第2巻第八訓(近藤登場回)、第46巻第四百二訓~第四百九訓(尾美一回)前提のお妙さんの年齢に戸惑いながらも求婚勲と突然の求婚に戸惑いながら断るお妙さんです。近→←妙です。
2009年、2012年ときて今回3度目のリメイクです。
自分設定→妙がスナックすまいるに勤め出したのは銀さん経由のお登勢さんの紹介。高級キャバクラ改装移転前の雑居ビルテナントスナックバー業態でホステス。お妙さん18歳。近藤さん28歳。
以上ご注意を。
2009年、2012年ときて今回3度目のリメイクです。
自分設定→妙がスナックすまいるに勤め出したのは銀さん経由のお登勢さんの紹介。高級キャバクラ改装移転前の雑居ビルテナントスナックバー業態でホステス。お妙さん18歳。近藤さん28歳。
以上ご注意を。
うまくいくかどうかは第一印象で決まる
弟の勤め先は万事屋の事務所兼住宅の大家であるスナックお登勢の女将づてに仕事を紹介してもらった妙は、覚えたての酒の造り方を反芻しながら氷が入ったグラスにウイスキーと水を注いだ。マドラーを手にするとグラスの中を混ぜ、すっと、それを抜く。妙は、新しく作った水割りを客のコースターへと乗せた。肝心の男性客は先程から俯いているままだ。
「どーせ、俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ。女にモテるわけないんだよ」
「そんなことないですよ。男らしくて素敵じゃありませんか」
「じゃあ、きくけどさァ、もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったらどーするよ?」
ケツが毛だるまって、人間なんだから毛くらい全身に生えてて当たり前じゃない。ケツ毛なんてどんなイケメンにでも生えているものだし……。それにこの人、見た目は体育会系イケメンって感じでそんなに悪くないと思うんだけど。
「ケツ毛ごと愛します」
男性客は目を見開き、顔を上げた。艶のある濃い茶の髪は綺麗に結われ、肌は白く顔が小さい。鼻筋はすっと通っており、伏せられた睫は長い。唇は形よくぷっくりとし、桜色は薄く開いて弧を描く。男は隣に腰掛けるホステスに目を奪われていた。
菩薩……。すべての不浄を包みこむまるで菩薩だ。こんな女なら俺やあいつらの所業を共に悔いて尚、浄化してくれるやもしれん。初めて顔を見た時はどこにでもいるような最近の娘だと思ったが、なかなかどうしていいじゃないか。聞き上手で美人だし笑顔がかわいい。
男は先程までの憂さをすっかり晴らし、満面の笑みで妙を見つめた。
そんなにモテないのかしら。まだ数えるほどしかここに働きにきてないけど、この店に来るお客さんにしては、身なりはいいし帯刀してるのに?まあ、今日初めてだってお店に入ってきた時は明るい笑顔だったのに、こんな絡み酒してくる人だったなんてちょっと面倒くさいかもしれないけど。って、何?!
男からの視線に気づいた妙はどきりとした。来店時と同じ明るい笑顔に再び既視感を抱く。
……やっぱり似てる?父上?よりは若いし……って、まさか尾美一(おびワン)兄様に似てるって思ってるの私?!いいえ、ちょっと待ってよ。確かに目と眉が近い系統だけど、こちらまで釣られてしまいそうな笑顔してるけど、そんなわけ……。
男は表情を引き締めて言う。
「近藤勲といいます」
と、涼やかで力強い声で軽く頭を下げた。
「あ、はい……」
「あなたのお名前をお聞かせいただけますか」
「え、あ、し、志村妙といいます」
「あ、本名だったんですね」
と、声に柔らかさが戻った。緊張感がほんの少し緩和されると妙は笑みをこぼす。
え、一体なんなの、突然改まって自己紹介?
「あなたにお話があります」
再び真面目な顔をした近藤は姿勢を正し、妙を真っ直ぐに見つめた。
「結婚を前提におつき合いしていただきたい」
「……え?」
思ってもみなかった申し出に妙の目が点になった。
ななななな何言ってるのこの人!今日初めて会ってたった数分間、会話しただけで結婚?!頭おかしいんじゃないの?!
