妙近妙です。
えっちしてないのにえっちくさいという下ネタ満載。
勲ターンは今日も元気にストーキングしてます。
妙ターンは結構なデレ仕様です。

問うに落ちず語るに落ちる

 出張から戻った俺は、普段着でいつものようにお妙さんの元へと向かった。今日は休みだ。枯れていた心を彼女の笑顔で思う存分癒されよう。俺は街へと出て彼女の姿を探す。平日でも人が多い。彼女はどこだ。見当たらない。しかし、彼女を見つけられないではないかという心配はいらない。彼女の行動パターンは把握済みだ。今日はあそこへ行っているだろう。心当たりへと歩みを進める。やはりいた。お気に入りの桜の着物に身を包み、淑やかに口元へ手を当て涼やかに微笑む。レジで会計を済ませた彼女は、結わえた亜麻色の髪を揺らしながら店の出入り口にやってくる。まずい、気づかれる。俺は気配を殺した。特売日によく訪れるスーパーマーケットから出た彼女を物陰からそっと見守る。あの角を曲がったらば帰宅するルートだ。彼女が街角を曲がったのを確認してから俺は先回りした。
 志村家に到着すると戸締りを確認する。よし、今日もしっかり戸締りされている。さすがお妙さんだ。抜かりない。そして新八君は万事屋へ出勤していると見た。さすが俺だ。抜かりない。いくら幼い姉弟でないとはいえ、身寄りのない若い姉弟が犯罪に巻き込まれるのは未然に防ぎたい。そう、これは人力セコムなんですお妙さん。あなたのいるところならばこの近藤勲、どこへでも出向き、年中無料であなたをセコムしますッ!
 誰もいない志村家の庭で敬礼をして軒下に潜り込む。彼女が帰宅して開錠して回るその時まで待機するのだ。今日はお妙さんに見つかっちゃうかな、見つからないままでいられるかな。心を弾ませ、彼女とのやりとりを想像する。勤務中にはないこの弛緩と緊張が楽しい。しばらくすると物音がした。帰宅した彼女が家中を開錠して回っている。一度近くなった足音が遠ざかると、俺は軒下から顔を出した。お妙さんは、いるだろうか。向こうへ行ってしまっただろうか。黒目だけを動かし、彼女の気を感じようと五感を研ぎ澄ます。しんと静まり返った庭の上空には雲が流れているだけだった。
 よし、お邪魔しよう。軒下から手足を出し、客間を後ろにして立ち上がった。背を伸ばして体をほぐしたところで硬直した。この殺気、身動き取れん。死んでないのにすでに死んだ気分だ。お妙さんは、いつの間に俺の背中に北斗百裂拳を打ち込んでくれたというのだ。彼女の右拳が俺の背骨をぐりぐりと撫でる。
「あはっ、こ、こんにちは、お妙さん……」
 抵抗する気はないと両手を上げる。
「随分とお久しぶりですね、ゴリラさん」
 トーンは低めに微笑んでいるらしいお妙さんが目に浮かぶ。
「随分って言ってもたった一週間じゃないですかッ」
 俺が言うと間があってからお妙さんは唸った。
「ほォ~お、たった、ねェ……」
 何か言いたそうである。てか、怒ってんの?
「あの、怒ってます?」
「怒ってます」
 被る勢いで言われ、ぴしゃりと頬を打たれた気がした。怒られるようなことをした覚えはないんだが。志村家に潜伏してるのなんていつものことだろ?
