ツイッターでお世話になってる柚木麻樹さんのツイートネタをお借りしてたま姉さんにもネタを頂戴した夫婦な近妙の甘いちゃです。「仲直り1」の続き。
勲さんがHENTAIを略したHです。卑猥語も言ってますのでご注意を。
勲さんがHENTAIを略したHです。卑猥語も言ってますのでご注意を。
仲直り2
勲の出張から十日が経とうとしていた。無事に帰ってきたものの、留守にしていた分の仕事が溜まっていたらしく出張後の帰宅は毎晩遅かった。
本日はようやくの休日である。お妙は昨夜も遅くに帰宅した勲に遅めの朝食を用意し、まだ寝ている彼を起こしに行く。襖越しに声をかけて返事がなかったので入室した。勲はあちらを向いてまだ眠っているようだ。が、しかし、お妙は勲の小さな声を聞き逃さなかった。
「……んっ……」
小さな声と言うより息遣いと言うべきか。何かを堪えるような、息を飲むような、そんな声だった。
お妙は掛け布団を剥ぎ取り、こちらに背を向けたままの勲を覗き込む。案の定、勲の両手は下腹部にあった。股間のそれを掴んでいる。今朝も元気にモザイクだ。呆れて溜息をつく。
「朝からバナナですか」
お妙のいやに冷静な声に凍りつき、勲は背後を振り返れず掴んでいたそれを慰め続けることもできなくなってしまった。
「私というものがありながら……」
と、お妙は帯紐をほどいた。何かが畳に落ちる音を聞いた勲はどきりとする。衣擦れのような音も聞こえてまさかと振り返ろうと頭を動かす。やや顔を後ろへ向けるとお妙の笑顔が間近にあった。驚くと同時に額に汗を掻く。
「すすすすみませんッ! その、朝からアレするのもアレなんでとりあえず一回アレしておこうとしてッ」
「アレするのもアレと一回アレしておくのアレとアレとアレってなんです?」
笑顔の圧力に負けてすぐに白状する。
「休日の朝からセックスするのも、その……申し訳なくて……一回抜いておこうと……」
「そんなの気にする必要ないのに」
お妙は勲の背後に添い寝した。彼女の温もりを背中から膝裏へと感じる。細い腕が腰の脇に当たり、その手の先は股間にある両手に触れた。
「お妙さん、ダメですよ……離してください」
「どうしてです? 嫌なんですか?」
「嫌じゃないですけど……」
出張前夜、繋がれないからとお妙に慰められた。駄目だと言いつつ結局甘えてお妙の口腔で果てたのだ。出張から帰るもなんだかんだと忙しく、お妙との時間を持てなかった。いや、持てなかったというよりもお妙のことを後回しにした。それなのにこちらの生理的欲求発散のために彼女を利用することなどしたくない。何より、次に肌を合わせるならばこちら主導によるめくるめく愛欲の坩堝(るつぼ)に貶めてやりたかったのだ。彼女から触れられるのも嬉しいことに変わりはないが、なんやかんやで自分も男である。自尊心くらいあるのだ。
「勲さん……」
と、お妙は寝間着越しに頬擦りしてくる。すでに声が艶を含んでいた。触られたがっている。触られたいがためにこちらを触ってきている。
勲は股間から手を離し、背後のお妙へと体を向けた。下着姿になっていた彼女の腰を抱き寄せて口づける。
お妙はやる気満々だ。自ら着物を脱ぐことはたまにあってもそんな時は大抵、襦袢を残している。そんなこともなく最初から襦袢まで脱ぎ捨てて尚且つ、下着は彼女の勝負下着である紐パンツを着用し、おまけに明るいから恥ずかしいなどというひと言もない。朝の日照がめいいっぱい差し込んでいる。口づけだけで濡れた瞳も、緩んだ口許も、膝を擦り合わせているのも丸見えである。
勲はお妙の首筋に触れ、その指を結わえられている髪へと伸ばした。
「髪、ほどいてもいいですか」
お妙が頷くと口づけながら簪(かんざし)を抜き去る。枕元に簪を置くと髪がもつれないようにと指で梳いてやり、最後に髪を撫でていると視線を感じた。瞼を下げて口づけを待っている。軽く啄んで体を起こし、彼女を自分と同じほうへ向かせて座らせた。頭を落として頬でお妙の髪を退ける。期待したお妙が息を飲むのがわかった。首に口づけられるのを待っている。敢えて首に行かずに耳に口づけ、襞に舌を這わせた。
「あぁん、やぁ」
いきなりいやらしい声が上がる。
「ん? お妙さん、いやなの?」
と、耳の穴に舌先を挿し込む。
「ぅんんっ、いや、じゃ……っ」
「どっち?」
「……やじゃない、ふぁ……っ」
舌を離して訊ね、お妙が答えている最中に首の付け根に吸いついた。両方の胸の膨らみを下着ごと手の平で包む。微か、五本の指に力を入れるとお妙の肩が揺れた。
「お妙さん、もう気持ちいいんですか」
声を出すのを我慢しながら小さく頷くお妙の胸に人差し指をやる。頂をレースの布の上から指で弾くと自分の胸に彼女の肩が倒れてきた。
「ちゃんと座っててください」
と、勲はお妙の下着の留め具を外し、肩紐を細い肩から滑らせて脱がすと先ほど置いた簪のそばに落とす。姿勢を戻して背後からお妙を見下ろした。白い肌の膨らんだ先が尖っている。まだ少ししか触っていないのにすでに赤くなっている。そんなに感じているのか。勲は脇下に両手をくぐらせ、再びかわいらしい胸を手の平で包んだ。硬くなった胸の先を押しつぶすようにゆっくりと撫でる。
「お妙さん」
こちらを向いたお妙に口づけ、舌を絡める。優しく甘く、決して急いたりしないようにゆっくりと。くぐもった声が舌を伝ってくると硬くなったお妙の乳首を指先で挟んで揉んでやる。お妙の舌から力が抜けたのか、口づけに応えていたはずの彼女の舌の動きが止まる。唇の合わさる角度を変えると唇がぬるりとした。そういえばいい声が聞こえない。心配になって唇を離してお妙を窺う。
唇は完全に緩み、口づけで合わさった唾液がお妙の口端からこぼれていた。
「ん……その触り方、やらしぃ……」
とろりとした瞳が閉じ、力の抜けた背がもたれかかってくる。完全に勝ったと思った。いや、こういうことは勝ち負けではないが。しかし、もう何をしても怒られない自信があった。
彼女の勝負パンツの腰紐をほどいてそれを取り去った。怒られない証はお妙のそこと下着に引いた液にある。すぐ前に座る彼女の足を開いてその具合を確かめようと左手を白い肌の下の茂みへ伸ばした。が、ふと気になった下腹部を左の指で摘まむ。
「ん……? 太りました?」
