夢見る少女お妙さん。
いろいろちゅーしてたり、猫の交尾あったり。
いろいろちゅーしてたり、猫の交尾あったり。
夢現T
その人は私に優しく触れる。
頬を触れる大きな手の平から私を想う気持ちが伝わってくる。
私よりも大きな体のその人の腕は心地よく、抱き締められるとずっとくっついていたくなる。
背後から回された腕に抱き締められると、背中にその人の温もりを感じてとても安心する。
もっと傍に寄って、あなたを感じたい。
「……い…さん……」
名前を呼んで振り返ると、その人の柔らかい唇が私の頬に当たった。
照れ笑いをするその人が可愛くて愛おしくて、やっぱりもっと感じたくなる。
私はその人の顔を寄せて、その唇を奪う。
柔らかさを確認するように唇を押しつけて吸う。
啄ばむように口づけて、その人を誘う。
もっと欲しくなって我慢できなくなる頃、その人は私を感じたくなって深く口づける。
そうなったら私からのキスはなんて拙いのだろうと、いつも恥ずかしく感じる。
優しく掬って、絡めて吸う。
わざと音を鳴らせて私の声を引き出して、私が落ちるまでいやらしく口づける。
「妙」
低くて落ち着いた声。
優しいのに熱を含んで囁くあなたの声は私の中心に響く。
「んもう、妙がそんなキスするからその気になっちゃったじゃないですか」
いつまでも恥ずかしがって照れるあなたがとても愛おしいの。
「……好きです……」
「はい、けど俺の方がその何十倍も妙のこと大好きです」
「まあ」
***
「お妙さん、どうしたんですか?」
いつものように何食わぬ顔で近藤が庭にやって来た。
「屋根でも抜けたとか?修理なら俺がやりますよ、任せて下さい!」
仕事が休みで暇を持て余していた妙は屋根の上に猫がいたのを見つけ、脚立に上がって猫を下ろそうとしていた。が、やがてその猫の相手がやって来て、仲睦まじく鳴き合い、妙は今朝がた見た夢を思い返していたのだった。
「猫が屋根の上にいたから遊び相手になってもらおうと思ったんです」
「遊び相手なら俺がなりますよ、お妙さん!」
「遠慮します」
ぴしゃりと言われて近藤は肩を落とすが、ふと猫を見て、あっというような顔をする。白い毛色に黒い斑のある猫が背中から覆い被さり、下の茶色の毛をした猫の首を噛んで押さえつけている。
「ははは、随分と仲が良さそうですね……」
苦笑する近藤に妙は不思議に思って小首を傾げ、猫に視線を戻そうとした。
「あ、お妙さん、今は見ない方がいいですよ!」
「え?」
近藤の方を向こうとしてバランスを崩し、妙は脚立から足を踏み外す。近藤は妙の背後から両脇を抱えて受け止めた。
「大丈夫ですか?ていうか、急に話しかけてすみません」
「ほんとですよ、もう」
猫の大きな呻き声がし、妙と近藤は屋根上の猫を見上げる。被さっている黒斑の猫の動きが止まった。
「な……!他人ん家の頭上でェ」
妙が憤慨し脚立に上ろうとするのを止める。
「もうしてないです」
この間、居酒屋で偶然、居合わせた銀時と飲みながら他愛もない話を土方と三人でしていた。土方はマヨネーズと新しい食材の出会いを、銀時は猫の交尾について話していた。
―猫の交尾って知ってるか?オスのアレには棘がついてんだよ。で、発射の時にザックリ行くらしいぜ。それがすっげー痛いらしくて反撃の猫パンチ食らわねーように、オスは終わってもしばらくメスの首根っこ噛んで押さえつけんだってよ、激しーよなー。どんだけメスを刺激して虐げてんだって話だ―
「もう?」
「はい。ついさっきまではしてたみたいですけど」
夢の中でのことを思い返していた妙は、猫の交尾が始まるのを心あらずで見ていたらしい。
そんなの眺めながら、あの夢を思い出すなんて……!
―んもう、妙がそんなキスするからその気になっちゃったじゃないですか―
夢の中の人もそんなこと言ってたけど、私ったらそんないやらしいことを昼間から考えて……?!
恥ずかしくなり、顔がかっと熱くなる。変に思われていないだろうかと近藤に振り返った。妙は顔の近さにどきりとする。
「あ……」
「ん?どうかし……」
顔を寄せた近藤の頬に妙の唇が触れ、目を見開いたまま硬直する。夢と重なり、妙は赤面した。
これじゃあ、夢の中の人がまるで……。
「お妙さん」
―妙―
夢の中の声と重なる。
近藤さんなの……?
