銀さちがちゅうしてます。
つまみ食い
コンビニ帰りの銀時はスナックお登勢の二階、万事屋銀ちゃんへの階段を上がろうとして思い留まった。
「坂田さーん、アホの坂田さーん」
「お登勢様からの伝言をお預かりしてます、銀時様。先々月からの家賃をいい加減にお支払い下さい。さもなくばこれから毎晩ただ働きさせるぞコノヤローでございます」
自宅の玄関にはキャサリンとたまがおり、銀時は顔を歪めた。
げ、やっべェ、今日はたまもいんのか。
先日、仕事で留守にしていたところへたまが家賃の取り立てにやって来たらしく、施錠した玄関の戸は外され、それはもう無残に家財道具が破壊されていた。その場に居合わせていれば身体的、いや、精神的にどんな被害を受けただろうか計り知れない。背中に嫌な汗を掻き、周囲を見渡して人見知りがいないことを確認すると先程歩いてきた通りへと出る。
家賃も払ってねーのに何ジャンプ買いに行ってんだって言われかねねェからな。
懐に入れた漫画雑誌を確認するように叩くと、先週から気になっていた漫画のことを思い出し、キャサリンたちをやり過ごす間に読んでやろうと通りから路地裏へと入っていった。
「銀さん」
声を掛けられて肩を竦ませたがすぐにその声の主の正体がわかり、銀時は面倒臭そうに振り返る。通りの電柱に潜んでいたあやめは姿を現したがその出で立ちではいつものものではなく鮮やかな小花が散りばめ織られた水色の着物姿だった。いつも下ろされている長い髪は結わえられ、淑やかに立っていればどこぞの令嬢と見間違える程だ。
女はこえーな、よくもまあそんなに化けられるもんだ。
銀時は感心したが褒める訳でも貶す訳でもなく入っていこうとした路地裏から通りへ一度出る。が、通りの奥からキャサリンたちがやって来るのに気づくと回れ右で路地裏へと戻る。あやめが視界に入ったが、その横を通り過ぎようとして舌打ちをする。ここにあやめがいては居所を教えているようなものだ。銀時はあやめの手首を掴んで引っ張った。ひとつの手は口を押さえられ、もう片方の手は腰を抱き寄せ、顔を近づけられる。あやめは突然起こったことに対応出来ずにくぐもった声を出す。
「んんんっ!」
「うっせ、ちょっと黙ってろ」
至近距離で視線が合い、あやめは鼓動を速くさせた。銀時は近くにやって来たキャサリンとたまを警戒しながらあやめを見下ろす。
「おい、俺の首に手ェ回せ。面が割れる」
あやめは頷き、銀時の首に両腕を回した。通りのキャサリンたちをやり過ごし、銀時は一息ついて我に返った。
げ。何この状態。しかもなんかやけにうるうるしながら見つめられてるんですけど。
銀時は目を細めた。
「なんもしてねーのにこんなんで感じてんじゃねーよ。そういうプレイじゃねーぞ」
あやめはうっとりと銀時を見つめていたが我に返った。
「んうんんん、んんんうん、んんん」
「何言ってんのかわかんねーよ」
銀時は押さえていた手を離し、あやめは一呼吸した。
「いやだわ、銀さん。この私があれ如きの焦らしで感じてるわけないじゃない」
「……」
銀時は白々しくあやめを見る。
格好だけ変わっても中身はちっとも変わってねェ。
「な、何よ、本当に感じてなんかないんだか、あっ」
銀時はあやめの眼鏡を取り、あやめの頭上へ載せた。
「ちょっと銀さん、眼鏡返して。折角こんなに近いのに銀さんの顔見れないじゃない」
あやめは銀時の胸に手を伸ばし、懐を探る。
「やめろ痴女。まだ読んでねェジャンプが落っちまうだろが」
銀時はあやめの顎に指を添え、顔を上へと向ける。
黙ってりゃあそれなりなんだけどなー、色々残念だよなーコイツ。
「あの、銀さん……?」
「おまえ、結構うまそーだよな」
「えっ?」
「ちょっと味見……」
