スコールがリノアにサイファーのことを訊きましたが具体的には思いつかなかったので訊いた後です。

やきもち 1

 執務を終えたスコールは昼食を済ませた後、リノアと自室にて紅茶を飲んでいた。
 やっぱり訊くんじゃなかったな……。
 話を聞き終えたスコールは深い溜め息をついた。リノアはその溜め息にどきりとする。
「あの、スコール?」
 ソファに腰掛ける隣のスコールの右膝に左手で触れ、空になったカップに視線を落としているスコールを窺う。
 やっぱり言わない方が良かった、よね?こんな話、スコールにとって面白くないはずだもん。
――サイファーと出会った時の話を聞かせてくれ――
 今更そんなこと訊いてくるなんて思いもしなかったから驚いたけど……。
「その、何かあったとか?だから」
 急にスコールの顔が自分の方へ向き、視線が合う。リノアは言おうとしたことを瞬間忘れたが、すぐに我に返った。
「えっと、だからその……」
 真っ直ぐに見つめられ口籠ってしまい、リノアはスコールの胸元へと視線を落とした。
「何かあったと言えばそうなるかな……」
 呟くように言いスコールは薄く笑うとテーブルにカップを置く。
「え?」
と、顔を上げたリノアの腰に腕を回し、リノアの体を横に向けて抱き上げると自分の膝の上に座らせた。
「アーヴァインに言われたんだ」
 リノアは思い返すように微笑んだスコールの首に右手を回す。
「君はいっつもどっしり構えてリノア以外の女の子には興味ないようにしてるけど、リノアは人気者の彼氏を持っていつもヒヤヒヤしてるぞ。たとえばサイファーがリノアのことを密かに好きだったとして、でもリノアには君がいる。普通は諦めるところだけど、もし諦められなくてサイファーはずっと好きだったとする。それを君は知ってるんだ。確かにリノアは君のことを好きだけど、サイファーがリノアのことを好きなことについて、なんの気がかりも感じないかい?」
 リノアは先日、図書室でアーヴァインに愚痴をこばしたことを思い出し、顔を熱くした。
「このたとえ話はライバルがひとりだけどリノアが感じてる気がかりはひとりじゃなくてスコールのファンの子全員なんだ……て。」
 もう!アーヴァインのバカ!本人に言わなくてもいいじゃない……!
「うん……」
 リノアはただ頷き、スコールと視線を合わさないように目を閉じた。
「俺はそんなの知らないって言ったんだ。そしたら、そんなんだからリノアが図書室でデートしても心から楽しめないんだって……言われた」
 いや~!もう、やだ~!
 リノアはスコールの首に回している手に力を入れた。ますます目を固く閉じる。
 いつものように図書室に行くとその日はアーヴァインがいた。アーヴァインを見かける時はいつも傍にセルフィがいるが珍しくひとりだったのでどうしたのかと訊ねたら、そっちこそどうしたのかと訊き返された。
――だってスコールと図書室デートしても楽しくないんだもん――
アーヴァインにそう言った。少しはスコールも妬いてくれたらいいのにとも。他にも事細かに些細な不満をこぼした。
「リノアは俺といるの、楽しくないのか?」
 愚痴を言ったことを後悔しているところへ声を掛けられ、どきりとしたリノアは上擦った声で答える。
「そ、そんなことないよ……」
「じゃあどうしてアーヴァインにあんなこと言ったんだ?」
「え……」
 まさか……!
「スコールの笑顔は私だけのなの。なのにみんなにニコニコして全然わかってない」
 耳元で囁かれて背中がぞくりとし、声が出そうになったのに堪える為に息を呑む。首に吐息がかかり、そこに意識を集中させた。
「俺はリノアと一緒にいると自然と笑える。つまらないことでも楽しく思えるから気づかないうちにニコニコしてるんだろうと思う。俺がニコニコしているのが気にいらなかったなんて少しも考えたことなかった。すまなかった」
「スコール、違うよ、そうじゃっ……」
 スコールはリノアの首に口づけ、唇を僅かに離す。
「俺にして欲しくないことがあるのなら俺に言えばいい」
 再び首に唇を押しつけ、唇を動かす。
「んっ」
 白い肌に吸いつき、赤い跡を残すと口の片端を上げた。
「して欲しいことも遠慮なく言えばいいんだ」
 顔を上げたスコールの右手はリノアの前に垂れた髪を耳に掛けるとその指で耳をなぞった。
「スコール……」
 切なげな表情のリノアにスコールは、なんだと小首を傾げた。
「わかってるんでしょ?ただのやきもちだって」
 やや困った顔をしながらリノアに確認され、スコールは声を出さずに笑って頷いた。
「じゃあ、私も訊いていい?」
 スコールが頷き、リノアは続ける。
「サイファーのこと訊いたのはどうして?今更だよね。気になってたから?やきもち?」
 包み隠さない質問にスコールは、ふっと笑った。
「ああ」
 もっと素直に認めずに回りくどい答え方をするのではないかと薄っすら思っていただけにすんなりと頷かれリノアは拍子抜けた。きょとんとしたリノアの表情を汲み取り、スコールはくすりと笑う。
「こんな話は面と向かってするものじゃないと思ってた。けどこんな話だからちゃんと話さないといけないと思うようになったんだ。いや、大事なこともどうでもいいことも隠し事はもうなし、そうだろ?」
 リノアは微笑み、頷いた。
「全く気にならないってわけじゃなかったんだ。リノアは俺のことすごく好きだろ?だからそんなに気にするようなことでもないと思ってた。けどリノアが不安に思っているのを知ってアーヴァインに言われた通り何もしないでいるのはダメだと思ったんだ。俺たちのことは俺たちで解決する。たまに行き詰っても俺たちには仲間がいる。ふたりだけでは無理だったとしてもみんながいればこれ以上の味方はいないだろ?」
 小首を傾げて同意を促すスコールの期待に応えるようにリノアは笑顔で頷く。
「うん、そうだね」
 リノアに抱きつかれ、スコールは微笑んだ。
「で?」
 スコールに訊ねられてリノアは腕を解き、スコールの顔を見た。
「で?」
 そのまま訊き返されてスコールは思わず噴き出し、くすりと笑うとリノアの左頬に手を当て親指で唇をなぞった。
「リノア、俺にして欲しいことないのか?」
「え、あ……」
 落ち着いた低い声にどきりとしたがスコールは変わらず笑っている。
 スコールのバカ。何よ笑っちゃって、私だけこんなにドキドキして……。
 この流れではきっとスコールは自分を抱くのだろう。しかしその始まりが一方的に笑われているのだなんて面白くない。リノアは唇を結び、スコールを薄目で見た。
「スコールは何もしないで」
「え?」
 リノアはスコールの右手を掴んで下ろし、正面を向き合うように膝の上へ跨り座った。
「リノア……?」
「スコールはずっと私にドキドキして欲しい。」
 台詞を棒読みするように言い、スコールの両肩に手を置くと口づけた。一度唇を離すとスコールの唇を舌で割り中へと進入させ、深く口づける。スコールの舌と触れると絡め、舌先を舐め優しく吸い取るように唇を動かす。スコールのくぐもった声が出ると再び深く舌を進入させた。するとスコールの舌はリノアの舌の動きを封じるように強く動き、首筋にぞくりとした快感が走る。リノアは堪らなくなって声を洩らした。
やきもち 1
Text by mimiko.
2010/02/10

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