かっこいい近藤さんはいません。おバカな近藤さんがいます。気をつけてください。
ツイッターでもお世話になってるmyyuさんとアレな話で盛り上がってネタ頂戴しました。ありがとうございます!
ツイッターでもお世話になってるmyyuさんとアレな話で盛り上がってネタ頂戴しました。ありがとうございます!
水に流してください
魔が差すとは正にこのことを言うのだろうと思いつつ、何故か俺は妙に落ち着いていた。理由はこの包み込まれたフィット感にあるのだろう。
彼女のしなやかな手によってもたらされたそれに一抹の安心感と心地よさを感じる。
目を閉じ、深呼吸をする。脳に酸素を送り、目を見開いた。
いや、彼女の手によってもたらされたんじゃなくて彼女の弟にもたらされたのかもしれないが。
志村家の厠にお邪魔していた俺は厠の戸を叩こうと利き手を軽く握った。
ていうか、この際どっちでもいい! お妙さんでも新八くんでもどっちでもいいから! もう俺、藁掴むんでお願いですから助けてくださいィィィ!
握った手には俺にしか見えない藁を掴み、救いを求めて戸を打つ寸前、拳を止めた。
ダメだ! こんな姿をお妙さんや新八くんに見られようものならば、今度こそ俺は恒道館出禁になってしまう。それだけは避けたい!
不意に厚紙に包まれたモノが揺れた。
「はァ……」
何やってんの俺。好きな女の家の軒下潜り込んで便意催して厠駆け込んでスッキリしたはずなのにトイレットペーパーの芯にムラムラするとか、どう考えても馬鹿だろう。馬鹿だ。馬鹿者以外の何者でもない。
しかし、言い訳はさせてくれ。屯所の厠に置いてあるトイレットペーパーの芯ならばムラっときはしない。志村家の厠に置いてあるトイレットペーパーの芯だからこそムラっときたんだ。もしかしたらこの芯のみとなった以前のトイレットペーパーはお妙さんの大事なところを拭い続けて消耗し、残ったこの芯はお妙さんの白魚のように美しい手指に包まれ、お妙さんによって置かれた。
……かもしれない。普通に新八くんがウンコして新八くんが後で芯捨てとこってひとまずその辺に置いただけかもしんないけど。でも、その新八くんから出たウンコってお妙さんが作った卵焼きかもしんないからね。ていうかほぼお妙さんの手料理のはず。仮に新八くんのケツ拭ってペーパーなくなった芯でも結局はお妙さんの手料理が拭われて消耗したトイレットペーパーの芯。つまりはお妙さんが拭われたトイレットペーパーのなれの果て。
「いやいやいや……」
なんとかお妙さんを絡めて思案してみても発想がきつい。厚紙の筒もいい加減きつい。これ以上経過するとますます抜けずに状況は悪化の一途をたどるだろう。
抜けないし抜けない。どうしよう。てかここ厠だしいい加減立ち去ったほうが身のためじゃね? お妙さんとか新八くんとかそのうち誰がやって来るかもしれねェし。帰ろう、俺は帰るべき軒下へ帰ろう。
厠の壁にかけていた袴を手に取り、穿こうと片足を上げたその時、空気が張り詰めるのを感じた。厠の出入り口を見上げれば俺は殺されるだろう。いやこのまま俺は仕留められてしまっていいのか。せめてトシと総悟には俺を仕留めた人物の名を残さなければ。こんなところで犬死になんてしたくねェ。俺は惚れた女も抱けない負け犬じゃない。
開かれた厠の戸の前で殺気を放つ人物をお妙さんのみと確認した俺は呟いた。
「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラじゃない、メスゴリラだ」
「誰がメスゴリラじゃァァァこぉのぉ変態ゴっ、きゃ!」
掴んでいた袴を離して拳を握っていた彼女の背と腰に両腕を回す。大声を出されないように胸板で口許を覆うように抱き締めた。
「んっ、いっ、やっ、やめてッ、近藤さんッ」
「大丈夫です、襲ったりしません。話聞いてくれますか」
「そんなかっこしてるのに襲わないなんて信じられませんッ」
「そんなかっこって?」
「だ、だから、その……」
先ほどの強気な声は何処へやら、彼女の声は胸板へと篭る。
「お……にトイレットペーパーの芯が……そうなって……」
ははは、ばっちり見られてたよ。これは恥ずかしい。恥ずかしいのにお妙さんの恥ずかしがってるのかわいいなコレ。お……って、お妙さんの口から、お……って! ダッハッハッ!