脇を通して肩を抱いていた近藤の腕が帯の上に回り、先程よりも密着する。背中の近藤の温もりを心地よく感じ、目を閉じる。
この感じ……。
妙は顔を上げ、近藤の唇を見つめる。
あなたのキスは……夢の中のようなキスなの……?
「あーあ、どこにもいないなァ、ミケちゃんどこ行ったんだろ……」
と、向こうから新八の声がし、近藤は腕を離した。引き離そうと妙の肩を掴み、押し出すとそのまま妙の肩を揉む。
「いやァお妙さん、だいぶ凝ってますねェ。俺がお妙さんの疲れを癒して差し上げますよ!」
「……何やってんですか、近藤さん。なんで庭で肩揉み?」
「はっはっはっ、ちょっとお妙さんの肩のマッサージをねゴフぅぅぅぅ!」
妙は勢いをつけた肘で背後にいる近藤の腹部をえぐった。
「んぐ、おだえざ……ブフぅ、いだいィィぐえ」
呻く近藤に肘を埋め込みながら妙は笑顔で新八に訊ねる。
「新ちゃん、ミケちゃんって?」
「ああ、仕事で迷い猫捜索の依頼があったんですよ。ブチのある猫のオスで、名前がミケちゃんっていうんです。朝から探してるんですけど、なかなか見つからなくて……。姉上、黒いブチのある猫見かけませんでしたか?」
「その猫ならついさっきまでうちの屋根の上でさかってたわよ」
新八は妙が指差した方を見る。茶色の毛の雌猫を残して去って行こうとする黒色の斑のある雄猫がいた。持っていた写真と見比べる。
「ああァァァァ!ミケちゃんいたァァァァ!」
新八の叫び声を合図に、斑のある迷い猫が逃げる。新八は叫びながら跡を追いかけていった。妙はひと息つき、近藤の腹部に捻じ込んでいた肘を下ろした。片付けようと脚立に手を伸ばすが、背後から抱き寄せられる。同時に近藤の唇が首筋に触れ、声が出た。
「はぁ、んっ」
胸の上に回された太い腕に両手を掛けるが、首筋から背中に向けてぞくりとした感覚が走り、力が入らない。自分でも今まで聞いたことのない声が近藤の唇に吸い出される。
「あん、や、近藤さ、んっ、ダメ、あっ……」
やだ、どうしちゃったの、変な声出ちゃう。
一度唇が離れて、ほっとしたのも束の間、先程口づけられた所とは反対側にまた口づけられた。
「はっ、んんっ」
眉間に皺を寄せ、呼吸を詰まらせる。
こんなの、ダメ。ダメなのに……。
首から唇が離れると耳元に近藤の吐息が掛かり、びくりと体を揺らした。
「お妙さん……」
掠れた声が至近距離で響き、目を見開く。これ以上は駄目だと直感的に思い、咄嗟にその場に腰を落とした。地面に尻もちをつき、瞬きを繰り返す。早く打つ鼓動を落ち着かせようと胸元に手の平を当てた。深呼吸をし、気を落ち着かせる。
落ち着くのよ、妙。錯覚なんだから。あんな夢見ちゃったからで、それにちょっと似てただけで、あれは近藤さんじゃないんだから。大丈夫、うん、大丈夫。
最後に深く息をつくと、正面に回った近藤がしゃがみ込んだ。
「あの、お妙さグボぇぇぇぇ……!」
近藤の鼻を妙の右拳が打ち、その勢いのまま近藤は後ろへ転がった。妙は立ち上がり、着物に付着した埃を掃う。
「調子に乗るのも大概にして下さい!」
涙目で鼻を押さえながら身悶える近藤を鋭く冷たい視線で見下ろす。
「はは……ははは、ずびばぜん……んぐ、いででっ」
だよねだよね、そのままお妙さんが許してくれるわけないよね。いけると思ったけどやっぱダメだよね。にしても鼻いてェ……。
痛みを堪えようと地面に転がる近藤に構わず、脚立を片付ける。一度上がった居間から持ってきたティッシュペーパーの箱を近藤の腹に載せて家に入った。すたすたと自室に向かい、部屋に入って襖をぴしゃりと締める。その場へ、すとんと正座した。長い溜め息をつくと目を閉じる。
危なかった……。
頬を触れる大きな手の平から私を想う気持ちが伝わってくる。
私よりも大きな体のその人の腕は心地よく、抱き締められるとずっとくっついていたくなる。