「えっと、何か約束してましたっけ?」
「いいえ、何も」
「あッ!破亜限堕津(はーげんだっつ)買ってきてませんでしたねッ!こいつァすまなんだお妙さ……」
「別に破亜限堕津買ってこいよなんて約束してませんけど買ってくる気あんなら買ってこいよもらってやりますから」
 不機嫌な声で返事される。なんでアイス買ってきてねーんだよゴリラッでもないなら、なんだ?両手を上げたまま振り返ろうとすると、彼女の右腕が俺の首元を横切り、後ろへと頭を引っ張られた。体勢を崩し、強制的に縁側に座らされたかと思いきや、すぐさま意識がぼやけてくる。
「んぐッ……!」
 見事なスリーパーホールドだッお妙さんッ!苦しくなって首を絞める彼女の右腕をタップする。
「一週間もお店に顔を出さなかった人には、こうですよッ」
 右腕は緩まない。
「はぐッ……!」
 これじゃあ、すぐに落ちちまうぞ。反撃だ勲ッ!俺の頭がここにあるってことは、お妙さんの腕の中ってことだッ!腕の中ってことはそこにあるのはお妙さんの胸ッ!残念ながらむにゅむにゅ感はないが、あのお妙さんのおっぱいに挟まれてるんだッ!俺は、ぼやける視界で何度も夢見た彼女にぱふぱふする光景を思い浮かべながら頭を左右に振った。決まり具合抜群の彼女の絞め技に薄く抗う。が、絞め直された。技は先ほどより更に決まっているが下心が働く。再び薄く抗うと、男を絞めあげることに専念していた彼女の声が上がった。
「いやぁんッ!変態ィィィ!」
 パッカーンと脳天をかち割られたような衝撃だった。まるで西瓜割りゲームの西瓜気分だ。あぶねェ、逝くとこだった、マジで。頭はガンガン痛いがお妙さんの膝枕だ。生きててよかった。鼻血をだらだら流しながら、肩に取りつけられていただけだった腕に神経を呼びさます。人知れず手を軽く握り、親指のみを立てた。よく耐えたな勲、おまえはやればできる奴だと前から思ってたよ。
「もうッ、信じられないッ!お仕置きなのに、ご褒美みたいになってるじゃないですかッ!」
 お妙さんは、ぷいっとそっぽを向き、頬を膨らませている。あれ?コレ何?なんでそんなかわいらしい感じで怒ってんの?
「もうッ、近藤さんのエッチっ!」
「だって、お妙さんが俺のことぎゅうぎゅう絞めつけてくるからさァ、ついついさァ」
 てか、何コレ?なんかイイ感じ?頭ぐりぐりしても嫌がるどころか、むしろ喜んでんじゃん?
「もォ、いくら私の胸が柔らかかったからって、そんなことしたら警察呼びますよォ、お巡りさん、ゴリラの痴漢がいますってェ」
「いや、柔らかくなくてそれなりに硬かったです。てか、俺が警察でお巡りさんでゴリラです。全部俺ですソレ」
 照れるお妙さんへ正直に告白した俺は、もうすでに目つぶしを食らっていた。あべしッ!!
***
 もうもうッ!信じられないッ!私の胸がそれなりに硬かったですってッ!?この人、本当に私のこと好きなのかしらッ!? ほんと失礼な人ッ!
「あああ目がァァ!目がァァァ!!
 のた打ち回るゴリラの右手をゴリラの目から引きはがして左胸に触れさせた。
「そんなに硬いですか」
 むすっとしながらこぼす。こんな言い方、かわいくないのはわかってる。でも、気づいてしまった。このバカなゴリラが私の後ろから姿を消してさびしく感じたのをきっかけに、今日、私の後ろに姿を現せ、うちに潜んでいたのが嬉しかったことを。もともと嫌いじゃないしタイプだったのよ。男らしいし、高給取りだし、帯刀してるお侍だし、どことなく父上に似てるし、笑った顔は尾美一兄様にも似てるし。江戸の治安を護る真選組の局長を務める立派な人。絵に描いたような玉の輿じゃない。老後まで何不自由なく暮らせる。何より、この人、私のこと、とても好きでいてくれる。
「……いや……それなりに柔らかいです。すみません、失言でした……」
 近藤さんは視線を泳がせて照れながら謝る。私だけのものにならないくせに、私のあとを追い回す人。ねえ、近藤さん、本当にあなたは私だけのものにならないの?
