「あ、うん……」
「わたしが気にしてるのはね、このあたりって小さい子もよくかくれんぼして遊ぶから、それで、もしスフィアを見つけて観ちゃったらって思って。大人が観る分には別にいいんじゃないかな」
 ユウナの言葉にうなずき、言う。
「大丈夫だよ。あの手のスフィアって、簡易年齢測定機能ついてるから。十九歳以上の奴が起動させないと再生されないし」
と、まで言ったティーダは、瞬きをひとつした。
 朝の練習が終わって青年同盟宿舎に戻ったら、ジャッシュとボッツとダットにエロスフィア観るかって訊かれて受け取って、ちょうどあいつら3人が用事を言いつけられてどっか行っちゃったから、エロスフィア起動させたのってオレだ。あれ?オレって17歳のままじゃないの?
「ユウナ。オレさ、エロスフィア、観たんだ」
 つぶやくように言うティーダにユウナは振り返った。
「うん、観たんだよね」
「いや、だから、オレが、ひとりで起動させたんだ」
 きょとんとしたユウナはティーダが言わんとしていることがわからず小首を傾げた。
「十九歳以上しか再生できないスフィアを観れたんだ」
「えっ、じゃあ、キミの時間は寝ていた間も流れてたの?」
「簡易のだから、断言できないけど、多分」
 精度の高い年齢測定はルカの病院でもまだできるよな?二年前のブリッツ大会の時、オレは何者だーっつって全身の精密検査して、そのひとつの項目に年齢測定もあった。シンの毒気を患ってると生年月日の申告が正しくない場合があるからって年齢測定から体の隅々まで検査するってワッカが言ってた。
「そっか」
 短く言ったユウナの声は明るい。
「嬉しいの?」
「うん。たった2つだけど、キミより先におばあちゃんになるのは、ちょっと嫌だなあって思ってたから」
 微笑むユウナの髪をティーダの右手が撫でる。ティーダを見上げたユウナは視線が合うと恥ずかしそうにそれを落とした。
「あの、昨日のこと、思い出しちゃうから、その……」
「ああ」
 低い声で頷かれ、ユウナの鼓動が跳ねる。
 うう、なんだか急に逃げたくなってきた。多分、次に目が合ったら危険っす。
「どのくらい覚えてる?」
「えっ……、えっと、なんとなく、キミとすごくエッチなことしてたんだろうなって、ぼんやりと大雑把に……」
 嘘です。本当は、はっきり覚えてます。キミがわたしの全部を何もかももらってくれるつもりでいることとか、あんなこともこんなことも普通に言ってたこととか、逃すことなく覚えてます。
「そういうキミは?」
 視線を合わせないユウナに、ティーダは思わず笑みをこぼす。
「オレも、なんとなく、ユウナとすっげーエロいことしてたんだろうなって、ぼんやり。あと大雑把な流れは覚えてる」
 同じように返されて、ユウナはそわそわとする。
「ほんとに?」
「うん、ほんとに」
「ほんとのほんとに?」
「信じられない?」
「う……そ、そんなことないよ。信じてるっす」
「それならよかった」
 ティーダは、ユウナを引き寄せ、ユウナの頬に手を当てた。
「ユウナ、こっち向いて。キスしたい」
「ダメだよ。これからみんなで朝ご飯なのに……」
「大丈夫。ちゅって、するだけだから」
 ティーダの言葉を信じたユウナは、顔を上げてティーダの目に視線をやった。すると、にこりと笑う顔があり、咄嗟にティーダから離れようとする。
「ちょっ、ユウナ、なんで暴れるッスか」
 ティーダは離すまいと、ユウナの腰を抱く腕に力を入れる。
「や、いや、離して、お願い」
「そのお願いは聞けないッス。なんで逃げようとするのか教えてよ」
「キスだけって言っておきながら、どうせエッチなことしようとするんでしょ?」
「ええ、オレ、そんなに信用ない?」
「だって、昨日のキミ、すごく男の人だったんだもん。だから、今までみたいに軽々しくできないよ」
 そう言い放つと、放り出されるように解放され、その後味の悪さにユウナは言ってしまったことを後悔する。
「あの、そうじゃなくて、その」
 言い訳をしようとするユウナの声を遮るようにティーダが言う。
「ユウナが昨日のエッチな夢でオレのこと意識してるのはわかってるよ。でも、オレの気もおさまらない。だから、おさめるためにもオレの、飲んでよ」
 えっ、それってつまり……。
 ティーダの下半身へと視線を落とすと、大事なところを指差すティーダの指が見えて視線がそちらに行く。
「そっちじゃなくて、こっち」
 指が差したのは、舌を覗かせたティーダの口だった。
「え……?」
「実際にエッチもしたことないのに、いきなりそんな濃いの飲めだなんて言わないし、もちろん強要したりしないッス」
 不機嫌な声音に、ユウナは嫌われてしまっただろうかと怯えながら頷く。
「わかればよろしい。つうか、そんな怖がられると、ショックなんだけど」
「ごめんなさい。えっと、舌、でいいのかな……?」
 よくわかっていなかったユウナに、ティーダは顔を綻ばせながら言う。
「違う違う。舌飲まれちゃったら、その後、オレどうしたらいいッスか。そうじゃなくて、唾液」
