さらば真選組篇から数か月後の近妙で再会妄想。
高級キャバクラ仕様になったスナックすまいるの店前がなんという道路名だったのか確認できず適当に一番街通りとしてます。その他、雰囲気が大盛りです。
高級キャバクラ仕様になったスナックすまいるの店前がなんという道路名だったのか確認できず適当に一番街通りとしてます。その他、雰囲気が大盛りです。
再会は水割りと
一時は営業停止していたキャバクラ店スナックすまいるだったが馴染みの客や前かぶき町四天王のお登勢、現かぶき町四天王であり従業員である志村妙らの働きかけにより雑居ビルにて営業再開していた。かぶき町は一番街通りに店構えを持った栄光は遠い昔のように感じる。妙は懐かしむように目を細めた。
廃れた道場を護ろうとしてノーパンしゃぶしゃぶ店に身を置こうとした。しかし弟の依頼によって街の万事屋に連れ戻された。正直、安堵した。が、自分ひとりきりでは護り抜くことができなかったのだと落胆した。その後、万事屋に働き口を紹介された。弟はすっかり坂田銀時を慕っていた。幼い頃は自分と同じで実の兄のように尾美一を慕っていたのに。給料も支払えない事業主など信用するに値しないのに。それでもその事業所兼住居の家主は信用できる人物だった。スナック店を経営するかぶき町四天王であったお登勢だ。それを弟から聞くと二つ返事で了承した。
そうしてこの店の暖簾をくぐった。店長が笑顔で楽しい酒を提供する店にしたいと名付けた『スナックすまいる』。妙が働きだした時も今の店のように小ぢんまりとしていた。フロアいっぱいに並べたソファに仕切りもない小さなテーブル席に小ぢんまりとしたカウンター席。客との距離も近かった。故に酒に酔った客が女性従業員の体に触れることがあった。用心棒を雇いたいがそんな余裕もないと嘆く店長に自分の腕を買われたのはあの男が来店した日のことだった。
帯刀するような高位な侍がこんな町の片隅で小ぢんまりと営業しているキャバクラ店にやってくることなど滅多にないからと売れっ子嬢をつけようとしたが皆、常連客の接客中で空いていた自分が接客することとなった。
ケツ毛が濃くムサ苦しいことを悲観し、ケツが毛ダルマの男が彼氏だったらどうするかと聞かれた。ケツ毛ごと愛すと答えると結婚を申し込まれた。あまりにしつこく食い下がってくるものだから遂にはその顔面に渾身のストレートパンチを食らわせてやったのだ。
あの男との出会いがなければ用心穴手当が支給されることはなかった。あの時のプロポーズは感謝している。そしてあの時の出会いにも感謝している。あの出会いがなければ今の自分はいなかったのだから。
「お妙ちゃん、指名入ったよ」
黒服に呼ばれて客席に行くとそこにはその男がいた。あまりに普通にいるものだから妙は席に着くことも忘れ、挨拶することも忘れ、ただ茫然と突っ立っていた。
「お久しぶりです。長らく留守にしてすみません」
と、額右から左頬へ抜ける傷跡が寄った眉間を支点に歪んだ。笑顔だ。ただでさえ細い目なのに笑うものだから線状になっているではないか。立ち竦む妙に近藤は声をかける。
「お妙さん?」
「……かッ…」
今度その顔を見たら溜まっていたうっぷんを洗いざらいぶちまけてやろうと思っていたためにそれが一気に込み上がってくる。妙は今にも噴出しそうなうっぷんを堪えようと俯いた。
「ん?どうしました?」
「バカ!どうしてこんな小汚い店にひょっこり顔出してるんですかッ……!」
俯いたまま吐き捨てる。バックヤードで小汚い店はどういうことだ営業停止に追いやった原因を作ったおまえがそれを言うのかと店長が憤怒している様が目に浮かぶがこれでも抑えているのだ。店長、どうか許してほしい。
「どうせなら小汚い道場に来なさいよッ!」
顔を上げた妙の瞳から涙が散った。その美しさに見惚れ、近藤は申し訳なさそうに頷いた。
「すみません。夜のほうが動きやすかったんです」