 彼の右手を解放すると、彼は上半身を起こして縁側に座り直した。
「あの、俺なんかが触ってもよかったんですか」
 こちらを見向きもしないまま訊ねてくる。
「ええ、いいですよ。だって、近藤さん、私のこと好きですよね?」
「あ、はい、好きです。……好きですけど……」
 沈黙した。けど?何?何が言いたいの?
「好きだって言う男だったら誰でもいいってことですか?」
 何それ。私の胸が硬い以上の失言じゃない。
「そんな安い女に見えますか」
 近藤さんは振り返った。目を見つめられる。まっすぐに、まるで見極めるような目で。
「……わかりません。そんな女じゃないと思ってたが、あなたという人がわからなくなりました」
 その濁りのない澄んだ目に気おくれしてしまいそうになる。でも、私は言う。
「私のことを好きなのに、私のことを信じられませんか」
「信じるも何も、あなたは追われる側、俺は追う側だ。俺たちにそれ以上も、それ以下もありません。違いますか」
 確かにそうだった。でも、気づいてしまった。
「違うと言ったら、どうしますか」
 彼の目は見開かれた。そして、視線を逸らさない私から逃れるように視線を落とす。
「……あッ!そういえば俺、用事あったんだったッ!仕事の書類、随分溜まってたんだよねェ。あれ片付けとかないとトシが鬼と化すんだよねェ」
 聞いてもいない用事の詳細を呟く。やっぱり逃げる気満々なんだわ。私は、そそくさと立ち去ろうとする近藤さんの左腕を掴んで引っ張った。また縁側へ座らせる。
「ちょッ、お妙さんッ、俺もう帰らないとダメなんですってばッ」
 慌てて私をなだめようとする近藤さんは、彼の左腕に絡みつけた私の両手を引き剥がそうとする。そうはさせるもんですか。私は、彼の腕を抱き寄せて近づいた近藤さんの顔へと自分の顔を寄せた。
「なッ、おたッ……」
 私を呼ぶその唇に唇を押し当てる。温かく柔らかい彼の唇に触れると、それなりに硬いらしい私の胸が、じんと熱くなった。
「……うそつき……」
 浮かせていた腰を下ろして彼の左腕にしなだれる。
「今日は、お休みなんでしょう?」
 着物の中の上腕筋を確かめるように頬を摺り寄せる。太くて硬い。この逞しい腕に優しく強く抱き締められたい。
「あ、はい……、休みです……。けど、書類溜まってて……」
 まだ逃げる気でいるの?しぶとい人なんだから、もう。観念しなさいよ。私は近藤さんの腕にしがみつく。
「ダメ。もう、捕まえたんですからね。離しませんよ」
「いや、でも……」
「お休みの日は、ちゃんと体を休めなきゃダメでしょう?近藤さんは、ここにいるんです」
「しかし……」
 渋る近藤さんは腕にしがみつく私に振り向く。そこで私は腰を少し浮かせて彼の肩口で目を閉じた。キスして、近藤さん。しばらく間があったあと、遠慮がちに唇が重ねられた。また胸が、じんと熱くなる。近藤さんがキスしてくれた。嬉しい。でも、もっとして欲しい。近藤さん、自分からは私に触ってこないから。ついさっき彼の唇が触れた下唇を軽く噛む。いざ言おうとすると恥ずかしい。でも、と顔を上げる。戸惑っていた近藤さんの視線が私から逸れた。ダメ、逃げないで。逃げないで、もっと私のことを見て。私は膝で立ち上がり、彼の両頬に手を伸ばしてこちらへと誘導した。彼の唇を視界に捕らえながら目を伏せる。微かに開かせて唇を重ねたけれど、彼の唇は閉じられていて深いキスなんてできなかった。唇を離して角度を変えてから、もう一度キスしたけれど、近藤さんの唇はやっぱり閉じられていた。唇を離して彼の顔を見た。唇は開いてくれないのに、目は開いたままだった。堪らなく恥ずかしくなって目が泳ぐ。近藤さんの視線が痛い。