「ご家族は?」
「父と母は幼い頃に他界して、二つ下の弟がひとり……」
あ、あれ?ちょっと待って、私、結婚する感じになってるの?え、待って、そんなの……。
「ほう、弟さんが……。年頃の若い男は何かと大変でしょう。俺にも実の弟のようにかわいがってる奴がいるんですがね、これがまたヤンチャな野郎で……。時にお妙さん、おいくつかお聞きしても?」
「あ、はい、十八です……」
やたらと瞬きを繰り返しながら言う妙の返答に近藤は目を見開いた。
じゅじゅじゅ十八ィィィィ?!マジでかァァァァ!!総悟と同じ歳じゃねェか!!なんかぴちぴちしてるなとは思ったよ?!思ったけどええェェェェ!!十八って十も年下の娘にいきなりプロポーズしちゃったよ俺!どーすんの!いや決して年増とか思ってないよ!しっかりしてる雰囲気だったからこりゃァ先手必勝だァァ!とか思っただけなのに十八って!ええと、十八、俺、十八の時、どんな感じだったっけ?……ムラムラしかしてねェ……。十八の時の気分で行ったらマズくないか、絶対マズイだろう、即振られるに決まってる!
「あの、近藤さん?その、今日初めてお会いしたのに、いきなり結婚というのは……」
少し気分を落ち着かせた妙は、自分の膝の上の拳を見つめたままの近藤を窺う。
「そう……」
だよね!お妙さん、君の言う通りだ!
顔を上げて妙を見た近藤は同意しようとしたが、彼女を見つめたまま思案した。
確かに君の言う通りだ。だが、逃したくない。最近の振られ三昧に嫌気がさしてたところで君と出会ったから余計にそう思うのかもしれない。でも、やっと出会えたと感じた。ただの直感だが。それに、俺はもうすでに惚れている。君もまんざらじゃないだろう。
「いや、俺は出会ったばかりの君にもう惚れてる」
思ったままを口にする近藤に妙の頬が紅く染まった。
ほら、俺が嫌ならそんな顔なんてしない。今まで出会った女たちは即、逃げていくだけだった。俺のド直球をもってしても君はその心のキャッチャーミットで俺の投げた玉をちゃんと掴んでくれる。不浄なものまで包みこむそのキャッチャーミットを携えた君とバッテリーを組みたい、永遠に。
近藤の手が妙の膝の上の手を覆った。骨張った太い指にそっと握られ、妙の鼓動は速くなる。
ちょっと、なんで勝手に手を握ってくるのよッ!
手を引こうとしたが捕えられ、温かい手の平に包まれる。耳元で心音が鳴っている。妙は再び目を回すような緊張感に襲われた。
ダメ、私たちまだ出会って数分しか経ってないのに、こんな……。
妙の華奢な白い手の甲を武骨な指が優しく撫でる。
「あっ……」
ぞくりとした感覚に身の危険を察し、妙は右隣の近藤の左頬を利き手で押し出した。
この人、危険だわ。危険すぎる。絶対、これ以上、近寄らないッ!
「むッお妙さんッ、俺のこと嫌ですかッ?!」
嫌じゃないけど……。
「嫌ですッ!これ以上、私に近づかないでくださいッ!」
と、言った妙を余所に近藤は妙の腰に手を回した。左脇が引き寄せられ、妙は慌ててもう一方の手で近藤の胸を押し出す。が、びくりともしない逞しい筋肉を着物越しに感じ、妙は顔を熱くした。
この娘、かわいいな。生娘か?尚、よし。
自分を意識して顔を赤くしている妙に気分を良くした近藤は、すっと妙から手を離した。すみませんと、ソファに座り直す。僅かだがひらいた距離に妙は安堵の溜息をついた。が、近藤の次の言葉に妙の頬は再び熱くなる。
「あなたがかわいくて、ついはしゃいでしまった」
からかわれていると感じた妙は負けまいと近藤を睨みつける。悔しさで眉を寄せる皺さえもかわいらしい。
ヤバイ、はまりそうだ。この娘、すごくかわいい。なんでこんな素直な反応するんだ。
穏やかな中に切なげな眼差しを見た妙は視線を逸らせた。
この人、やっぱり嫌。こちらを見るその目で好きだって言ってる。出会って数分しか経ってないのに、どうしてそんな顔できるの?
妙は速く打つ鼓動を落ち着かせようと静かに息をついた。
絶対、断る。ここで頷いちゃダメ。私にはやらなきゃいけないことがあるの。願った夢があるの。父上がぼろぼろになりながらも護った道場を復興させる。誰かの力を借りるのではなく、自分たちで叶えてみせる。
「ありがとうございます。でも、お断りします」
妙の表情に決意を見た近藤は寂しげに笑う。
「やはり俺ではダメですか……」
「いいえ、そうじゃなくて……。やりたいことがあるんです。自分の力でやり遂げたいんです」
不浄を包みこむ心に男を立てる淑やかさ。美人でかわいい生娘。その上、芯が強いだと?完璧じゃないか。
「尚、よし!」
妙は、脈絡なく発した近藤の言葉に首を傾げた。不意に大きな手がふたつ、妙の手を握った。再び逃げようとした妙だったが、やはりびくりともしない。
「お妙さんッ!俺には君しかいないッ!俺と結婚してくれェェェ!」
「だから、たった今お断りしたじゃないですかッ」
「でも、俺が嫌ってわけじゃないんでしょ?」
「私、嫌だって言いましたよッ」
「またまたァ、そんなこと言っときながら実は、あだァァァ?!」
目尻が下がった顔に額を打ちつけた妙は、頭突きの衝撃に怯んだ近藤の鼻めがけて利き手で作った拳を打ちつけた。
「だから嫌だっつっただろッ!しつこいッ!」
ドスの効いた妙の声を聞きながら近藤の意識は薄れていく。
格闘技にも長けてるのか、尚、よし?女にのされる?コレ……よしなのか……?