「見られちゃってるなら話は早いですね」
腕の中にすっかり収まってるままのお妙さんを抱き締め直す。
「助けて、お妙さん。俺のイチモツから抜けなくなったトイレットペーパーの芯、抜くの手伝ってください」
「なんで私が手伝わないといけないんですかッ、離して近藤さんッ」
「そこをなんとかァ」
腕の中から這い出ようとする彼女に甘える。困っている者を見れば放っておけない性分なのは織り込み済である。
「なんとかァじゃありませんよ、大体なんでそんなことになってるんですかッ」
ぐっと胸を押されて向かい合わせの空間が広くなる。俺を見上げるお妙さんを見つめ返して微笑んだ。
「お妙さんの穴かと思ってつい」
正直に言うと抵抗がなくなった。彼女の両手が降ろされると同時に顔が下へ向く。
「わかりました」
やけに落ち着いた声に承諾され、俺は微笑んだまま不思議に思う。てっきり右ストレートでも鼻にお見舞いされると思ったのになんで?
「お手伝いしますから一度、私を放してください」
先が読めずに言われた通り細腰を抱いていた両腕を下ろした。お妙さんは無言で一歩下がると俺の左側へと手を伸ばす。
何をする気だろう、叫ばれる? それはまずい。が、無理に押さえつけたり手荒なことはしたくない。てか左手側って確か――。
「じっとしていてくださいね」
にこりと笑うお妙さんの手には抜刀された俺の得物が握られていた。狭い厠の中で剣を握ったため後ずさった彼女の背に戸が当たった。微かに戸ががたつき、小さな物音で我に返る。
「ちょッ、待ってお妙さんッ! 無理だから、ソレ無理だからッ!」
トイレットペーパー芯の先に剣先が向けられた。小さな筒に詰まった肉が緊張で立ち上がってしまう。
「あら、どうしてです? トイレットペーパーの芯に挟まった近藤さんを抜けばいいんですよね?」
「抜くっていうか斬ろうとしてませんんん?!」
「ですから芯を切ろうと思って」
と、お妙さんは右手で剣を握ったまま左手を自分の頬に添えた。
かわいらしくきょとんとしてる場合じゃないよお妙さん、ソレ俺の大事な物ごと切れちゃううう!!
「ご自分じゃ向き的に無理だから私に助けを求めたんですよね?」
「あの、剣、引かなきゃ切れませんよ? お妙さん知ってるよね? わかってるよね? 和紙より紙の厚みあるし、スパッとやるにも芯と俺のモンの間に隙間がねェし」
「じゃ、手っ取り早く斬っちゃいましょうか、スパッと」
一度剣を下ろして俺の横へ寄り、剣を構え直した。間違いなく俺の大事な物を根元から切り落とそうとしている。
「お妙さんッそれだけは勘弁してッ! 俺が悪かったですからッ!」
スパッとだけは待ってくれ。しかし、剣は構えられたままである。
「ハハハ……やっぱり怒ってますよね……」
乾いた笑みをこぼしながら背中に汗が流れるのを感じる。菩薩の笑みは言った。
「呆れてます」
だよね。俺も自分に呆れてます、お妙さん。めくるめく官能的な事が起こったりしないだろうかと思ったけど最早これまでか。無念だが仕方あるまい。
「他人の家へ侵入を繰り返してこんなところにまで潜り込んでこんな悪ふざけするなんて……本当に侍なんですか。こんな立派な剣を持ってらっしゃるのに……」
ぐうの音も出ない。本気で呆れられている。
お妙さんは真剣を眺めながら溜息をつくと剣を鞘に収めた。
もう帰ろう。俺は帰るべき屯所の水風呂にでも浸かって身も心も清めよう。物も縮こまれば芯から解放される。そう、この芯は俺の邪心の具現化。邪欲という名のトンネルにまんまと迷い込んで退路を断たれかかったが、ここに迷える衆生を侍道へ導く菩薩が在らせられた。改めて思う。ああ、お妙さん、君はなんて慈悲深い人なんだ。
刀を置いていたところへ戻した彼女はこちらに向き直り、背を屈めた。茶色みがかった横の髪がさらりと落ちる。白く細い指が芯にそっと触れた。
「これ、どうすれば抜けるのかしら。トイレットペーパーの芯って濡らすと溶けましたっけ?」
と、芯を優しく摘まんだまま顔を見上げられた。
菩薩ゥゥゥゥ!! 何してんのォォォォ?! ソレ確かにトイレットペーパーの芯だけど、中身俺の肉棒詰まってんのッ!!
