ドロドロ愛憎土近妙です。三人とも頭のネジがどこかへ飛んでます。下衆な近藤さんしか得してないです。土近でもあり、近妙でも妙近でもあるのでご注意を。
お世話になっている柚木麻樹さんより設定を頂戴して書かせていただきました。ありがとうございます。
お世話になっている柚木麻樹さんより設定を頂戴して書かせていただきました。ありがとうございます。
煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
どんなに撥ねつけようと向かってくる綺麗な心に惚れていた。その綺麗な心につけ込んだのは俺だ。俺が悪い。しかし、どんなに穢そうと綺麗なままの心でいるアンタを憎いとも思っている。どうしてアンタはそんなにも綺麗なんだ。
土方は、足の間に顔を埋める近藤を見下ろした。
先刻、過激攘夷一派の捕物事案を片付け、帰還した。ごく軽傷だったために救護班に世話になることなく自ら処置をしていたら、この男に見つかってしまったのだ。傷の手当てが、いつの間にやら舐め合いと成り代わり、あとはいつもの流れだ。
「んっ、じゅっ、トシ?良くねえ?」
舌を這わせながら訊ねられ、視線がかち合う。
いいに決まってるだろ。なんでそういうことを敢えて訊いてくるかな、この人は。てか、目がトロトロじゃねーか。
「いいよ、近藤さん……」
近藤の頬に触れ、顎先へと滑らす。整えられた髭を撫でつつ顔を上げさせ、分身から離す。近藤の唇は濡れ光っていた。舐めとりたい衝動に駆られたが、顎に触れていた親指で口端の唾液を拭い取る。その指を自分の口元へ持って行き、親指の周囲を舌で撫でまわした。唾液を塗りつけた親指を近藤の口元へ寄せ、薄く開いた唇を指の腹で軽く押す。
「っん……」
近藤は、眉根を寄せて小さく声をこぼす。柔らかい唇をくにくにと指の腹で押す土方は、眉間の皺が出るのを眺めて口の片端を上げて笑った。
「トシ、んっ……」
「何?」
「俺の口で遊ぶなよ」
言われて土方の片眉が上がった。
「よく言うよ。俺の反応見て面白がってただろ。最初に乳首触ってきたのそっちだし」
指摘されて反撃に出ようとした近藤は、土方の左の親指を咥えようと唇を開いた。が、親指は遠のき、空振りを喰らわされる。
「トシ」
「何?」
「指、咥えさせて」
「やだよ。どうせまたヤニくせーって言うだろ」
「言わねーよ。ほれ、あーん」
と、近藤は口を開く。が、土方はただ見つめた。
「……」
何も言わない土方に、ねだり方がまずかったのかと思い、近藤は言い直す。
「勲のいやらしいお口にトシの太い親指ください」
眉尻を下げてお願いされ、土方は思わず噴き出した。
「どこのアダルトビデオだよ、変態」
「ええ?だって言い方まずかったのかなって思って……」
口を尖らせる近藤は自分よりも年上とは思えない可愛らしさだ。土方は溜息をついてから言った。
「そんなに欲しいんならくれてやるよ。そら、おまえの欲しがってたモンだ。たっぷりしゃぶれ」
と、途中から笑い出す。
「なんだよ、笑うなよ。言うならちゃんと言えよトシっ、んぅっ、ふっ」
しゃべっている最中に親指を差し込まれた。指は歯列をなぞる。上段の右から左へ行くと下段の左から右へ。そのまま滑らせて唇に移動した。唾液を潤滑に上唇の右端から左端へ。下唇の左端から右端へ行き、再び薄く開いている唇中央に押し当てられる。
「ちゃんと舌使って。歯を立てないように」
土方に促された近藤は、唇に当たっている指の腹を舌先で撫でた。
「そうそう、敏感だから、優しく、丁寧に……」
と、優しい声の土方に誘われるまま、近藤は唇を開いて親指を根元から指先へと舐め上げる。
「ゆっくりでいいよ……」
と、息をつく土方が色っぽかった。土方は近藤の髪を撫でる。
近藤は親指の関節を舌先で周回し、指の腹から先端までを往復する。舌を引っ込め、濡れた下唇で親指の先に口づけ、吸った。土方の肩がびくりと揺れる。同時に揺れた分身の根元に輪をつくった指をはめる。軽く締めたると、びん、と立ち上がり、それに反応するように自分のものまで振るうのを感じ、近藤は土方の親指を根元まで咥え込んで強く吸った。咥えられた時の感覚が恋しくなり、土方は溜息をつく。
「ん、近藤さん……こっち」
呼ばれた近藤は、仰向けになる土方の肩口に手を突き、唇を見つめる。形のよい唇が薄く開くと気持ちが急いて舌を差し出す。吸って欲しいと伸ばされた近藤の舌先を長く伸ばした舌で迎えてやると、目を閉じた近藤の睫毛が微かに揺れた。早く入りたいと分身は空を切る。が、舌を嬲られて頬を赤くする目の前の男は重すぎる。土方は近藤の舌を離し、言う。
「近藤さん、一旦、俺の膝の上に座って」
向かい合って素直に腰を下ろした近藤のものは先を濡らし、切なそうに震えている。微笑んだ土方は近藤を見上げ、舌を覗かせた。
「今度は吸うから出して」
「ん」
と、また素直に唇から舌を差し出す。土方は、その赤い粘膜を唇で優しく搾った。滴る唾液が甘い。
近藤さん、俺はちゃんとアンタを癒せてるか。それとも俺では不十分か。だから、また癒しを求めてあの女の所に行くのか。ただ女を抱きたいだけなら買いに行けばいいだろう。あの女は遊べる相手ではないだろうに。いや、遊ばれてるのは俺のほうか。それも違うか。アンタが俺を弄ぶというのなら、ハメるのはアンタのほうになる。
