「再会は水割りと」の続きです。近妙です。ちゅーしてます。盛り上がってます。また続きます。
結ばれない罠
俺たちは今生で結ばれることはない――と言ったのはどの口か。
妙は自分の唇に寄る男の唇に合わせて目を伏せる。狭くなった視界にある顎髭の角度の傾きに合わせて自分も顎を傾け、容易く嘘をつく舌に絡みつかれて蜜をあふれさせる。離れた下唇同士に蜜の糸が引いた。
「……んっ……嘘ばっかり……」
頬を火照らせて吐息を近藤の顎にかけて続ける。
「結ばれない運命だって言ったくせにこんなこと……」
と、太鼓帯を潰し抱く近藤の左腕を意識する。きつく拘束するほど包囲されているわけでもないのに逃げられない。妙の左頬に触れた指先は垂れ下がった横髪をくぐって耳へと滑った。唇が重なってすぐに離れる。
「結ばれなくてもこうやって繋がれる」
熱くて太い指に耳の襞を撫でられて妙の肩が竦む。
「そんなの、ずるいっ……」
いやらしい指の動きに妙は顔を逸らせた。耳から離れてしまった近藤の右手は妙の細い首を撫で着物の衿をなぞって下がる。左胸を大きな手が覆うと鼓動が跳ねた。下がる指がその頂を撫でて行き、びくりとする。
「こんなところで、やめっ、んぅっ」
玄関で妙の草履の裏が地に擦れる。両腕で抱かれて口を塞がれ、抗議が届かない代わりに舌が届いた。近藤の舌に弄ばれ、滲む涙で我が家の玄関戸が歪む。
先日、近藤が帰ってきた。我が家ではなく店に現れたことについて文句をつけたかった。真っ先にうちを訪ねてくれればきっと自分は素直になれる。そして、帰ってきたあかつきには自分の願いも叶えられるものだと思っていた。なのに、近藤は勤め先に現れ、わざわざ釘を刺したのだ。この帰還は通過地点であり終着地点ではない。終着地点に到達していない現状で自分たちの恋は成就することはない。そう宣言しておきながら再開したつきまとい行為は遂に助長する。帰宅した途端、後ろから抱き締められたのだ。性懲りもなく、以前のように調子づいてまったく性質の悪い。
合わさった蜜を啜られ妙の舌が甘く痺れた。とろりとした妙の瞳が閉じると衽(おくみ)に近藤の左手が潜り込んだ。裾が乱された妙は口を塞がれたまま目を見開く。右の太腿を近藤の左手に抱えられる。不安定な体勢にされて近藤にしがみついた。布越しに膨らんだ近藤をあてがわれてくぐもった声を洩らす。
「ふぅんんっ」
袴と下着とで隔てられているのに体の芯が熱くなる。立たされている左足に重心が内側に移ってそこに力が入ってしまい余計に意識してしまう。膝裏に力強い腕が差し込まれ、太い五本の指は開いて腿を掴む。触れる手の平が熱い。自然と近藤に巻きつこうとする自分の右足が恨めしい。舌はとろけるような愛撫を受け、胸さえも熱く疼く。久しぶりの口づけなのにまったく容赦がない。
「お妙さん、腰が揺れてますよ、いやらしいなァ」
意地悪く笑う近藤がこれまた恨めしかった。
「舌、出してください」
「ん、いや……」
ぐっと腰を押しつけられて中途半端な抵抗になる。甘えた声で言うつもりなんてなかったのに悔しい。
「しょうがないなァ。じゃあ俺が舌出すんでお妙さんは吸ってください」
と、舌を出す。舌を見つめたままの妙に近藤は言う。
「歯ァ立てないように上手に吸ってくれたらここにこれを入れてあげますから、ね」
と、袴の下で硬くなっているものを擦りつけながら舌を出す。湿った下着の中でそこが締まってぞくりとする。妙は誘われるまま近藤の赤い舌をぺろりと舐めた。差し出されたままの舌を撫でて舌先を愛撫する。滴る蜜をこぼさないように舌で受け止め、ゆっくりと口に含む。水音を立てながら近藤の舌を唇で扱いては舌で撫でる。
「んぅ、こんど、さん……ぁむっ、んん……」
鼻にかかった声で名前を呼ばれて袴の中のものが更に膨らむ。妙の蜜が顎の髭にまでこぼれている。扱かれた舌が痺れた。数か月間、触れ合わないおあずけを食らった女に大胆に求められて嬉しくなる。が、遠くで物音を聞いた近藤は妙の両肩を掴んで自分から引き剥がした。
「んあ……」
名残惜しそうにこちらの唇を見つめている。非常にまずい。
「お妙さん、誰か来る」
きょとんとした妙に小首を傾げられる。緊急事態に陥ったことを理解していない。やはり非常にまずい。
「俺の鼻殴って、お妙さん」
と、妙の着物を直して彼女を窺う。
「そんなのいや……普通がいい……」
と、妙は近藤の鼻先にちゅっと口づけた。太い首に左腕を回し、右の人差し指と中指で近藤の唇に触れる。
会えなかった日々に何度も近藤との口づけを思い出した。