あれこれ考えるよりあれこれ試してみましょうと、彼女は手洗いの水を手で汲み、それを肉棒詰めトイレットペーパー芯にかけて芯の厚紙が溶けるか試みた。結果、溶けず。形を変えて物との隙間が僅かにできたが厚紙を摘まんで引き裂けるほどの間はやはりなく、厚紙を破ることは叶わない。
俺が起こした事故をもらい事故してしまっただけなのに責任感の強いお妙さんは俺のためにマッドサイエンティストになってくれる。狂気な行為を平気で実行してくれる健気さに感動しきりである。
しかし、懸命に人道的支援に勤しむ彼女は俺の物に素の指が触れようとも構わず容赦なく引っ張り、揺らし、爪を立ててくれる。拷問ですか。痛いのに立っちゃうんですけど。ヤバイ。終わりが見えん。延々とお妙さんに物を弄られ倒すのか俺は。辛いがそれはそれでよし。そうしていつか俺の物にドキドキしてくれたら今度は俺がお妙さんの大事なところを弄り倒してアンアン言わせてやるのか。ならばよし。
腹を決めたが苦痛なんだか快感なんだか自分でもわからない息をついてしまった。ヤバイ。鈴口への強めの刺激はヤバイって。
万策尽きたお妙さんは遂に床へ膝をついてしまった。目の前にそそり立つ肉棒詰めトイレットペーパー芯を見た彼女の瞳が細まる。
「私の穴、こんな色してないのにどうして間違うんですか、まったく」
と、彼女は形の整った桜色の唇を開いた。可愛らしい紅い舌を覗かせ厚紙に包まれた物が迎え入れられる。
え。こんな色してないって、こういう茶色って感じでなくて真っピンクとかそういう色ですかァァァァ!?
と、卑猥な水音を立てる彼女に訊こうとしたが血走った目が捉えたのは見知った屯所の風呂場だった。身体が冷え、筋肉が硬い。
え。なんで水風呂。てか、水風呂で気ィ失ってたって俺、大丈夫? ちゃんと生きてる? 死んでない? ホントにちゃんとゴリラしてる? ドザエモンなってない?
自分の顔を両手で触って確認し、我に返って風呂場を見渡す。自分以外の者はおらず、ふと下半身に違和感を感じて視線をやると縮こまった分身から茶色みがかった厚い紙の筒が抜けるところだった。
どうやって戻ってきた俺ェェェェ!? なんで肝心なところ覚えてねェのォォォォ?! てか、この芯んんんん!! 水面に浮かんだトイレットペーパーの芯を掴み上げて確認した。お妙さんによってもたらされた芯の変形も僅かな破れも皆無である。
さっき俺がはめてた芯と別物ォォォォ!! えええ?! ちょ、いつから夢?! 最初から!? まさか本当に屯所の厠に置いてあったトイレットペーパーの芯でやってたってのか?! 穴となったら見境なしか、そうなのか勲!! おまえって奴ァとんでもねェ野ゴリラだな!! すみません、お妙さん。俺って奴ァ正真正銘の変態でした!! どうかこの通りだ、許してくれお妙さんんんん!!