土方は指で解したひくつく近藤の小さな口へと分身をあてがう。四つん這いになる近藤は、息をついて肩を微かに震わせている。これからされることを期待しているのだ。土方は、あてがっていたものをゆっくりと挿入させた。
だが、俺がアンタを騙してハメた。こうして文字通りにハメもしてる。
「んあっ」
いい所に当たったらしい近藤の声は甘い。
「近藤さん、ここ好きだな……。ん、アンタのモンもぶるってるけど、俺も今、やばい……っ」
腰の脇から手が伸びてくる。近藤は、いやいやと左右に首を振った。
「やめ、トシ、あぁっ」
先端を土方の手で覆われ、先から溢れ出た蜜を手の平に塗りつけられる。硬くなったまま放っておかれたのに今更、刺激されたら他愛もなく達してしまう。
「ふぁ、トシ、それしたら、も、いくからっ、やめぇっ……!」
「やめねー、よ……、んっ、俺もいく、から……はぁ、いく時はいつも一緒だって言ってるだろ?ほら、近藤さん、俺ももういくから、いっていいよ……」
優しい声とは裏腹に分身への刺激は強かった。腰を掴んでいたはずのもう一方の手に根元を絞められ、ぬるついた手の平で圧迫される。辛いのに気持ちがよくておかしくなりそうだ。根元を絞めていた指に扱かれ出すと、蜜に濡れた指の腹に鈴口を愛撫される。快感で全身が痙攣する。唇は喘ぐことも忘れ、閉じることも忘れ、涎がこぼれ落ちる。感覚が麻痺している。なのに、首筋にぞくりとしたものが奔り、分身に力が入った。近藤が白濁を放つと、近藤の粘膜に圧迫されていた土方のものも波打った。
夜の静まり返った屯所に何者かが潜んでいる気配がした。文机に向かっていた土方は、机上の書類から目を離す。
声を発することも忘れるほどの快楽を味わせているのに、それでもアンタは、また癒しを求めてあの女の所に行くのか。
土方は、長い溜息をついて煙草に火を点けた。
* * *
戸締りをしようと縁側に出たお妙は、軒下に潜伏していた近藤の首根っこを掴み、縁側へと引っ張り上げた。数日ぶりに姿を現せた近藤の謝罪と制止に構わず、お妙は強引に口づける。
まただわ。喫煙しないはずのこの人なのに、また煙草の味がする。どうしてこの人はあの煙たい男とよろしくやっているの。今日も店に顔を出さなかったくせに、許せない。
お妙は舌を優しくしゃぶられて眉を寄せた。
「っんぁ……」
あの男とちゃっかり致しておきながら、どうしてこんな……。
湧いて出る唾液をさも美味そうに啜られ、お妙の閉じられていた瞼は熱くなった。甘い口づけが終わってしまい、お妙はとろりとした瞳で近藤を見下ろした。手を突いていた近藤の胸元をそっとさする。
「……もっとキスして、近藤さん……」
こちらを見上げる近藤の小さな黒目には自分だけが映っている。ふっと表情を崩して笑う近藤は、いつものおバカを演じておどけたりしない大人の男性だ。お妙は胸をときめかせ、涙を滲ませる。背負うものが多い近藤だが、今だけは彼を独占できる。しかし、再び口づけられると再び思い出した。マヨボロを吸う男だ。近藤の口づけは甘く蕩けるのに、あの男が邪魔をしてくる。腹立たしい。
一度、唇を離そうとお妙は体を起こすが、背中と腰に触れていた近藤の腕に抱きすくめられ、更に深く口づけられた。一瞬、喉にまで届いた近藤の舌に体が反応する。この間の激しい情事を思い出して頬が一気に熱くなった。
「ふうぅっ」
こちらの体を気遣いながらも喉の奥を締めることを覚えさせられ、次にはこれ以上入らないからやめてくれと言っても聞かず、根元まで入った近藤に最奥を抉じ開けられるように突かれた。苦しいほどの快感が堪らなかった。
近藤は、お妙の背中を抱いたまま体を回転させた。縁側で寝転がるお妙は口づけに応えながらも懸命に自分にしがみついている。とても可愛らしい。
「お妙さん、また来ます。じゃあ」
と、離した唇を額に押しつける。ちゅっと可愛らしい音が鳴った。てっきり笑顔で了承してくれると思っていた近藤は、真顔で目を細めるお妙にどきりとした。
「何言ってるんですか。しますよ」
「いや、今日、もう遅いし……。お妙さんも仕事で疲れてるでしょう?」
「いいえ、私に火を点けたのはあなたです。してもらいますから」
「え、でも……」
と、近藤の目が泳いだ。お妙は自分の舌に残されたマヨボロの匂いに胸をじりっと焦がした。
心が綺麗で純真であるからこそ、欲望に忠実なのはわかる。しかし、自分を好きだと後をつけ回しておきながら自分以外の男と寝て、その足で自分の元へやって来る無神経さが頭にくる。
お妙は自ら着物の裾を膝で開いた。立てた膝で近藤の袴を探る。
「じゃあ、私がしてあげますから、ね?」
と、お妙は微笑んだ。
「近藤さん」
甘い声で名を呼び、近藤の手を裾の中へと導く。もう一方の手で近藤の首を引き寄せた。
「キスしかしてないのに、私のここ、もうすごくなってるんです。だから、お願い、近藤さん」
耳元でおねだりしたのが効いたのか、近藤は触れさせられていたお妙の下着に指を押し込んだ。静かに疼いていた所を掻かれ、お妙の背が反る。