「……あの、近藤さん……目、閉じないんですか……?」
「え……あ、はいッ」
 我に返ったらしい近藤さんは今になって目を閉じる。もう、遅いわよ。というか、なんで私ばっかり頑張ってるの?要求しようと口を開いて閉じた。本当になんで私ばっかり。さっきは私が目を閉じて待ってたら、キスしてくれたのに。というか、いつまで目、閉じてるのよ、もう。つい耐えられなくなって目を閉じたままの近藤さんの額を手の平ではたいた。ペチンといい音が鳴る。
「あイテっ」
 その拍子に近藤さんの目が開く。私は、間近で目が合って思わず視線を逸らした。逸らしちゃダメなのに、恥ずかしい。恥ずかしいけど、もっと近づきたい。
「……ちょっとは、そっちから動いてくださいよ……」
 不貞腐れたトーンで言ってしまった。かわいくない。ああ、もう、どうしてこうなるの。後悔しながらも近藤さんの反応を見ようと彼を見た。変に慌てたりもせず、照れたりもせず、近藤さんは目を伏せて私の背中に手を回した。抱き寄せられてドキリとする。首に息がかかってビクリとする。彼の唇に肌を啄まれてこぼれそうになった吐息を飲む。啄まれる度に彼の唇は上がっていく。耳の付け根まで上がると、頬、鼻先と口づけられ、最後に唇に口づけられた。一度離して顎先を太い親指と人差し指がそっと触れて引き下げられる。薄く開いた唇に近藤さんの唇が角度を変えて触れた。背中に回っていた腕は更に私を抱き寄せる。捕まってしまった。こちらが捕まえたかった人なのに、逆に捕まえられてしまう。捕まえてほしかったのに、いざ捕まえられたら逃げ出したい。時々鳴ってしまう水の音がいやらしい。でも、嬉しい。嬉しいのに、切ない。切ないのに、もっと欲しがられたい。目蓋を閉じて下りていた睫毛が冷たく濡れそぼっているのがわかる。近藤さんは手加減してると思うのに、容赦なく私を追い詰めているとも思ってしまう。だって、こんなに熱があるのに濡れてる。胸を打つ音がいつもより大きくて速いのに、どうしてこんなに心が満たされるの?近藤さん、ねえ、教えて。ゆっくりと目蓋を上げる。キスされる前までは見下ろしていた近藤さんの顔をいつの間にか見上げる形になっていた。腰に力が入っていない。背中を支える彼の腕がなければ、こんなにしっかり座れていない。私、いつの間に近藤さんのことこんなに好きになってたの?彼の唇に釘付けになる。キスの余韻が抜けない。彼のチャームポイントである顎髭に触れた。
「……近藤さん……」
 濡れた唇に触れる。さっきまであんなキスしてた近藤さんの唇――。口がさびしくなって自然と唇を開いた。切なくなって訴えかけるように彼の唇を見つめる。
「……もっと……」
 要求は受理された。近藤さんの唇が再び私の唇に重なろうとした時、玄関先から新ちゃんの声がして反射的に私は唇を奪おうとしたゴリラを渾身の力で押し出した。
「でッ?!?!
 縁側から落ちて転がるゴリラを見下ろす。危なかった。これ以上いっぱいキスしちゃったら完全にキャラ崩壊の道をたどっていたわ。ごめんなさい、近藤さん。私、まだあなたに落ちるわけにはいけないの。だから、これで忘れてちょうだいッ!私は隠し持っていた卵焼きを彼の口内いっぱいに押し込んだ。
「うぐッ……?!?!
問うに落ちず語るに落ちる
Text by mimiko.
2015/06/28

Pagination

Clap