水風呂に浸かったまま土下座する。勢い余って湯船の底に頭を打ちつけた俺が次に目を覚ましたのは暗闇だった。身体がやけに冷えている。てか、この感じって便意だよ!!
慌てて狭い暗闇から脱出するとそこは志村家の軒下であった。
最早どこからが夢なのか現実なのかわからない。思案しようとしたが待ったの利かない便意を解消すべく志村家の厠へお邪魔する。すっかりスッキリすると夢と同じ箇所にトイレットペーパーの芯が置かれているのが目に留まった。
ふッ、俺は成長したのさ。もうトイレットペーパーの芯には挟まらねェよ。しかし、あの夢の中の絵面やばかったな。お妙さんが俺のモンをあんな美味そうに咥えてくれるなんて。芯つきだったけど。
思い返すとムラムラが募り、袴を穿こうと片足を上げた着物と長襦袢の隙間を縫ってトランクスの裾から立ち上がった物が揺れ出た。所構わず元気になる分身に苦笑すると空気が張り詰めるのを感じた。厠の出入り口を見上げれば俺は殺されるだろう。いやこのまま俺は仕留められてしまっていいのか。せめてトシと総悟には俺を仕留めた人物の名を残さなければ。って言ってもどうせ現実的には新八くんなんだろうけど。デジャヴ? とかいうのだっけ? そういうのって大体、期待外れするもんね。
開かれた厠の戸の前で殺気を放つ人物を確認した俺は目を見開いた。
「なんでお妙さんんんん?!」
「なんでじゃありませんよ。他人の家のトイレに断りもなく立ち入るなんてどういう了見ですか。警察呼びますよ」
袴を途中まで引き上げ、屈んでいた背を伸ばして続ける。
「警察であるこの僕がこちらのお宅の厠に危険物がないことを確認しておきました」
「あなたが危険物です。警察呼びますよ」
「いやいや。俺こそが警察なんで安心してください」
「安心できるわけないでしょう。今すぐソレを仕舞ってください。無断で立ち入った他人の家のトイレでそんなモノ堂々とブラブラさせないでいただけます? ホントに警察呼びますよ」
「ん?」
口許に手をやって眉を顰めるお妙さんの視線の先を追うとそこには生まれてからすっかり成長し熟成された男のアレがあった。着物と長襦袢とトランクスの裾とちゃんと穿けていない袴の隙間からすっかりお目見えしている。
……あれ、隠れてなかった。ははは、これは恥ずかしい。しかし、今更下手に隠せるものか。そんなことしようものなら男が廃る。そう、男の勃起の股間もとい、男の沽券にかかわる!! 勲やってしまえッ!! 今がその時だッ!! ええい、ままよッ!!
口許を覆っていた彼女の右手首を掴んで引き寄せた。腰を抱いて睫毛の長い茶色の瞳を見下ろす。
「俺は恋愛でもなんでもすべてにおいて直情的だが君を想う気持ちに嘘偽り一切ない。信じてくれ、お妙さん」
ウンコ漏れそうだった緊急事態が故の厠拝借であって、お妙さんちの厠だからとマスターベーションしてたわけじゃないです!!
彼女はこちらを見上げて大きな瞳に俺の顔を映す。
しかし、今すぐにでもその綺麗な口を割り開いて直に濡れほぐれるだろう口も押し開いてやりたい欲望はある。すみません。
頭では申し訳ないと思っていても体は自然と動く。細腰を抱く腕に力を入れると彼女と密着した。
うん、生勃起のアレとお妙さんの着物着用の太腿が。ヤバイと思ったが押し切らせてもらおう。もう堪え切れない。
「だから、この俺と合体しゴフゥゥゥゥ!!」
「だからって、その生暖かい汚物を押しつけてくんじゃねェェェェ!!」
押し切ろうとしたガッツも虚しく俺は股間を蹴り上げられ、志村家の厠の天井と合体した。
「てめェは天井と合体してろ」
と、お妙さんは手の平を叩き合わせる。
だよね、そうだよね。自分ちの厠に無断侵入してた男が勃起しながら口説いてきたらそうなるよね。
お妙さんは一度厠の扉を閉めたがすぐに扉を開き、厠に入って来た。天井と合体したままの俺の着物を直し、袴を穿かせてくれる。
「しばらくそこで頭冷やしてください」
「はい……」
はァ、お妙さんってホント律儀で優しいよな。そういうところも好きです。
彼女のしなやかな手によってもたらされたそれに一抹の安心感と心地よさを感じる。
目を閉じ、深呼吸をする。脳に酸素を送り、目を見開いた。
いや、彼女の手によってもたらされたんじゃなくて彼女の弟にもたらされたのかもしれないが。
志村家の厠にお邪魔していた俺は厠の戸を叩こうと利き手を軽く握った。
ていうか、この際どっちでもいい! お妙さんでも新八くんでもどっちでもいいから! もう俺、藁掴むんでお願いですから助けてくださいィィィ!