と、銀時はあやめの唇を割り、口づける。弄ばれるように舌を絡められ、あやめは眉を寄せる。角度を変えて絡んでくる舌から逃げるように動くが、それを追われて声が洩れた。
「はぁ、ん……」
腰を更に引き寄せられ、時折僅かに水音が鳴る。口内をゆっくりと犯され、瞳には意図しない涙が溜まる。銀時と視線が合い、涙を零しそうになっているのを見られたと強く意識すると、銀時へ舌を差し出すように動かし、瞼を閉じた。銀時は瞳だけで笑い、あやめのうなじを指で撫でる。普段は露出しない首筋がぞくりとし、体を揺らした。もう少しでも力を抜けば舌を弄ばれるまま、体も反応させられてしまうだろう。あやめは銀時に支えられてなんとか立っていることが出来ている状態だった。唇を離した銀時は、ふっと笑った。
「これくらいでこんな感じてんじゃダメだな。そんなんじゃあ、最後まで持たねーぞ」
「そんなこと、ないわ」
と、呼吸を整える。
「ふーん」
銀時はあやめを支えていた両腕を離し、両手を上げた。するとあやめは腰を抜かし、その場へとしゃがみ込む。
「へーえ」
よくそんなことが言えたもんだと銀時はあやめを見下ろした。
「あ、わりィわりィ。仕事着汚しちまったな。けどさっきので家賃取り立てのとそれのクリーニング代もチャラな」
と、銀時はあやめに背を向け、ひらひらと手を振るとさっさと行ってしまった。
ちょっと銀さん、いきなりなんなの。
――おまえ、結構うまそーだよな――ちょっと味見……――これくらいでこんな感じてんじゃダメだな。そんなんじゃあ、最後まで持たねーぞ――
先程の銀時を反芻しながらあやめはのそりと立ち上がる。
信じられないわ、銀さん。こんな道端であんなキスするなんて。
あやめは頭上に載っていた眼鏡を掛ける。
なんでそんなにカッコいいのよォォォォ!いやァん、もう、銀さんたらァ、さっちゃんドキドキしちゃったゾ。
一頻り気が済むまで身悶えると懐から携帯電話を取り出し、スケジュール機能を立ち上げて今日の日付にハートマークを入力した。
「坂田さーん、アホの坂田さーん」
「お登勢様からの伝言をお預かりしてます、銀時様。先々月からの家賃をいい加減にお支払い下さい。さもなくばこれから毎晩ただ働きさせるぞコノヤローでございます」
自宅の玄関にはキャサリンとたまがおり、銀時は顔を歪めた。
げ、やっべェ、今日はたまもいんのか。
先日、仕事で留守にしていたところへたまが家賃の取り立てにやって来たらしく、施錠した玄関の戸は外され、それはもう無残に家財道具が破壊されていた。その場に居合わせていれば身体的、いや、精神的にどんな被害を受けただろうか計り知れない。背中に嫌な汗を掻き、周囲を見渡して人見知りがいないことを確認すると先程歩いてきた通りへと出る。
家賃も払ってねーのに何ジャンプ買いに行ってんだって言われかねねェからな。
懐に入れた漫画雑誌を確認するように叩くと、先週から気になっていた漫画のことを思い出し、キャサリンたちをやり過ごす間に読んでやろうと通りから路地裏へと入っていった。
「銀さん」
声を掛けられて肩を竦ませたがすぐにその声の主の正体がわかり、銀時は面倒臭そうに振り返る。通りの電柱に潜んでいたあやめは姿を現したがその出で立ちではいつものものではなく鮮やかな小花が散りばめ織られた水色の着物姿だった。いつも下ろされている長い髪は結わえられ、淑やかに立っていればどこぞの令嬢と見間違える程だ。
女はこえーな、よくもまあそんなに化けられるもんだ。
銀時は感心したが褒める訳でも貶す訳でもなく入っていこうとした路地裏から通りへ一度出る。が、通りの奥からキャサリンたちがやって来るのに気づくと回れ右で路地裏へと戻る。あやめが視界に入ったが、その横を通り過ぎようとして舌打ちをする。ここにあやめがいては居所を教えているようなものだ。銀時はあやめの手首を掴んで引っ張った。ひとつの手は口を押さえられ、もう片方の手は腰を抱き寄せ、顔を近づけられる。あやめは突然起こったことに対応出来ずにくぐもった声を出す。