 ユウナが顔を上げると射抜くようなティーダの瞳があり、ユウナの動きが止まった。ティーダは射止めた獲物へゆっくりと近づく。
「飲んでくれる?オレの体液」
 間近で響く低い声に、ユウナの瞳が潤む。
 もう、男の人であるティーダからは逃げられないんだ。ザナルカンドのあの丘で、お互いを大事に想い合って一緒にいようって誓った。好きだって言って、キスだって何回もした。つまり、それは二年前の旅の時のような仲間じゃなくて、男と女であるティーダとわたしの、新しい絆のはじまりだったんだ。それに気づいてなかったのは、わたし。もう、恋に憧れるだけのわたしとは決別しなきゃいけない。わたしが女であることをちゃんと受け止める――これは、多分、そういうこと。
「うん。……ティーダの、飲む……」
 自分で言ってていやらしい。でも、誘惑されて、期待してるわたしがいるの。だから、はやく、ティーダのものになりたい。
 ユウナはティーダに誘われるまま、すり寄る。開く唇を見つめ、それに合わせてユウナも唇を開く。合わされた唇の中で舌が絡み、ティーダの舌を伝ってユウナの口内に唾液が流れ込んだ。
「ん、ふぅ……」
 自分のものとユウナのものとが合わさったユウナの口内に溜まった唾液を見たティーダは眉根を寄せた。
 すげーやらしいな。
 濡れた唇が閉じられ、ユウナの喉が鳴った。
「んくっ、はぁ、ティーダの、おいし……」
 自分の両腕を抱きながら熱のこもった切なげな声で言うユウナに、ティーダの喉が上下する。
「オレも飲みたい、ユウナの、飲ませて」
と、ティーダは草むらに両膝を突いてユウナを見上げる。頷いたユウナは、ティーダの両肩にそっと触れて背を屈めた。口づけ、舌を絡み合わせては、濡れた唇同士で唾液を潤滑として擦り合わせる。
「ユウ、ナ、ん、それじゃ溜らない、舌、絡ませて」
「ん、ふ……うん……」
 差し込まれたユウナの舌を優しく唇で挟んでぬるぬると扱く。
「んん、んっ」
 びくびくと揺れるユウナの腰に手を回し、支える。舌を挟みながら舌先を撫でるとユウナの口元が弛み、こぼれるユウナの唾液を受け止める。が、完全に弛みきった口元からは止めどなく流れ出し、それはティーダの口端へと流れ落ちた。慌てて唇を離したユウナは、上を向いたままのティーダの鎖骨から首、顎から口端を舌で辿って舐めとる。
「いっぱい、ごめんなさい……」
 はは、ユウナ、かわいいな。ああ、ユウナの唾液、うまい。もっと濃いユウナの味はやく確かめたいけど、我慢しなくちゃ。オレたちの時間はいっぱいあるんだし、焦る必要はどこにもないしな。 
 口内の唾液を飲み干すと、先ほど溢れ出た唾液の跡を手の甲で拭って爽やかに笑って見せた。
「ぷはっ、ユウナのエッチなのうまかったッス!」
「ちょっ、エッチって、そんなのじゃないのに!キミが、わざとあふれさせたんでしょう?」
 心外だと言わんばかりのユウナに、笑みをこぼす。
「そうだよ。本番だったら、わざといろんなとこ触りまくってユウナの大事なところをぐちゅぐちゅでぐちゃぐちゃにして、いい声でティーダぁって呼んでもらうもん」
「なっ……そっ……!」
 言われて昨日の夢でのことを思い浮かべてしまったユウナは顔を真っ赤にして言葉を失くした。ティーダは立ち上がり、赤面して夢のことを思い出しているらしいユウナの額に口づける。
「昨日の、オレのに感じまくってるユウナ、かわいかったよ」
 血の気が引くとはこのことだろうか、先ほどまで赤面していたはずなのに、青ざめている自分の顔が目に浮かぶ。が、恥ずかしさで再び顔が熱くなる。
「あ、やだっ、やっぱり覚えてるじゃない!」
「い~や、覚えてねッスけど?」
と、白を切るティーダは、一度広場の方へ足を向けたがユウナへと振り返った。
「ユウナ、ワッカんち行く前に顔、洗いに行こ」
「え、どうして?顔なら起きた後に洗ったよ」
と、ユウナはティーダに追いつき、ふたりは歩き出す。
「証拠隠滅ッス。朝からいちゃついてたってワッカにバレたらどんな小言言われるかわかったもんじゃないからな。飯がマズくなるッスよ」
「証拠隠滅?」
 ティーダは、ユウナの唇に人差し指で優しく触れる。
「唾って乾くとにおったりしない?」
「あ……」
 そっか。確かに。
「別にオレはユウナのだったら全然気にしないんだけど、他人からしてみれば、あんまいいものでもないからさ」
「お見逸れしました」
 かしこまって頭を下げたユウナにティーダは胸を張って同意を求める。
「オレって意外にオトナ?」
「うん。意外にオトナっす。ふふ、けど、それ、自分で言っちゃうんだ」
「あ、笑うなよ~。だって、だ~れも言ってくれないしさぁ」
 ユウナはティーダの腕に両手を絡ませて抱き締めた。
「言わなくてもみんな思ってるよ、きっと」
「いや、そこは『きっと』じゃなくて断言しようぜ~?」
女の子だって想像したりするんです
Text by mimiko.
2013/06/10

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