WJ2015年9号第五百二十六訓「鬼が哭いた日」
WJ2015年10号第五百二十七訓「新しき者と旧き者」
以上前提の土方視点です。
WJ2015年10号第五百二十七訓「新しき者と旧き者」
以上前提の土方視点です。
和して同ぜず
これで二度目だ。包帯が巻かれた脳みそ空っぽの銀髪頭を下げられた。兄貴分の矜恃二の舞勲ってか。奴が頭を下げる時はロクなことがねェ。よりによってなんでこいつだ。副長である俺に言えよ。俺は言いたいことが山ほどある。なのに、あの人はひとりで行ってしまった。
「それでも生きろと言ったんだろう」
なんで俺がこんなこと言わなきゃなんねェんだ。
「それぞれが真選組として自分のやれる事をやれと、近藤さんは、そう言ったんだろう」
胸糞わりィってもんじゃねェ。いっそのこと俺を殺してくれよ、総悟。勝手にしゃべるこの口を止めてくれ。あの人の気持ちを云うこの口止めてくれ。
俺の、俺たちの真選組はなんだったんだ。近藤勲という魂を失くしたらすぐに散っていった。いや、散らせたのは俺だ。あの人を取り戻す―取り戻してどうなるんだ。全員即刻打首だ。そんな馬鹿な真似ができるかよ。あの人が自分自身と引き換えに護った首をそう簡単に落とさせてたまるか。いや、そんな律儀なもんじゃねェな。てめェがどうしたいか、何をすべきか、何も考えられなくてただ逃げただけだ。
新しい上司には何度か一杯だの一本だの誘われたが、その気になれず断った。しかし、その日は俺の歓迎会だと誘いを受けた。場所が場所だけに行ってみてもいいと思ったからだ。だが、すぐに後悔した。なんで銀髪天然でパーな奴が同席するんだ。あの人の女は接客中だし、こいつが関わってくるとマジでロクなことがねェ。女の様子なら遠目でも構わねェが、こいつと一緒に酒飲むなんざお断りだ。どうでもいいことを銀髪と張り合っていると女が出てきた。本気で飲みたいなら、とことんつき合うだとよ。
「そんなツラで酌されても酔えねェよ。聞きてェ事があんなら、こんな場用意しねェでもシラフで聞きな、てめェもな」
しゃらくせェ。どいつもこいつもしゃらくせェ。おまえらいつもあの人を邪険にしてたくせに、なんでこういう時だけそんな辛気臭い表情しやがんだ。あーあ、あの人がここにいたら、きっと面白おかしい宴がすでに始まってんだろうなァ。俺には無理だな。なァ、近藤さん、俺にアンタの代わりは無理だ。俺は……。
「あの人がいなきゃ何もできやしねェ」
そんなことはない、よくやっている―俺を負け犬だと褒め称える男がその主君を連れて現れた。俺たちが仕えた主君へ冥福を祈る酒だとよ、俺たちのあの人へ冥福を祈る酒だとよ。黙して拳を握りしめるだけだった。だが、それでいいのだと言い聞かせた。罵詈雑言、誹謗中傷、なんでも来いよ。あの人の魂はそんな小せェことで消えやしねェ。不意に接客していた女たちの悲鳴が上がった。仲間を傷つけられたあの人の女が口を開いた。耳が痛かった。まるであの人が殴りにやってきたみてェだ。それ故か、新しい将軍にとっちゃあ小娘の戯言に留まらなかったらしい。俺へ向かっていたはずの刃先が女に向けられた。女はそれでもやめなかった。
「本物の警察は、本物の侍は、こんな事しない。あの人は、こんな事しない」
どの口が『あの人』と言った?あの人を語れるほどおまえは、あの人のことを知ってるってのか?なんだよ、結局、俺が読んだ通り、アンタも近藤勲という男に惚れてたのかよ。いいだろう、あの人の想いとともに俺がそいつをブン殴ってやるよ。周囲の張りつめた空気に微かな鉄のにおいがした。泣き喚きもしない女をいたぶる下衆野郎へ拳を向けると、それは銀髪の完治していない左頬にめり込んだ。
