離れられない罠
「すごいですね。俺の指一本、すんなり入っちゃいましたよ」
と、中指を押し進める。
「お妙さん、ダメですか?」
「今、そんなこと訊くのずるい……あっ、あ、そこっ」
「ん? どこ?」
とぼけて訊ねると妙に肩を叩かれた。
「はは、すみません。お妙さんがかわいくてつい意地悪したくなっちゃって」
と、近藤は指を妙から引き抜いた。中指の先には蜜の糸が引く。口づけと胸への愛撫しかしていないのに濡れすぎである。嬉しくなって顔が緩む。
「……近藤さん……」
弱々しい声に呼ばれた。
「はい」
「その……もう……」
と、言っておきながら恥ずかしくなったのか視線を逸らす妙がとてもかわいらしい。そんなに素直に欲しがられると意地の悪いことをしたくなる。悪戯心を刺激された近藤は妙の足を掴んで開き、腰を引き上げた。通常なら頭上にあるはずの下半身であるのに体勢を逆さまにされて尚、その下半身の大事なところを開かれ、その先に近藤の顔があった。下着越しとは言え、間近で見られるのはやはり恥ずかしい。妙は近藤の両膝を手の平で打った。
「違います、近藤さんっ、そうじゃなくて……っ」
近藤に満面の笑みで見下ろされ、恥ずかしさに耐えられなくなって目をぎゅっと瞑る。
「やだ、やめてくださいッ」
「まだ何もしてませんけど?」
「え?」
妙の目が開く。が、先ほどと変わらない体勢にやはり目を瞑った。
「してるじゃないですかッ、なんでこんな格好させるんですッ?!」
「なんでって、もっとお妙さんのここをほぐすため?」
「だからなんで訊いてくるんですかッ」
「だって久しぶりですし。俺だってすごく溜まってるわけで通常サイズとは違うわけですし」
と、下着の腰脇の紐を片方はずした。小さな布を捲ってそこを眺める。
「胸しか触ってない割にさっきはこの中指がすんなり入っちまったけど……」
と、その口をその指で撫でる。軽く撫でるたびに粘着質な音を立て、ぬるついた粘膜は指を飲み込んでしまいたそうに開いて閉じた。指の先で突くと口が開く。
感嘆の溜息が出た。いやらしく欲しがる妙の大事なところが愛おしい。
「もっと、いろいろしたいんで」
両方の太腿に腕を巻きつけて両手の指で襞を開き、中の柔らかい襞を舌で撫でた。妙の蜜を久しぶりに味わって腰が熱くなる。涎にまみれるいやらしい唇に自分の唇を押し当てて舌で撫でてやると抱えている妙の腰が跳ね続ける。甘い声はもっともっとと欲しがっている。求められるまま思わず舌を挿し込んでしまった。熱くて舌が溶けそうだ。一度の腰を下ろしてまた彼女の太腿を両手で支えてやる。足の付け根に口づけると、鼻にかかった声でねだるように啼かれた。
「舌でいきたい?」
「……近藤さんの好きにしてください……」
「ん~。じゃあ、俺のでいってください。それまでは我慢して、お妙さん」
と、自分の人差し指と中指を口に含んだ。濡らした二本の指の先で触れるとまたすぐにでも吸い込まれてしまいそうだ。布団の上で尻が揺れては下腹部は波打つように上下している。
「ぁんん……っ」
少し挿し込むと妙の体が震えた。指を止めたままでいると妙の腰は動こうとする。それを右太腿に巻きつけていた左腕で封じると切なげな息を吐かれる。
「お妙さん、待って。これ、指だから」
と、浅く挿し込んだまま指を捻る。
「はぁ♡」
妙の顔を見上げると、とろりとした眼差しが向けられた。
「指でいったらダメですからね。ちゃんと後で本物入れるからこれでいったらダメだからね」
念を押して指を挿し進めた。
「あぁ、指、近藤さんの指♡」
