若干S勲だったりイボ妙だったりそうじゃなかったりの近妙近。
ちょっと強引に妙処女奪っちゃってます。でもぬるいんで言うほどSではないです。
強引勲ダメ!近藤さんは絶対最初から最後まで優しくないと!という方は回れ右でお願いします。
ちょっと強引に妙処女奪っちゃってます。でもぬるいんで言うほどSではないです。
強引勲ダメ!近藤さんは絶対最初から最後まで優しくないと!という方は回れ右でお願いします。
一発大逆転
今日は買い物の最中にあの男を見なかった。だが、あの角を曲がればあの男がいつものようにいるだろう。買い物から帰宅した妙は廊下に出た。
この間、近藤と野球観戦をする約束をした。所謂、デートだ。押して駄目なら引いてみろ――今まで幾度となく交際の申し出を断っている。始めのうちは、やんわりと断っていたが、あまりの聞き分けのなさに、これまた幾度となく苛立ち、頭に血をのぼらせたことか。今となっては挨拶代わりとなっている鉄拳制裁はまったくの意味を持っていないのではないか。ならば一度引いてみるのもいいだろう。そして改めて断ろう。いくら聞かん坊の近藤でも今度こそ諦めてくれるかもしれない。そう思って近藤の申し出を受けてみた。その約束の日は、稀に見る悪天候。時間には遅れてくるし、通常ではありえないものが空から降って来るわ、被害を受けるわ、ひとつも面白くなく、とても楽しくないデートとなった。それにもかかわらず何事もなかったように近藤は、その後も店に現れていたらしい。というのも妙の休みや近藤の仕事の都合ですれ違いが重なり、あの日から二週間が経とうとする今日まで顔を合わすことなく過ごしていた。
本当に店には二度と来ないでくれ、自宅にも来ないでくれ、など言いたいことは山ほどある。あれほど毎日姿をみせていたのに、こうも見事なくらいすれ違っているのなら、このまま一生すれ違いのままでも構わないし、むしろ、その方が清々するというものだ。だが、あの角を曲がれば近藤はいる。妙は確信を持ち、廊下の角を曲がった。
「はァァ。現実ってキビしーなァ」
近藤は人知れず庭から侵入した縁側に腰掛け、肩を落として項垂れていた。
やっぱりいるじゃない、このゴリラ。
「グチりに来ただけなら帰って下さい」
背後から妙の声がした。
「グチっていうか、うまくいかない現実に嘆いてただけです」
振り返ることもなく返され、妙は、むっとした。いつもなら表情をだらしなく緩めて寄ってくるはずなのにそのようなこともなく、声もいやに低い。
「それをグチって言うんじゃないですか」
妙の声には少々、苛立ちがこもっており、それは近藤にも移った。
「ならば訊くが、お妙さん、なんで俺とデートする気になりました?」
どきりとした妙は、自分の方を一向に向かない近藤の背中をじっと見つめたまま体を強張らせた。
自分でも何故了承したのかわからない。答えを出せと言われるのなら、気紛れだったとしか答えられない。が、いつもの様子と違う近藤にそれを言った後のことが想像出来ず、妙は押し黙ったまま、ただ近藤の背中を見ていた。
「俺がどうやってもお妙さんを諦められないのは、わかってると思ってた。なのになんで約束して、あんな悪天候の中でも待ち合わせ場所に行ったんですか?おちょくりたかっただけなら大変な目ェしてまで出かけることはなかった。それに、隕石にも当たることはなかった」
「隕石はあなたに当てられたんですけど」
妙は、ただ揚げ足を取っただけのつもりだったが、近藤は振り返って何も言わずに妙の顔を見上げた。視線が合い妙はぎくりとした。真顔だ。怒っていると感じ、言葉を失くす。が、このまま黙っていては、いつもと違う近藤の雰囲気に呑まれてしまう。妙は体に感じた震えを気のせいだと言い聞かせ、口を開いた。
「き、気まぐれです……」
しまった、声が上擦った。これでは怯えていると知らせているようなものだ。だが、それ以上、体を動かすことも言葉を発することも出来ず、縁側に突っ立ったままでいた。
近藤は閉じていた目を開き、靴を脱いで縁側へ上がった。突っ立ったままの妙の手を掴んで腰を抱き寄せる。顔が近づき、妙の瞳が戸惑いで揺れた。