思ったままを呟いた。それがまずかったのだと思うがその時の自分は気にしていなかった。お妙だってその時には素通りだったのだ。いや、彼女のせいにするのはいけない。すべては自分に非があったのだ。
思かけず思ったままを呟いた後、再び思ったままを呟いた。軽く達した彼女といよいよ座位で繋がろうとした時だ。自分の腰を跨いだお妙のかわいらしい胸が目の前に来て――。
「こっちは変わんないんですね」
肉がついたのなら全体的にふっくらしているはずだと思ったのもまずかった。今なら明らかに失言だったとわかる。今更だが。もとから贅肉のないお妙だ。少しくらい肉がついたところで丁度いいくらいである。いやいや、自分を肯定するのはよそう。とにかく彼女に対する配慮が足りなかった。常に胸の大きさを気にしているのだ。温かくて柔らかいのに張りもある形のよい乳房がちゃんとあるのに。
勲はコンビニエンスストアの買い物かごにお妙の好きな破亜限堕津(ハーゲンダッツ)を入れ込んだ。再びいやいやと頭を左右に振る。
このアイスクリームのようにいい加減、頭を冷やして落ち着くべきだと自分に言い聞かせる。しかし、もうひとりの自分が憤りをあらわにした。
いくら失言だったところで先がほんの少し入ったところで突き飛ばされた男の惨めさ情けなさ不甲斐なさをなかったことにできるか。最初からこちらは乗り気ではなかった。彼女を欲求解消のために利用する罪悪感があった。けれど、彼女がかわいかったから。彼女が自分を欲しがるから。ああ、そうだ。結局は彼女を好きな自分が悪いのだ。彼女を好きでなければこの何とも言い難い気持ちを味わうことはなかった。
勲は会計を済ませ、高級アイスクリームでいっぱいのビニール袋を手にした。
広い心を持ちながら些細なことで自分に噛みついてくる女をかわいいなどと思わなければよかった。
若干の後悔の念を抱きながら店を出るとその当人がいた。勲はお妙と視線を合わせたが、彼女を置いて帰路を行く。
「まだ頭冷えてないんで」
言い放たれてお妙は慌てて勲の後を追った。
「アイス食べたらきっと頭冷えますよ」
早歩きの勲に追いつこうとお妙は小走りする。
「私もっ、アイス食べて、頭冷やしたいですっ」
息を切らし始めたお妙を見た勲は歩く速度を落とした。いつも彼女と一緒に歩いている時のよう歩幅を狭める。
「ダメですよ、太っちゃったんでしょう?」
「太ってないです。勲さんが出張行く前と体重、変わってません」
「じゃあ、あんなに怒る必要ないじゃないですか」
と、言った勲の声が冷たい。お妙は下唇を噛み締めた。気にしている胸のことを言われたからというのもあるが、あんな最中にいつものような声音で雰囲気を壊すような言葉を口にしたことが許せなかった。あの時、ようやく勲と繋がれることが嬉しかった。だから、その気持ちまで壊されたように感じたのだ。けれど、ここまで臍を曲げる勲も珍しい。喧嘩をしても大抵折れてくれるのは勲のほうだ。そんなにあのタイミングで突き飛ばしたのがまずかったのだろうか。
「……さっきは、ごめんなさい……」
謝られて勲は自然と口許が緩ませた。が、気を引き締めるように口端を左右に引いた。しかし、やはり自然と顔が笑ってしまう。笑ってはいけない、喜ぶのはまだ早いと息を吐いて吸い込んだ。
「そうだなァ……じゃあ、お妙さんに挽回のチャンスをあげますよ」
「どうすればいいんですか」
と、勲の横顔を見上げたお妙は謝罪したことを後悔した。勲の目は細く弧を描き、唇はいやらしく笑っていたのだ。
勲は持っていたビニール袋をもう一方の手に持ち替える。空いた左手でお妙の手を握り、笑顔で指を絡ませた。
「この間作ってくれたコンニャク、帰ったら作ってください」
***
最中に失言した勲を突き飛ばした。すると、頭を冷やしてくるとひと言残して家を出て行かれた。行き先の見当はついている。出かけた先はコンビニエンスストア。怒ってしまったこちらの気を落ち着かせようと自分の好きなアイスクリームを買ってきてくれるはずだ。予想通り、勲は店でアイスクリームを買い込んでいた。
こちらも悪かったと反省して謝ったが誤りだった。怒ったふりをし、笑顔の下で企んでいた彼が恨めしい。こんなことなら初めて切れ目の入った板蒟蒻を用意したあの時に勲の願いを叶えてやればよかった。後悔しかない。何が、コンニャクがない?それなら問題ありません。コンニャクならさっき破亜限堕津と一緒に買っといたんで――だ。
先ほどにやにやと笑った勲の笑みを思い出してお妙は板蒟蒻を巻いて握っていた両手を開いた。板蒟蒻の切れ目を勲の根元に滑らせ、その先に口づける。窄めていた唇を少しずつ開いて幹の途中まで口に含んで頭を引いた。
布団の上、裾を割った長着の間で正座し背を屈めていたお妙は露出している勲の膝に彼の長着の袖が落ちるのに気づいて顔を上げた。
「……また先っぽだけなんて、ひどいですよ……」
と、襦袢姿のお妙の両脇に手を通し、彼女の腰を上げさせた。引き寄せ、膝で立つお妙を見上げて口づける。
「お妙さん、俺の膝の上乗って」
言われるまま勲の膝を跨いで腰を落とした。するとそこにちょうどあてがわれており、お妙はびくりとする。
「勲さんっ」
下着越しで突き上げられ、お妙は肩を揺らした。
「お妙さん、まだそんなですよね。まだ入れませんから安心してください」
と、お妙の背中を抱いていた両手を両肩に移動させ、襦袢の衿に中指を差し込んだ。中指と人差し指で衿を挟み、肩から上腕へと男の熱い手の平が撫でる。ゆっくりと襦袢の衿を開かれたお妙は恥ずかしくなって頬を熱くした。手の平は背に回って太い指は下着の留め具を外し、前腕で止まっていた襦袢と下着の肩紐を腕から抜かれた。
今更急に恥ずかしくなってきた。何度も見られているのに、今日も先ほど見られているというのに、本当に今更だ。落ち着かず両手を体に巻きつけて自分の胸を隠す。が、左右の手は掴まれ、下へとおろされた。お妙の胸は両腕に挟まって寄る。できた谷間を勲の舌になぞられた。
「あっ」
「ほら、谷間もできるくらいあるじゃないですか。そんな怒らなくてもいいのにさァ」
勲はお妙の腕に隠れてしまった乳首を舐めようと胸と腕の間に舌を差し込んだ。探し当てたそれは硬くなっている。転がし撫でて舌を抜き去り、首に口づける。
「んんっ、そんなの、腕で寄せてるからです……っ」
と、下げていた腕を上げようとする。勲は透かさず左手を潜り込ませ、お妙の両手首をひと纏めにした。膝の上に座らせていたお妙を布団へ座らせ、自分のものに触れさせる。