「ほんとだ。すごくなってますね……」
「ん、あっ、でも、ここじゃ……」
と、お妙はそこに触れる近藤の手首を掴んだ。
「ですね。てか、新八くんは?」
近藤はお妙から離れて体を起こした。お妙も起き上がる。
「今日は万事屋に泊まり込むんですって」
「そっか、じゃあ、お言葉に甘えて泊っちゃおっかな」
照れながら頭を掻く近藤にぴしゃりと言い放つ。
「いえ、終わったらとっとと帰ってください。泊っていってなんてひとことも言ってませんよ。明日もお仕事あるでしょう?」
「ですね。さすがお妙さんだ。ちゃんと俺のこと考えてくれてて俺、感動しましたッ!」
と、元気よく頷く。どの口が言うのだとお妙は小さく溜息をついた。
「……終わっても足腰が立てば、ですけどね……」
俯いて呟いたお妙の言葉の意味がわからない近藤は小首を傾げる。
「近藤さんはここで待っててください。準備してきますから」
と、顔を上げたお妙はいつもの笑顔である。近藤はいつもと違った雰囲気を気のせいだと思い直してお妙に笑顔を向けた。
部屋に近藤を残して障子戸を閉めたお妙の笑顔は陰る。夜空に浮かんでいた月が雲に隠れたからだ。お妙は、戸締りをして回ると台所と自室へ向かってから近藤のいる部屋へと戻った。
「お待たせしてすみません」
お妙が明るい調子で部屋に入ると客用布団を敷いた脇に近藤が正座していた。勝手知ったる他人の家である。
「ふっ、不束者ですが、何卒よろしくお願いしますッ」
と、指を揃えて頭を下げる。
「なんの真似ですか」
冷ややかなツッコミに近藤は笑顔で答える。
「新妻です、お妙さん」
「私が新妻じゃないんですか」
と、お妙は近藤の背後へ回り、彼の両手を後ろへ回した。手首に玩具の手錠をかける。
かしゃんと音がして近藤は振り返った。
「あの、今の音って……」
「おもちゃの手錠です」
お妙はにこりと微笑んだが、近藤は渇いた笑みをこぼす。
「え……何プレイ?」
「処女を装った新妻にお仕置きプレイってところかしら」
と、持参したバナナの皮を剥いて近藤の口元へと運んだ。
「はい、あーん?」
可愛らしい声で促され、近藤は戸惑いながらも口を開いた。お妙はバナナを差し込み、バナナを食べようとした近藤を止める。
「あ、歯を立てちゃダメですからね。私のバナナが使い物にならなくなっちゃいますから」
目を丸くした近藤は食べようとしたバナナから口を離す。お妙は一度引いたバナナをまた口元へとやった。
「バナナにキスしてください」
近藤は言われた通りにバナナの先に口づけた。
「そう、舌を使って、ゆっくり丁寧に舐めてください」
素直に舌を這わせる近藤に、お妙は胸がじりっと焼け焦げるのを感じた。いつも丁寧に愛撫されるのは自分のほうなのに、どうして近藤はこうも素直に従うのだ。下唇を噛んだお妙はバナナを奥へと押し進めた。
「喉、締められますか?えづきそうだったら無理しないでやめてくださいね」
この間の近藤に言われたことをそのまま言う。近藤は、はっとして声を上げた。
「んぅ、お、ひゃへ、ひゃ……」
無理にしゃべろうとしてバナナを咥えたまま涎を垂らす。お妙はバナナを引き抜き、近藤は息をつく。
「ん……、お妙さん、こないだのイラマチオ、怒ってますか……?」
後ろ手に拘束されて無体なことをされているというのに、近藤は自分を気遣っている。嬉しいのに素直に喜べない。お妙は、近藤の口端の涎を舐めとって口角を上げた。
「怒ってませんよ」
と、微笑んでバナナをやや強引に近藤の唇へと差し込んだ。
「気持ちよかったです」
浅くしていたバナナを引くと、近藤の唇に吸い引かれてしまう。お妙は目を伏した。思っていた通りだ。近藤は、あの男のものを受け止めている。焼け焦げるだけだったお妙の胸に煙が立ち上った。
「それに、あなたになら苦しめられるのも、そう悪くありませんから」
と、近藤が咥えるバナナの皮を剥き落とし、上向きに曲がった先を見せつけるように舐め上げる。自分のものをそうされたように錯覚した近藤の腰が揺れる。
「ねえ、近藤さん。苦しくて辛いのって、どうしてあんなにいいの?私に教えてください……んっ」
お妙はバナナを咥え、その先を近藤へと押し込んだ。近藤は息苦しくなって小さく呻く。
「大丈夫ですか?えづきそうになったら教えてくださいね。でも、私の大事なバナナを噛みちぎっちゃダメですよ」
お妙は近藤の袴の紐を解き、下着の上から近藤のものに触れた。優しく口づけられ、しなやかな指に撫でられる。近藤の口内に溜まった唾液が声とともにこぼれてしまう。
「ぅぐっ、んんっ」
口は塞がれ、頼りない刺激で腰がひとりでに揺れる。硬さが増すと下着から取り出され、濡れた熱い口内に先走った液を搾取されて腰が熱くなる。ひと際硬くなるとお妙の口から解放されてしまった。
「んっ、ふぅう……っ」
辛そうな近藤は眉根を寄せ、目元を赤くしていた。よく見れば涙目になっている。初めて見る近藤の表情にお妙は口惜しそうに下唇を噛みしめた。自室から持ってきた巾着に視線をやる。
できればこんなことをしたくなかった。してしまえばもう後戻りはできないのだから。けれど、近藤が悪いのだ。自分という者がありながら、別の男と関係を持つことなど許せはしない。お妙の胸を焦がして上げた煙は、とうに充満していた。今更、引き返せるものか。