「男とデートするってことは、こういうことです。たとえ相手がストーカーであれ、ゴリラであれ、俺であってもだ」
更に顔が寄せられ、妙の手に力が入る。それを物ともせずに抑えられ、唇が重なった。
「んっ!」
妙の眉間に皺が寄る。呼吸がままならず苦しくなる。近藤の胸でも叩いて今すぐ離れたいのに強い力に阻まれた。無遠慮に舌を絡め取られ、どうすることも出来ない。悟った妙は込めていた力を抜いて悔しさで涙を滲ませた。唇を離され、妙は息も絶え絶えに言う。
「……ごめ、んなさい……」
その頼りなさに、近藤は下唇を噛んで眉根を寄せた。小さな煙を上げるように胸が焼ける。
「違うでしょう、お妙さん。そこは謝るところじゃない、俺を殴って蹴り飛ばすところだ」
苦しそうなその表情の近藤に、妙も自分がよくわからなくなり、返事をする代わりに涙を零した。
「わからないのなら俺がしたいことをします。それからどうしたいか考えて下さい」
自分の肩を抱いて部屋の障子を開ける近藤を見上げる。
「え、何を……」
もしやと、妙の思考が止まる。
「俺、前からよく言ってますよね。お妙さんと手を繋ぎたい、腕を組みたい、抱き締めたい、キスしたい、結ばれたい……全部本気だ。ひとつも冗談はねェ」
障子が締められ、妙の帯紐に近藤の手がかかる。
「俺はお妙さんに惚れてて、結婚したいと思ってる。もちろん子供も欲しい。たとえ気まぐれであれ、お妙さんはそんなことを思ってる男に気を許して隙を見せた」
帯紐が解かれ、それは畳に落ちた。
「その気がないなら、とことん相手にしなけりゃいい。だが、お妙さんは毎回俺を殴る」
襦袢に手を掛けられて、はっとした妙は襟元を押さえた。近藤は気にもせずに着物とともに脱がす。畳に落ち、妙は反射的に自分の両腕を抱いた。小振りの胸が寄り、近藤は口の片端を上げた。妙の耳元に顔を寄せて囁く。
「どういうつもりで殴ってるんです?俺が鬱陶しいなら殴りもせず無視すればいいのに」
掛かった近藤の吐息と低い声が耳に響く。妙は首を竦ませながら言った。
「無視しても、きっと効果ないわ……」
近藤は自嘲気味に笑った。
「さすがお妙さんだ、俺のことよくわかってますね」
耳に舌が差し込まれ、背中をぞくりとしたものが駆ける。
「い、や……」
「こういうことはしたくなかったんだが、お妙さんがそんな調子なら話は別だ」
と、妙の両腕を掴んで体から引き離す。白い首に口づけ、肌を吸う。
「ん、やめて、あ、やっ」
力なく両肩を押される。いつもより高い声が耳に残り、もっと触れたらどう鳴くのだろうと考える。
「やめませんよ、今のお妙さんは男に抱かれようとしてるただの娘だ」
掴んでいた手を離して下着の上から柔らかい膨らみを覆う。
「男は惚れた女にきっちり操を立てていて女には飢えてる。とても美味そうなご馳走を前にしたらがっつかずにはいられないでしょう?」
下着の際に口づけ、赤い跡を残す。
「イヤです、やめて下さい……」
細い肩が震えており近藤は申し訳なさそうにしながらも妙の背中に手を回した。下着のホックを外し、妙は胸を抱いて下着が取り除かれそうになったのを阻止する。再び首に口づけられ、後ろへ反らせた背を抱き寄せられる。
「近藤さん、やめっ、ん」
きつく吸われた先程のものとは打って変わり、今度はやんわりと吸われ、抱いていた胸の力が緩まる。つかさず腕を下され下着を取り除かれてしまった。再び腕で隠そうとしたが近藤に掴まれており、ならなかった。
「さっきも言ったがやめませんよ」
近藤は妙の胸を見つめて眩しそうに目を細めた。
そんな、このままされてしまうなんてイヤよ!それに、近藤さんはこんなことする人じゃないでしょう?
滲んだ涙が瞳に溜まる。ぼやけた視界には自分の小さな胸を近藤がじっと見ている。怖くて恥ずかしくて堪らない。こんなことは今すぐ止めたいのにそれが出来ない。
こんなの絶対イヤ!信じない、悪い夢でも見てるんだわ、現実じゃない、信じない!
妙は固く瞼を閉じた。
「きれいだ」
静かに言われてどきりとした。思わず顔を上げ、その拍子に頬に涙が伝う。
そんなふうに言わないで、無理矢理こんなことしてるくせに、私の知ってる近藤さんじゃないのに、いつもの近藤さんみたいなこと言わないで……!