「お妙さん、そのまま俺の弄って」
お妙は勲に両手を掴まれたままそれに触れた。しかし、手首を固定されていて自由が利かない。掴もうとしても掴めず、偶然挟んだ人差し指と中指で扱いてやった。よかったのか微笑まれ、彼に手首を掴まれたまま微かに刺激を与える。ふと彼の顔を見ると横へ向いて何か飲んでいた。勲が口につけているのは小さなカップだ。しかも見覚えがある。
お妙は自分の目を疑った。カップから口を離した勲の顔がこちらを向いた。逃げたくなったが両手を掴まれていて動けず、そのまま彼の顔が近づいてきた。こちらを見つめたまま口づけ、溶けたアイスクリームが流し込まれる。
「ぅんっ、んんっ……うぅ……っ!」
固形ならここまで甘く感じない。液体になったために甘さが際立つ。口移しされたバニラ味はとても甘かった。舌を嬲られて唇が離れる。口端から飲みきれなかった溶けたアイスクリームが溢れ、胸元に落ちてそのまま谷間に流れた。それを勲の舌が追い、肌を舐められる。
「あん、やぁ」
胸が疼いて下着の中のそこが締まる。自然と腰が揺れてしまい恥ずかしくなる。何も言えなくなってしまったらしいお妙をかわいらしく思い、勲は掴んでいた両手を放して下着の上からそこに触れた。薄い布の向こうは蜜にまみれているようだ。勲は布の脇から指を滑らせて感嘆の溜息をついた。
「すごいですね」
言われて口を噤むがぬるついた襞を撫でられて声が出てしまう。二本の太い指は浅く差し込まれて抜かれた。
「お妙さんも指、動かして」
挟んだままになっていた人差し指と中指を動かすと再びそこに指が埋められた。指の根元まで入っているのに動いてはくれない。
「勲さん」
堪らなくなって名前を呼ぶ。
「お願い……」
「ん? 指足しましょうか?」
「ちがう……はぁ、指、動かして……」
なんてはしたないことを言っているのだろうと思うのに埋められている指の先、自分の奥が熱い。すぐそこで猛っている彼が欲しいと胸が疼く。ゆっくり動かされた二本の指を更に飲み込もうとひとりでに腰が揺れる。
「勲さん、んぁ、勲さん」
切なくなって名前を呼ぶと甘く口づけられて涙がこぼれた。限界だ。
お妙が与えられる快感に身を委ねようとした時、指は引き抜かれ、穿いたままだった下着の布地がそこへ戻った。お妙は胸を寄せたまま身を捩る。
「俺のでいって、お妙さん」
やや息の乱れた優しい声で言われ、お妙は促されるまま、すべて脱ぐ。布団に座った勲の膝の上に乗ると、先ほどまで下着に覆われていた襞に勲のものが直接あてがわれた。
「え、勲さん、待って、コンニャクがまだ、あッダメっ、入っちゃうっ」
「ああ、はい。コンニャクついたままですね」
慌てることもなく返され、お妙は腰を上げようと膝に力を入れた。が、左の首のいつかの傷跡に熱い舌が触れた。
「や、ダメ、勲さん」
ぞくりとしたお妙は腰を落とす。
「じゃあ、途中まで入ってるけど抜きますね。お妙さん、ダメって言いつつ腰落とすんだもんなァ」
「あっ、ダメ、抜くのダメぇ」
お妙は腰を落としきった。熱かった芯がようやく貫かれて高揚する。が、勲に通ったままの板蒟蒻の冷たい感触に戸惑う。
「んっ、コンニャクが邪魔です」
勲の背中に回した腕で彼にしがみつく。
「じゃあやっぱり抜きましょうか」
「それはだめ……せっかく勲さんが入ってるのに、いや」
「じゃあ、このままでいいですか?」
と、勲はお妙の尻を支えて揺らした。最奥を突かれそうで突かれないもどかしさに、やはり板蒟蒻が邪魔だ。けれど、勲は愉しそうだ。彼の企みはこれのことだったのか。
「んぁ、それもいやぁっ」
体を揺さぶられて甘い声で返事するお妙の耳に口づけて勲は言う。
「お妙さんっ、すみません。コンニャク、すごくいいです」
と、下からお妙を突き上げて腰を前後に揺さぶった。繋がってからずっと自分に吸いついたままのお妙は、体をどう揺さぶられてもやはり吸いついたまま離さない。
「ああ、いいです、お妙さん。中が熱くて、すぐ出ちまいそうです」
けれど、まだだ。顔を見れなかった間の分も、直前まできて突き飛ばされて残念極まりなかった分も、彼女を溶かせてどこまでも自分を欲しがらせやる。
「でも、やっぱりコンニャク邪魔ですね」
と、突き上げたままお妙の腰を自分へと押さえつける。数センチの障害物が邪魔でしかない。
「ひぁ、で、でも、当たって、ます、はぁ、勲さんの、奥まで、ぁあっ、らめ……っ、押さえつけるのだめ、んぁ、このままそれされたら、いくからぁっ」
「いくって、動いてないのに?」
「はあぁ、うごいて、なくてもぉ、おく、に勲さんのおおきいのきてる……っ!」
達したお妙は脱力して対面の勲の肩にもたれかかる。
「はぁ、ごめんなさい……はぁ、私だけ、先に……」
「いえ。お妙さんが気持ちよかったんならいいです。てか、コンニャクがよかったの?」
おちゃらけた声の勲にお妙は顔を上げてじっとりと睨んだ。
「そんなわけないじゃないですか」
「あはは、怒ってます?」
「怒ってません」
冷たく言い放つが勲は尚も笑顔だ。悪びれる様子もなくよくも笑っていらるものだとお妙は溜息をつく。
「だよねェ。溶けた破亜限堕津をごっくんしそびれたお妙さん、満更でもなかったもんなァ。すごくいやらしかったし」
恥ずかしさと苛立ちに同時に襲われたお妙は顎髭に掌底を打ち込んだ。
「ちょ、お妙さん、待った待った。まだ終わってないんで」
と、お妙を膝上から退かせて板蒟蒻を皿に戻した。
「あ、俺の毛にお妙さんのいっぱいついてる」
勲は性懲りもなくまたも思ったままを口にした。我に返ってお妙を窺うとこれ以上ないほど赤面し、彼女は掛け布団を被り込んでしまった。
「どうしました、お妙さん。コンニャクが間にあったのにお妙さんのついてるってことは、すごく感じてくれてたんですよね? 恥ずかしいことじゃないから出てきてくださいよ。続きしましょうよ。今度はコンニャクなしで、ね?」
彼女に気取られないように掛け布団をそっと引っ張る。掛け布団が敷布団にみっちり縫い込まれているのはお妙が手に握ってるところのみらしい。彼女の被る上半身部分だけはがっちりと死守されている。つまり下半身部分はがら空きだ。頭だけ隠して尻を隠さぬとは。この近藤勲を相手に彼女も詰めが甘い。思わずこぼしそうになった笑みを堪え、勲は掛け布団を捲って彼女の尻にそっと触れた。