お妙は近藤の背後に回って着物の裾を開いた。下着を脱ぎ、持参した巾着の中から取り出す。近藤は振り返ったが、お妙に顔の向きを戻された。
「ダメ、見ないで……」
お妙は畳に転がっているものを静かに眺める。柔らかい素材でできている張形は双方に挿入可能な仕様でベルトがついている。所謂ペニスバンドだ。じっと見つめていても仕方がないのでそれを拾うが、いざ着けようとしても手が動かない。こんなものより近藤のものが欲しい。しかし、近藤は、それだけでは満足しないのだ。だから自分は今、こんなものを持ち出している。しかも、これは近藤と使おうとしたものではない。お互いさまである。
滅裂な思考の中、ひとつだけ明確にわかっていることがある。お妙は、込み上がる切なさを振り切ろうと口を開く。
「近藤さんの、ゴールドフィンガーで、ほぐしてください……」
と、後ろ手に手錠をかけられている近藤の右手を取って自分の着物の中へと導いた。
浮気の仕返しはしたいけど、ちゃんと近藤さんに触ってほしい……。
まだ下着を穿いていると思っていた近藤は濡れた襞の感触に驚いて、そこから手を離した。振り返り、膝立ちしていたお妙の傍にあるものに目を見張る。何故そんなものがあるのだと目で訊ねる近藤に気づいたお妙は白状した。
「それは、九ちゃんとのおつき合いを真剣に考えた時のものです……」
近藤は咥えていたバナナを咀嚼するとお妙に口づけ、口内に残っていたバナナをお妙の口へと移した。
「んっ……!」
「俺のバナナカスです。お妙さんなら飲み込めますよね」
静かに圧する口調に緊張しながらお妙は近藤によって噛み砕かれたバナナを飲み込んだ。
「……怒ってるんですか……?」
「はい、怒ってますよ。それが手元にある経緯に怒ってるわけじゃない。あなたの中に入るのは、俺以外、認めない」
激しく口づけられ、お妙の腰はへたる。ぺたんと座った膝を近藤の体が押し入るように割り、お妙は後方に手を突く。
「はは……、俺のが立ちすぎてお妙さんのそこを擦れねェ。お妙さん、手ェ貸してください」
分身に添えたお妙の手は、自然と入口へと導く。
「ダメですよ、お妙さん。まだ入れません。あなたのいらやしく濡れたそこを俺ので擦るんです」
「ん……でも……」
物欲しそうなお妙は立ち上がる近藤を押し下げる。が、近藤の膝が遠のき、あてがっていた所からも離れてしまった。
「欲しいですか?」
近藤の口角は上がっていた。楽しそうだ。悔しい。自分が何をしようとも勝てないのはわかっているが、やはり悔しい。
答えを急かすように近藤はお妙の敏感な箇所を分身で弄ぶ。
「はぁっ、あんっ、くだ、さい……っ」
にこりと笑った近藤は迷うことなく挿入し、一気に貫かれたお妙は、背筋に奔る快感に戦慄く。声を上げる間もなく達し、体内の近藤の存在感に酔いしれた。
* * *
昼食を摂り終えた隊士たちが屯所で食後の一服や運動で心身を休めていると、思い出し笑いをしてはにやついている人物がいた。縁側に腰掛け、アイマスクとイヤホンを装着した沖田の隣で思い出し笑いをひとまず治めて茶を啜る。
「どーしたんですか、局長。さっきからずっと笑ってるじゃないですか。何かいいことでもあったんですか」
と、原田は思い出し笑いをしていた近藤に訊ねる。
「んー、うんー。あんま言えないけどね」
嬉しそうに顔を緩める近藤の締りのなさと言ったら半端ない。そんな顔のままでいたら、きっと鬼の副長がキレてしまう。原田や隊士たちは、構って欲しそうな近藤にこれ以上は触れるべきではないと判断し、放置した。だが、近藤は自らぶちまける性分だ。なんだか嫌な予感がする。それも、今日は朝から溜まりに溜まった書類未提出の催促に苛立ちを隠すことなく土方が屯所内を回っていたからだ。複数の隊士たちの予感は的中し、土方はやって来る。とばっちりを受ける前に退散するが吉だと数人の隊士たちが逃げる中、土方に向かっていく隊服がひとり。近藤だ。顔色を青くする者、冷や汗を掻く者、表情を強張らせる者、引き攣った笑みを浮かべる者――一同は、鬼が落とす雷に警戒する。
「トシトシぃ、ねえ、聞いて聞いてぇ」
「何だよ」
火が点いていない煙草を咥えた不機嫌な土方の耳元で近藤は囁く。
「昨日のお妙さんね、ずっといきまくりですんごい可愛かったんだ?」
予告もなく惚気られた土方は呆けて咥えていたマヨボロを落としそうになって我に返った。土方の心に狼煙が上がる。
「喧嘩売ってんのか、近藤さん」
さぞ憎たらしそうに舌打ちをする。土方がまんまと釣れた手応えを感じ、近藤は釣り糸を巻き上げた。
「いや、売ってない。火、点けてるだけ」
真顔で答えられ、土方の眉が引き攣る。
「この野郎、よくもぬけぬけと。アンタに目をつけられたあの女が不憫だ。手ェ引いてやれよ」
「やだ」
即答する近藤に土方の苛立ちは募る。
「てか、トシは不憫じゃねーの?」
「アンタと一緒に地獄に堕ちるのは俺だろ?」
と、土方は煙草に火を点けた。
うーん、どうだろうな。