「すごくきれいで、胸もかわいいです」
見られていることを意識し、頬を瞬く間に赤くする。
「見ないでっ」
近藤の視線から逃れようと身を捩ったが、やはりならなかった。
「白くてとてもきれいな肌だ。乳首もきれいな色ですぐにでも吸いつきたくなる……」
胸の頂に軽く口づけられ、肩を揺らした。胸元、鎖骨、首を行ったり来たりと優しい口づけを落とされ、腕に込めていた力も完全に抜ける。そのうち抵抗する声も上がらなくなった。妙の腕を離した近藤は、胸をそっと掴んで頂の周囲を舌先でなぞり、幾度目かで、その先を口に含んだ。
「んっ」
舌で弄ばれ、思いがけずに声が出そうになったのを我慢する。もう一方も同様にされると切なげな声を洩らす。
「んんっ、ふぅ」
近藤が自分の胸に吸いついている。いやらしく舌を動かし、吐息を洩らしながら胸の突起を刺激している。嫌なはずだったが抵抗することを止め、まるで第三者のように現状を見ている。なのに、体は与えられる刺激を受け入れ、それを悦びつつあるのがわかる。このまま近藤に抱かれてしまったら、どうしたいのかわかるというのだろうか。本当にわからない。今、わかるのは、いつもは見せなかったこの一面だけだ。
近藤さん、男の人なんだわ。
両胸を覆っていたうちの一方の手が、下腹部へと下される。どきりとした妙は体を揺らした。一度、下着の上を通り過ぎ、太腿を撫でて下着へと上がる。ぞわりとした感覚に襲われ、下唇を噛む。閉じている足の間を器用に指が這い、一本の指がそこへ差し込まれた。湿り気を帯びていたそこを下着越しで撫でられ、腰が揺れる。不意にその指が下着の隙間から差し込まれ、声を上げた。
「あ、やっ、だめっ」
自分でも触れたことのないところにぬるりとした感覚が這い回る。下腹部が熱くなり、腰が勝手に揺れて息が上がる。
「んっ、はぁ、いや……んんっ」
不意に触れられたところから急速に体が痺れ、強張る。それまで気持ちがいいのかもわからなかったが、そこは気持ちがいいと体が言っている。
「あ、そこ、だめ、やめて、くださいっ」
胸の先が疼きだし、近藤の肩に置いていた手に力を込める。言葉とは裏腹に切なげに近藤を見上げた。近藤は、にこりと笑って口づけ、妙が気持ちよさそうな声を洩らすと唇を離した。妙は名残惜しそうにゆっくりと顔を離す。
やだ……こんなのイヤなのに、近藤さんが優しい……。自分がどうしたいのかわからないのに、もっとして欲しいって思ってる。
うっとりした眼差しで見上げられ、近藤は妙の額に口づけた。休んでいた指が再び動き出し、妙の体が跳ねる。
「やっ、んっ」
切なげな声と共に粘着質な水音が鳴り出す。触れられているところより広がる熱に力を奪われ、妙は近藤に寄りかかり、しがみつく。自在に動く指に意識を持って行かれ、次第に甘い吐息をつき出す。
「はぁ、なんか、くる……変なの、近藤さん、んっ」
「大丈夫、変じゃないですよ」
優しい声とは裏腹に、太い指が無遠慮にそこへ侵入してきた。
「い、やっ、はぁ、指入っ……んんっ」
「やっぱりキツイですね」
「いや、抜いて近藤さん、指抜いて」
「やめないって言ったじゃないですか、それにこの後は指より太いものがここに入るんですよ?よく慣らしておかないと……」
関節が曲げられ、内壁を指の腹で撫でられる。体が強張り、指が動く度に腰が揺れる。与えられる感覚についていけず、刺激から逃れようと咄嗟に拒否する。
「んっ、や、そこイヤ」
近藤は指を引き抜くと腰を落とし、膝立ちすると妙の下着を下して片足を自分の肩に掛けさせた。自分の見られたくないところが近藤の目の前にある。妙は慌てて手を伸ばしたが間に合わず、そこに近藤の顔を埋められてしまった。瞬く間に顔が熱くなる。恥ずかしさでどうにかなりそうだ。現状から逃げ出したいことに変わりはないのに、こんな体勢で逃げられないだの、近藤が離してくれないだのと、自分に言い訳をする。
「ふぁ、あっ、んっ、ああっ」
初めて聞く自分の嬌声を、やはり他人事のように聞いている。
いくら私がキライでも、この人はそんなことをお構いなしに私を好きにすることなんて簡単で……。近藤さんがいけないのよ、生娘にこんないやらしいことをするから……。
近藤の顔が離れ、肩で呼吸をしながら近藤を見下ろす。自分のものなのか近藤の唾液なのかわからない液が、唇から顎の髭へと垂れている。
「指、入ってたの気づきました?」
妙は左右に首を振り、近藤は微笑む。妙を畳へ寝かせて、大きく反り上がったものを取り出した。
「そ、それだけはダメですっ」
妙の足を大きく開き、自分のものを妙へとあてがう。
「ここは、そうでもないですよ?」
溢れ出ている蜜を塗り広げるように滑らせ、ふっと笑った。
「お妙さん、やっぱり俺のこと好きなんじゃないんですか?だってお妙さんは好きでもねェ男にこんなことされて、こんなに涎を垂らすようなはしたない娘じゃないですよね」
小さく、いやらしい水音を鳴らし、近藤が侵入してくる。
「やっ、大きっ、んんっ」
近藤の腰が途中で止まり、妙は瞑っていた瞳を開く。
「お妙さん……」
切なげな表情と掠れた声の近藤に、どきりとする。
「好きです、あなたが好きで堪らない」
近藤は、そう言うと腰を押し進めた。
「っ……!」
声にならない悲鳴が上がる。熱く、痛い。耳に近藤の吐息がかかり、痛みから徐々に現実に戻る。こちらを窺うように近藤の腰が動き、体が揺さぶられる頃には覚え始めようとしている甘い疼きに合わせて嬌声が上がっていた。
「どう、したいか、わかりました、か?」
下から妙を突き上げながら訊ねる。
「ん、そこ、もっとして下さい」
とろんとした瞳にねだられ、近藤はくすりと笑った。
「こう、ですか?」
「あっん、はい、そう、ですぅ」
「て、そうじゃなくて……」
妙は不思議そうに小首を傾げて近藤を見下ろした。
「お妙さんはどうしたいですか?俺とやらしいことするのイヤですか?」
「んっ、ずるい、今そんなことっ、あっんっ、んんっ!」
止まっていた腰を不意に動かされ、一際甘ったるい声を上げて下腹部をきつく収縮させた。
「っあ、くっ、ちょっ今、そんなのしちゃダメですよ、お妙さんんん!」
妙の中で存分に自身を波打たせ、乱れた息を整えると口を開いた。
「お妙さん、急に締めつけたらダメですよ!」
と、眉を吊り上げた。
「ナマなのに子供できたら責任取ってくれるんですか?!」
「……できたら……仕方がないから責任取ります」
「ほ、ホントですかお妙さんんんん?!」
瞳に感激の涙を浮かべて自分の手を取る近藤に圧倒されつつ妙は続けた。
「けど、近藤さんも責任取って下さいね。真選組辞めてうちの道場手伝ってもらいますからね」
「そんなの、もちろんです!!」
***
今日は買い物の最中にあの男を見なかった。だが、あの角を曲がればあの男がいつものようにいるだろう。買い物から帰宅した妙は廊下に出た。
あら?前にもこんなことあったかしら?何かで見たような……夢だったかしら?