「ひゃんっ!」
正座で前屈し、両手に掛け布団を握っていたお妙の尻が揺れた。
「お妙さん、顔出してください。キスしたいです」
恋人を誘う文句を発してみるが、彼女は布団をしっかと握ったまま沈黙を決め込む。そんなに恥ずかしがることだろうか。今までだって散々、感じて散々、自分の陰嚢にまで愛液を塗りつけてくれているのに。今更だ。それとも蒟蒻の感触に戸惑いつつ、いつも以上に感じでいたのだろうか。
「顔出してくれないならお尻にキスしますよ。いいんですか?」
勲の手つきにびくりとしたお妙は顔を出した。が、丸みに温かく柔らかいものが触れた。ちゅっと音を鳴らしてもう片方の丸みにも口づけられる。くすぐったさに息をついたお妙は改めて後ろの勲を見た。
視線に気づいた勲はお妙を見つめながら舌をのぞかせ、尻を舐め上げる。微かに濡れた肌が冷やりとし、また粟立った肌が熱い指に捕らえられて尻から腰、背筋へと快感が這い上がる。それが頭のてっぺんへ抜けるように感じるまま声を上げた。
「やぁんっ……!」
お妙の声が上がり、勲は堪らなくなってもう一方の丸みにしゃぶりついた。わざと音を立ててお妙を煽る。
「お妙さんのお尻、美味いですよ……ん」
尻を突き出させ閉じている秘裂を舌で愛撫してやると、いつの間にか膝が開き、そこがあらわになっていた。唾液と愛液にまみれて口が開いている。
今ここに自分のものを入れたら、自分も彼女もすぐに達してしまうだろう。これほどまで焦らしたのだから呆気なく終わるのは避けたい。空を揺れる自分のものを落ち着かせようと勲は誘っているお妙のそこへ尖らせた舌を差し込んだ。
「んあっ、ふぁあ、んっ」
舌を入れたまま敏感な豆を剥いてやり、引き抜いた舌で撫でてやる。逃げたお妙の腰を掴んで敏感なそれに口づけて吸ってやった。あられもない声を上げてまた達したお妙は尻を震わせている。
だが、もう我慢の限界だ。雌に成り下がったお妙を見ているだけで出してしまいたくなる。
「ん、お妙さん……もう入れますね」
お妙の腰を引き上げ、更に尻を突き出させる。尻を押し広げて先の濡れた分身を少しずつ侵入させた。熱い粘膜が自分を少しずつ飲み込んでゆく度、足腰の力まで飲み込まれて行くように錯覚する。敷布団には確かに両膝を突いているのにその感覚まで吸い込まれてしまいそうに思う。
「あ……あっ、はぁ、や、ゆっくりぃ、いさ、おさん、やぁ」
お妙の甘い声をぼんやりとした頭で聞く。
「ええ? ああ、ゆっくり、いやですか? ……っん」
「いい、けど、ダメです……またいっちゃう……ああ、やっ、気持ちぃ、それだめぇ、勲さんだめぇ♡」
根元まで入ったがそのまま腰を軽く突き出した。自分で課していた板蒟蒻だったが、それがないことに感動する。やはり邪魔なものは邪魔だ。
「俺もいいです」
久しぶりに繋がったばかりなのに彼女は早くも自分の形に合わせてくる。とろとろに熱くなった襞に余すことなく撫でられ、背筋に快感が駆けるが息をついて何とか快感を逃がす。
「気持ちよくておかしくなりそうです」
お妙のひくつきが堪らない。粘液で潤う柔らかな膜が裏筋を刺激し、根元まで包んで決して離さない。今にも搾り取られそうで、少しでも動けばもう放ってしまいそうだ。しかしまだだと自分を奮い立たせる。自分を受け入れてくれている彼女の中に出せない切なさを誤魔化そうと笑った。
「はは、お妙さんのおまんこ、やっぱりすげェいい……」
呟くと膣がきゅっと締まって熱を上げる。蕩けそうだ。
「や、バカぁ……ぁん、突きながら揺らさないで、んんっ、またいくっ」
自然と動いてしまった腰の動きに合わせてお妙はひと際甲高い声で駄目だの逝くだのと叫びながら達した。何度目だろう。達しすぎだ。お妙は大丈夫だろうか。彼女の体を案じたいのに本能がそれを阻む。もっと揺さぶって鳴かせて自分を欲しがらせてこちらが最高にいい時にお妙の中に思い切り精を放ちたい。欲求を頭の中で復唱し、射精を扇動する膣の動きを意識などすればひと溜まりもなかった。
「すみません」
と、やや腰を上げていたお妙の膝を開かせ、腹の下に枕を置いて背を更に落とさせた。背後から勲の熱い肌に覆いかぶされ、冷たい布団と枕に体を押さえられる。その温度差に肌が粟立ち、快感に酔う。頭から足の爪先まで蕩けてしまっているように錯覚するのに体の中心が確実に射止められている。自分を貫いている勲の硬さをより感じてお妙は甘く鳴いた。
「もう、いきそうです」
と、勲はお妙の耳元で囁いて首筋に口づけ、反らされている背にも口づける。
「あ、だめ♡また……っ!」
「待ってお妙さんっ、一緒に、いきましょう」
根元をきゅっと締められたまま熱い最奥へと突き上げ、腰を揺らす。
「いさおさんっ、おく♡おく、して♡」
「はい、奥で、もう……はぁ、んぐっ、出るっ……!」
精を放った勲はお妙からゆっくり引き抜いた。布団にうつ伏せになったままぐったりとしているお妙のそこを拭ってやり、添い寝する。まだ目を閉じ、息を乱したままのお妙の頭を撫でてやり、汗で張りついていた額の前髪を梳いてやる。
「ん……勲さん、すごかったです……」
「それはよかった。じゃあ、もう一回しましょうか」
いつもの明るい声が聞こえてお妙は目を見開いた。間近に勲の笑顔がある。
「ムリです、休ませてください」
お妙は笑顔で拒否した。勲は笑顔のままお妙の背を手の平で撫でる。
「でも、お仕置きエッチなんで」
「お仕置き?」
「はい。お妙さんがかわいいからお仕置き」
理不尽な難癖をつけられ、お妙はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、私からもお仕置きして差し上げますね」
と、勲の体に自分の体を密着させる。割れた筋肉に胸を押しつけ、彼の太腿に足を絡みつかせる。
「あなたが加減しないから疲れてるんです。手、出したらコロシますからね」
「コロスってまたまたァ。てかお仕置きとか冗談ですって。仲直りのエッチですって。だからもう一回……」
勲の出張期間中、熟睡できなかったお妙は彼の温もりを肌で感じ、また存分に愛し合った倦怠感も相まってすぐに寝入ってしまった。
勲はお妙に抱き枕にされたまま掛け布団を何とか広げながら誓う。出張期間中、夢に見たお妙との触れ合いは今晩こそ再現しよう。あまり無茶をすれば怒られてしまうかもしれないのでできるだけ加減しよう。