近藤は胸の前で両腕を組んでくすりと笑う。何を考えているのやら何も考えていないのやら、掴めない近藤にささやかな仕返しをと、土方は肺に溜めていた煙を近藤に向かって吐いた。
「ちょ、煙い。やめて、トシ」
「こっちだってやだよ。今晩、覚えとけよ、近藤さん」
トシが先か、お妙さんが先か。俺、どっちに刺されんだろな。
土方は、足の間に顔を埋める近藤を見下ろした。
先刻、過激攘夷一派の捕物事案を片付け、帰還した。ごく軽傷だったために救護班に世話になることなく自ら処置をしていたら、この男に見つかってしまったのだ。傷の手当てが、いつの間にやら舐め合いと成り代わり、あとはいつもの流れだ。
「んっ、じゅっ、トシ?良くねえ?」
舌を這わせながら訊ねられ、視線がかち合う。
いいに決まってるだろ。なんでそういうことを敢えて訊いてくるかな、この人は。てか、目がトロトロじゃねーか。
「いいよ、近藤さん……」
近藤の頬に触れ、顎先へと滑らす。整えられた髭を撫でつつ顔を上げさせ、分身から離す。近藤の唇は濡れ光っていた。舐めとりたい衝動に駆られたが、顎に触れていた親指で口端の唾液を拭い取る。その指を自分の口元へ持って行き、親指の周囲を舌で撫でまわした。唾液を塗りつけた親指を近藤の口元へ寄せ、薄く開いた唇を指の腹で軽く押す。
「っん……」
近藤は、眉根を寄せて小さく声をこぼす。柔らかい唇をくにくにと指の腹で押す土方は、眉間の皺が出るのを眺めて口の片端を上げて笑った。
「トシ、んっ……」
「何?」
「俺の口で遊ぶなよ」
言われて土方の片眉が上がった。
「よく言うよ。俺の反応見て面白がってただろ。最初に乳首触ってきたのそっちだし」
指摘されて反撃に出ようとした近藤は、土方の左の親指を咥えようと唇を開いた。が、親指は遠のき、空振りを喰らわされる。
「トシ」
「何?」
「指、咥えさせて」
「やだよ。どうせまたヤニくせーって言うだろ」
「言わねーよ。ほれ、あーん」
と、近藤は口を開く。が、土方はただ見つめた。
「……」
何も言わない土方に、ねだり方がまずかったのかと思い、近藤は言い直す。
「勲のいやらしいお口にトシの太い親指ください」
眉尻を下げてお願いされ、土方は思わず噴き出した。
「どこのアダルトビデオだよ、変態」
「ええ?だって言い方まずかったのかなって思って……」
口を尖らせる近藤は自分よりも年上とは思えない可愛らしさだ。土方は溜息をついてから言った。
「そんなに欲しいんならくれてやるよ。そら、おまえの欲しがってたモンだ。たっぷりしゃぶれ」
と、途中から笑い出す。
「なんだよ、笑うなよ。言うならちゃんと言えよトシっ、んぅっ、ふっ」
しゃべっている最中に親指を差し込まれた。指は歯列をなぞる。上段の右から左へ行くと下段の左から右へ。そのまま滑らせて唇に移動した。唾液を潤滑に上唇の右端から左端へ。下唇の左端から右端へ行き、再び薄く開いている唇中央に押し当てられる。
「ちゃんと舌使って。歯を立てないように」
土方に促された近藤は、唇に当たっている指の腹を舌先で撫でた。
「そうそう、敏感だから、優しく、丁寧に……」
と、優しい声の土方に誘われるまま、近藤は唇を開いて親指を根元から指先へと舐め上げる。
「ゆっくりでいいよ……」
と、息をつく土方が色っぽかった。土方は近藤の髪を撫でる。
近藤は親指の関節を舌先で周回し、指の腹から先端までを往復する。舌を引っ込め、濡れた下唇で親指の先に口づけ、吸った。土方の肩がびくりと揺れる。同時に揺れた分身の根元に輪をつくった指をはめる。軽く締めたると、びん、と立ち上がり、それに反応するように自分のものまで振るうのを感じ、近藤は土方の親指を根元まで咥え込んで強く吸った。咥えられた時の感覚が恋しくなり、土方は溜息をつく。
「ん、近藤さん……こっち」
呼ばれた近藤は、仰向けになる土方の肩口に手を突き、唇を見つめる。形のよい唇が薄く開くと気持ちが急いて舌を差し出す。吸って欲しいと伸ばされた近藤の舌先を長く伸ばした舌で迎えてやると、目を閉じた近藤の睫毛が微かに揺れた。早く入りたいと分身は空を切る。が、舌を嬲られて頬を赤くする目の前の男は重すぎる。土方は近藤の舌を離し、言う。
「近藤さん、一旦、俺の膝の上に座って」
向かい合って素直に腰を下ろした近藤のものは先を濡らし、切なそうに震えている。微笑んだ土方は近藤を見上げ、舌を覗かせた。
「今度は吸うから出して」
「ん」
と、また素直に唇から舌を差し出す。土方は、その赤い粘膜を唇で優しく搾った。滴る唾液が甘い。
近藤さん、俺はちゃんとアンタを癒せてるか。それとも俺では不十分か。だから、また癒しを求めてあの女の所に行くのか。ただ女を抱きたいだけなら買いに行けばいいだろう。あの女は遊べる相手ではないだろうに。いや、遊ばれてるのは俺のほうか。それも違うか。アンタが俺を弄ぶというのなら、ハメるのはアンタのほうになる。
土方は指で解したひくつく近藤の小さな口へと分身をあてがう。四つん這いになる近藤は、息をついて肩を微かに震わせている。これからされることを期待しているのだ。土方は、あてがっていたものをゆっくりと挿入させた。
だが、俺がアンタを騙してハメた。こうして文字通りにハメもしてる。
「んあっ」
