屯所の昼休み。

昼休みの男子たち

 昼食を済ませた沖田は湯飲みを二つ手にし、局長室へと向かう。本日は晴天で襖は全開されており、近藤は縁側に腰掛け愛刀、虎鉄Z-IIの手入れをしていた。
「ねェ、近藤さん」
 近藤の横へ腰掛け、湯飲みを近藤の傍に置く。
「お、すまんな総悟。なんだ?」
 茶を啜り庭でバドミントンのラケットを素振りする山崎を眺める。
「今更聞くことでもねェけど、近藤さんはなんでヤスリでケツ拭いちまうくらい姐さんのことそんなに好きなんですかィ」
 近藤は目を丸くして沖田を見やった。
「柳生の一件では姐さん、近藤さんに一言も言わずに行っちまったんですよね?土方さんは間違いなく惚れてるって言ってたけど、俺にはよくわかりませんでさァ」
 猩猩星の第三王女との見合い後、気に入られた近藤はバブルス王女と結婚することになり、先日、結婚披露宴が行われた。が、妙が乱入し、披露宴はぶち壊された。土方の手引きがあったとしてもあの場に妙が現れたということは近藤の想いに応えるのだろうと思っていた。しかし現在も以前と変わらず近藤は妙に全身全霊をもって邪険にされている。
 近藤は眺めていた刀を下ろし、湯飲みを両手で包む。偶然にも直立していた茶柱を見て薄く笑った。
「なんでだろうなァ、俺にもわからねェよ」
 茶を啜り、庭でひたすら素振りをしている山崎を見つめた。
「諦めようとは思わねェんですかィ」
「諦められるもんならとっくに諦めてるよ」
 腑に落ちない沖田は小さく唸り、近藤は笑った。
「やっぱわかんねェ。近藤さんの諦めない理由って何かあるんですかィ」
「そうだなァ」
 近藤は湯飲みの中でまだ直立している茶柱を眺めた。
「昨日今日ぶちのめしても、お妙さんは明日も明後日も何度でもぶちのめすんだよ」
「はァ?」
 沖田は近藤を不思議そうな顔で見る。沖田の反応に近藤は声を上げて笑った。
「どーした近藤さん」
 昼一番の市内巡回を終えた土方が火の点いていない煙草を咥えながらやって来た。
「いやさァ、総悟がお妙さんのことなんで諦めないの?って訊いてくるからさ、お妙さんは今日ぶちのめしても 明日も俺のことぶちのめすからって答えてたとこなの」
 土方は笑顔の近藤をまじまじと見た。
 アンタわかってたのか?―と訊いてしまいたくなったが思い止まり、いつものマヨネーズを模ったライターで 煙草の火を点けると鼻で笑った。
「そういうこった」
と、沖田を見る。
「何ソレ全然わかんないー」
 駄々を捏ねるような口調の沖田に土方は嘲笑う。
「お子様にはわかんねーかもな」
 土方の態度に沖田は、むっとし目を細めた。土方は煙草を吹かしながら庭を見ると素振りをする山崎に気づき、怒鳴る。
「こォらァァァ!山崎ィィィ!てめェ勤務時間中にミントンで遊んでんじゃねェェェェ!!」
と、山崎の背中に飛び蹴った。その衝撃に山崎はラケットを投げ飛ばし、地面へと倒れる。
「ぐおェェェ!ちょっ、土方さん、遊んでないです!真面目に素振りしてるんですって」
 山崎は体を起こそうとするが土方に背中を踏まれたままで身動きが取れず、顔だけを土方に向けた。
「何が真面目に素振りだコノヤロー!そんな暇あんなら再提出の報告書出しやがれ!」
「ちゃんと書いたじゃないですか」
「バカヤロー!あれじゃ小学生の作文なんだよ!さっさと書き直せ!」
 背中を更に踏みつけられ山崎は突っ伏した。
「うぐゥゥ!ちょ、土方さんやめてっ、踏んだら書き直せないからやめて下さいィィ!」
 眺めていた沖田は溜息をついた。
「あーあ。近藤さん止めに行かねーんですかィ」
「ははは、元気があっていーじゃねェか」
 近藤は笑い、沖田は、はたと瞬きを繰り返した。
 あれ?なんの話してたっけ?
「まいっか」
 沖田は呟くと残りの茶を飲み干し、立ち上がる。
「あ、そう言えば今日はまだ屯所にいるんですねィ。姐さんの所には行かねーんですかィ」
「うん、行くよ?総悟の淹れてくれた茶、美味いからこれ飲んだらね」
「そいつは良かった。抜ける時は土方引きつけときまさァ」
 沖田はご機嫌で愛刀、菊一文字RX-7のイヤホンを装着した。行こうとすると近藤に声を掛けられ、立ち止まる。
「総悟、ありがとな」
「何がですかィ」
 近藤は片眉を上げてふっと笑う。
「トシのことうまくまるめこんどいて」
「りょーかい」
 沖田は口元だけで笑った。
昼休みの男子たち
Text by mimiko.
2009/11/05

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