近?←妙+土だけども、ほぼ近←妙前提です。
買い物帰りのお妙さんをストーキングしてた近藤さんが理不尽に殴られた所から始まってます。

おひとり様一パック限り

 土方は吸い込んだ煙草の煙を吐き、妙に訊ねた。
「なァ、近藤さんの何が気に入らないんだ?」
 放物線を描いて倒れ込んだ近藤に留めを打ちこもうとした拳を止める。妙は両手と、着物の裾の砂埃を払い、 大江戸スーパーのビニール袋を取って立ち上がった。
「何かしら。私にもわかりません」
と、笑顔で冷たく言い放ち、土方は溜め息をつく。
「確かに近藤さんは恋愛に関して陰湿だが、ここまで執着してるのはアンタが初めてだぞ」
「あら、そうなんですか」
 躊躇いも驚きもなく返されて、土方の顔に諦めの色が広がる。
「バカな人なんですね」
 口元を押さえてくすりと笑う妙を見た土方は瞬きをした。
 なんだ?嬉しいのか?
「近藤さんもバカだが、アンタもバカなんじゃないのか」
 言われて妙は土方の顔をまじまじと見つめた。
「いつまでもケツ追っかけてくると高括っていたが、いつの間にかいなかったなんてことにならなきゃいいがな」
 煙草をふかす土方に、妙は小首を傾げた。
「あら、土方さんにはてっきり嫌われていると思っていたのに、私のことを思いやってくれるんですか?」
 土方は鼻で笑った。
「俺は別にアンタが振られようが一向に構やしねェ。ただ女が悲しむのを見たくないだけだ」
 素っ気なく言い放った土方に妙は微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
と、地に伏して気を失っている近藤を見やる。
「この人は、こちらが折れるまで諦めたりなんかしないわ」
 穏やかに言うと、妙は「それじゃあ」と去って行った。
 あの女、まさか近藤さんに惚れてる……?
 土方は、妙に殴られて未だに伸びたままの近藤を眺める。
 いつものように仕事を抜け出した近藤を探していたら、やはりいつものように言い訳する近藤と、容赦ない妙がいた。問答を数回繰り返した末「てめェがもっと早く姿見せてりゃ数量限定卵がもう一パック多く買えたじゃねーかァァ」と、妙の右拳が近藤の顎下に入ったのだった。
いつもは近藤の存在自体を邪険にしておきながら何故、必要な時にいないのだと、明らかな八つ当たりだ。
 いや、ないな。普通、惚れてたらサンドバッグ代わりに殴りはしねーだろ。
おひとり様一パック限り
Text by mimiko.
2010/10/14

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