握った手には俺にしか見えない藁を掴み、救いを求めて戸を打つ寸前、拳を止めた。
ダメだ! こんな姿をお妙さんや新八くんに見られようものならば、今度こそ俺は恒道館出禁になってしまう。それだけは避けたい!
不意に厚紙に包まれたモノが揺れた。
「はァ……」
何やってんの俺。好きな女の家の軒下潜り込んで便意催して厠駆け込んでスッキリしたはずなのにトイレットペーパーの芯にムラムラするとか、どう考えても馬鹿だろう。馬鹿だ。馬鹿者以外の何者でもない。
しかし、言い訳はさせてくれ。屯所の厠に置いてあるトイレットペーパーの芯ならばムラっときはしない。志村家の厠に置いてあるトイレットペーパーの芯だからこそムラっときたんだ。もしかしたらこの芯のみとなった以前のトイレットペーパーはお妙さんの大事なところを拭い続けて消耗し、残ったこの芯はお妙さんの白魚のように美しい手指に包まれ、お妙さんによって置かれた。
……かもしれない。普通に新八くんがウンコして新八くんが後で芯捨てとこってひとまずその辺に置いただけかもしんないけど。でも、その新八くんから出たウンコってお妙さんが作った卵焼きかもしんないからね。ていうかほぼお妙さんの手料理のはず。仮に新八くんのケツ拭ってペーパーなくなった芯でも結局はお妙さんの手料理が拭われて消耗したトイレットペーパーの芯。つまりはお妙さんが拭われたトイレットペーパーのなれの果て。
「いやいやいや……」
なんとかお妙さんを絡めて思案してみても発想がきつい。厚紙の筒もいい加減きつい。これ以上経過するとますます抜けずに状況は悪化の一途をたどるだろう。
抜けないし抜けない。どうしよう。てかここ厠だしいい加減立ち去ったほうが身のためじゃね? お妙さんとか新八くんとかそのうち誰がやって来るかもしれねェし。帰ろう、俺は帰るべき軒下へ帰ろう。
厠の壁にかけていた袴を手に取り、穿こうと片足を上げたその時、空気が張り詰めるのを感じた。厠の出入り口を見上げれば俺は殺されるだろう。いやこのまま俺は仕留められてしまっていいのか。せめてトシと総悟には俺を仕留めた人物の名を残さなければ。こんなところで犬死になんてしたくねェ。俺は惚れた女も抱けない負け犬じゃない。
開かれた厠の戸の前で殺気を放つ人物をお妙さんのみと確認した俺は呟いた。
「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラじゃない、メスゴリラだ」
「誰がメスゴリラじゃァァァこぉのぉ変態ゴっ、きゃ!」
掴んでいた袴を離して拳を握っていた彼女の背と腰に両腕を回す。大声を出されないように胸板で口許を覆うように抱き締めた。
「んっ、いっ、やっ、やめてッ、近藤さんッ」
「大丈夫です、襲ったりしません。話聞いてくれますか」
「そんなかっこしてるのに襲わないなんて信じられませんッ」
「そんなかっこって?」
「だ、だから、その……」
先ほどの強気な声は何処へやら、彼女の声は胸板へと篭る。
「お……にトイレットペーパーの芯が……そうなって……」
ははは、ばっちり見られてたよ。これは恥ずかしい。恥ずかしいのにお妙さんの恥ずかしがってるのかわいいなコレ。お……って、お妙さんの口から、お……って! ダッハッハッ!