妙は隣に腰掛け、近藤の手を取った。大きな手を両手で握る。今までにない妙の行動に近藤は目を丸くした。妙の潤んだ瞳がこちらを見上げている。
「うちに来てくれたらすごいサービスして差し上げたのに……」
と、気恥ずかしそうに視線を落とされた。他の席の客とキャバ嬢の注目を浴びて近藤の気が焦る。
「イヤイヤイヤイヤちょッすごいサービスってお妙さん何言ってんの?ここすごいサービスする店じゃないよ、気を確かに持ってお妙さん、ね?一体どーしちゃったってんですかッ」
「もォ近藤さんったら照れちゃって」
と、妙は近藤の手に頬擦りする。
「あんなに愛し合った仲じゃないですか」
「へ?」
「ふたりで楽しく野原を駆け回ったじゃないですか」
「野原駆け回ってませんけど、いつ?ねェいつ駆け回ったの?」
「破亜限堕津(ハーゲンダッツ)をアーンし合いっこしたじゃないですか」
「アーンし合いっこ?いつしたの?ねェいつ?」
「あんな事もこんな事もそんな事までしちゃったじゃないですか。いやんもう、女の口からそんな事まで言わせないでくださいよォ」
握っていた手を離して照れ隠しとして近藤の腕を力強く叩く。
「あんな事もこんな事も?ウソホント?そんな事まで俺しちゃってたの?」
「……はい♡」
慎ましく返事する妙に衝撃を受ける。それはいつかの花見席で脳天に妙のピコピコハンマーを受けた時のようだ。
何故にそのルート、シリアスモードでこなかった。これが神が我に与えし試練だとでも言うのか。神め、なんてことをしてくれた。妙に打たれた逆転サヨナラホームランを逆に打ち返してやろうと、妙から放たれるラブラブオーラに目を瞑る。気分は修行僧だ。間違って彼女とイチャイチャしようものならば間違いなくどちらかの死亡フラグが立ってしまう。
イチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグ――。
ひと葛藤した近藤は目をかっと見開いた。
「お妙さん、気を確かに持ってください。これは罠です。俺たちが結ばれようとすると天から災いが降ってくる」
「まあ、怖いわ。でも近藤さんが護ってくださるから安心ね♡」
と、近藤の肩に妙は頭を寄せた。しかもこてんとかわいらしく。冷静でいようとする近藤だったが気が乱れる。
「いや一番安心できないよ。そう来ちゃうんだったら俺すんごいサービス逆にお妙さんにしちゃいますからねッ!だッはッはッ!」
「やだァ近藤さんったらァ♡」
「だから、はいッ!」
と、近藤は両手をひとつ打ち合わせた。ぱんっと大きな乾いた音が鳴る。音に驚いて背筋を伸ばした妙の傍で静かに言う。
「気のせいです、お妙さん。俺たちは今生で結ばれることはない」
断言すると妙の唇が微かに歪む。見逃さなかった近藤は続けた。
「だが、俺の恋路のゴールには君しかいない。この道は、この街で君が笑顔でいられる道だと信じて俺は行きます。もし今生で結ばれない道が断たれたら、その時はただいまと言わせてください。ただの男として死ねるなら……お妙さん、俺はあなたの膝元で死にたい」
静かな低い声に愛を囁き続けられ、妙は涙をこぼした。堪えていたものが再び込みあがる。
やはり近藤は優しすぎる。あの雨の日、別れを告げに来た近藤はいつものようにストーカーを演じに来ていた。追ってこないようにとこちらを思いやってのことだ。今もこの気持ちを気のせいにしようとしている。こちらが辛い思いをしないようにとだ。いつものように気をしっかり持って人目を忍ばなければならない身でありながら何故会いに来たと撃退されようと店に来た。なのに、自分のこの出方に戸惑いながらも応えようと愛の言葉をくれた。しかも最上の口説き文句だ。一体なんなのだ。ただの男として死ねるのならあなたの膝元で死にたいとはなんだ。何も言い返せないではないか。妙は深呼吸をひとつして渾身のストレートパンチを傷跡残る鼻に打ち込んだ。