左腕に妙の手が伸びた。指先から手の平へとゆっくり近藤の腕に滑る。優しく擦るように撫でられ、内心苦笑する。こんな悦び方をされて男冥利に尽きる。だが、感じすぎた。そんな反応をされたら今すぐにでも入れたくなってくる。近藤は一息ついて指を押し進めた。
「はぁあん♡」
熱くて指が溶けそうだ。指をゆっくり動かして妙の好きなところを指の腹で撫でてやると快感に体を硬くしている。
「ん、いっちゃダメですよ」
再度、念を押して小さな突起を舌で撫でてやる。口が締まって奥が広がるのがわかった。舌を離して再三言う。
「ダメですよ、お妙さん」
「でも、そこ舐めながら中撫でられたら、いっちゃうぅ」
「お妙さん、ここ好きですもんね。でもダメですよ」
「やぁ、そこ、撫でて、指ぃ♡あっ、あっ、もぉ、い……っ!」
言うことを聞かない妙が達しそうになったので近藤はいいところを撫でてやるのをやめた。
「え、や、近藤さん、やめないで」
妙の左手が右腕に伸びてきた。続きをせがむ触れ方ににこりと笑って返した。
「ダメですよ、お妙さん。おあずけプレイなんですから」
妙は瞬きをひとつした。
「おあずけ……?」
「はい、おあずけ」
と、近藤は妙の中の指をばらつかせてからいいところを刺激しだす。妙がいい声を上げ始めると指の動きを止め、間を空けてからいいところを掻いてやる。
「や、やぁ、近藤さん、もう、いきたいぃ」
「どうしてですか、さっき俺の好きにしていいって言ってくれましたよね」
「そんな……はぁん、んぅ、や、また止まっ、もう、いや……っ!」
遂には涙目の妙に睨まれて非難されてしまった。さすがにかわいそうになって謝る。
「すみません。お妙さんをおあずけしないといろいろやばくなりそうなんです」
白状することに躊躇いがある。何度も愛し合った仲とは言え、思春期でもないのに挿入しただけで射精しそうですとは言えない。十も年上である自分が自分で律しないといけないのである。と言い聞かせている最中である。だからどうか察してと、近藤は内心祈る。
「いろいろ……?」
近藤は妙の中から引き抜いた指に絡みつく蜜を舐めとると自分の着物へ手を伸ばした。袂から避妊具を取り出して封を切る。自分のものに付けようと股間に持ってくると妙の頭に両手が当たった。
「えッ、お妙さんッ」
「……いっぱいしてもらったから私も……」
と、顔に垂れた髪を耳にかける。両膝を開いた乱れた正座をする近藤に妙のきちんとした正座が向き合う。背をかがめて妙の口元がそれに寄る。
「だ、ダメですッ、今日はいいから、ね?」
妙の肩を掴みたかったが手中の避妊具を無駄にするわけにはいかない。
「でも……近藤さんも出てますよ」
言われて赤黒い分身が白い手の中で跳ねた。指摘の通りに裏側まで先走りが垂れている。わかっている。しかしだ。今、妙に愛撫されたら耐えられなくなって出てしまうかもしれない。それだけは避けたいのだ。
妙は近藤に構わず先端に口づけた。顔の向きを変えて先から根元へと口づける。添えられていた手が下の膨らみに移動すると震えた分身は妙の頬を打つ。
「ちょ、お妙さん、やめて。これ以上やられると出るかもしれないから」
眉間に皺が寄っている近藤を見た妙は、聞かずに先を口に含んだ。
「まらしゅこししかしへましぇんよ、んぅ……」
しゃべりながらゆっくり根元まで含まれて避妊具を摘まんだままの両肩がびくりと揺れた。
「少ししかしてなくても最近抜いてないから、ホントやばいんですって」
