~第57巻~単行本未収録~WJ2015年18号第五百三十五訓「真選組局注法度第47条」まで既読前提にしている近妙です。
近藤さんとお妙さんが再会したら?!の近藤さん不甲斐なさ全開妄想です。やっぱりどこだそこwwです。とても適当なので雰囲気で読んでくださいませ。

罪と罰と償い

「近藤さんっ」
 息を乱しながら駆けてくる妙に、近藤は下唇を噛んだ。二度とこの目にすることがないと思っていた妙が、すぐそばで自分を心配そうに見上げている。伸ばされた近藤の右の指は、妙の横髪を耳にかける。左側の輪郭を撫で、頬に手の平がそっと触れて離れた。が、すぐにまた触れた。ぱちんと小さな音を鳴らして妙の頬を打ったのだ。夏の日に蚊を打つように軽く。
「どうしてこんな戦場(ところ)にあなたがいるんですか」
 冷たい声が降ってくる。妙は身を強張らせた。
「あなたはみんなが帰る場所(ところ)だ。そのあなたが、どうして戦場(ここ)にいるんですか」
と、近藤は眉間に皺を寄せる。険しい表情に静かな憤りを察しつつも妙は、迷いなく彼を見上げた。
「この戦いがみんなにとって劣勢だと判断したからです。勝敗はあなたの首にある。あなたの首を取り戻すには、私はなくてはならないと思ったからです。私たちは、あなたの首を護らなければいけないんです。護れなかったら、私たちは帰るべき場所へ帰れない。あなたは、あなたの護りたかったものを護りました。あなたと真選組(なかま)には強い信頼(きずな)があります。けれど、あなたは信じているんですか?自分のことなんてさっさと忘れてみんな前に進めると、本当に信じているんですか?あなたが残したものを顧みないままでいたら残された者がどんな思いを抱くか……」
 胸に迫る切なさが潤ませていた妙の瞳からあふれ出した。
「わからない人じゃないでしょう?誰かに何かを託しても、誰かに何も言わなくても、あなたが紡いだ絆は……」
と、妙は近藤の右の手を取り自分の左胸にあてた。
「心(ここ)にずっと残っているんです。こんな戦場(ところ)に来させるくらいあなたは、私の心(ここ)にいるんです」
 涙は止めどなく妙の頬を伝う。
「あなたは生きなきゃならないの。生きて、みんなを置いて行こうとした罰を受けるんです。みんなに償うの。じゃなきゃ、みんなあなたを許さない。土方さんだって、沖田さんだって、銀さんだって、神楽ちゃんだって、新ちゃんだって、絶対許さない……」
 手の平に妙の鼓動を感じていた近藤は目を細めた。
「あなたは……?」
「私(ひと)の心を盗んだ罪は重罪です。無期懲役です。よって、二十四時間監視される檻に永遠に収監されていてください。執行猶予なんてありませんから。不服申し立てなんて受け付けません。審議なんてする意味もないわ」
 速くなる鼓動と泣きじゃくる妙に、近藤は涙を滲ませた。
「あなたの唯一の未練は私でしょう?」
 大粒の涙を流す妙の胸から手を離し、近藤は妙を抱き締める。
「はい。仰る通りです……」
 耳元で涙ぐむ声がする。
「俺には、あなたしかいない……」
 どの口が心にもないことを言うのかと、妙は呆れた。近藤の大事なものは一に真選組、二に市民、三になってようやく自分ではないか。
「嘘つき……」
 ぼそりと呟く妙に聞き捨てならないと、近藤は顔を上げた。妙を抱き締めたまま彼女を見る。
「嘘なんてついてませんよ。俺にとってお妙さんより大事なことなんてありません」
「もう、嘘ばっかり。私のことを好きっていうのも嘘なんじゃないですか?」
「嘘じゃないです。本当です。真実です。俺のお妙さんへの愛は嘘偽り一切ありません!」
「じゃあ、真選組より私を優先してください」
 言われて近藤の表情が曇る。
「じゃあ、困ってる人より私を優先してください」
 ぐうの音も出ない近藤に妙は溜息をついた。
「だから、あなたは侍で警察なんですよ。もう、やんなっちゃう」
 すっかり泣き止んだ妙は近藤の腕を解き、彼の鼻めがけて拳を打った。鼻を覆ってしゃがみこみ、声なく呻く近藤に妙は言う。
「行きますよ。みんな待ってるんですから。いつまでも痛がってないで早く立ってください」
と、近藤の正面に両膝を突く。鼻を覆う近藤の手を退けると鼻に唇を押し当てた。温かく柔らかい感触に近藤は目を見開く。先程から感じていた妙の気持ちを自分の中で確定するが、それは己の情けなさをまざまざと突きつけられていることを意味していた。
「ほら、これでもう痛くないでしょう?さ、立って」
 腕を引っ張り上げられ、近藤は導かれるまま立ち上がる。
「行きますよ、近藤さん。あなたまだまだ仕事あるんだから、しっかり局長してくださいよ」
「はい……」
 十も年下の女性に手を引かれ、諭され、近藤はただ頷くしかなかった。
 お妙さん、これじゃまるで迷子のゴリラを交番に連れて行く女性警察官じゃねェか。はァ、頭あがらねェ。その上、二十四時間監視された檻に永遠に入ってろときたもんだ。逆プロポーズじゃねェか。マジで面目ねェな俺。もう自分に溜息しかでねェよ、はァ……。
罪と罰と償い
Text by mimiko.
2015/04/02

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