お妙の柔らかい温もりに包まれた勲はすっかり居心地がよくなり、かわいらしい寝息に誘われて目を閉じた。
本日はようやくの休日である。お妙は昨夜も遅くに帰宅した勲に遅めの朝食を用意し、まだ寝ている彼を起こしに行く。襖越しに声をかけて返事がなかったので入室した。勲はあちらを向いてまだ眠っているようだ。が、しかし、お妙は勲の小さな声を聞き逃さなかった。
「……んっ……」
小さな声と言うより息遣いと言うべきか。何かを堪えるような、息を飲むような、そんな声だった。
お妙は掛け布団を剥ぎ取り、こちらに背を向けたままの勲を覗き込む。案の定、勲の両手は下腹部にあった。股間のそれを掴んでいる。今朝も元気にモザイクだ。呆れて溜息をつく。
「朝からバナナですか」
お妙のいやに冷静な声に凍りつき、勲は背後を振り返れず掴んでいたそれを慰め続けることもできなくなってしまった。
「私というものがありながら……」
と、お妙は帯紐をほどいた。何かが畳に落ちる音を聞いた勲はどきりとする。衣擦れのような音も聞こえてまさかと振り返ろうと頭を動かす。やや顔を後ろへ向けるとお妙の笑顔が間近にあった。驚くと同時に額に汗を掻く。
「すすすすみませんッ! その、朝からアレするのもアレなんでとりあえず一回アレしておこうとしてッ」
「アレするのもアレと一回アレしておくのアレとアレとアレってなんです?」
笑顔の圧力に負けてすぐに白状する。
「休日の朝からセックスするのも、その……申し訳なくて……一回抜いておこうと……」
「そんなの気にする必要ないのに」
お妙は勲の背後に添い寝した。彼女の温もりを背中から膝裏へと感じる。細い腕が腰の脇に当たり、その手の先は股間にある両手に触れた。
「お妙さん、ダメですよ……離してください」
「どうしてです? 嫌なんですか?」
「嫌じゃないですけど……」
出張前夜、繋がれないからとお妙に慰められた。駄目だと言いつつ結局甘えてお妙の口腔で果てたのだ。出張から帰るもなんだかんだと忙しく、お妙との時間を持てなかった。いや、持てなかったというよりもお妙のことを後回しにした。それなのにこちらの生理的欲求発散のために彼女を利用することなどしたくない。何より、次に肌を合わせるならばこちら主導によるめくるめく愛欲の坩堝(るつぼ)に貶めてやりたかったのだ。彼女から触れられるのも嬉しいことに変わりはないが、なんやかんやで自分も男である。自尊心くらいあるのだ。
「勲さん……」
と、お妙は寝間着越しに頬擦りしてくる。すでに声が艶を含んでいた。触られたがっている。触られたいがためにこちらを触ってきている。
勲は股間から手を離し、背後のお妙へと体を向けた。下着姿になっていた彼女の腰を抱き寄せて口づける。
お妙はやる気満々だ。自ら着物を脱ぐことはたまにあってもそんな時は大抵、襦袢を残している。そんなこともなく最初から襦袢まで脱ぎ捨てて尚且つ、下着は彼女の勝負下着である紐パンツを着用し、おまけに明るいから恥ずかしいなどというひと言もない。朝の日照がめいいっぱい差し込んでいる。口づけだけで濡れた瞳も、緩んだ口許も、膝を擦り合わせているのも丸見えである。
勲はお妙の首筋に触れ、その指を結わえられている髪へと伸ばした。
「髪、ほどいてもいいですか」
お妙が頷くと口づけながら簪(かんざし)を抜き去る。枕元に簪を置くと髪がもつれないようにと指で梳いてやり、最後に髪を撫でていると視線を感じた。瞼を下げて口づけを待っている。軽く啄んで体を起こし、彼女を自分と同じほうへ向かせて座らせた。頭を落として頬でお妙の髪を退ける。期待したお妙が息を飲むのがわかった。首に口づけられるのを待っている。敢えて首に行かずに耳に口づけ、襞に舌を這わせた。
「あぁん、やぁ」
いきなりいやらしい声が上がる。
「ん? お妙さん、いやなの?」
と、耳の穴に舌先を挿し込む。
「ぅんんっ、いや、じゃ……っ」
「どっち?」
「……やじゃない、ふぁ……っ」
舌を離して訊ね、お妙が答えている最中に首の付け根に吸いついた。両方の胸の膨らみを下着ごと手の平で包む。微か、五本の指に力を入れるとお妙の肩が揺れた。
「お妙さん、もう気持ちいいんですか」
声を出すのを我慢しながら小さく頷くお妙の胸に人差し指をやる。頂をレースの布の上から指で弾くと自分の胸に彼女の肩が倒れてきた。
「ちゃんと座っててください」
と、勲はお妙の下着の留め具を外し、肩紐を細い肩から滑らせて脱がすと先ほど置いた簪のそばに落とす。姿勢を戻して背後からお妙を見下ろした。白い肌の膨らんだ先が尖っている。まだ少ししか触っていないのにすでに赤くなっている。そんなに感じているのか。勲は脇下に両手をくぐらせ、再びかわいらしい胸を手の平で包んだ。硬くなった胸の先を押しつぶすようにゆっくりと撫でる。
「お妙さん」
こちらを向いたお妙に口づけ、舌を絡める。優しく甘く、決して急いたりしないようにゆっくりと。くぐもった声が舌を伝ってくると硬くなったお妙の乳首を指先で挟んで揉んでやる。お妙の舌から力が抜けたのか、口づけに応えていたはずの彼女の舌の動きが止まる。唇の合わさる角度を変えると唇がぬるりとした。そういえばいい声が聞こえない。心配になって唇を離してお妙を窺う。
唇は完全に緩み、口づけで合わさった唾液がお妙の口端からこぼれていた。
「ん……その触り方、やらしぃ……」
とろりとした瞳が閉じ、力の抜けた背がもたれかかってくる。完全に勝ったと思った。いや、こういうことは勝ち負けではないが。しかし、もう何をしても怒られない自信があった。
彼女の勝負パンツの腰紐をほどいてそれを取り去った。怒られない証はお妙のそこと下着に引いた液にある。すぐ前に座る彼女の足を開いてその具合を確かめようと左手を白い肌の下の茂みへ伸ばした。が、ふと気になった下腹部を左の指で摘まむ。
「ん……? 太りました?」
思ったままを呟いた。それがまずかったのだと思うがその時の自分は気にしていなかった。お妙だってその時には素通りだったのだ。いや、彼女のせいにするのはいけない。すべては自分に非があったのだ。
思かけず思ったままを呟いた後、再び思ったままを呟いた。軽く達した彼女といよいよ座位で繋がろうとした時だ。自分の腰を跨いだお妙のかわいらしい胸が目の前に来て――。