裏側を舌全体で撫で揺すられて腰が熱くなる。包むようにそれに張りついた舌は裏筋をくすぐって離れた。妙の熱い口から放り出されて切なくなる。
「んっ……」
「もう出したいですか?」
「……はい」
息をついて頷く。突き出して両腕で寄せられた妙の白く美しい胸の谷間の奥に縮れた黒い茂みから生えた自分のものが反り立っている光景が卑猥だ。視界を覆いたい理性が眼に焼きつけたい本能にあっさり負けて興奮する。今すぐ妙の茶色い茂みへ分け入って、あのぬめってひくつく熱いところで愛撫されたい。
「お妙さんの中に出したい。けど、上の口じゃねェ。下の口です」
背をかがめて見上げた近藤に真っ直ぐ見つめ返された。
「……だったら、それ、なしでいいじゃないですか……」
と、近藤が離さない避妊具を見つめる。
「それはダメですよ、お妙さん。あなたと俺にはどんなに薄くてもいい、たった一枚でもいいから隔てる何かがないと。じゃないと、互いに身を滅ぼす」
近藤は避妊具を付けて妙を抱きながら布団へ寝かせた。白い膝を開いて自分の膝を太腿へ差し入れる。尻が微かに浮いた妙は、いよいよ来るのだと身構えたが濡れそぼったそこを押し開こうとする熱い塊は入って来ない。目を閉じていた妙は瞼を上げた。近藤は繋がろうとしているそこを見つめている。再び襲ってくる羞恥心と焦燥感に早く繋がってしまおうと腰を動かす。が、近藤の両手に腰を掴まれてしまった。
「あっ……!」
「隔てるものがないまま繋がろうとすれば今以上、互いなしでは生きられなくなる。大義を忘れて互いを貪り合う。如いては破滅する」
目を逸らさない近藤の気迫に押されてしまう。何もこんな時にそんなことを言わなくてもいいだろうにと気後れする。
「お妙さんのここはそれだけいいんです」
ぬるりと入ってきた近藤に呼吸を乱す。
「俺が何度、逝こうが受け止めてくれる」
と、浅く入っていたものが引き抜かれた。恋しそうに腰が揺れた。
「ほら、ちょっと繋がっただけなのにこれだ」
再び入口にあてがわれ、遠慮がちの嬌声は鼻にかかったねだり声となる。
「一枚隔てるくらいが丁度いいんです」
と、今度は一気に奥深くまで分身を埋めた。そのひと突き、妙は体を痙攣させ、呻く。気を失ったのだ。異変に気づいた近藤は妙は窺った。すぐに回復した妙は瞳を潤ませていた。
「んあ、こんどぅさん、はぁん、あんん」
甘えた声で近藤へと両手を伸ばす。太い首に両手を巻きつけ、つい先ほど達した時に力んでつけてしまった爪の引っ掻き痕に気づく。
「んん、ごめんなさい、ぁん、爪、ばりってしちゃ……あんっ」
近藤の腰は動いていないのに繋がっているだけで感じてしまっている。つい先ほどようやく深くまで突いてもらえたからだと妙の心と体が疼く。
「いいですよ、それより大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ……ふぅ、大丈夫ですから、もっと、近藤さん、もっとして」
「でも、入れただけで失神って……」
「いいの、近藤さんが入ってるの、気持ちいいから……ずっと、奥して欲しかったの……近藤さんの先が奥にくるの、いいの……」
妙は近藤にしがみつき、耳元で言う。
「お願い、近藤さん……」
懇願されて嬉しくなるのに感動してしまっている。欲しがられることが男としてこんなにも幸福であることを改めて実感する。
「はい」
試しに軽く突いてやると妙の大きな声が上がった。
「あぁんっ」
「これだけでいいの、お妙さん?」
「ん、いいです」
「でも、ちょっと突いただけだよ、それでも?」
「はい、あっ、それ、ダメっ、またいぐぅ……!」