妙は思い出そうと首を小さく傾げてみたが心当たりはなく、気のせいだと一息ついて角を曲がった。
***
――運命よ、我は天道など歩むつもりは毛頭ない。我がゆくはこの恋路、そして愛する人々を護らんとするこの侍道だけだァァァ!!サヨナラホームランをくれてやるァァァァ!!――
と、言ったら逆にお妙さんサヨナラされた。
ったく、神様っているならほんとケチだよね。やれストーカーだの、やれゴリラだのと蔑まされ続けたけどさァ俺だってさァひとりの男の子だしィ第三百十三訓も第三十六巻でようやくデートにこぎつけられたことは俄かに信じ難かったけど、これはいよいよヤれるんだとかほんのちょっとアリンコほど思った。
けど、甘かった。お妙さんにとっての俺はストーカーでゴリラでムサくて……金づるだと思われてると思ってた。もうそれでさえ、いよいよどうでもいいって思ったってことだよな。
勲はいつものように人知れず庭から侵入した志村家の縁側に腰掛け、肩を落とした。
「はァァ。現実ってキビしーなァ」
あ、ホントにいるじゃないこのゴリラ。
嬉しくない予感が見事的中し、妙はやれやれと溜息をついた。
「グチりに来ただけなら帰って下さい」
背後から妙の声がしたが、勲は振り返らず答える。
「グチっていうか、うまくいかない現実に嘆いてただけです」
あのデートから顔合わせるのこれが初めてだから、ひょっとしたら――近藤さん、私、寂しかったの!ぎゅっ!――とかあるかもなんて、ほんのちょっとアリンコほど思ったけど……。
勲は横目で妙の様子を窺い、更に肩を落とす。
期待なんて今更もうしねェ。俺の恋愛運は、きっとあの嵐と共にどこかへ噴きとんじまった。
「それをグチって言うんじゃないですか」
返答するのも面倒くさそうな妙の冷たい声に、勲は元気なく静かに立ち上がった。振り返るが妙の目を見ることなく、頭を軽く下げる。
「そうですね、すみません……」
覇気のない勲に、妙は苛立ち、舌打ちした。
何かないの?少しくらい、そっちから、こう……。
妙は再び舌打ちし、勲の胸倉を掴んだ。
「そんな辛気臭い顔を見せにくるくらいなら、また観戦チケットでも持ってきたらどうです?」
「……換金するんですか……?」
俯いたままぼそりと訊かれて、妙は我に返ったように早口で返す。
「そ、そうね、もうあなたと野球観戦なんて行く気はないけど、チケットを持ってくるくらいなら別にいいわ」
俯いていた勲は顔を上げ、縁側に立つ妙の顔を間近に見る。頬を赤くし、焦りのある瞳に、勲は自然と妙を抱き寄せる。
「ちょっ、何してっ、は、放して下さいっ」
勲から離れようとするが、抱き締められた両腕は緩まない。自分を抱き締めたまま、次に何かをするでもない様子に妙は諦め、勲に身を任せた。勲の肩に顔を寄せ、ゆっくり瞼を下ろす。
「お妙さん、俺も好きです」
妙の片眉がぴくりと上がった。
は?俺も好きって、いつ私も好きになったことになってるのよ!