「この拳はとっとけ。てめェら置いてったバカ上司でもブン殴るためにな」
だとよ。ったく、しゃらくせェ。どいつもこいつもしゃらくせェ。こっちはブン殴りリレーなんざしにきたんじゃねーってんだよ。
「それでも生きろと言ったんだろう」
なんで俺がこんなこと言わなきゃなんねェんだ。
「それぞれが真選組として自分のやれる事をやれと、近藤さんは、そう言ったんだろう」
胸糞わりィってもんじゃねェ。いっそのこと俺を殺してくれよ、総悟。勝手にしゃべるこの口を止めてくれ。あの人の気持ちを云うこの口止めてくれ。
俺の、俺たちの真選組はなんだったんだ。近藤勲という魂を失くしたらすぐに散っていった。いや、散らせたのは俺だ。あの人を取り戻す―取り戻してどうなるんだ。全員即刻打首だ。そんな馬鹿な真似ができるかよ。あの人が自分自身と引き換えに護った首をそう簡単に落とさせてたまるか。いや、そんな律儀なもんじゃねェな。てめェがどうしたいか、何をすべきか、何も考えられなくてただ逃げただけだ。
新しい上司には何度か一杯だの一本だの誘われたが、その気になれず断った。しかし、その日は俺の歓迎会だと誘いを受けた。場所が場所だけに行ってみてもいいと思ったからだ。だが、すぐに後悔した。なんで銀髪天然でパーな奴が同席するんだ。あの人の女は接客中だし、こいつが関わってくるとマジでロクなことがねェ。女の様子なら遠目でも構わねェが、こいつと一緒に酒飲むなんざお断りだ。どうでもいいことを銀髪と張り合っていると女が出てきた。本気で飲みたいなら、とことんつき合うだとよ。
「そんなツラで酌されても酔えねェよ。聞きてェ事があんなら、こんな場用意しねェでもシラフで聞きな、てめェもな」
しゃらくせェ。どいつもこいつもしゃらくせェ。おまえらいつもあの人を邪険にしてたくせに、なんでこういう時だけそんな辛気臭い表情しやがんだ。あーあ、あの人がここにいたら、きっと面白おかしい宴がすでに始まってんだろうなァ。俺には無理だな。なァ、近藤さん、俺にアンタの代わりは無理だ。俺は……。
「あの人がいなきゃ何もできやしねェ」
そんなことはない、よくやっている―俺を負け犬だと褒め称える男がその主君を連れて現れた。俺たちが仕えた主君へ冥福を祈る酒だとよ、俺たちのあの人へ冥福を祈る酒だとよ。黙して拳を握りしめるだけだった。だが、それでいいのだと言い聞かせた。罵詈雑言、誹謗中傷、なんでも来いよ。あの人の魂はそんな小せェことで消えやしねェ。不意に接客していた女たちの悲鳴が上がった。仲間を傷つけられたあの人の女が口を開いた。耳が痛かった。まるであの人が殴りにやってきたみてェだ。それ故か、新しい将軍にとっちゃあ小娘の戯言に留まらなかったらしい。俺へ向かっていたはずの刃先が女に向けられた。女はそれでもやめなかった。
「本物の警察は、本物の侍は、こんな事しない。あの人は、こんな事しない」
どの口が『あの人』と言った?あの人を語れるほどおまえは、あの人のことを知ってるってのか?なんだよ、結局、俺が読んだ通り、アンタも近藤勲という男に惚れてたのかよ。いいだろう、あの人の想いとともに俺がそいつをブン殴ってやるよ。周囲の張りつめた空気に微かな鉄のにおいがした。泣き喚きもしない女をいたぶる下衆野郎へ拳を向けると、それは銀髪の完治していない左頬にめり込んだ。
「この拳はとっとけ。てめェら置いてったバカ上司でもブン殴るためにな」
だとよ。ったく、しゃらくせェ。どいつもこいつもしゃらくせェ。こっちはブン殴りリレーなんざしにきたんじゃねーってんだよ。
和して同ぜず
Text by mimiko.
2015/02/02