先ほど突いた軽さより少し力を足して突くと妙は体をわななかせた。本当に達しているようだ。
「え、ちょっと待ってお妙さん。そんな立て続けにすぐいっちゃってたら今日持たないよ」
「へ?」
「だって、最低三回はするつもりでゴム多めに持ってきましたから」
「ん」
と、妙は短く頷いて近藤の首にしがみつく。
「ん。って、お妙さん?」
「して……」
かわいらしい甘えた声に、恥ずかしさからくる短い返事に胸がときめく。妙がかわいくてどうしよう、困ったものである。やはり欲望に身を委ねて妙を隅々まで余すことなくむしゃぶりつくしたくなる。
「もう、ダメですよ、お妙さん。ゴム一枚じゃなくて二枚重ねにしましょうか?お妙さん、感じすぎなんだもんなァ。6個持ってきたんで今から重ねても三回はいけますよ」
「でも、重ねるのって破けてしまったりするんじゃ……」
「ああ、そっか、だよね。じゃあ二枚重ねはやめときましょう」
「というか、分厚くなるのって嫌なんですけど」
「え、なんで?」
きょとんとする近藤に妙は言葉をなくす。本当にわかっていないのだろうか。避妊具が薄いほど近藤を感じれることを。近藤だってそうだ。
「……近藤さんは……分厚いコンドームでも、その……感じるんですか……?」
恥ずかしいのか妙の声は小さかった。
「はい。俺はいつでもお妙さんを感じてますよッ」
いつものような元気な声で臆面もなく言われてしまい、絶句する。絶賛繋がっている最中なのに急にとてつもなく恥ずかしくなってきた。
「そ、そうですか……」
「こうしてお妙さんのところへ帰ってくると更に……っと」
近藤が頭を上げて腰を引くと結合部から水音が鳴った。すんなり帰ってきたと言われてしまい、口を挟みたかったが出るのは言葉にならない声しか出なかった。ただいまという言葉にこだわっていたのは自分だけだったというのか。いつもこちらの好きの気持ちが強すぎて悔しい。悔しいのにとても気持ちがよくてやはり悔しい。どんなに抗っても抗いきれず、近藤の成すがまま、こちらは受け入れるしかないのだ。
明日からまたどんな仕返しをしてやろう。どうせ負かされるのはこちらなのだから、こちらの気が済むまでさせてもらおう。まったく、最中に何度も左手の薬指に口づけるなんて、今すぐ結婚できないことへの罪滅ぼしのつもりなのだろうか。
妙は仕返しのつもりで自分に腕枕をする近藤の左腕を無理に曲げて薬指に唇を押しつけて離した。近藤は変わらず眠っている。好き勝手に抱くだけ抱いて、こちらが目を覚ましても起きない。やはり近藤が恨めしい。どうしてこうもこちらのペースを乱すのか。許し難いのに許してしまう自分もまた恨めしいけれど、そんな自分もそれほど嫌いではない。から困ったものだ。
堂々巡りの思案に規則正しく打つ近藤の鼓動と寝息に誘われ、妙もいつしか近藤と同じように寝息を立てた。
***
明け方、妙は目を覚ました。自分に腕枕をする近藤はまだ眠っている。
「近藤さん、起きて」
と、近藤の腹部に添えていた手を動かす。筋肉で盛り上がる腹部から胸へと撫でて鎖骨、首へと上げる。肘をついて体を起こし、口をぽかんと開けて寝ている顔を見る。
「いいんですか? きっともう明るくなってますよ」
声をかけるが返事はない。
「ねえ、起き、んっ……!」
いつの間にか背中に回っていた腕に抱き寄せられ、首に吸いつかれる。
「ぁん、ダメ」
「んん~、おひゃへひゃぁん~、ちゅっちゅっ」
音を立てながら首筋から肩へと口づけられる。
「ダメよ、近藤さん。もう行かないといけないでしょう?」