背後から回された腕に抱き締められると、背中にその人の温もりを感じてとても安心する。
もっと傍に寄って、あなたを感じたい。
「……い…さん……」
名前を呼んで振り返ると、その人の柔らかい唇が私の頬に当たった。
照れ笑いをするその人が可愛くて愛おしくて、やっぱりもっと感じたくなる。
私はその人の顔を寄せて、その唇を奪う。
柔らかさを確認するように唇を押しつけて吸う。
啄ばむように口づけて、その人を誘う。
もっと欲しくなって我慢できなくなる頃、その人は私を感じたくなって深く口づける。
そうなったら私からのキスはなんて拙いのだろうと、いつも恥ずかしく感じる。
優しく掬って、絡めて吸う。
わざと音を鳴らせて私の声を引き出して、私が落ちるまでいやらしく口づける。
「妙」
低くて落ち着いた声。
優しいのに熱を含んで囁くあなたの声は私の中心に響く。
「んもう、妙がそんなキスするからその気になっちゃったじゃないですか」
いつまでも恥ずかしがって照れるあなたがとても愛おしいの。
「……好きです……」
「はい、けど俺の方がその何十倍も妙のこと大好きです」
「まあ」
***
「お妙さん、どうしたんですか?」
いつものように何食わぬ顔で近藤が庭にやって来た。
「屋根でも抜けたとか?修理なら俺がやりますよ、任せて下さい!」
仕事が休みで暇を持て余していた妙は屋根の上に猫がいたのを見つけ、脚立に上がって猫を下ろそうとしていた。が、やがてその猫の相手がやって来て、仲睦まじく鳴き合い、妙は今朝がた見た夢を思い返していたのだった。
「猫が屋根の上にいたから遊び相手になってもらおうと思ったんです」
「遊び相手なら俺がなりますよ、お妙さん!」
「遠慮します」
ぴしゃりと言われて近藤は肩を落とすが、ふと猫を見て、あっというような顔をする。白い毛色に黒い斑のある猫が背中から覆い被さり、下の茶色の毛をした猫の首を噛んで押さえつけている。
「ははは、随分と仲が良さそうですね……」
苦笑する近藤に妙は不思議に思って小首を傾げ、猫に視線を戻そうとした。
「あ、お妙さん、今は見ない方がいいですよ!」
「え?」
近藤の方を向こうとしてバランスを崩し、妙は脚立から足を踏み外す。近藤は妙の背後から両脇を抱えて受け止めた。
「大丈夫ですか?ていうか、急に話しかけてすみません」
「ほんとですよ、もう」
猫の大きな呻き声がし、妙と近藤は屋根上の猫を見上げる。被さっている黒斑の猫の動きが止まった。
「な……!他人ん家の頭上でェ」
妙が憤慨し脚立に上ろうとするのを止める。
「もうしてないです」
この間、居酒屋で偶然、居合わせた銀時と飲みながら他愛もない話を土方と三人でしていた。土方はマヨネーズと新しい食材の出会いを、銀時は猫の交尾について話していた。
―猫の交尾って知ってるか?オスのアレには棘がついてんだよ。で、発射の時にザックリ行くらしいぜ。それがすっげー痛いらしくて反撃の猫パンチ食らわねーように、オスは終わってもしばらくメスの首根っこ噛んで押さえつけんだってよ、激しーよなー。どんだけメスを刺激して虐げてんだって話だ―
「もう?」
「はい。ついさっきまではしてたみたいですけど」
夢の中でのことを思い返していた妙は、猫の交尾が始まるのを心あらずで見ていたらしい。
そんなの眺めながら、あの夢を思い出すなんて……!
―んもう、妙がそんなキスするからその気になっちゃったじゃないですか―
夢の中の人もそんなこと言ってたけど、私ったらそんないやらしいことを昼間から考えて……?!
恥ずかしくなり、顔がかっと熱くなる。変に思われていないだろうかと近藤に振り返った。妙は顔の近さにどきりとする。
「あ……」
「ん?どうかし……」
顔を寄せた近藤の頬に妙の唇が触れ、目を見開いたまま硬直する。夢と重なり、妙は赤面した。
これじゃあ、夢の中の人がまるで……。
「お妙さん」
―妙―
夢の中の声と重なる。
近藤さんなの……?