「んんんっ!」
「うっせ、ちょっと黙ってろ」
至近距離で視線が合い、あやめは鼓動を速くさせた。銀時は近くにやって来たキャサリンとたまを警戒しながらあやめを見下ろす。
「おい、俺の首に手ェ回せ。面が割れる」
あやめは頷き、銀時の首に両腕を回した。通りのキャサリンたちをやり過ごし、銀時は一息ついて我に返った。
げ。何この状態。しかもなんかやけにうるうるしながら見つめられてるんですけど。
銀時は目を細めた。
「なんもしてねーのにこんなんで感じてんじゃねーよ。そういうプレイじゃねーぞ」
あやめはうっとりと銀時を見つめていたが我に返った。
「んうんんん、んんんうん、んんん」
「何言ってんのかわかんねーよ」
銀時は押さえていた手を離し、あやめは一呼吸した。
「いやだわ、銀さん。この私があれ如きの焦らしで感じてるわけないじゃない」
「……」
銀時は白々しくあやめを見る。
格好だけ変わっても中身はちっとも変わってねェ。
「な、何よ、本当に感じてなんかないんだか、あっ」
銀時はあやめの眼鏡を取り、あやめの頭上へ載せた。
「ちょっと銀さん、眼鏡返して。折角こんなに近いのに銀さんの顔見れないじゃない」
あやめは銀時の胸に手を伸ばし、懐を探る。
「やめろ痴女。まだ読んでねェジャンプが落っちまうだろが」
銀時はあやめの顎に指を添え、顔を上へと向ける。
黙ってりゃあそれなりなんだけどなー、色々残念だよなーコイツ。
「あの、銀さん……?」
「おまえ、結構うまそーだよな」
「えっ?」
「ちょっと味見……」
と、銀時はあやめの唇を割り、口づける。弄ばれるように舌を絡められ、あやめは眉を寄せる。角度を変えて絡んでくる舌から逃げるように動くが、それを追われて声が洩れた。
「はぁ、ん……」
腰を更に引き寄せられ、時折僅かに水音が鳴る。口内をゆっくりと犯され、瞳には意図しない涙が溜まる。銀時と視線が合い、涙を零しそうになっているのを見られたと強く意識すると、銀時へ舌を差し出すように動かし、瞼を閉じた。銀時は瞳だけで笑い、あやめのうなじを指で撫でる。普段は露出しない首筋がぞくりとし、体を揺らした。もう少しでも力を抜けば舌を弄ばれるまま、体も反応させられてしまうだろう。あやめは銀時に支えられてなんとか立っていることが出来ている状態だった。唇を離した銀時は、ふっと笑った。
「これくらいでこんな感じてんじゃダメだな。そんなんじゃあ、最後まで持たねーぞ」
「そんなこと、ないわ」
と、呼吸を整える。
「ふーん」
銀時はあやめを支えていた両腕を離し、両手を上げた。するとあやめは腰を抜かし、その場へとしゃがみ込む。
「へーえ」
よくそんなことが言えたもんだと銀時はあやめを見下ろした。
「あ、わりィわりィ。仕事着汚しちまったな。けどさっきので家賃取り立てのとそれのクリーニング代もチャラな」
と、銀時はあやめに背を向け、ひらひらと手を振るとさっさと行ってしまった。
ちょっと銀さん、いきなりなんなの。
――おまえ、結構うまそーだよな――ちょっと味見……――これくらいでこんな感じてんじゃダメだな。そんなんじゃあ、最後まで持たねーぞ――
先程の銀時を反芻しながらあやめはのそりと立ち上がる。
信じられないわ、銀さん。こんな道端であんなキスするなんて。
あやめは頭上に載っていた眼鏡を掛ける。
なんでそんなにカッコいいのよォォォォ!いやァん、もう、銀さんたらァ、さっちゃんドキドキしちゃったゾ。
一頻り気が済むまで身悶えると懐から携帯電話を取り出し、スケジュール機能を立ち上げて今日の日付にハートマークを入力した。
つまみ食い
Text by mimiko.
2009/11/09