「そうですけどォ」
甘えた声で言われ、妙は目を細めた。昨夜はあんなに男らしかったのに。
「あ。そういえばお妙さんに言い忘れてました」
と、近藤は起き上がった。布団から出て裸で畳に正座する。改まる近藤に妙も寝間着を整えて向き合い、畳に正座した。背筋を伸ばして膝に手を置いて頭を下げる。
「ただいま帰りました。そしておはようございまぐゥゥゥゥ?!」
鼻に妙の片膝を食らった近藤は鼻を押さえて妙を見上げた。
「あら、この間の来店からこっち、いつの間に今生で結ばれない道が断たれたんです? 私にただいまと言うには百万年早いんじゃありません?」
いつもの菩薩のような般若のような笑みである。
「だ、だよねェ、お妙さん、すみませんでした。すみませんついでに朝立ちしてるんで残ってたゴム使ってもいいですか」
鼻を覆っていた手は払いのけられ、再びその鼻に衝撃を受けた。今度は右手の拳である。
「ダメです」
と、微笑む。会えない日々に思い返した妙の笑顔だ。妙の膝元に帰れたことを実感する。
「今日、仕事あるから」
と、妙は立ち上がって新しい寝間着とバスタオルを取り出した。身支度を整えるらしい。
「じゃ、じゃあ、仕事ない日は朝からやってもいいってことですか」
こちらに背を向けたまましばし無言の後こくんと頷かれ、その照れて赤くなった頬が愛おしくなって妙へと寄った。背後から顔を寄せて妙の頬に口づける。かわいらしく肩を竦まれ、求婚の言葉を発しない代わりに左の薬指に口づけた。それでも愛おしい気持ちが抑えきれず妙の脇からくぐらせた両手で胸に触れながら首に口づけると結局、調子に乗るなと妙に鉄拳制裁された。
と、中指を押し進める。
「お妙さん、ダメですか?」
「今、そんなこと訊くのずるい……あっ、あ、そこっ」
「ん? どこ?」
とぼけて訊ねると妙に肩を叩かれた。
「はは、すみません。お妙さんがかわいくてつい意地悪したくなっちゃって」
と、近藤は指を妙から引き抜いた。中指の先には蜜の糸が引く。口づけと胸への愛撫しかしていないのに濡れすぎである。嬉しくなって顔が緩む。
「……近藤さん……」
弱々しい声に呼ばれた。
「はい」
「その……もう……」
と、言っておきながら恥ずかしくなったのか視線を逸らす妙がとてもかわいらしい。そんなに素直に欲しがられると意地の悪いことをしたくなる。悪戯心を刺激された近藤は妙の足を掴んで開き、腰を引き上げた。通常なら頭上にあるはずの下半身であるのに体勢を逆さまにされて尚、その下半身の大事なところを開かれ、その先に近藤の顔があった。下着越しとは言え、間近で見られるのはやはり恥ずかしい。妙は近藤の両膝を手の平で打った。
「違います、近藤さんっ、そうじゃなくて……っ」
近藤に満面の笑みで見下ろされ、恥ずかしさに耐えられなくなって目をぎゅっと瞑る。
「やだ、やめてくださいッ」
「まだ何もしてませんけど?」
「え?」
妙の目が開く。が、先ほどと変わらない体勢にやはり目を瞑った。
「してるじゃないですかッ、なんでこんな格好させるんですッ?!」
「なんでって、もっとお妙さんのここをほぐすため?」
「だからなんで訊いてくるんですかッ」
「だって久しぶりですし。俺だってすごく溜まってるわけで通常サイズとは違うわけですし」
と、下着の腰脇の紐を片方はずした。小さな布を捲ってそこを眺める。
「胸しか触ってない割にさっきはこの中指がすんなり入っちまったけど……」