「会いたかった……」
妙の胸に切なさが込みあがる。こうして再び会うことができたのだからもっと触れていたい。
「近藤さん、会いたかったの……」
傷跡の残るこの顔を見ることが叶わなかった寂しさが妙の瞳からこぼれた。
「だから、会えなかった日の分も、いっぱい……」
声に涙が混じると近藤に抱き締められて目元が熱くなった。
「ずっと近藤さんが足りなかったんです。だから……」
妙は厚い胸に頬擦りする。
「もっと近藤さんをください。じゃないと元気が出ません……」
体だけでなく心から欲しがられ、近藤の胸は熱くなった。自分も同じだ。会えない日々の分、何度も妙に口づけて抱き締めたい。でないと心底、元気だと言い切れない。しかし、誰かがいる気配は失せない。こんなところでこれ以上盛り上がるわけにはいかない。
「私はあなたがいないとダメなんです……」
妙は顔を上げ、目を閉じた。口づけを待つ妙の唇は薄く開き、近藤を誘う。今にも口づけたいのを我慢し、近藤は妙から離れた。
「また来ます」
と、踵を返す。妙は、玄関戸に手をかけた近藤の後頭部を傍らにあった花瓶で殴ってやった。半開きの玄関戸に額を打った近藤は二重の衝撃にのたうちまわる。
どれほどこちらが口説こうとも逃げる近藤が一番恨めしい。押しも引きもこれだと思ったタイミングで実行しているのに一体どうすれば落ちてくれるのか。
ふと妙が視線を上げると玄関先には新八がいた。いつの間に帰ってきたのだろう。そうか、近藤は新八の気配に気づいていたのか。しかし、あなたがいないと駄目だと言ったこちらの気持ちはどうなる。返事と謝罪がない限りもう許しはしない。妙は近藤を玄関から追い出した。そしてこれ見よがしに新八へ笑顔を向けた。
「おかえりなさい、新ちゃん」
何が、もし今生で結ばれない道が断たれたら、その時はただいまと言わせてください――だ。そんな道を勝手に作ったのは近藤ではないか。それに自分を巻きこまないでもらいたいものだ。今だって玄関先で打った頭の痛みを堪えているただの男ではないか。ただいまなどたった四文字である。ちょっと口にするのなんて決して難しくないではないか。
「ただいま帰りました、姉上。……花瓶って……近藤さんを殺すつもりですか」
「それもいいかもしれないわね」
笑顔の面を貼りつけて言うと新八は苦笑した。
妙は自分の唇に寄る男の唇に合わせて目を伏せる。狭くなった視界にある顎髭の角度の傾きに合わせて自分も顎を傾け、容易く嘘をつく舌に絡みつかれて蜜をあふれさせる。離れた下唇同士に蜜の糸が引いた。
「……んっ……嘘ばっかり……」
頬を火照らせて吐息を近藤の顎にかけて続ける。
「結ばれない運命だって言ったくせにこんなこと……」
と、太鼓帯を潰し抱く近藤の左腕を意識する。きつく拘束するほど包囲されているわけでもないのに逃げられない。妙の左頬に触れた指先は垂れ下がった横髪をくぐって耳へと滑った。唇が重なってすぐに離れる。
「結ばれなくてもこうやって繋がれる」
熱くて太い指に耳の襞を撫でられて妙の肩が竦む。
「そんなの、ずるいっ……」
いやらしい指の動きに妙は顔を逸らせた。耳から離れてしまった近藤の右手は妙の細い首を撫で着物の衿をなぞって下がる。左胸を大きな手が覆うと鼓動が跳ねた。下がる指がその頂を撫でて行き、びくりとする。
「こんなところで、やめっ、んぅっ」
玄関で妙の草履の裏が地に擦れる。両腕で抱かれて口を塞がれ、抗議が届かない代わりに舌が届いた。近藤の舌に弄ばれ、滲む涙で我が家の玄関戸が歪む。
先日、近藤が帰ってきた。我が家ではなく店に現れたことについて文句をつけたかった。真っ先にうちを訪ねてくれればきっと自分は素直になれる。そして、帰ってきたあかつきには自分の願いも叶えられるものだと思っていた。なのに、近藤は勤め先に現れ、わざわざ釘を刺したのだ。この帰還は通過地点であり終着地点ではない。終着地点に到達していない現状で自分たちの恋は成就することはない。そう宣言しておきながら再開したつきまとい行為は遂に助長する。帰宅した途端、後ろから抱き締められたのだ。性懲りもなく、以前のように調子づいてまったく性質の悪い。
合わさった蜜を啜られ妙の舌が甘く痺れた。とろりとした妙の瞳が閉じると衽(おくみ)に近藤の左手が潜り込んだ。裾が乱された妙は口を塞がれたまま目を見開く。右の太腿を近藤の左手に抱えられる。不安定な体勢にされて近藤にしがみついた。布越しに膨らんだ近藤をあてがわれてくぐもった声を洩らす。
「ふぅんんっ」
