近妙です。お妙さんが頑張って一肌脱いでます。

女の意地・近妙

「近藤さん、私を愛してくださらないんですか」
 脚を崩して横座りする妙の桃色の着物、藍色の襦袢の裾が僅かに割れて脛が見えた。畳の淡い緑色に足袋の白色と女の肌色が転がっている。
 束の間、やや乱れた妙の膝元に視線を奪われていたが、近藤は我に返って口内に溜まっていた唾液を飲み込んだ。
「俺はいつでもお妙さんを愛してますよ」
と、視線を茶の瞳に戻してどきりとする。見つめられていた。自分が妙の足に気を取られていたことを知られている。いやらしいと怒られるだろう。軽き制裁だろうか、重き制裁だろうか。いつものように笑って待っていると妙の顔が綻んだ。いつもの不浄さえも包み込む笑みを浮かべて唇が開く。
「誰彼構わずの愛なんていりません」
と、赤の帯締めを解き、緑の帯揚げを帯から引き出す。
「これでも私はあなたを愛してるんです」
と、帯を解く。藍の帯は桃の着物に落ちた。
「だから、近藤さんも同じようにちゃんと私を愛してください」
 妙は膝をついたまま中腰の近藤の首に両手を伸ばし、首の後ろに回した手を組んだ。微かに顔を引き寄せ、三白眼を見上げる。小さな黒目が驚いている。妙は唇の両端を上げた。真選組局長だのゴリラだのストーカーだのと面をあれこれ付け替えるあの近藤の素面を目の前にして嬉しくなる。
「い、いやだなァお妙さん、俺はちゃんとあなたを愛してますってば」
と、近藤は視線を横へやった。
「嘘」
「嘘じゃないですってば。現にこうして俺はお妙さんちに潜り込むほど愛してるんですから」
「じゃあこっち向いてください。なんであっち向いてるんですか」
「それは……」
と、正面の妙に顔を向けて硬く目を閉じた。
「目のやり場に困ります」
「家には潜り込んでくるのに、いつまでたっても私には潜り込んでこないつもりですか?」
「え……それは一体どういう……う?!
 近藤が目を開くと同時、妙は藍色の長襦袢を開いていた。白い肌にレースの下着を見た近藤は咄嗟に目の前の妙を抱き締めた。
「あの、お妙さん?何してんの?」
「あなたが手を出しやすいように脱いでるんです」
「え」
「離して、近藤さん。脱げないから離してください」
「いやいやいやいや、脱がなくていいです。寧ろ脱がないで。だいたい新八くんはどうします。ってか俺の他に来客とかあったらどうします」
「そんなのどうだっていいです」
「よ、よくないよ!それはよくない!いけません!そんな婚前交渉なんていけませんんんん!」
 強情な近藤に妙は弱気になる。次第に情けなさが募り、悲しさまでもが湧いてくる。唇を噛み締めた妙は両手に怒りを込めた。自分を抱き締める近藤を力いっぱい押し出し、座卓の角に腰を打ちつけてやった。半ば自棄で立ち上がり、着物と襦袢を脱ぎ捨て悔しさも吐き捨てる。
「こんなことさせるくらい私を落としてるんだから、あなたも早く私に落ちてください!」
 泣いているような叫びに切なくなった近藤は下着姿の妙を横抱きに抱え上げた。突然浮いた感覚に戸惑いながら近藤の首にしがみついた妙は、裸を間近で見られて恥ずかしくなり頬を赤くする。きっとこれからもっと恥ずかしくなるようなことをされるはずだ、どうしよう。更に戸惑うが、不安もまた大きかった。このまま何もされることなく脱いだ着物を着せられてしまうかもしれない。そうなったら女である自信も近藤への気持ちも切り裂かれる。怖い。ぎゅっと目を閉じた妙の目元に唇を寄せた近藤は、妙を抱えたまま押入れ前へ行く。
「布団敷いていいですか」
「えッ、あ……はい……」
 どうやら悪い予想は外れたらしい。が、そうなると急速に羞恥が込みあがってくる。意識すればする急速に頭が沸騰するように感じて顔が熱くなる。ゆっくりと近藤に体を下ろされ、腰を抱かれたまま布団が敷かれるのを見守る。自分の腰を抱く近藤の腕が、もう逃がしませんよと云っているようで、緊張で体が硬直した。どう体を動かせばいいのかわからない。俗に言うテンパるとはきっとこのことだ。視界がぐるぐると回っている。
 布団を敷き終えた近藤に抱き寄せられ、口づけられ、腰を抜かされるとそこは布団の上だった。
「お妙さん、大丈夫ですか?」
「は、はい!大丈夫ですから、すごいのしてください!」
 目を瞑り、硬さを含んだ声音の妙に近藤は笑みをこぼした。
女の意地・近妙
Text by mimiko.
2016/11/28

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