今日も朝から楽しくストーキング。

偶然

 午前7時30分――。
「おい、あんた落としたぞ」
 駅の改札前でパスケースを失くしてしまったと、周囲を見回していた私は声をかけられ、振り返る。
 すらりと背が高く、どちらかといえば痩せている方。
 だけど、ガリガリという訳でもなく、学生服の下の肢体は、きっとバランスのとれた肉付きなのだろう。
 学生服のボタンを一つも留めていない、この制服の着崩し方……。
 私はパスケースを差し出す彼の手元から視線を上げていく。
 すっと通った鼻筋。
 キリッとした眉毛。
 澄んだ瞳。
 長い睫毛。
 桜色の唇。
 頬にかかる柔らかそうな髪。
 彼だ――。
「早くしろよ、後がつかえてるんだぞ」
 改札を抜けようとする列に並ぶサラリーマンの声がすると、彼は私にパスケースを持たせ、改札を抜けていった。
 先週、あなたを見かけてから、あなたのことが頭から離れなかった。
 まさか同じ駅だったなんて思いもしなかったから、こうして会えて嬉しかった。
 だけど、あなたはきっと次の日には私のことを忘れてる。
 私は忘れない。
 忘れるはずなんてない。
 いつだってあなたのことばかり考えてる。
 あの柔らかそうな髪、桜色の唇……。
――触れてみたい――
 決めたわ。
 彼の視界に入る。
 私は、あなたのことをもっと知って、あなたに近づいていくの。
偶然
Text by mimiko.
2007/06/29

後味が不気味な感じになっていれば成功かなと。。 美人なのにストーカーになってしまったということは、ぶっ飛びな思考なのかなと思ってます(^^)

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