「見られちゃってるなら話は早いですね」
腕の中にすっかり収まってるままのお妙さんを抱き締め直す。
「助けて、お妙さん。俺のイチモツから抜けなくなったトイレットペーパーの芯、抜くの手伝ってください」
「なんで私が手伝わないといけないんですかッ、離して近藤さんッ」
「そこをなんとかァ」
腕の中から這い出ようとする彼女に甘える。困っている者を見れば放っておけない性分なのは織り込み済である。
「なんとかァじゃありませんよ、大体なんでそんなことになってるんですかッ」
ぐっと胸を押されて向かい合わせの空間が広くなる。俺を見上げるお妙さんを見つめ返して微笑んだ。
「お妙さんの穴かと思ってつい」
正直に言うと抵抗がなくなった。彼女の両手が降ろされると同時に顔が下へ向く。
「わかりました」
やけに落ち着いた声に承諾され、俺は微笑んだまま不思議に思う。てっきり右ストレートでも鼻にお見舞いされると思ったのになんで?
「お手伝いしますから一度、私を放してください」
先が読めずに言われた通り細腰を抱いていた両腕を下ろした。お妙さんは無言で一歩下がると俺の左側へと手を伸ばす。
何をする気だろう、叫ばれる? それはまずい。が、無理に押さえつけたり手荒なことはしたくない。てか左手側って確か――。
「じっとしていてくださいね」
にこりと笑うお妙さんの手には抜刀された俺の得物が握られていた。狭い厠の中で剣を握ったため後ずさった彼女の背に戸が当たった。微かに戸ががたつき、小さな物音で我に返る。
「ちょッ、待ってお妙さんッ! 無理だから、ソレ無理だからッ!」
トイレットペーパー芯の先に剣先が向けられた。小さな筒に詰まった肉が緊張で立ち上がってしまう。
「あら、どうしてです? トイレットペーパーの芯に挟まった近藤さんを抜けばいいんですよね?」
「抜くっていうか斬ろうとしてませんんん?!」
「ですから芯を切ろうと思って」
と、お妙さんは右手で剣を握ったまま左手を自分の頬に添えた。
かわいらしくきょとんとしてる場合じゃないよお妙さん、ソレ俺の大事な物ごと切れちゃううう!!
「ご自分じゃ向き的に無理だから私に助けを求めたんですよね?」
「あの、剣、引かなきゃ切れませんよ? お妙さん知ってるよね? わかってるよね? 和紙より紙の厚みあるし、スパッとやるにも芯と俺のモンの間に隙間がねェし」
「じゃ、手っ取り早く斬っちゃいましょうか、スパッと」
一度剣を下ろして俺の横へ寄り、剣を構え直した。間違いなく俺の大事な物を根元から切り落とそうとしている。
「お妙さんッそれだけは勘弁してッ! 俺が悪かったですからッ!」
スパッとだけは待ってくれ。しかし、剣は構えられたままである。
「ハハハ……やっぱり怒ってますよね……」
乾いた笑みをこぼしながら背中に汗が流れるのを感じる。菩薩の笑みは言った。
「呆れてます」
だよね。俺も自分に呆れてます、お妙さん。めくるめく官能的な事が起こったりしないだろうかと思ったけど最早これまでか。無念だが仕方あるまい。
「他人の家へ侵入を繰り返してこんなところにまで潜り込んでこんな悪ふざけするなんて……本当に侍なんですか。こんな立派な剣を持ってらっしゃるのに……」
ぐうの音も出ない。本気で呆れられている。
お妙さんは真剣を眺めながら溜息をつくと剣を鞘に収めた。
もう帰ろう。俺は帰るべき屯所の水風呂にでも浸かって身も心も清めよう。物も縮こまれば芯から解放される。そう、この芯は俺の邪心の具現化。邪欲という名のトンネルにまんまと迷い込んで退路を断たれかかったが、ここに迷える衆生を侍道へ導く菩薩が在らせられた。改めて思う。ああ、お妙さん、君はなんて慈悲深い人なんだ。
刀を置いていたところへ戻した彼女はこちらに向き直り、背を屈めた。茶色みがかった横の髪がさらりと落ちる。白く細い指が芯にそっと触れた。
「これ、どうすれば抜けるのかしら。トイレットペーパーの芯って濡らすと溶けましたっけ?」
と、芯を優しく摘まんだまま顔を見上げられた。
菩薩ゥゥゥゥ!! 何してんのォォォォ?! ソレ確かにトイレットペーパーの芯だけど、中身俺の肉棒詰まってんのッ!!