いい所に当たったらしい近藤の声は甘い。
「近藤さん、ここ好きだな……。ん、アンタのモンもぶるってるけど、俺も今、やばい……っ」
腰の脇から手が伸びてくる。近藤は、いやいやと左右に首を振った。
「やめ、トシ、あぁっ」
先端を土方の手で覆われ、先から溢れ出た蜜を手の平に塗りつけられる。硬くなったまま放っておかれたのに今更、刺激されたら他愛もなく達してしまう。
「ふぁ、トシ、それしたら、も、いくからっ、やめぇっ……!」
「やめねー、よ……、んっ、俺もいく、から……はぁ、いく時はいつも一緒だって言ってるだろ?ほら、近藤さん、俺ももういくから、いっていいよ……」
優しい声とは裏腹に分身への刺激は強かった。腰を掴んでいたはずのもう一方の手に根元を絞められ、ぬるついた手の平で圧迫される。辛いのに気持ちがよくておかしくなりそうだ。根元を絞めていた指に扱かれ出すと、蜜に濡れた指の腹に鈴口を愛撫される。快感で全身が痙攣する。唇は喘ぐことも忘れ、閉じることも忘れ、涎がこぼれ落ちる。感覚が麻痺している。なのに、首筋にぞくりとしたものが奔り、分身に力が入った。近藤が白濁を放つと、近藤の粘膜に圧迫されていた土方のものも波打った。
夜の静まり返った屯所に何者かが潜んでいる気配がした。文机に向かっていた土方は、机上の書類から目を離す。
声を発することも忘れるほどの快楽を味わせているのに、それでもアンタは、また癒しを求めてあの女の所に行くのか。
土方は、長い溜息をついて煙草に火を点けた。
* * *
戸締りをしようと縁側に出たお妙は、軒下に潜伏していた近藤の首根っこを掴み、縁側へと引っ張り上げた。数日ぶりに姿を現せた近藤の謝罪と制止に構わず、お妙は強引に口づける。
まただわ。喫煙しないはずのこの人なのに、また煙草の味がする。どうしてこの人はあの煙たい男とよろしくやっているの。今日も店に顔を出さなかったくせに、許せない。
お妙は舌を優しくしゃぶられて眉を寄せた。
「っんぁ……」
あの男とちゃっかり致しておきながら、どうしてこんな……。
湧いて出る唾液をさも美味そうに啜られ、お妙の閉じられていた瞼は熱くなった。甘い口づけが終わってしまい、お妙はとろりとした瞳で近藤を見下ろした。手を突いていた近藤の胸元をそっとさする。
「……もっとキスして、近藤さん……」
こちらを見上げる近藤の小さな黒目には自分だけが映っている。ふっと表情を崩して笑う近藤は、いつものおバカを演じておどけたりしない大人の男性だ。お妙は胸をときめかせ、涙を滲ませる。背負うものが多い近藤だが、今だけは彼を独占できる。しかし、再び口づけられると再び思い出した。マヨボロを吸う男だ。近藤の口づけは甘く蕩けるのに、あの男が邪魔をしてくる。腹立たしい。
一度、唇を離そうとお妙は体を起こすが、背中と腰に触れていた近藤の腕に抱きすくめられ、更に深く口づけられた。一瞬、喉にまで届いた近藤の舌に体が反応する。この間の激しい情事を思い出して頬が一気に熱くなった。
「ふうぅっ」
こちらの体を気遣いながらも喉の奥を締めることを覚えさせられ、次にはこれ以上入らないからやめてくれと言っても聞かず、根元まで入った近藤に最奥を抉じ開けられるように突かれた。苦しいほどの快感が堪らなかった。
近藤は、お妙の背中を抱いたまま体を回転させた。縁側で寝転がるお妙は口づけに応えながらも懸命に自分にしがみついている。とても可愛らしい。
「お妙さん、また来ます。じゃあ」
と、離した唇を額に押しつける。ちゅっと可愛らしい音が鳴った。てっきり笑顔で了承してくれると思っていた近藤は、真顔で目を細めるお妙にどきりとした。
「何言ってるんですか。しますよ」
「いや、今日、もう遅いし……。お妙さんも仕事で疲れてるでしょう?」
「いいえ、私に火を点けたのはあなたです。してもらいますから」
「え、でも……」
と、近藤の目が泳いだ。お妙は自分の舌に残されたマヨボロの匂いに胸をじりっと焦がした。
心が綺麗で純真であるからこそ、欲望に忠実なのはわかる。しかし、自分を好きだと後をつけ回しておきながら自分以外の男と寝て、その足で自分の元へやって来る無神経さが頭にくる。
お妙は自ら着物の裾を膝で開いた。立てた膝で近藤の袴を探る。
「じゃあ、私がしてあげますから、ね?」
と、お妙は微笑んだ。
「近藤さん」
甘い声で名を呼び、近藤の手を裾の中へと導く。もう一方の手で近藤の首を引き寄せた。
「キスしかしてないのに、私のここ、もうすごくなってるんです。だから、お願い、近藤さん」
耳元でおねだりしたのが効いたのか、近藤は触れさせられていたお妙の下着に指を押し込んだ。静かに疼いていた所を掻かれ、お妙の背が反る。
「ほんとだ。すごくなってますね……」
「ん、あっ、でも、ここじゃ……」
と、お妙はそこに触れる近藤の手首を掴んだ。
「ですね。てか、新八くんは?」
近藤はお妙から離れて体を起こした。お妙も起き上がる。
「今日は万事屋に泊まり込むんですって」
「そっか、じゃあ、お言葉に甘えて泊っちゃおっかな」
照れながら頭を掻く近藤にぴしゃりと言い放つ。
