまとうあの人の顔を見る度ムカムカしてたけど、私の後ろからあの人がいなくなって気づいてしまった。
だけど、ダメよ。今更どの面さげてやっぱり結婚お願いします、なんて言える? 言えないわよ。断るために万事屋に依頼して、あまつさえ銀さんと春に結婚するって言っちゃったわよ。もう、あんなこともこんなこともしちゃってるって、だから私のことは諦めてって。
ホント余計な嘘なんてつかなきゃよかったわ。やっぱり近藤さんにしますゥ♡ とか言えない。言えるわけないわよ。これじゃ私、とんだアバズレじゃない。近藤さん、そんなことまでしちゃってるって誤解してるし。正真正銘の生娘なのに。
はァ。こうなったら意地でも私の意地を突き通さなきゃ。銀さんと結婚前提の交際をしていたけれど突如現れたストーカーに交際をメチャクチャにされて破談した体で、いつしか近藤さんの愚直さに惹かれてしまいました、みたいな感じで行くのよ。だって、ストーカーするほど私のこと好きなのって、心が真っ直ぐすぎるからよね。それに、私を賭けた決闘前の近藤さん、落ち着いててちょっとかっこよかったし、ああいう人が旦那様ってちょっといいじゃない。ちょっとかっこいいじゃない。
ヤダ、どうしよう。顔熱くなってきちゃった。って、なんで卵焼き焼きながら照れてるの私。今日は新ちゃんとふたりでお花見なのよ。近藤さんなんて関係ないじゃない。近藤さんなんてどうせ、私の後つきまとってるだけなのよ。あわよくば一緒にお花見しちゃったりなんかして、私が焼いた卵焼き美味しいですねって言って桜の花も綺麗だがお妙さんのほうが綺麗です、とか言ってくれたりなんかして。
って、ダメダメっ! 変に期待しちゃダメよ。新ちゃんと姉弟水入らずのお花見なんだから。そうよ、まずは新ちゃんを優先するんだから。あの子が立派な侍になれる日まで結婚しないって決めてるんだから。近藤さん、つきまとってくれてるかもしれないなんて浮かれてちゃダメよ。
花より卵焼き
Text by mimiko.
2017/10/18