と、その口をその指で撫でる。軽く撫でるたびに粘着質な音を立て、ぬるついた粘膜は指を飲み込んでしまいたそうに開いて閉じた。指の先で突くと口が開く。
感嘆の溜息が出た。いやらしく欲しがる妙の大事なところが愛おしい。
「もっと、いろいろしたいんで」
両方の太腿に腕を巻きつけて両手の指で襞を開き、中の柔らかい襞を舌で撫でた。妙の蜜を久しぶりに味わって腰が熱くなる。涎にまみれるいやらしい唇に自分の唇を押し当てて舌で撫でてやると抱えている妙の腰が跳ね続ける。甘い声はもっともっとと欲しがっている。求められるまま思わず舌を挿し込んでしまった。熱くて舌が溶けそうだ。一度の腰を下ろしてまた彼女の太腿を両手で支えてやる。足の付け根に口づけると、鼻にかかった声でねだるように啼かれた。
「舌でいきたい?」
「……近藤さんの好きにしてください……」
「ん~。じゃあ、俺のでいってください。それまでは我慢して、お妙さん」
と、自分の人差し指と中指を口に含んだ。濡らした二本の指の先で触れるとまたすぐにでも吸い込まれてしまいそうだ。布団の上で尻が揺れては下腹部は波打つように上下している。
「ぁんん……っ」
少し挿し込むと妙の体が震えた。指を止めたままでいると妙の腰は動こうとする。それを右太腿に巻きつけていた左腕で封じると切なげな息を吐かれる。
「お妙さん、待って。これ、指だから」
と、浅く挿し込んだまま指を捻る。
「はぁ♡」
妙の顔を見上げると、とろりとした眼差しが向けられた。
「指でいったらダメですからね。ちゃんと後で本物入れるからこれでいったらダメだからね」
念を押して指を挿し進めた。
「あぁ、指、近藤さんの指♡」
左腕に妙の手が伸びた。指先から手の平へとゆっくり近藤の腕に滑る。優しく擦るように撫でられ、内心苦笑する。こんな悦び方をされて男冥利に尽きる。だが、感じすぎた。そんな反応をされたら今すぐにでも入れたくなってくる。近藤は一息ついて指を押し進めた。
「はぁあん♡」
熱くて指が溶けそうだ。指をゆっくり動かして妙の好きなところを指の腹で撫でてやると快感に体を硬くしている。
「ん、いっちゃダメですよ」
再度、念を押して小さな突起を舌で撫でてやる。口が締まって奥が広がるのがわかった。舌を離して再三言う。
「ダメですよ、お妙さん」
「でも、そこ舐めながら中撫でられたら、いっちゃうぅ」
「お妙さん、ここ好きですもんね。でもダメですよ」
「やぁ、そこ、撫でて、指ぃ♡あっ、あっ、もぉ、い……っ!」
言うことを聞かない妙が達しそうになったので近藤はいいところを撫でてやるのをやめた。
「え、や、近藤さん、やめないで」
妙の左手が右腕に伸びてきた。続きをせがむ触れ方ににこりと笑って返した。
「ダメですよ、お妙さん。おあずけプレイなんですから」
妙は瞬きをひとつした。
「おあずけ……?」
「はい、おあずけ」
と、近藤は妙の中の指をばらつかせてからいいところを刺激しだす。妙がいい声を上げ始めると指の動きを止め、間を空けてからいいところを掻いてやる。
「や、やぁ、近藤さん、もう、いきたいぃ」
「どうしてですか、さっき俺の好きにしていいって言ってくれましたよね」
「そんな……はぁん、んぅ、や、また止まっ、もう、いや……っ!」
遂には涙目の妙に睨まれて非難されてしまった。さすがにかわいそうになって謝る。
「すみません。お妙さんをおあずけしないといろいろやばくなりそうなんです」
白状することに躊躇いがある。何度も愛し合った仲とは言え、思春期でもないのに挿入しただけで射精しそうですとは言えない。十も年上である自分が自分で律しないといけないのである。と言い聞かせている最中である。だからどうか察してと、近藤は内心祈る。