「どーせ、俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ。女にモテるわけないんだよ」
「そんなことないですよ。男らしくて素敵じゃありませんか」
「じゃあ、きくけどさァ、もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったらどーするよ?」
ケツが毛だるまって、人間なんだから毛くらい全身に生えてて当たり前じゃない。ケツ毛なんてどんなイケメンにでも生えているものだし……。それにこの人、見た目は体育会系イケメンって感じでそんなに悪くないと思うんだけど。
「ケツ毛ごと愛します」
男性客は目を見開き、顔を上げた。艶のある濃い茶の髪は綺麗に結われ、肌は白く顔が小さい。鼻筋はすっと通っており、伏せられた睫は長い。唇は形よくぷっくりとし、桜色は薄く開いて弧を描く。男は隣に腰掛けるホステスに目を奪われていた。
菩薩……。すべての不浄を包みこむまるで菩薩だ。こんな女なら俺やあいつらの所業を共に悔いて尚、浄化してくれるやもしれん。初めて顔を見た時はどこにでもいるような最近の娘だと思ったが、なかなかどうしていいじゃないか。聞き上手で美人だし笑顔がかわいい。
男は先程までの憂さをすっかり晴らし、満面の笑みで妙を見つめた。
そんなにモテないのかしら。まだ数えるほどしかここに働きにきてないけど、この店に来るお客さんにしては、身なりはいいし帯刀してるのに?まあ、今日初めてだってお店に入ってきた時は明るい笑顔だったのに、こんな絡み酒してくる人だったなんてちょっと面倒くさいかもしれないけど。って、何?!
男からの視線に気づいた妙はどきりとした。来店時と同じ明るい笑顔に再び既視感を抱く。
……やっぱり似てる?父上?よりは若いし……って、まさか尾美一(おびワン)兄様に似てるって思ってるの私?!いいえ、ちょっと待ってよ。確かに目と眉が近い系統だけど、こちらまで釣られてしまいそうな笑顔してるけど、そんなわけ……。
男は表情を引き締めて言う。
「近藤勲といいます」
と、涼やかで力強い声で軽く頭を下げた。
「あ、はい……」
「あなたのお名前をお聞かせいただけますか」
「え、あ、し、志村妙といいます」
「あ、本名だったんですね」
と、声に柔らかさが戻った。緊張感がほんの少し緩和されると妙は笑みをこぼす。
え、一体なんなの、突然改まって自己紹介?
「あなたにお話があります」
再び真面目な顔をした近藤は姿勢を正し、妙を真っ直ぐに見つめた。
「結婚を前提におつき合いしていただきたい」
「……え?」
思ってもみなかった申し出に妙の目が点になった。
ななななな何言ってるのこの人!今日初めて会ってたった数分間、会話しただけで結婚?!頭おかしいんじゃないの?!
「ご家族は?」
「父と母は幼い頃に他界して、二つ下の弟がひとり……」
あ、あれ?ちょっと待って、私、結婚する感じになってるの?え、待って、そんなの……。
「ほう、弟さんが……。年頃の若い男は何かと大変でしょう。俺にも実の弟のようにかわいがってる奴がいるんですがね、これがまたヤンチャな野郎で……。時にお妙さん、おいくつかお聞きしても?」
「あ、はい、十八です……」
やたらと瞬きを繰り返しながら言う妙の返答に近藤は目を見開いた。
じゅじゅじゅ十八ィィィィ?!マジでかァァァァ!!総悟と同じ歳じゃねェか!!なんかぴちぴちしてるなとは思ったよ?!思ったけどええェェェェ!!十八って十も年下の娘にいきなりプロポーズしちゃったよ俺!どーすんの!いや決して年増とか思ってないよ!しっかりしてる雰囲気だったからこりゃァ先手必勝だァァ!とか思っただけなのに十八って!ええと、十八、俺、十八の時、どんな感じだったっけ?……ムラムラしかしてねェ……。十八の時の気分で行ったらマズくないか、絶対マズイだろう、即振られるに決まってる!