袴と下着とで隔てられているのに体の芯が熱くなる。立たされている左足に重心が内側に移ってそこに力が入ってしまい余計に意識してしまう。膝裏に力強い腕が差し込まれ、太い五本の指は開いて腿を掴む。触れる手の平が熱い。自然と近藤に巻きつこうとする自分の右足が恨めしい。舌はとろけるような愛撫を受け、胸さえも熱く疼く。久しぶりの口づけなのにまったく容赦がない。
「お妙さん、腰が揺れてますよ、いやらしいなァ」
意地悪く笑う近藤がこれまた恨めしかった。
「舌、出してください」
「ん、いや……」
ぐっと腰を押しつけられて中途半端な抵抗になる。甘えた声で言うつもりなんてなかったのに悔しい。
「しょうがないなァ。じゃあ俺が舌出すんでお妙さんは吸ってください」
と、舌を出す。舌を見つめたままの妙に近藤は言う。
「歯ァ立てないように上手に吸ってくれたらここにこれを入れてあげますから、ね」
と、袴の下で硬くなっているものを擦りつけながら舌を出す。湿った下着の中でそこが締まってぞくりとする。妙は誘われるまま近藤の赤い舌をぺろりと舐めた。差し出されたままの舌を撫でて舌先を愛撫する。滴る蜜をこぼさないように舌で受け止め、ゆっくりと口に含む。水音を立てながら近藤の舌を唇で扱いては舌で撫でる。
「んぅ、こんど、さん……ぁむっ、んん……」
鼻にかかった声で名前を呼ばれて袴の中のものが更に膨らむ。妙の蜜が顎の髭にまでこぼれている。扱かれた舌が痺れた。数か月間、触れ合わないおあずけを食らった女に大胆に求められて嬉しくなる。が、遠くで物音を聞いた近藤は妙の両肩を掴んで自分から引き剥がした。
「んあ……」
名残惜しそうにこちらの唇を見つめている。非常にまずい。
「お妙さん、誰か来る」
きょとんとした妙に小首を傾げられる。緊急事態に陥ったことを理解していない。やはり非常にまずい。
「俺の鼻殴って、お妙さん」
と、妙の着物を直して彼女を窺う。
「そんなのいや……普通がいい……」
と、妙は近藤の鼻先にちゅっと口づけた。太い首に左腕を回し、右の人差し指と中指で近藤の唇に触れる。
会えなかった日々に何度も近藤との口づけを思い出した。
「会いたかった……」
妙の胸に切なさが込みあがる。こうして再び会うことができたのだからもっと触れていたい。
「近藤さん、会いたかったの……」
傷跡の残るこの顔を見ることが叶わなかった寂しさが妙の瞳からこぼれた。
「だから、会えなかった日の分も、いっぱい……」
声に涙が混じると近藤に抱き締められて目元が熱くなった。
「ずっと近藤さんが足りなかったんです。だから……」
妙は厚い胸に頬擦りする。
「もっと近藤さんをください。じゃないと元気が出ません……」
体だけでなく心から欲しがられ、近藤の胸は熱くなった。自分も同じだ。会えない日々の分、何度も妙に口づけて抱き締めたい。でないと心底、元気だと言い切れない。しかし、誰かがいる気配は失せない。こんなところでこれ以上盛り上がるわけにはいかない。
「私はあなたがいないとダメなんです……」
妙は顔を上げ、目を閉じた。口づけを待つ妙の唇は薄く開き、近藤を誘う。今にも口づけたいのを我慢し、近藤は妙から離れた。
「また来ます」
と、踵を返す。妙は、玄関戸に手をかけた近藤の後頭部を傍らにあった花瓶で殴ってやった。半開きの玄関戸に額を打った近藤は二重の衝撃にのたうちまわる。
どれほどこちらが口説こうとも逃げる近藤が一番恨めしい。押しも引きもこれだと思ったタイミングで実行しているのに一体どうすれば落ちてくれるのか。
ふと妙が視線を上げると玄関先には新八がいた。いつの間に帰ってきたのだろう。そうか、近藤は新八の気配に気づいていたのか。しかし、あなたがいないと駄目だと言ったこちらの気持ちはどうなる。返事と謝罪がない限りもう許しはしない。妙は近藤を玄関から追い出した。そしてこれ見よがしに新八へ笑顔を向けた。
「おかえりなさい、新ちゃん」
何が、もし今生で結ばれない道が断たれたら、その時はただいまと言わせてください――だ。そんな道を勝手に作ったのは近藤ではないか。それに自分を巻きこまないでもらいたいものだ。今だって玄関先で打った頭の痛みを堪えているただの男ではないか。ただいまなどたった四文字である。ちょっと口にするのなんて決して難しくないではないか。
「ただいま帰りました、姉上。……花瓶って……近藤さんを殺すつもりですか」
「それもいいかもしれないわね」
笑顔の面を貼りつけて言うと新八は苦笑した。
結ばれない罠
Text by mimiko.
2016/07/20