あれこれ考えるよりあれこれ試してみましょうと、彼女は手洗いの水を手で汲み、それを肉棒詰めトイレットペーパー芯にかけて芯の厚紙が溶けるか試みた。結果、溶けず。形を変えて物との隙間が僅かにできたが厚紙を摘まんで引き裂けるほどの間はやはりなく、厚紙を破ることは叶わない。
俺が起こした事故をもらい事故してしまっただけなのに責任感の強いお妙さんは俺のためにマッドサイエンティストになってくれる。狂気な行為を平気で実行してくれる健気さに感動しきりである。
しかし、懸命に人道的支援に勤しむ彼女は俺の物に素の指が触れようとも構わず容赦なく引っ張り、揺らし、爪を立ててくれる。拷問ですか。痛いのに立っちゃうんですけど。ヤバイ。終わりが見えん。延々とお妙さんに物を弄られ倒すのか俺は。辛いがそれはそれでよし。そうしていつか俺の物にドキドキしてくれたら今度は俺がお妙さんの大事なところを弄り倒してアンアン言わせてやるのか。ならばよし。
腹を決めたが苦痛なんだか快感なんだか自分でもわからない息をついてしまった。ヤバイ。鈴口への強めの刺激はヤバイって。
万策尽きたお妙さんは遂に床へ膝をついてしまった。目の前にそそり立つ肉棒詰めトイレットペーパー芯を見た彼女の瞳が細まる。
「私の穴、こんな色してないのにどうして間違うんですか、まったく」
と、彼女は形の整った桜色の唇を開いた。可愛らしい紅い舌を覗かせ厚紙に包まれた物が迎え入れられる。
え。こんな色してないって、こういう茶色って感じでなくて真っピンクとかそういう色ですかァァァァ!?
と、卑猥な水音を立てる彼女に訊こうとしたが血走った目が捉えたのは見知った屯所の風呂場だった。身体が冷え、筋肉が硬い。
え。なんで水風呂。てか、水風呂で気ィ失ってたって俺、大丈夫? ちゃんと生きてる? 死んでない? ホントにちゃんとゴリラしてる? ドザエモンなってない?
自分の顔を両手で触って確認し、我に返って風呂場を見渡す。自分以外の者はおらず、ふと下半身に違和感を感じて視線をやると縮こまった分身から茶色みがかった厚い紙の筒が抜けるところだった。
どうやって戻ってきた俺ェェェェ!? なんで肝心なところ覚えてねェのォォォォ?! てか、この芯んんんん!! 水面に浮かんだトイレットペーパーの芯を掴み上げて確認した。お妙さんによってもたらされた芯の変形も僅かな破れも皆無である。
さっき俺がはめてた芯と別物ォォォォ!! えええ?! ちょ、いつから夢?! 最初から!? まさか本当に屯所の厠に置いてあったトイレットペーパーの芯でやってたってのか?! 穴となったら見境なしか、そうなのか勲!! おまえって奴ァとんでもねェ野ゴリラだな!! すみません、お妙さん。俺って奴ァ正真正銘の変態でした!! どうかこの通りだ、許してくれお妙さんんんん!!
水風呂に浸かったまま土下座する。勢い余って湯船の底に頭を打ちつけた俺が次に目を覚ましたのは暗闇だった。身体がやけに冷えている。てか、この感じって便意だよ!!