「あの、近藤さん?その、今日初めてお会いしたのに、いきなり結婚というのは……」
少し気分を落ち着かせた妙は、自分の膝の上の拳を見つめたままの近藤を窺う。
「そう……」
だよね!お妙さん、君の言う通りだ!
顔を上げて妙を見た近藤は同意しようとしたが、彼女を見つめたまま思案した。
確かに君の言う通りだ。だが、逃したくない。最近の振られ三昧に嫌気がさしてたところで君と出会ったから余計にそう思うのかもしれない。でも、やっと出会えたと感じた。ただの直感だが。それに、俺はもうすでに惚れている。君もまんざらじゃないだろう。
「いや、俺は出会ったばかりの君にもう惚れてる」
思ったままを口にする近藤に妙の頬が紅く染まった。
ほら、俺が嫌ならそんな顔なんてしない。今まで出会った女たちは即、逃げていくだけだった。俺のド直球をもってしても君はその心のキャッチャーミットで俺の投げた玉をちゃんと掴んでくれる。不浄なものまで包みこむそのキャッチャーミットを携えた君とバッテリーを組みたい、永遠に。
近藤の手が妙の膝の上の手を覆った。骨張った太い指にそっと握られ、妙の鼓動は速くなる。
ちょっと、なんで勝手に手を握ってくるのよッ!
手を引こうとしたが捕えられ、温かい手の平に包まれる。耳元で心音が鳴っている。妙は再び目を回すような緊張感に襲われた。
ダメ、私たちまだ出会って数分しか経ってないのに、こんな……。
妙の華奢な白い手の甲を武骨な指が優しく撫でる。
「あっ……」
ぞくりとした感覚に身の危険を察し、妙は右隣の近藤の左頬を利き手で押し出した。
この人、危険だわ。危険すぎる。絶対、これ以上、近寄らないッ!
「むッお妙さんッ、俺のこと嫌ですかッ?!」
嫌じゃないけど……。
「嫌ですッ!これ以上、私に近づかないでくださいッ!」
と、言った妙を余所に近藤は妙の腰に手を回した。左脇が引き寄せられ、妙は慌ててもう一方の手で近藤の胸を押し出す。が、びくりともしない逞しい筋肉を着物越しに感じ、妙は顔を熱くした。
この娘、かわいいな。生娘か?尚、よし。
自分を意識して顔を赤くしている妙に気分を良くした近藤は、すっと妙から手を離した。すみませんと、ソファに座り直す。僅かだがひらいた距離に妙は安堵の溜息をついた。が、近藤の次の言葉に妙の頬は再び熱くなる。
「あなたがかわいくて、ついはしゃいでしまった」
からかわれていると感じた妙は負けまいと近藤を睨みつける。悔しさで眉を寄せる皺さえもかわいらしい。
ヤバイ、はまりそうだ。この娘、すごくかわいい。なんでこんな素直な反応するんだ。
穏やかな中に切なげな眼差しを見た妙は視線を逸らせた。
この人、やっぱり嫌。こちらを見るその目で好きだって言ってる。出会って数分しか経ってないのに、どうしてそんな顔できるの?
妙は速く打つ鼓動を落ち着かせようと静かに息をついた。
絶対、断る。ここで頷いちゃダメ。私にはやらなきゃいけないことがあるの。願った夢があるの。父上がぼろぼろになりながらも護った道場を復興させる。誰かの力を借りるのではなく、自分たちで叶えてみせる。
「ありがとうございます。でも、お断りします」
妙の表情に決意を見た近藤は寂しげに笑う。
「やはり俺ではダメですか……」
「いいえ、そうじゃなくて……。やりたいことがあるんです。自分の力でやり遂げたいんです」
不浄を包みこむ心に男を立てる淑やかさ。美人でかわいい生娘。その上、芯が強いだと?完璧じゃないか。
「尚、よし!」
妙は、脈絡なく発した近藤の言葉に首を傾げた。不意に大きな手がふたつ、妙の手を握った。再び逃げようとした妙だったが、やはりびくりともしない。
「お妙さんッ!俺には君しかいないッ!俺と結婚してくれェェェ!」
「だから、たった今お断りしたじゃないですかッ」
「でも、俺が嫌ってわけじゃないんでしょ?」
「私、嫌だって言いましたよッ」
「またまたァ、そんなこと言っときながら実は、あだァァァ?!」
目尻が下がった顔に額を打ちつけた妙は、頭突きの衝撃に怯んだ近藤の鼻めがけて利き手で作った拳を打ちつけた。
「だから嫌だっつっただろッ!しつこいッ!」
ドスの効いた妙の声を聞きながら近藤の意識は薄れていく。
格闘技にも長けてるのか、尚、よし?女にのされる?コレ……よしなのか……?
うまくいくかどうかは第一印象で決まる
Text by mimiko.
2015/02/17(2012/10/29・2009/05/24)