妙が顔を上げると勲の薄く開いた唇がすぐ傍にあり、咄嗟に背を反らした。が、左胸に何かが当たるのを感じて自分の胸を見る。勲の右手に左胸が覆われており、妙は頭に血を上らせた。
「こォんのォォ変態ゴリラがァァァァ!」
妙は右手で拳を作り、勲の鼻にそれをねじり込む。その衝撃で勲は後ろへと倒れた。
「警察呼びますよ!」
妙は肩で大きく呼吸をし、怒りを露わにする。勲は打ちつけた後頭部をさすりながら体を起こした。
「イテて……俺も警察です」
と、自分を指差す勲に、妙はにこりと笑って縁側から勲の顔面へと飛び降りた。
「っ……!!」
これでもかと言うくらいに踏み躙られ、声にならない勲の悲痛な叫び声が志村家の庭に響いた。
この間、近藤と野球観戦をする約束をした。所謂、デートだ。押して駄目なら引いてみろ――今まで幾度となく交際の申し出を断っている。始めのうちは、やんわりと断っていたが、あまりの聞き分けのなさに、これまた幾度となく苛立ち、頭に血をのぼらせたことか。今となっては挨拶代わりとなっている鉄拳制裁はまったくの意味を持っていないのではないか。ならば一度引いてみるのもいいだろう。そして改めて断ろう。いくら聞かん坊の近藤でも今度こそ諦めてくれるかもしれない。そう思って近藤の申し出を受けてみた。その約束の日は、稀に見る悪天候。時間には遅れてくるし、通常ではありえないものが空から降って来るわ、被害を受けるわ、ひとつも面白くなく、とても楽しくないデートとなった。それにもかかわらず何事もなかったように近藤は、その後も店に現れていたらしい。というのも妙の休みや近藤の仕事の都合ですれ違いが重なり、あの日から二週間が経とうとする今日まで顔を合わすことなく過ごしていた。
本当に店には二度と来ないでくれ、自宅にも来ないでくれ、など言いたいことは山ほどある。あれほど毎日姿をみせていたのに、こうも見事なくらいすれ違っているのなら、このまま一生すれ違いのままでも構わないし、むしろ、その方が清々するというものだ。だが、あの角を曲がれば近藤はいる。妙は確信を持ち、廊下の角を曲がった。
「はァァ。現実ってキビしーなァ」
近藤は人知れず庭から侵入した縁側に腰掛け、肩を落として項垂れていた。
やっぱりいるじゃない、このゴリラ。
「グチりに来ただけなら帰って下さい」
背後から妙の声がした。
「グチっていうか、うまくいかない現実に嘆いてただけです」
振り返ることもなく返され、妙は、むっとした。いつもなら表情をだらしなく緩めて寄ってくるはずなのにそのようなこともなく、声もいやに低い。
「それをグチって言うんじゃないですか」
妙の声には少々、苛立ちがこもっており、それは近藤にも移った。
「ならば訊くが、お妙さん、なんで俺とデートする気になりました?」
どきりとした妙は、自分の方を一向に向かない近藤の背中をじっと見つめたまま体を強張らせた。
自分でも何故了承したのかわからない。答えを出せと言われるのなら、気紛れだったとしか答えられない。が、いつもの様子と違う近藤にそれを言った後のことが想像出来ず、妙は押し黙ったまま、ただ近藤の背中を見ていた。
「俺がどうやってもお妙さんを諦められないのは、わかってると思ってた。なのになんで約束して、あんな悪天候の中でも待ち合わせ場所に行ったんですか?おちょくりたかっただけなら大変な目ェしてまで出かけることはなかった。それに、隕石にも当たることはなかった」
「隕石はあなたに当てられたんですけど」
妙は、ただ揚げ足を取っただけのつもりだったが、近藤は振り返って何も言わずに妙の顔を見上げた。視線が合い妙はぎくりとした。真顔だ。怒っていると感じ、言葉を失くす。が、このまま黙っていては、いつもと違う近藤の雰囲気に呑まれてしまう。妙は体に感じた震えを気のせいだと言い聞かせ、口を開いた。
「き、気まぐれです……」
しまった、声が上擦った。これでは怯えていると知らせているようなものだ。だが、それ以上、体を動かすことも言葉を発することも出来ず、縁側に突っ立ったままでいた。
近藤は閉じていた目を開き、靴を脱いで縁側へ上がった。突っ立ったままの妙の手を掴んで腰を抱き寄せる。顔が近づき、妙の瞳が戸惑いで揺れた。
「男とデートするってことは、こういうことです。たとえ相手がストーカーであれ、ゴリラであれ、俺であってもだ」
更に顔が寄せられ、妙の手に力が入る。それを物ともせずに抑えられ、唇が重なった。
「んっ!」
妙の眉間に皺が寄る。呼吸がままならず苦しくなる。近藤の胸でも叩いて今すぐ離れたいのに強い力に阻まれた。無遠慮に舌を絡め取られ、どうすることも出来ない。悟った妙は込めていた力を抜いて悔しさで涙を滲ませた。唇を離され、妙は息も絶え絶えに言う。
「……ごめ、んなさい……」
その頼りなさに、近藤は下唇を噛んで眉根を寄せた。小さな煙を上げるように胸が焼ける。
「違うでしょう、お妙さん。そこは謝るところじゃない、俺を殴って蹴り飛ばすところだ」
苦しそうなその表情の近藤に、妙も自分がよくわからなくなり、返事をする代わりに涙を零した。
「わからないのなら俺がしたいことをします。それからどうしたいか考えて下さい」