「こっちは変わんないんですね」
肉がついたのなら全体的にふっくらしているはずだと思ったのもまずかった。今なら明らかに失言だったとわかる。今更だが。もとから贅肉のないお妙だ。少しくらい肉がついたところで丁度いいくらいである。いやいや、自分を肯定するのはよそう。とにかく彼女に対する配慮が足りなかった。常に胸の大きさを気にしているのだ。温かくて柔らかいのに張りもある形のよい乳房がちゃんとあるのに。
勲はコンビニエンスストアの買い物かごにお妙の好きな破亜限堕津(ハーゲンダッツ)を入れ込んだ。再びいやいやと頭を左右に振る。
このアイスクリームのようにいい加減、頭を冷やして落ち着くべきだと自分に言い聞かせる。しかし、もうひとりの自分が憤りをあらわにした。
いくら失言だったところで先がほんの少し入ったところで突き飛ばされた男の惨めさ情けなさ不甲斐なさをなかったことにできるか。最初からこちらは乗り気ではなかった。彼女を欲求解消のために利用する罪悪感があった。けれど、彼女がかわいかったから。彼女が自分を欲しがるから。ああ、そうだ。結局は彼女を好きな自分が悪いのだ。彼女を好きでなければこの何とも言い難い気持ちを味わうことはなかった。
勲は会計を済ませ、高級アイスクリームでいっぱいのビニール袋を手にした。
広い心を持ちながら些細なことで自分に噛みついてくる女をかわいいなどと思わなければよかった。
若干の後悔の念を抱きながら店を出るとその当人がいた。勲はお妙と視線を合わせたが、彼女を置いて帰路を行く。
「まだ頭冷えてないんで」
言い放たれてお妙は慌てて勲の後を追った。
「アイス食べたらきっと頭冷えますよ」
早歩きの勲に追いつこうとお妙は小走りする。
「私もっ、アイス食べて、頭冷やしたいですっ」
息を切らし始めたお妙を見た勲は歩く速度を落とした。いつも彼女と一緒に歩いている時のよう歩幅を狭める。
「ダメですよ、太っちゃったんでしょう?」
「太ってないです。勲さんが出張行く前と体重、変わってません」
「じゃあ、あんなに怒る必要ないじゃないですか」
と、言った勲の声が冷たい。お妙は下唇を噛み締めた。気にしている胸のことを言われたからというのもあるが、あんな最中にいつものような声音で雰囲気を壊すような言葉を口にしたことが許せなかった。あの時、ようやく勲と繋がれることが嬉しかった。だから、その気持ちまで壊されたように感じたのだ。けれど、ここまで臍を曲げる勲も珍しい。喧嘩をしても大抵折れてくれるのは勲のほうだ。そんなにあのタイミングで突き飛ばしたのがまずかったのだろうか。
「……さっきは、ごめんなさい……」
謝られて勲は自然と口許が緩ませた。が、気を引き締めるように口端を左右に引いた。しかし、やはり自然と顔が笑ってしまう。笑ってはいけない、喜ぶのはまだ早いと息を吐いて吸い込んだ。
「そうだなァ……じゃあ、お妙さんに挽回のチャンスをあげますよ」
「どうすればいいんですか」
と、勲の横顔を見上げたお妙は謝罪したことを後悔した。勲の目は細く弧を描き、唇はいやらしく笑っていたのだ。
勲は持っていたビニール袋をもう一方の手に持ち替える。空いた左手でお妙の手を握り、笑顔で指を絡ませた。
「この間作ってくれたコンニャク、帰ったら作ってください」
***
最中に失言した勲を突き飛ばした。すると、頭を冷やしてくるとひと言残して家を出て行かれた。行き先の見当はついている。出かけた先はコンビニエンスストア。怒ってしまったこちらの気を落ち着かせようと自分の好きなアイスクリームを買ってきてくれるはずだ。予想通り、勲は店でアイスクリームを買い込んでいた。
こちらも悪かったと反省して謝ったが誤りだった。怒ったふりをし、笑顔の下で企んでいた彼が恨めしい。こんなことなら初めて切れ目の入った板蒟蒻を用意したあの時に勲の願いを叶えてやればよかった。後悔しかない。何が、コンニャクがない?それなら問題ありません。コンニャクならさっき破亜限堕津と一緒に買っといたんで――だ。
先ほどにやにやと笑った勲の笑みを思い出してお妙は板蒟蒻を巻いて握っていた両手を開いた。板蒟蒻の切れ目を勲の根元に滑らせ、その先に口づける。窄めていた唇を少しずつ開いて幹の途中まで口に含んで頭を引いた。
布団の上、裾を割った長着の間で正座し背を屈めていたお妙は露出している勲の膝に彼の長着の袖が落ちるのに気づいて顔を上げた。
「……また先っぽだけなんて、ひどいですよ……」
と、襦袢姿のお妙の両脇に手を通し、彼女の腰を上げさせた。引き寄せ、膝で立つお妙を見上げて口づける。
「お妙さん、俺の膝の上乗って」
言われるまま勲の膝を跨いで腰を落とした。するとそこにちょうどあてがわれており、お妙はびくりとする。
「勲さんっ」
下着越しで突き上げられ、お妙は肩を揺らした。
「お妙さん、まだそんなですよね。まだ入れませんから安心してください」
と、お妙の背中を抱いていた両手を両肩に移動させ、襦袢の衿に中指を差し込んだ。中指と人差し指で衿を挟み、肩から上腕へと男の熱い手の平が撫でる。ゆっくりと襦袢の衿を開かれたお妙は恥ずかしくなって頬を熱くした。手の平は背に回って太い指は下着の留め具を外し、前腕で止まっていた襦袢と下着の肩紐を腕から抜かれた。
今更急に恥ずかしくなってきた。何度も見られているのに、今日も先ほど見られているというのに、本当に今更だ。落ち着かず両手を体に巻きつけて自分の胸を隠す。が、左右の手は掴まれ、下へとおろされた。お妙の胸は両腕に挟まって寄る。できた谷間を勲の舌になぞられた。
「あっ」
「ほら、谷間もできるくらいあるじゃないですか。そんな怒らなくてもいいのにさァ」
勲はお妙の腕に隠れてしまった乳首を舐めようと胸と腕の間に舌を差し込んだ。探し当てたそれは硬くなっている。転がし撫でて舌を抜き去り、首に口づける。
「んんっ、そんなの、腕で寄せてるからです……っ」
と、下げていた腕を上げようとする。勲は透かさず左手を潜り込ませ、お妙の両手首をひと纏めにした。膝の上に座らせていたお妙を布団へ座らせ、自分のものに触れさせる。
「お妙さん、そのまま俺の弄って」