「いえ、終わったらとっとと帰ってください。泊っていってなんてひとことも言ってませんよ。明日もお仕事あるでしょう?」
「ですね。さすがお妙さんだ。ちゃんと俺のこと考えてくれてて俺、感動しましたッ!」
と、元気よく頷く。どの口が言うのだとお妙は小さく溜息をついた。
「……終わっても足腰が立てば、ですけどね……」
俯いて呟いたお妙の言葉の意味がわからない近藤は小首を傾げる。
「近藤さんはここで待っててください。準備してきますから」
と、顔を上げたお妙はいつもの笑顔である。近藤はいつもと違った雰囲気を気のせいだと思い直してお妙に笑顔を向けた。
部屋に近藤を残して障子戸を閉めたお妙の笑顔は陰る。夜空に浮かんでいた月が雲に隠れたからだ。お妙は、戸締りをして回ると台所と自室へ向かってから近藤のいる部屋へと戻った。
「お待たせしてすみません」
お妙が明るい調子で部屋に入ると客用布団を敷いた脇に近藤が正座していた。勝手知ったる他人の家である。
「ふっ、不束者ですが、何卒よろしくお願いしますッ」
と、指を揃えて頭を下げる。
「なんの真似ですか」
冷ややかなツッコミに近藤は笑顔で答える。
「新妻です、お妙さん」
「私が新妻じゃないんですか」
と、お妙は近藤の背後へ回り、彼の両手を後ろへ回した。手首に玩具の手錠をかける。
かしゃんと音がして近藤は振り返った。
「あの、今の音って……」
「おもちゃの手錠です」
お妙はにこりと微笑んだが、近藤は渇いた笑みをこぼす。
「え……何プレイ?」
「処女を装った新妻にお仕置きプレイってところかしら」
と、持参したバナナの皮を剥いて近藤の口元へと運んだ。
「はい、あーん?」
可愛らしい声で促され、近藤は戸惑いながらも口を開いた。お妙はバナナを差し込み、バナナを食べようとした近藤を止める。
「あ、歯を立てちゃダメですからね。私のバナナが使い物にならなくなっちゃいますから」
目を丸くした近藤は食べようとしたバナナから口を離す。お妙は一度引いたバナナをまた口元へとやった。
「バナナにキスしてください」
近藤は言われた通りにバナナの先に口づけた。
「そう、舌を使って、ゆっくり丁寧に舐めてください」
素直に舌を這わせる近藤に、お妙は胸がじりっと焼け焦げるのを感じた。いつも丁寧に愛撫されるのは自分のほうなのに、どうして近藤はこうも素直に従うのだ。下唇を噛んだお妙はバナナを奥へと押し進めた。
「喉、締められますか?えづきそうだったら無理しないでやめてくださいね」
この間の近藤に言われたことをそのまま言う。近藤は、はっとして声を上げた。
「んぅ、お、ひゃへ、ひゃ……」
無理にしゃべろうとしてバナナを咥えたまま涎を垂らす。お妙はバナナを引き抜き、近藤は息をつく。
「ん……、お妙さん、こないだのイラマチオ、怒ってますか……?」
後ろ手に拘束されて無体なことをされているというのに、近藤は自分を気遣っている。嬉しいのに素直に喜べない。お妙は、近藤の口端の涎を舐めとって口角を上げた。
「怒ってませんよ」
と、微笑んでバナナをやや強引に近藤の唇へと差し込んだ。
「気持ちよかったです」
浅くしていたバナナを引くと、近藤の唇に吸い引かれてしまう。お妙は目を伏した。思っていた通りだ。近藤は、あの男のものを受け止めている。焼け焦げるだけだったお妙の胸に煙が立ち上った。
「それに、あなたになら苦しめられるのも、そう悪くありませんから」
と、近藤が咥えるバナナの皮を剥き落とし、上向きに曲がった先を見せつけるように舐め上げる。自分のものをそうされたように錯覚した近藤の腰が揺れる。
「ねえ、近藤さん。苦しくて辛いのって、どうしてあんなにいいの?私に教えてください……んっ」
お妙はバナナを咥え、その先を近藤へと押し込んだ。近藤は息苦しくなって小さく呻く。
「大丈夫ですか?えづきそうになったら教えてくださいね。でも、私の大事なバナナを噛みちぎっちゃダメですよ」
お妙は近藤の袴の紐を解き、下着の上から近藤のものに触れた。優しく口づけられ、しなやかな指に撫でられる。近藤の口内に溜まった唾液が声とともにこぼれてしまう。
「ぅぐっ、んんっ」
口は塞がれ、頼りない刺激で腰がひとりでに揺れる。硬さが増すと下着から取り出され、濡れた熱い口内に先走った液を搾取されて腰が熱くなる。ひと際硬くなるとお妙の口から解放されてしまった。
「んっ、ふぅう……っ」
辛そうな近藤は眉根を寄せ、目元を赤くしていた。よく見れば涙目になっている。初めて見る近藤の表情にお妙は口惜しそうに下唇を噛みしめた。自室から持ってきた巾着に視線をやる。
できればこんなことをしたくなかった。してしまえばもう後戻りはできないのだから。けれど、近藤が悪いのだ。自分という者がありながら、別の男と関係を持つことなど許せはしない。お妙の胸を焦がして上げた煙は、とうに充満していた。今更、引き返せるものか。
お妙は近藤の背後に回って着物の裾を開いた。下着を脱ぎ、持参した巾着の中から取り出す。近藤は振り返ったが、お妙に顔の向きを戻された。
「ダメ、見ないで……」