「いろいろ……?」
近藤は妙の中から引き抜いた指に絡みつく蜜を舐めとると自分の着物へ手を伸ばした。袂から避妊具を取り出して封を切る。自分のものに付けようと股間に持ってくると妙の頭に両手が当たった。
「えッ、お妙さんッ」
「……いっぱいしてもらったから私も……」
と、顔に垂れた髪を耳にかける。両膝を開いた乱れた正座をする近藤に妙のきちんとした正座が向き合う。背をかがめて妙の口元がそれに寄る。
「だ、ダメですッ、今日はいいから、ね?」
妙の肩を掴みたかったが手中の避妊具を無駄にするわけにはいかない。
「でも……近藤さんも出てますよ」
言われて赤黒い分身が白い手の中で跳ねた。指摘の通りに裏側まで先走りが垂れている。わかっている。しかしだ。今、妙に愛撫されたら耐えられなくなって出てしまうかもしれない。それだけは避けたいのだ。
妙は近藤に構わず先端に口づけた。顔の向きを変えて先から根元へと口づける。添えられていた手が下の膨らみに移動すると震えた分身は妙の頬を打つ。
「ちょ、お妙さん、やめて。これ以上やられると出るかもしれないから」
眉間に皺が寄っている近藤を見た妙は、聞かずに先を口に含んだ。
「まらしゅこししかしへましぇんよ、んぅ……」
しゃべりながらゆっくり根元まで含まれて避妊具を摘まんだままの両肩がびくりと揺れた。
「少ししかしてなくても最近抜いてないから、ホントやばいんですって」
裏側を舌全体で撫で揺すられて腰が熱くなる。包むようにそれに張りついた舌は裏筋をくすぐって離れた。妙の熱い口から放り出されて切なくなる。
「んっ……」
「もう出したいですか?」
「……はい」
息をついて頷く。突き出して両腕で寄せられた妙の白く美しい胸の谷間の奥に縮れた黒い茂みから生えた自分のものが反り立っている光景が卑猥だ。視界を覆いたい理性が眼に焼きつけたい本能にあっさり負けて興奮する。今すぐ妙の茶色い茂みへ分け入って、あのぬめってひくつく熱いところで愛撫されたい。
「お妙さんの中に出したい。けど、上の口じゃねェ。下の口です」
背をかがめて見上げた近藤に真っ直ぐ見つめ返された。
「……だったら、それ、なしでいいじゃないですか……」
と、近藤が離さない避妊具を見つめる。
「それはダメですよ、お妙さん。あなたと俺にはどんなに薄くてもいい、たった一枚でもいいから隔てる何かがないと。じゃないと、互いに身を滅ぼす」
近藤は避妊具を付けて妙を抱きながら布団へ寝かせた。白い膝を開いて自分の膝を太腿へ差し入れる。尻が微かに浮いた妙は、いよいよ来るのだと身構えたが濡れそぼったそこを押し開こうとする熱い塊は入って来ない。目を閉じていた妙は瞼を上げた。近藤は繋がろうとしているそこを見つめている。再び襲ってくる羞恥心と焦燥感に早く繋がってしまおうと腰を動かす。が、近藤の両手に腰を掴まれてしまった。
「あっ……!」
「隔てるものがないまま繋がろうとすれば今以上、互いなしでは生きられなくなる。大義を忘れて互いを貪り合う。如いては破滅する」
目を逸らさない近藤の気迫に押されてしまう。何もこんな時にそんなことを言わなくてもいいだろうにと気後れする。
「お妙さんのここはそれだけいいんです」
ぬるりと入ってきた近藤に呼吸を乱す。
「俺が何度、逝こうが受け止めてくれる」
と、浅く入っていたものが引き抜かれた。恋しそうに腰が揺れた。
「ほら、ちょっと繋がっただけなのにこれだ」