自分の肩を抱いて部屋の障子を開ける近藤を見上げる。
「え、何を……」
もしやと、妙の思考が止まる。
「俺、前からよく言ってますよね。お妙さんと手を繋ぎたい、腕を組みたい、抱き締めたい、キスしたい、結ばれたい……全部本気だ。ひとつも冗談はねェ」
障子が締められ、妙の帯紐に近藤の手がかかる。
「俺はお妙さんに惚れてて、結婚したいと思ってる。もちろん子供も欲しい。たとえ気まぐれであれ、お妙さんはそんなことを思ってる男に気を許して隙を見せた」
帯紐が解かれ、それは畳に落ちた。
「その気がないなら、とことん相手にしなけりゃいい。だが、お妙さんは毎回俺を殴る」
襦袢に手を掛けられて、はっとした妙は襟元を押さえた。近藤は気にもせずに着物とともに脱がす。畳に落ち、妙は反射的に自分の両腕を抱いた。小振りの胸が寄り、近藤は口の片端を上げた。妙の耳元に顔を寄せて囁く。
「どういうつもりで殴ってるんです?俺が鬱陶しいなら殴りもせず無視すればいいのに」
掛かった近藤の吐息と低い声が耳に響く。妙は首を竦ませながら言った。
「無視しても、きっと効果ないわ……」
近藤は自嘲気味に笑った。
「さすがお妙さんだ、俺のことよくわかってますね」
耳に舌が差し込まれ、背中をぞくりとしたものが駆ける。
「い、や……」
「こういうことはしたくなかったんだが、お妙さんがそんな調子なら話は別だ」
と、妙の両腕を掴んで体から引き離す。白い首に口づけ、肌を吸う。
「ん、やめて、あ、やっ」
力なく両肩を押される。いつもより高い声が耳に残り、もっと触れたらどう鳴くのだろうと考える。
「やめませんよ、今のお妙さんは男に抱かれようとしてるただの娘だ」
掴んでいた手を離して下着の上から柔らかい膨らみを覆う。
「男は惚れた女にきっちり操を立てていて女には飢えてる。とても美味そうなご馳走を前にしたらがっつかずにはいられないでしょう?」
下着の際に口づけ、赤い跡を残す。
「イヤです、やめて下さい……」
細い肩が震えており近藤は申し訳なさそうにしながらも妙の背中に手を回した。下着のホックを外し、妙は胸を抱いて下着が取り除かれそうになったのを阻止する。再び首に口づけられ、後ろへ反らせた背を抱き寄せられる。
「近藤さん、やめっ、ん」
きつく吸われた先程のものとは打って変わり、今度はやんわりと吸われ、抱いていた胸の力が緩まる。つかさず腕を下され下着を取り除かれてしまった。再び腕で隠そうとしたが近藤に掴まれており、ならなかった。
「さっきも言ったがやめませんよ」
近藤は妙の胸を見つめて眩しそうに目を細めた。
そんな、このままされてしまうなんてイヤよ!それに、近藤さんはこんなことする人じゃないでしょう?
滲んだ涙が瞳に溜まる。ぼやけた視界には自分の小さな胸を近藤がじっと見ている。怖くて恥ずかしくて堪らない。こんなことは今すぐ止めたいのにそれが出来ない。
こんなの絶対イヤ!信じない、悪い夢でも見てるんだわ、現実じゃない、信じない!
妙は固く瞼を閉じた。
「きれいだ」
静かに言われてどきりとした。思わず顔を上げ、その拍子に頬に涙が伝う。
そんなふうに言わないで、無理矢理こんなことしてるくせに、私の知ってる近藤さんじゃないのに、いつもの近藤さんみたいなこと言わないで……!
「すごくきれいで、胸もかわいいです」
見られていることを意識し、頬を瞬く間に赤くする。
「見ないでっ」
近藤の視線から逃れようと身を捩ったが、やはりならなかった。
「白くてとてもきれいな肌だ。乳首もきれいな色ですぐにでも吸いつきたくなる……」
胸の頂に軽く口づけられ、肩を揺らした。胸元、鎖骨、首を行ったり来たりと優しい口づけを落とされ、腕に込めていた力も完全に抜ける。そのうち抵抗する声も上がらなくなった。妙の腕を離した近藤は、胸をそっと掴んで頂の周囲を舌先でなぞり、幾度目かで、その先を口に含んだ。
「んっ」
舌で弄ばれ、思いがけずに声が出そうになったのを我慢する。もう一方も同様にされると切なげな声を洩らす。
「んんっ、ふぅ」
近藤が自分の胸に吸いついている。いやらしく舌を動かし、吐息を洩らしながら胸の突起を刺激している。嫌なはずだったが抵抗することを止め、まるで第三者のように現状を見ている。なのに、体は与えられる刺激を受け入れ、それを悦びつつあるのがわかる。このまま近藤に抱かれてしまったら、どうしたいのかわかるというのだろうか。本当にわからない。今、わかるのは、いつもは見せなかったこの一面だけだ。
近藤さん、男の人なんだわ。
両胸を覆っていたうちの一方の手が、下腹部へと下される。どきりとした妙は体を揺らした。一度、下着の上を通り過ぎ、太腿を撫でて下着へと上がる。ぞわりとした感覚に襲われ、下唇を噛む。閉じている足の間を器用に指が這い、一本の指がそこへ差し込まれた。湿り気を帯びていたそこを下着越しで撫でられ、腰が揺れる。不意にその指が下着の隙間から差し込まれ、声を上げた。
「あ、やっ、だめっ」
自分でも触れたことのないところにぬるりとした感覚が這い回る。下腹部が熱くなり、腰が勝手に揺れて息が上がる。