お妙は畳に転がっているものを静かに眺める。柔らかい素材でできている張形は双方に挿入可能な仕様でベルトがついている。所謂ペニスバンドだ。じっと見つめていても仕方がないのでそれを拾うが、いざ着けようとしても手が動かない。こんなものより近藤のものが欲しい。しかし、近藤は、それだけでは満足しないのだ。だから自分は今、こんなものを持ち出している。しかも、これは近藤と使おうとしたものではない。お互いさまである。
滅裂な思考の中、ひとつだけ明確にわかっていることがある。お妙は、込み上がる切なさを振り切ろうと口を開く。
「近藤さんの、ゴールドフィンガーで、ほぐしてください……」
と、後ろ手に手錠をかけられている近藤の右手を取って自分の着物の中へと導いた。
浮気の仕返しはしたいけど、ちゃんと近藤さんに触ってほしい……。
まだ下着を穿いていると思っていた近藤は濡れた襞の感触に驚いて、そこから手を離した。振り返り、膝立ちしていたお妙の傍にあるものに目を見張る。何故そんなものがあるのだと目で訊ねる近藤に気づいたお妙は白状した。
「それは、九ちゃんとのおつき合いを真剣に考えた時のものです……」
近藤は咥えていたバナナを咀嚼するとお妙に口づけ、口内に残っていたバナナをお妙の口へと移した。
「んっ……!」
「俺のバナナカスです。お妙さんなら飲み込めますよね」
静かに圧する口調に緊張しながらお妙は近藤によって噛み砕かれたバナナを飲み込んだ。
「……怒ってるんですか……?」
「はい、怒ってますよ。それが手元にある経緯に怒ってるわけじゃない。あなたの中に入るのは、俺以外、認めない」
激しく口づけられ、お妙の腰はへたる。ぺたんと座った膝を近藤の体が押し入るように割り、お妙は後方に手を突く。
「はは……、俺のが立ちすぎてお妙さんのそこを擦れねェ。お妙さん、手ェ貸してください」
分身に添えたお妙の手は、自然と入口へと導く。
「ダメですよ、お妙さん。まだ入れません。あなたのいらやしく濡れたそこを俺ので擦るんです」
「ん……でも……」
物欲しそうなお妙は立ち上がる近藤を押し下げる。が、近藤の膝が遠のき、あてがっていた所からも離れてしまった。
「欲しいですか?」
近藤の口角は上がっていた。楽しそうだ。悔しい。自分が何をしようとも勝てないのはわかっているが、やはり悔しい。
答えを急かすように近藤はお妙の敏感な箇所を分身で弄ぶ。
「はぁっ、あんっ、くだ、さい……っ」
にこりと笑った近藤は迷うことなく挿入し、一気に貫かれたお妙は、背筋に奔る快感に戦慄く。声を上げる間もなく達し、体内の近藤の存在感に酔いしれた。
* * *
昼食を摂り終えた隊士たちが屯所で食後の一服や運動で心身を休めていると、思い出し笑いをしてはにやついている人物がいた。縁側に腰掛け、アイマスクとイヤホンを装着した沖田の隣で思い出し笑いをひとまず治めて茶を啜る。
「どーしたんですか、局長。さっきからずっと笑ってるじゃないですか。何かいいことでもあったんですか」
と、原田は思い出し笑いをしていた近藤に訊ねる。
「んー、うんー。あんま言えないけどね」
嬉しそうに顔を緩める近藤の締りのなさと言ったら半端ない。そんな顔のままでいたら、きっと鬼の副長がキレてしまう。原田や隊士たちは、構って欲しそうな近藤にこれ以上は触れるべきではないと判断し、放置した。だが、近藤は自らぶちまける性分だ。なんだか嫌な予感がする。それも、今日は朝から溜まりに溜まった書類未提出の催促に苛立ちを隠すことなく土方が屯所内を回っていたからだ。複数の隊士たちの予感は的中し、土方はやって来る。とばっちりを受ける前に退散するが吉だと数人の隊士たちが逃げる中、土方に向かっていく隊服がひとり。近藤だ。顔色を青くする者、冷や汗を掻く者、表情を強張らせる者、引き攣った笑みを浮かべる者――一同は、鬼が落とす雷に警戒する。
「トシトシぃ、ねえ、聞いて聞いてぇ」
「何だよ」
火が点いていない煙草を咥えた不機嫌な土方の耳元で近藤は囁く。
「昨日のお妙さんね、ずっといきまくりですんごい可愛かったんだ?」
予告もなく惚気られた土方は呆けて咥えていたマヨボロを落としそうになって我に返った。土方の心に狼煙が上がる。
「喧嘩売ってんのか、近藤さん」
さぞ憎たらしそうに舌打ちをする。土方がまんまと釣れた手応えを感じ、近藤は釣り糸を巻き上げた。
「いや、売ってない。火、点けてるだけ」
真顔で答えられ、土方の眉が引き攣る。
「この野郎、よくもぬけぬけと。アンタに目をつけられたあの女が不憫だ。手ェ引いてやれよ」
「やだ」
即答する近藤に土方の苛立ちは募る。
「てか、トシは不憫じゃねーの?」
「アンタと一緒に地獄に堕ちるのは俺だろ?」
と、土方は煙草に火を点けた。
うーん、どうだろうな。
近藤は胸の前で両腕を組んでくすりと笑う。何を考えているのやら何も考えていないのやら、掴めない近藤にささやかな仕返しをと、土方は肺に溜めていた煙を近藤に向かって吐いた。
「ちょ、煙い。やめて、トシ」
「こっちだってやだよ。今晩、覚えとけよ、近藤さん」
トシが先か、お妙さんが先か。俺、どっちに刺されんだろな。
煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
Text by mimiko.
2016/01/13