そして、かつてのように街にストーカーが潜伏し始めた。永遠の平行線を宣言しておきながらこれは一体どういうことなのだ。真選組もとい将軍暗殺を企てたとまことしやかに噂される賊となっても相変わらず暇なのか。妙はあの日々と同様、蝶のように舞っては蜂のように刺す拳をストーカーゴリラへ繰り出した。
廃れた道場を護ろうとしてノーパンしゃぶしゃぶ店に身を置こうとした。しかし弟の依頼によって街の万事屋に連れ戻された。正直、安堵した。が、自分ひとりきりでは護り抜くことができなかったのだと落胆した。その後、万事屋に働き口を紹介された。弟はすっかり坂田銀時を慕っていた。幼い頃は自分と同じで実の兄のように尾美一を慕っていたのに。給料も支払えない事業主など信用するに値しないのに。それでもその事業所兼住居の家主は信用できる人物だった。スナック店を経営するかぶき町四天王であったお登勢だ。それを弟から聞くと二つ返事で了承した。
そうしてこの店の暖簾をくぐった。店長が笑顔で楽しい酒を提供する店にしたいと名付けた『スナックすまいる』。妙が働きだした時も今の店のように小ぢんまりとしていた。フロアいっぱいに並べたソファに仕切りもない小さなテーブル席に小ぢんまりとしたカウンター席。客との距離も近かった。故に酒に酔った客が女性従業員の体に触れることがあった。用心棒を雇いたいがそんな余裕もないと嘆く店長に自分の腕を買われたのはあの男が来店した日のことだった。
帯刀するような高位な侍がこんな町の片隅で小ぢんまりと営業しているキャバクラ店にやってくることなど滅多にないからと売れっ子嬢をつけようとしたが皆、常連客の接客中で空いていた自分が接客することとなった。
ケツ毛が濃くムサ苦しいことを悲観し、ケツが毛ダルマの男が彼氏だったらどうするかと聞かれた。ケツ毛ごと愛すと答えると結婚を申し込まれた。あまりにしつこく食い下がってくるものだから遂にはその顔面に渾身のストレートパンチを食らわせてやったのだ。
あの男との出会いがなければ用心穴手当が支給されることはなかった。あの時のプロポーズは感謝している。そしてあの時の出会いにも感謝している。あの出会いがなければ今の自分はいなかったのだから。
「お妙ちゃん、指名入ったよ」
黒服に呼ばれて客席に行くとそこにはその男がいた。あまりに普通にいるものだから妙は席に着くことも忘れ、挨拶することも忘れ、ただ茫然と突っ立っていた。
「お久しぶりです。長らく留守にしてすみません」
と、額右から左頬へ抜ける傷跡が寄った眉間を支点に歪んだ。笑顔だ。ただでさえ細い目なのに笑うものだから線状になっているではないか。立ち竦む妙に近藤は声をかける。
「お妙さん?」
「……かッ…」
今度その顔を見たら溜まっていたうっぷんを洗いざらいぶちまけてやろうと思っていたためにそれが一気に込み上がってくる。妙は今にも噴出しそうなうっぷんを堪えようと俯いた。
「ん?どうしました?」
「バカ!どうしてこんな小汚い店にひょっこり顔出してるんですかッ……!」
俯いたまま吐き捨てる。バックヤードで小汚い店はどういうことだ営業停止に追いやった原因を作ったおまえがそれを言うのかと店長が憤怒している様が目に浮かぶがこれでも抑えているのだ。店長、どうか許してほしい。
「どうせなら小汚い道場に来なさいよッ!」
顔を上げた妙の瞳から涙が散った。その美しさに見惚れ、近藤は申し訳なさそうに頷いた。
「すみません。夜のほうが動きやすかったんです」
妙は隣に腰掛け、近藤の手を取った。大きな手を両手で握る。今までにない妙の行動に近藤は目を丸くした。妙の潤んだ瞳がこちらを見上げている。
「うちに来てくれたらすごいサービスして差し上げたのに……」
と、気恥ずかしそうに視線を落とされた。他の席の客とキャバ嬢の注目を浴びて近藤の気が焦る。