「んっ、はぁ、いや……んんっ」
不意に触れられたところから急速に体が痺れ、強張る。それまで気持ちがいいのかもわからなかったが、そこは気持ちがいいと体が言っている。
「あ、そこ、だめ、やめて、くださいっ」
胸の先が疼きだし、近藤の肩に置いていた手に力を込める。言葉とは裏腹に切なげに近藤を見上げた。近藤は、にこりと笑って口づけ、妙が気持ちよさそうな声を洩らすと唇を離した。妙は名残惜しそうにゆっくりと顔を離す。
やだ……こんなのイヤなのに、近藤さんが優しい……。自分がどうしたいのかわからないのに、もっとして欲しいって思ってる。
うっとりした眼差しで見上げられ、近藤は妙の額に口づけた。休んでいた指が再び動き出し、妙の体が跳ねる。
「やっ、んっ」
切なげな声と共に粘着質な水音が鳴り出す。触れられているところより広がる熱に力を奪われ、妙は近藤に寄りかかり、しがみつく。自在に動く指に意識を持って行かれ、次第に甘い吐息をつき出す。
「はぁ、なんか、くる……変なの、近藤さん、んっ」
「大丈夫、変じゃないですよ」
優しい声とは裏腹に、太い指が無遠慮にそこへ侵入してきた。
「い、やっ、はぁ、指入っ……んんっ」
「やっぱりキツイですね」
「いや、抜いて近藤さん、指抜いて」
「やめないって言ったじゃないですか、それにこの後は指より太いものがここに入るんですよ?よく慣らしておかないと……」
関節が曲げられ、内壁を指の腹で撫でられる。体が強張り、指が動く度に腰が揺れる。与えられる感覚についていけず、刺激から逃れようと咄嗟に拒否する。
「んっ、や、そこイヤ」
近藤は指を引き抜くと腰を落とし、膝立ちすると妙の下着を下して片足を自分の肩に掛けさせた。自分の見られたくないところが近藤の目の前にある。妙は慌てて手を伸ばしたが間に合わず、そこに近藤の顔を埋められてしまった。瞬く間に顔が熱くなる。恥ずかしさでどうにかなりそうだ。現状から逃げ出したいことに変わりはないのに、こんな体勢で逃げられないだの、近藤が離してくれないだのと、自分に言い訳をする。
「ふぁ、あっ、んっ、ああっ」
初めて聞く自分の嬌声を、やはり他人事のように聞いている。
いくら私がキライでも、この人はそんなことをお構いなしに私を好きにすることなんて簡単で……。近藤さんがいけないのよ、生娘にこんないやらしいことをするから……。
近藤の顔が離れ、肩で呼吸をしながら近藤を見下ろす。自分のものなのか近藤の唾液なのかわからない液が、唇から顎の髭へと垂れている。
「指、入ってたの気づきました?」
妙は左右に首を振り、近藤は微笑む。妙を畳へ寝かせて、大きく反り上がったものを取り出した。
「そ、それだけはダメですっ」
妙の足を大きく開き、自分のものを妙へとあてがう。
「ここは、そうでもないですよ?」
溢れ出ている蜜を塗り広げるように滑らせ、ふっと笑った。
「お妙さん、やっぱり俺のこと好きなんじゃないんですか?だってお妙さんは好きでもねェ男にこんなことされて、こんなに涎を垂らすようなはしたない娘じゃないですよね」
小さく、いやらしい水音を鳴らし、近藤が侵入してくる。
「やっ、大きっ、んんっ」
近藤の腰が途中で止まり、妙は瞑っていた瞳を開く。
「お妙さん……」
切なげな表情と掠れた声の近藤に、どきりとする。
「好きです、あなたが好きで堪らない」
近藤は、そう言うと腰を押し進めた。
「っ……!」
声にならない悲鳴が上がる。熱く、痛い。耳に近藤の吐息がかかり、痛みから徐々に現実に戻る。こちらを窺うように近藤の腰が動き、体が揺さぶられる頃には覚え始めようとしている甘い疼きに合わせて嬌声が上がっていた。
「どう、したいか、わかりました、か?」
下から妙を突き上げながら訊ねる。
「ん、そこ、もっとして下さい」
とろんとした瞳にねだられ、近藤はくすりと笑った。
「こう、ですか?」
「あっん、はい、そう、ですぅ」
「て、そうじゃなくて……」
妙は不思議そうに小首を傾げて近藤を見下ろした。
「お妙さんはどうしたいですか?俺とやらしいことするのイヤですか?」
「んっ、ずるい、今そんなことっ、あっんっ、んんっ!」
止まっていた腰を不意に動かされ、一際甘ったるい声を上げて下腹部をきつく収縮させた。
「っあ、くっ、ちょっ今、そんなのしちゃダメですよ、お妙さんんん!」
妙の中で存分に自身を波打たせ、乱れた息を整えると口を開いた。
「お妙さん、急に締めつけたらダメですよ!」
と、眉を吊り上げた。
「ナマなのに子供できたら責任取ってくれるんですか?!」
「……できたら……仕方がないから責任取ります」
「ほ、ホントですかお妙さんんんん?!」
瞳に感激の涙を浮かべて自分の手を取る近藤に圧倒されつつ妙は続けた。
「けど、近藤さんも責任取って下さいね。真選組辞めてうちの道場手伝ってもらいますからね」
「そんなの、もちろんです!!」
***
今日は買い物の最中にあの男を見なかった。だが、あの角を曲がればあの男がいつものようにいるだろう。買い物から帰宅した妙は廊下に出た。
あら?前にもこんなことあったかしら?何かで見たような……夢だったかしら?