お妙は勲に両手を掴まれたままそれに触れた。しかし、手首を固定されていて自由が利かない。掴もうとしても掴めず、偶然挟んだ人差し指と中指で扱いてやった。よかったのか微笑まれ、彼に手首を掴まれたまま微かに刺激を与える。ふと彼の顔を見ると横へ向いて何か飲んでいた。勲が口につけているのは小さなカップだ。しかも見覚えがある。
お妙は自分の目を疑った。カップから口を離した勲の顔がこちらを向いた。逃げたくなったが両手を掴まれていて動けず、そのまま彼の顔が近づいてきた。こちらを見つめたまま口づけ、溶けたアイスクリームが流し込まれる。
「ぅんっ、んんっ……うぅ……っ!」
固形ならここまで甘く感じない。液体になったために甘さが際立つ。口移しされたバニラ味はとても甘かった。舌を嬲られて唇が離れる。口端から飲みきれなかった溶けたアイスクリームが溢れ、胸元に落ちてそのまま谷間に流れた。それを勲の舌が追い、肌を舐められる。
「あん、やぁ」
胸が疼いて下着の中のそこが締まる。自然と腰が揺れてしまい恥ずかしくなる。何も言えなくなってしまったらしいお妙をかわいらしく思い、勲は掴んでいた両手を放して下着の上からそこに触れた。薄い布の向こうは蜜にまみれているようだ。勲は布の脇から指を滑らせて感嘆の溜息をついた。
「すごいですね」
言われて口を噤むがぬるついた襞を撫でられて声が出てしまう。二本の太い指は浅く差し込まれて抜かれた。
「お妙さんも指、動かして」
挟んだままになっていた人差し指と中指を動かすと再びそこに指が埋められた。指の根元まで入っているのに動いてはくれない。
「勲さん」
堪らなくなって名前を呼ぶ。
「お願い……」
「ん? 指足しましょうか?」
「ちがう……はぁ、指、動かして……」
なんてはしたないことを言っているのだろうと思うのに埋められている指の先、自分の奥が熱い。すぐそこで猛っている彼が欲しいと胸が疼く。ゆっくり動かされた二本の指を更に飲み込もうとひとりでに腰が揺れる。
「勲さん、んぁ、勲さん」
切なくなって名前を呼ぶと甘く口づけられて涙がこぼれた。限界だ。
お妙が与えられる快感に身を委ねようとした時、指は引き抜かれ、穿いたままだった下着の布地がそこへ戻った。お妙は胸を寄せたまま身を捩る。
「俺のでいって、お妙さん」
やや息の乱れた優しい声で言われ、お妙は促されるまま、すべて脱ぐ。布団に座った勲の膝の上に乗ると、先ほどまで下着に覆われていた襞に勲のものが直接あてがわれた。
「え、勲さん、待って、コンニャクがまだ、あッダメっ、入っちゃうっ」
「ああ、はい。コンニャクついたままですね」
慌てることもなく返され、お妙は腰を上げようと膝に力を入れた。が、左の首のいつかの傷跡に熱い舌が触れた。
「や、ダメ、勲さん」
ぞくりとしたお妙は腰を落とす。
「じゃあ、途中まで入ってるけど抜きますね。お妙さん、ダメって言いつつ腰落とすんだもんなァ」
「あっ、ダメ、抜くのダメぇ」
お妙は腰を落としきった。熱かった芯がようやく貫かれて高揚する。が、勲に通ったままの板蒟蒻の冷たい感触に戸惑う。
「んっ、コンニャクが邪魔です」
勲の背中に回した腕で彼にしがみつく。
「じゃあやっぱり抜きましょうか」
「それはだめ……せっかく勲さんが入ってるのに、いや」
「じゃあ、このままでいいですか?」
と、勲はお妙の尻を支えて揺らした。最奥を突かれそうで突かれないもどかしさに、やはり板蒟蒻が邪魔だ。けれど、勲は愉しそうだ。彼の企みはこれのことだったのか。
「んぁ、それもいやぁっ」
体を揺さぶられて甘い声で返事するお妙の耳に口づけて勲は言う。
「お妙さんっ、すみません。コンニャク、すごくいいです」
と、下からお妙を突き上げて腰を前後に揺さぶった。繋がってからずっと自分に吸いついたままのお妙は、体をどう揺さぶられてもやはり吸いついたまま離さない。
「ああ、いいです、お妙さん。中が熱くて、すぐ出ちまいそうです」
けれど、まだだ。顔を見れなかった間の分も、直前まできて突き飛ばされて残念極まりなかった分も、彼女を溶かせてどこまでも自分を欲しがらせやる。
「でも、やっぱりコンニャク邪魔ですね」
と、突き上げたままお妙の腰を自分へと押さえつける。数センチの障害物が邪魔でしかない。
「ひぁ、で、でも、当たって、ます、はぁ、勲さんの、奥まで、ぁあっ、らめ……っ、押さえつけるのだめ、んぁ、このままそれされたら、いくからぁっ」
「いくって、動いてないのに?」
「はあぁ、うごいて、なくてもぉ、おく、に勲さんのおおきいのきてる……っ!」
達したお妙は脱力して対面の勲の肩にもたれかかる。
「はぁ、ごめんなさい……はぁ、私だけ、先に……」
「いえ。お妙さんが気持ちよかったんならいいです。てか、コンニャクがよかったの?」
おちゃらけた声の勲にお妙は顔を上げてじっとりと睨んだ。
「そんなわけないじゃないですか」
「あはは、怒ってます?」
「怒ってません」
冷たく言い放つが勲は尚も笑顔だ。悪びれる様子もなくよくも笑っていらるものだとお妙は溜息をつく。
「だよねェ。溶けた破亜限堕津をごっくんしそびれたお妙さん、満更でもなかったもんなァ。すごくいやらしかったし」
恥ずかしさと苛立ちに同時に襲われたお妙は顎髭に掌底を打ち込んだ。
「ちょ、お妙さん、待った待った。まだ終わってないんで」
と、お妙を膝上から退かせて板蒟蒻を皿に戻した。
「あ、俺の毛にお妙さんのいっぱいついてる」
勲は性懲りもなくまたも思ったままを口にした。我に返ってお妙を窺うとこれ以上ないほど赤面し、彼女は掛け布団を被り込んでしまった。
「どうしました、お妙さん。コンニャクが間にあったのにお妙さんのついてるってことは、すごく感じてくれてたんですよね? 恥ずかしいことじゃないから出てきてくださいよ。続きしましょうよ。今度はコンニャクなしで、ね?」
彼女に気取られないように掛け布団をそっと引っ張る。掛け布団が敷布団にみっちり縫い込まれているのはお妙が手に握ってるところのみらしい。彼女の被る上半身部分だけはがっちりと死守されている。つまり下半身部分はがら空きだ。頭だけ隠して尻を隠さぬとは。この近藤勲を相手に彼女も詰めが甘い。思わずこぼしそうになった笑みを堪え、勲は掛け布団を捲って彼女の尻にそっと触れた。
「ひゃんっ!」
正座で前屈し、両手に掛け布団を握っていたお妙の尻が揺れた。
「お妙さん、顔出してください。キスしたいです」