「イヤイヤイヤイヤちょッすごいサービスってお妙さん何言ってんの?ここすごいサービスする店じゃないよ、気を確かに持ってお妙さん、ね?一体どーしちゃったってんですかッ」
「もォ近藤さんったら照れちゃって」
と、妙は近藤の手に頬擦りする。
「あんなに愛し合った仲じゃないですか」
「へ?」
「ふたりで楽しく野原を駆け回ったじゃないですか」
「野原駆け回ってませんけど、いつ?ねェいつ駆け回ったの?」
「破亜限堕津(ハーゲンダッツ)をアーンし合いっこしたじゃないですか」
「アーンし合いっこ?いつしたの?ねェいつ?」
「あんな事もこんな事もそんな事までしちゃったじゃないですか。いやんもう、女の口からそんな事まで言わせないでくださいよォ」
握っていた手を離して照れ隠しとして近藤の腕を力強く叩く。
「あんな事もこんな事も?ウソホント?そんな事まで俺しちゃってたの?」
「……はい♡」
慎ましく返事する妙に衝撃を受ける。それはいつかの花見席で脳天に妙のピコピコハンマーを受けた時のようだ。
何故にそのルート、シリアスモードでこなかった。これが神が我に与えし試練だとでも言うのか。神め、なんてことをしてくれた。妙に打たれた逆転サヨナラホームランを逆に打ち返してやろうと、妙から放たれるラブラブオーラに目を瞑る。気分は修行僧だ。間違って彼女とイチャイチャしようものならば間違いなくどちらかの死亡フラグが立ってしまう。
イチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグイチャイチャ死亡フラグ――。
ひと葛藤した近藤は目をかっと見開いた。
「お妙さん、気を確かに持ってください。これは罠です。俺たちが結ばれようとすると天から災いが降ってくる」
「まあ、怖いわ。でも近藤さんが護ってくださるから安心ね♡」
と、近藤の肩に妙は頭を寄せた。しかもこてんとかわいらしく。冷静でいようとする近藤だったが気が乱れる。
「いや一番安心できないよ。そう来ちゃうんだったら俺すんごいサービス逆にお妙さんにしちゃいますからねッ!だッはッはッ!」
「やだァ近藤さんったらァ♡」
「だから、はいッ!」
と、近藤は両手をひとつ打ち合わせた。ぱんっと大きな乾いた音が鳴る。音に驚いて背筋を伸ばした妙の傍で静かに言う。
「気のせいです、お妙さん。俺たちは今生で結ばれることはない」
断言すると妙の唇が微かに歪む。見逃さなかった近藤は続けた。
「だが、俺の恋路のゴールには君しかいない。この道は、この街で君が笑顔でいられる道だと信じて俺は行きます。もし今生で結ばれない道が断たれたら、その時はただいまと言わせてください。ただの男として死ねるなら……お妙さん、俺はあなたの膝元で死にたい」
静かな低い声に愛を囁き続けられ、妙は涙をこぼした。堪えていたものが再び込みあがる。
やはり近藤は優しすぎる。あの雨の日、別れを告げに来た近藤はいつものようにストーカーを演じに来ていた。追ってこないようにとこちらを思いやってのことだ。今もこの気持ちを気のせいにしようとしている。こちらが辛い思いをしないようにとだ。いつものように気をしっかり持って人目を忍ばなければならない身でありながら何故会いに来たと撃退されようと店に来た。なのに、自分のこの出方に戸惑いながらも応えようと愛の言葉をくれた。しかも最上の口説き文句だ。一体なんなのだ。ただの男として死ねるのならあなたの膝元で死にたいとはなんだ。何も言い返せないではないか。妙は深呼吸をひとつして渾身のストレートパンチを傷跡残る鼻に打ち込んだ。
そして、かつてのように街にストーカーが潜伏し始めた。永遠の平行線を宣言しておきながらこれは一体どういうことなのだ。真選組もとい将軍暗殺を企てたとまことしやかに噂される賊となっても相変わらず暇なのか。妙はあの日々と同様、蝶のように舞っては蜂のように刺す拳をストーカーゴリラへ繰り出した。
再会は水割りと
Text by mimiko.
2016/07/11