妙は思い出そうと首を小さく傾げてみたが心当たりはなく、気のせいだと一息ついて角を曲がった。
***
――運命よ、我は天道など歩むつもりは毛頭ない。我がゆくはこの恋路、そして愛する人々を護らんとするこの侍道だけだァァァ!!サヨナラホームランをくれてやるァァァァ!!――
と、言ったら逆にお妙さんサヨナラされた。
ったく、神様っているならほんとケチだよね。やれストーカーだの、やれゴリラだのと蔑まされ続けたけどさァ俺だってさァひとりの男の子だしィ第三百十三訓も第三十六巻でようやくデートにこぎつけられたことは俄かに信じ難かったけど、これはいよいよヤれるんだとかほんのちょっとアリンコほど思った。
けど、甘かった。お妙さんにとっての俺はストーカーでゴリラでムサくて……金づるだと思われてると思ってた。もうそれでさえ、いよいよどうでもいいって思ったってことだよな。
勲はいつものように人知れず庭から侵入した志村家の縁側に腰掛け、肩を落とした。
「はァァ。現実ってキビしーなァ」
あ、ホントにいるじゃないこのゴリラ。
嬉しくない予感が見事的中し、妙はやれやれと溜息をついた。
「グチりに来ただけなら帰って下さい」
背後から妙の声がしたが、勲は振り返らず答える。
「グチっていうか、うまくいかない現実に嘆いてただけです」
あのデートから顔合わせるのこれが初めてだから、ひょっとしたら――近藤さん、私、寂しかったの!ぎゅっ!――とかあるかもなんて、ほんのちょっとアリンコほど思ったけど……。
勲は横目で妙の様子を窺い、更に肩を落とす。
期待なんて今更もうしねェ。俺の恋愛運は、きっとあの嵐と共にどこかへ噴きとんじまった。
「それをグチって言うんじゃないですか」
返答するのも面倒くさそうな妙の冷たい声に、勲は元気なく静かに立ち上がった。振り返るが妙の目を見ることなく、頭を軽く下げる。
「そうですね、すみません……」
覇気のない勲に、妙は苛立ち、舌打ちした。
何かないの?少しくらい、そっちから、こう……。
妙は再び舌打ちし、勲の胸倉を掴んだ。
「そんな辛気臭い顔を見せにくるくらいなら、また観戦チケットでも持ってきたらどうです?」
「……換金するんですか……?」
俯いたままぼそりと訊かれて、妙は我に返ったように早口で返す。
「そ、そうね、もうあなたと野球観戦なんて行く気はないけど、チケットを持ってくるくらいなら別にいいわ」
俯いていた勲は顔を上げ、縁側に立つ妙の顔を間近に見る。頬を赤くし、焦りのある瞳に、勲は自然と妙を抱き寄せる。
「ちょっ、何してっ、は、放して下さいっ」
勲から離れようとするが、抱き締められた両腕は緩まない。自分を抱き締めたまま、次に何かをするでもない様子に妙は諦め、勲に身を任せた。勲の肩に顔を寄せ、ゆっくり瞼を下ろす。
「お妙さん、俺も好きです」
妙の片眉がぴくりと上がった。
は?俺も好きって、いつ私も好きになったことになってるのよ!
妙が顔を上げると勲の薄く開いた唇がすぐ傍にあり、咄嗟に背を反らした。が、左胸に何かが当たるのを感じて自分の胸を見る。勲の右手に左胸が覆われており、妙は頭に血を上らせた。
「こォんのォォ変態ゴリラがァァァァ!」
妙は右手で拳を作り、勲の鼻にそれをねじり込む。その衝撃で勲は後ろへと倒れた。
「警察呼びますよ!」
妙は肩で大きく呼吸をし、怒りを露わにする。勲は打ちつけた後頭部をさすりながら体を起こした。
「イテて……俺も警察です」
と、自分を指差す勲に、妙はにこりと笑って縁側から勲の顔面へと飛び降りた。
「っ……!!」
これでもかと言うくらいに踏み躙られ、声にならない勲の悲痛な叫び声が志村家の庭に響いた。
一発大逆転
Text by mimiko.
2011/10/01