近藤さんが卑猥語発してます。ピー音的隠し入ってません。無修正です、ご注意を。
口説き文句
「おっ妙っさ~ァん!」
今日も間の抜けたゴリラ声が志村家の庭に響いた。袴に羽織姿の近藤を見て妙は溜息をついて取り込んだばかりの洗濯物を畳みだす。
「お休みなんでしょう?こんな所へわざわざいらっしゃらないで、ゲームでもしてらしたらよかったのに」
突き放すような言い方は、妙の通常である。しかし、その頬は少しむくれていた。近藤は顔を綻ばせて縁側へ腰掛けた。開かれている障子戸の中の妙へ体を向ける。
「こんな所とはどういうことですか。いくらお妙さんでも、そんなこと言うのは許しませんよ。ここは俺とお妙さんの絶対不可侵領域の愛の巣であるというのに!」
「許していただかなくて結構ですから私が要塞モードのスイッチを押す前にお帰りください」
「そう言わずに許してくださいってばァ」
語尾を伸ばすゴリラの甘えた声に妙の片眉が引き攣る。相変わらず話が噛みあわない。自分にゴリラ語を話せというのか。
「確かに鞘花ちゃんとは熱海旅行へ行きました!だがしかし、俺にはやっぱりお妙さんしかいない!鞘花ちゃんと一緒の布団で寝てても、お妙さんのことが頭からちっとも離れなぐぼぉェェェ!!」
苛立って最後まで聞いていられなくなった妙は、着物の裾が捲れようが気にも留めず、煮えたぎる衝動のまま近藤の鼻に右ストレートを決め込んだ。近藤が腰掛ける側へ力いっぱい踏み込んだ左の足裏がじんじんと熱を持つ。が、それとは別の熱が着物の裾から露出した左の膝に触れた。鼻にはまだ右の拳がめり込んでいるというのに、近藤の右の掌は、妙の左膝から膝上、内側へと動く。急激に恥ずかしくなり、妙の顔は熱くなる。
「何してっ、やめてっ」
近藤の鼻を打っていた右手を下ろし、両手で近藤の大きな右手を掴む。
「ええ~?やですよォ。やめませんってェ」
近藤の調子は我が家へやって来た時から変わっていない。右ストレートのダメージなどまるで喰らっていない。いつもそうだ。何度、パンチを繰り出そうが、蹴りを入れようが、まるで効いていない。
近藤の右手に気を取られていると、いつの間にか腰にもう一方の手が巻かれていた。抱き寄せられ、妙の体は硬くなる。首元に近藤の顔が寄り、反射的に顔を背けると、顎下に口づけられ、肌がざわつく。
「やっ」
高くか細い声で抵抗してしまい、妙は自分の口元を覆った。こんな嫌がり方が逆効果なのを知っているからだ。着物の中の胸元がざわついた。顎に、首に、耳に口づけられ、呼吸を乱そうとする声を飲み込む。無理に飲み込んでは更に呼吸を乱すことになるのを知っていても、そうせざるをえない。
「ね、お妙さん。にゃんにゃんしましょう?」
首元で囁かれ、妙の目が点になる。瞬きすることを忘れてしまったが、目は乾くことなく瞬きは再開される。
「……ダメ?」
と、耳朶を甘噛みする。妙が肩を竦ませると今度は耳元で言う。
「俺とセックスしましょう。そうしましょう、ね?」
普段通りの声音で言われて妙は瞬きを繰り返す。
「……これもダメか……」
と、呟く。
「じゃあ、俺のマツタケをお妙さんのアワビに入れるっていうか、俺の勃起したちんぽをお妙さんの濡れ濡れになったおまんこに入れたぱァァァ!!」
耐えられなくなった妙は渾身の右アッパーを近藤の顎へと決めた。
「この変態ゴリラがァァァ!!」
悪いものを掃うように妙は両の掌を打ち、のした近藤に背を向けて言った。
「最低です。その気がないなら手を出してこないでください。それとも手を出したことを後悔してるんですか」
弾みで一線越えてしまったことを自分は後悔していない。しかし、恋愛について初心者である自分なのだから年上である近藤のほうが導いてくれなくては、すぐに身動きが取れなくなってしまう。いや、それでもいいのかもしれない。身動きなど取れなくなっても、衝動のままでも、相手が近藤であるならば構わない。とても優しく愛されて幸せだったのだから、自分はまたあの幸福を味わいたいだけだ。なのに、近藤はおどけてはぐらかす。ずるい男だ。
「お妙さん、誤解です」
縁側に尻を載せたまま背を逸らせて庭石に頭部を垂らしていた近藤は逆さまになっている志村家の庭を眺めながら言った。
「あなたといい仲になれて浮かれてるだけです」
近藤は体を起こし、縁側に胡坐を掻く。
「いや、それだけじゃねーな」
と、背を向けたままの妙を見つめる。
「緊張してるんです。俺よりお妙さんのほうが、よっぽど肝が据わってる。いつもと変わりないのに、ちゃんと俺を受け入れてくれる。それが嬉しくて、やっぱり浮かれちまう。……って、結局浮かれてるだけかァ、ははは」
己の不甲斐なさを笑った近藤は、腰を上げた。
「出直してきます。それじゃ……」
近藤は妙に背を向ける。庭で脱いでいた草履を履くと背中に軽い衝動を受ける。背後から腹へと伸びてきた妙の両手が近藤の歩みを止めた。
「ダメ……」
頼り気のない声が背に響く。近藤は腹部に巻きついた妙の細い腕を撫でる。
「ちょっとうまくいかないからってすぐにリセットボタン押したらダメなんだから……もう、近藤さんのバカ、許してあげない……許してほしい?……じゃあ、十回キスしてください……」
最近まで夢中になっていた美少女ゲームの台詞と似たようなことを呟かれ、近藤は妙の腕を解いて振り返った。