恋人を誘う文句を発してみるが、彼女は布団をしっかと握ったまま沈黙を決め込む。そんなに恥ずかしがることだろうか。今までだって散々、感じて散々、自分の陰嚢にまで愛液を塗りつけてくれているのに。今更だ。それとも蒟蒻の感触に戸惑いつつ、いつも以上に感じでいたのだろうか。
「顔出してくれないならお尻にキスしますよ。いいんですか?」
勲の手つきにびくりとしたお妙は顔を出した。が、丸みに温かく柔らかいものが触れた。ちゅっと音を鳴らしてもう片方の丸みにも口づけられる。くすぐったさに息をついたお妙は改めて後ろの勲を見た。
視線に気づいた勲はお妙を見つめながら舌をのぞかせ、尻を舐め上げる。微かに濡れた肌が冷やりとし、また粟立った肌が熱い指に捕らえられて尻から腰、背筋へと快感が這い上がる。それが頭のてっぺんへ抜けるように感じるまま声を上げた。
「やぁんっ……!」
お妙の声が上がり、勲は堪らなくなってもう一方の丸みにしゃぶりついた。わざと音を立ててお妙を煽る。
「お妙さんのお尻、美味いですよ……ん」
尻を突き出させ閉じている秘裂を舌で愛撫してやると、いつの間にか膝が開き、そこがあらわになっていた。唾液と愛液にまみれて口が開いている。
今ここに自分のものを入れたら、自分も彼女もすぐに達してしまうだろう。これほどまで焦らしたのだから呆気なく終わるのは避けたい。空を揺れる自分のものを落ち着かせようと勲は誘っているお妙のそこへ尖らせた舌を差し込んだ。
「んあっ、ふぁあ、んっ」
舌を入れたまま敏感な豆を剥いてやり、引き抜いた舌で撫でてやる。逃げたお妙の腰を掴んで敏感なそれに口づけて吸ってやった。あられもない声を上げてまた達したお妙は尻を震わせている。
だが、もう我慢の限界だ。雌に成り下がったお妙を見ているだけで出してしまいたくなる。
「ん、お妙さん……もう入れますね」
お妙の腰を引き上げ、更に尻を突き出させる。尻を押し広げて先の濡れた分身を少しずつ侵入させた。熱い粘膜が自分を少しずつ飲み込んでゆく度、足腰の力まで飲み込まれて行くように錯覚する。敷布団には確かに両膝を突いているのにその感覚まで吸い込まれてしまいそうに思う。
「あ……あっ、はぁ、や、ゆっくりぃ、いさ、おさん、やぁ」
お妙の甘い声をぼんやりとした頭で聞く。
「ええ? ああ、ゆっくり、いやですか? ……っん」
「いい、けど、ダメです……またいっちゃう……ああ、やっ、気持ちぃ、それだめぇ、勲さんだめぇ♡」
根元まで入ったがそのまま腰を軽く突き出した。自分で課していた板蒟蒻だったが、それがないことに感動する。やはり邪魔なものは邪魔だ。
「俺もいいです」
久しぶりに繋がったばかりなのに彼女は早くも自分の形に合わせてくる。とろとろに熱くなった襞に余すことなく撫でられ、背筋に快感が駆けるが息をついて何とか快感を逃がす。
「気持ちよくておかしくなりそうです」
お妙のひくつきが堪らない。粘液で潤う柔らかな膜が裏筋を刺激し、根元まで包んで決して離さない。今にも搾り取られそうで、少しでも動けばもう放ってしまいそうだ。しかしまだだと自分を奮い立たせる。自分を受け入れてくれている彼女の中に出せない切なさを誤魔化そうと笑った。
「はは、お妙さんのおまんこ、やっぱりすげェいい……」
呟くと膣がきゅっと締まって熱を上げる。蕩けそうだ。
「や、バカぁ……ぁん、突きながら揺らさないで、んんっ、またいくっ」
自然と動いてしまった腰の動きに合わせてお妙はひと際甲高い声で駄目だの逝くだのと叫びながら達した。何度目だろう。達しすぎだ。お妙は大丈夫だろうか。彼女の体を案じたいのに本能がそれを阻む。もっと揺さぶって鳴かせて自分を欲しがらせてこちらが最高にいい時にお妙の中に思い切り精を放ちたい。欲求を頭の中で復唱し、射精を扇動する膣の動きを意識などすればひと溜まりもなかった。
「すみません」
と、やや腰を上げていたお妙の膝を開かせ、腹の下に枕を置いて背を更に落とさせた。背後から勲の熱い肌に覆いかぶされ、冷たい布団と枕に体を押さえられる。その温度差に肌が粟立ち、快感に酔う。頭から足の爪先まで蕩けてしまっているように錯覚するのに体の中心が確実に射止められている。自分を貫いている勲の硬さをより感じてお妙は甘く鳴いた。
「もう、いきそうです」
と、勲はお妙の耳元で囁いて首筋に口づけ、反らされている背にも口づける。
「あ、だめ♡また……っ!」
「待ってお妙さんっ、一緒に、いきましょう」
根元をきゅっと締められたまま熱い最奥へと突き上げ、腰を揺らす。
「いさおさんっ、おく♡おく、して♡」
「はい、奥で、もう……はぁ、んぐっ、出るっ……!」
精を放った勲はお妙からゆっくり引き抜いた。布団にうつ伏せになったままぐったりとしているお妙のそこを拭ってやり、添い寝する。まだ目を閉じ、息を乱したままのお妙の頭を撫でてやり、汗で張りついていた額の前髪を梳いてやる。
「ん……勲さん、すごかったです……」
「それはよかった。じゃあ、もう一回しましょうか」
いつもの明るい声が聞こえてお妙は目を見開いた。間近に勲の笑顔がある。
「ムリです、休ませてください」
お妙は笑顔で拒否した。勲は笑顔のままお妙の背を手の平で撫でる。
「でも、お仕置きエッチなんで」
「お仕置き?」
「はい。お妙さんがかわいいからお仕置き」
理不尽な難癖をつけられ、お妙はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、私からもお仕置きして差し上げますね」
と、勲の体に自分の体を密着させる。割れた筋肉に胸を押しつけ、彼の太腿に足を絡みつかせる。
「あなたが加減しないから疲れてるんです。手、出したらコロシますからね」
「コロスってまたまたァ。てかお仕置きとか冗談ですって。仲直りのエッチですって。だからもう一回……」
勲の出張期間中、熟睡できなかったお妙は彼の温もりを肌で感じ、また存分に愛し合った倦怠感も相まってすぐに寝入ってしまった。
勲はお妙に抱き枕にされたまま掛け布団を何とか広げながら誓う。出張期間中、夢に見たお妙との触れ合いは今晩こそ再現しよう。あまり無茶をすれば怒られてしまうかもしれないのでできるだけ加減しよう。
お妙の柔らかい温もりに包まれた勲はすっかり居心地がよくなり、かわいらしい寝息に誘われて目を閉じた。
仲直り2
Text by mimiko.
2016/11/23