慌てて狭い暗闇から脱出するとそこは志村家の軒下であった。
最早どこからが夢なのか現実なのかわからない。思案しようとしたが待ったの利かない便意を解消すべく志村家の厠へお邪魔する。すっかりスッキリすると夢と同じ箇所にトイレットペーパーの芯が置かれているのが目に留まった。
ふッ、俺は成長したのさ。もうトイレットペーパーの芯には挟まらねェよ。しかし、あの夢の中の絵面やばかったな。お妙さんが俺のモンをあんな美味そうに咥えてくれるなんて。芯つきだったけど。
思い返すとムラムラが募り、袴を穿こうと片足を上げた着物と長襦袢の隙間を縫ってトランクスの裾から立ち上がった物が揺れ出た。所構わず元気になる分身に苦笑すると空気が張り詰めるのを感じた。厠の出入り口を見上げれば俺は殺されるだろう。いやこのまま俺は仕留められてしまっていいのか。せめてトシと総悟には俺を仕留めた人物の名を残さなければ。って言ってもどうせ現実的には新八くんなんだろうけど。デジャヴ? とかいうのだっけ? そういうのって大体、期待外れするもんね。
開かれた厠の戸の前で殺気を放つ人物を確認した俺は目を見開いた。
「なんでお妙さんんんん?!」
「なんでじゃありませんよ。他人の家のトイレに断りもなく立ち入るなんてどういう了見ですか。警察呼びますよ」
袴を途中まで引き上げ、屈んでいた背を伸ばして続ける。
「警察であるこの僕がこちらのお宅の厠に危険物がないことを確認しておきました」
「あなたが危険物です。警察呼びますよ」
「いやいや。俺こそが警察なんで安心してください」
「安心できるわけないでしょう。今すぐソレを仕舞ってください。無断で立ち入った他人の家のトイレでそんなモノ堂々とブラブラさせないでいただけます? ホントに警察呼びますよ」
「ん?」
口許に手をやって眉を顰めるお妙さんの視線の先を追うとそこには生まれてからすっかり成長し熟成された男のアレがあった。着物と長襦袢とトランクスの裾とちゃんと穿けていない袴の隙間からすっかりお目見えしている。
……あれ、隠れてなかった。ははは、これは恥ずかしい。しかし、今更下手に隠せるものか。そんなことしようものなら男が廃る。そう、男の勃起の股間もとい、男の沽券にかかわる!! 勲やってしまえッ!! 今がその時だッ!! ええい、ままよッ!!
口許を覆っていた彼女の右手首を掴んで引き寄せた。腰を抱いて睫毛の長い茶色の瞳を見下ろす。
「俺は恋愛でもなんでもすべてにおいて直情的だが君を想う気持ちに嘘偽り一切ない。信じてくれ、お妙さん」
ウンコ漏れそうだった緊急事態が故の厠拝借であって、お妙さんちの厠だからとマスターベーションしてたわけじゃないです!!
彼女はこちらを見上げて大きな瞳に俺の顔を映す。
しかし、今すぐにでもその綺麗な口を割り開いて直に濡れほぐれるだろう口も押し開いてやりたい欲望はある。すみません。
頭では申し訳ないと思っていても体は自然と動く。細腰を抱く腕に力を入れると彼女と密着した。
うん、生勃起のアレとお妙さんの着物着用の太腿が。ヤバイと思ったが押し切らせてもらおう。もう堪え切れない。
「だから、この俺と合体しゴフゥゥゥゥ!!」
「だからって、その生暖かい汚物を押しつけてくんじゃねェェェェ!!」
押し切ろうとしたガッツも虚しく俺は股間を蹴り上げられ、志村家の厠の天井と合体した。
「てめェは天井と合体してろ」
と、お妙さんは手の平を叩き合わせる。
だよね、そうだよね。自分ちの厠に無断侵入してた男が勃起しながら口説いてきたらそうなるよね。
お妙さんは一度厠の扉を閉めたがすぐに扉を開き、厠に入って来た。天井と合体したままの俺の着物を直し、袴を穿かせてくれる。
「しばらくそこで頭冷やしてください」
「はい……」
はァ、お妙さんってホント律儀で優しいよな。そういうところも好きです。
水に流してください
Text by mimiko.
2017/01/31・2017/02/16・2017/03/28