WJ2015年8号第五百二十五訓「3杯の盃」
WJ2015年9号第五百二十六訓「鬼が哭いた日」
上記前提の近藤視点です。
時系列はWJ2015年7号第五百二十四訓以降WJ2015年8号第五百二十五訓以前。

立つ鳥跡を濁さず

 かぶき町は昼間。
「おゥおゥ、泣く子も黙る真選組局長が何の用じゃい」と、言われ、結局男泣きされた。かぶき町は夕方。
「あらァ~ん、珍しいお客さんがいらっしゃったこと。でもお店はまだ開いてないわよ、局長さん?」と、言われ、なんだかんだ飲まされて、軽く出来上がったところで久しぶりに馴染の店へ行った。怪我人でありながら飲酒とは怪我を舐めてるのかと菩薩の笑顔を向けられ、こちらが言うと「確かに、あなたがご来店されてなかった時の売り上げは落ちてましたけど……そうですか?じゃあ、ドンペリーニョ追加ね。ありがとうございます、近藤さん」と、感謝された。
 俺が愛した街は、相変わらず沢山の笑顔があった。この街を離れるのは寂しかったけれど、いつまでも浸っているわけにもいかない。俺なりの言葉で伝えた。
 様々な日常で、様々な出来事があるだろうが、沢山の笑顔を護っていって欲しい。
 畏まりすぎていたのか、不自然すぎたのか、三人とも同じ表情をしていた。どうやらこういうことは上手くこなせない性分らしい。残るは、あの銀髪だが奴は最後でいいだろう。
 完全に出来上がった状態で屯所に帰ると、寝付けないらしい野郎が煙草を吹かしていた。「悪い夢を見ちまっただけだ」と、嗤い「別に幽霊が怖いとかじゃねーし」と、つけ加えた。言い訳が昔から変わっていない。思い出し笑いをした後、言うと「それは遺言か。酔っぱらいすぎだ。笑えねー冗談言う余裕があんなら女と遊んでろよ」と、言われ、女とはけりがついたと返事すると食い下がられた。何も言わなかったと告げると「だから、アンタは女にモテねーんだ」と、溜息をつかれた。余計なお世話だ。
 おまえが俺なら同じことをしただろうよ。昔の話だ。その胸に手ェ当てて思い出してみろ。心当たりがありすぎて胸が痛いだろう。たった一言、我慢すりゃァその痛みは、てめェだけで治まる。それと同じだ。たったひとつの首で多くの首が並ばなくて済む。
 反撃に出たら応戦された。胸倉を掴み合う喧嘩なんざ、いつ振りだろう。
 女のもとへ帰りたいからといって生き急ぐなよ、トシ。おまえには同志の首を担いでもらう。どうとでも転ぶ純情な魂と、その数、担いでもらうぞ。転がり落ちた者もおまえなら拾ってやれると俺は信じているからな。
立つ鳥跡を濁さず
Text by mimiko.
2015/01/30

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