脇を通して肩を抱いていた近藤の腕が帯の上に回り、先程よりも密着する。背中の近藤の温もりを心地よく感じ、目を閉じる。
この感じ……。
妙は顔を上げ、近藤の唇を見つめる。
あなたのキスは……夢の中のようなキスなの……?
「あーあ、どこにもいないなァ、ミケちゃんどこ行ったんだろ……」
と、向こうから新八の声がし、近藤は腕を離した。引き離そうと妙の肩を掴み、押し出すとそのまま妙の肩を揉む。
「いやァお妙さん、だいぶ凝ってますねェ。俺がお妙さんの疲れを癒して差し上げますよ!」
「……何やってんですか、近藤さん。なんで庭で肩揉み?」
「はっはっはっ、ちょっとお妙さんの肩のマッサージをねゴフぅぅぅぅ!」
妙は勢いをつけた肘で背後にいる近藤の腹部をえぐった。
「んぐ、おだえざ……ブフぅ、いだいィィぐえ」
呻く近藤に肘を埋め込みながら妙は笑顔で新八に訊ねる。
「新ちゃん、ミケちゃんって?」
「ああ、仕事で迷い猫捜索の依頼があったんですよ。ブチのある猫のオスで、名前がミケちゃんっていうんです。朝から探してるんですけど、なかなか見つからなくて……。姉上、黒いブチのある猫見かけませんでしたか?」
「その猫ならついさっきまでうちの屋根の上でさかってたわよ」
新八は妙が指差した方を見る。茶色の毛の雌猫を残して去って行こうとする黒色の斑のある雄猫がいた。持っていた写真と見比べる。
「ああァァァァ!ミケちゃんいたァァァァ!」
新八の叫び声を合図に、斑のある迷い猫が逃げる。新八は叫びながら跡を追いかけていった。妙はひと息つき、近藤の腹部に捻じ込んでいた肘を下ろした。片付けようと脚立に手を伸ばすが、背後から抱き寄せられる。同時に近藤の唇が首筋に触れ、声が出た。
「はぁ、んっ」
胸の上に回された太い腕に両手を掛けるが、首筋から背中に向けてぞくりとした感覚が走り、力が入らない。自分でも今まで聞いたことのない声が近藤の唇に吸い出される。
「あん、や、近藤さ、んっ、ダメ、あっ……」
やだ、どうしちゃったの、変な声出ちゃう。
一度唇が離れて、ほっとしたのも束の間、先程口づけられた所とは反対側にまた口づけられた。
「はっ、んんっ」
眉間に皺を寄せ、呼吸を詰まらせる。
こんなの、ダメ。ダメなのに……。
首から唇が離れると耳元に近藤の吐息が掛かり、びくりと体を揺らした。
「お妙さん……」
掠れた声が至近距離で響き、目を見開く。これ以上は駄目だと直感的に思い、咄嗟にその場に腰を落とした。地面に尻もちをつき、瞬きを繰り返す。早く打つ鼓動を落ち着かせようと胸元に手の平を当てた。深呼吸をし、気を落ち着かせる。
落ち着くのよ、妙。錯覚なんだから。あんな夢見ちゃったからで、それにちょっと似てただけで、あれは近藤さんじゃないんだから。大丈夫、うん、大丈夫。
最後に深く息をつくと、正面に回った近藤がしゃがみ込んだ。
「あの、お妙さグボぇぇぇぇ……!」
近藤の鼻を妙の右拳が打ち、その勢いのまま近藤は後ろへ転がった。妙は立ち上がり、着物に付着した埃を掃う。
「調子に乗るのも大概にして下さい!」
涙目で鼻を押さえながら身悶える近藤を鋭く冷たい視線で見下ろす。
「はは……ははは、ずびばぜん……んぐ、いででっ」
だよねだよね、そのままお妙さんが許してくれるわけないよね。いけると思ったけどやっぱダメだよね。にしても鼻いてェ……。
痛みを堪えようと地面に転がる近藤に構わず、脚立を片付ける。一度上がった居間から持ってきたティッシュペーパーの箱を近藤の腹に載せて家に入った。すたすたと自室に向かい、部屋に入って襖をぴしゃりと締める。その場へ、すとんと正座した。長い溜め息をつくと目を閉じる。
危なかった……。
夢現T
Text by mimiko.
2010/05/01