再び入口にあてがわれ、遠慮がちの嬌声は鼻にかかったねだり声となる。
「一枚隔てるくらいが丁度いいんです」
と、今度は一気に奥深くまで分身を埋めた。そのひと突き、妙は体を痙攣させ、呻く。気を失ったのだ。異変に気づいた近藤は妙は窺った。すぐに回復した妙は瞳を潤ませていた。
「んあ、こんどぅさん、はぁん、あんん」
甘えた声で近藤へと両手を伸ばす。太い首に両手を巻きつけ、つい先ほど達した時に力んでつけてしまった爪の引っ掻き痕に気づく。
「んん、ごめんなさい、ぁん、爪、ばりってしちゃ……あんっ」
近藤の腰は動いていないのに繋がっているだけで感じてしまっている。つい先ほどようやく深くまで突いてもらえたからだと妙の心と体が疼く。
「いいですよ、それより大丈夫ですか?」
「だいじょうぶ……ふぅ、大丈夫ですから、もっと、近藤さん、もっとして」
「でも、入れただけで失神って……」
「いいの、近藤さんが入ってるの、気持ちいいから……ずっと、奥して欲しかったの……近藤さんの先が奥にくるの、いいの……」
妙は近藤にしがみつき、耳元で言う。
「お願い、近藤さん……」
懇願されて嬉しくなるのに感動してしまっている。欲しがられることが男としてこんなにも幸福であることを改めて実感する。
「はい」
試しに軽く突いてやると妙の大きな声が上がった。
「あぁんっ」
「これだけでいいの、お妙さん?」
「ん、いいです」
「でも、ちょっと突いただけだよ、それでも?」
「はい、あっ、それ、ダメっ、またいぐぅ……!」
先ほど突いた軽さより少し力を足して突くと妙は体をわななかせた。本当に達しているようだ。
「え、ちょっと待ってお妙さん。そんな立て続けにすぐいっちゃってたら今日持たないよ」
「へ?」
「だって、最低三回はするつもりでゴム多めに持ってきましたから」
「ん」
と、妙は短く頷いて近藤の首にしがみつく。
「ん。って、お妙さん?」
「して……」
かわいらしい甘えた声に、恥ずかしさからくる短い返事に胸がときめく。妙がかわいくてどうしよう、困ったものである。やはり欲望に身を委ねて妙を隅々まで余すことなくむしゃぶりつくしたくなる。
「もう、ダメですよ、お妙さん。ゴム一枚じゃなくて二枚重ねにしましょうか?お妙さん、感じすぎなんだもんなァ。6個持ってきたんで今から重ねても三回はいけますよ」
「でも、重ねるのって破けてしまったりするんじゃ……」
「ああ、そっか、だよね。じゃあ二枚重ねはやめときましょう」
「というか、分厚くなるのって嫌なんですけど」
「え、なんで?」
きょとんとする近藤に妙は言葉をなくす。本当にわかっていないのだろうか。避妊具が薄いほど近藤を感じれることを。近藤だってそうだ。
「……近藤さんは……分厚いコンドームでも、その……感じるんですか……?」
恥ずかしいのか妙の声は小さかった。
「はい。俺はいつでもお妙さんを感じてますよッ」
いつものような元気な声で臆面もなく言われてしまい、絶句する。絶賛繋がっている最中なのに急にとてつもなく恥ずかしくなってきた。
「そ、そうですか……」
「こうしてお妙さんのところへ帰ってくると更に……っと」
近藤が頭を上げて腰を引くと結合部から水音が鳴った。すんなり帰ってきたと言われてしまい、口を挟みたかったが出るのは言葉にならない声しか出なかった。ただいまという言葉にこだわっていたのは自分だけだったというのか。いつもこちらの好きの気持ちが強すぎて悔しい。悔しいのにとても気持ちがよくてやはり悔しい。どんなに抗っても抗いきれず、近藤の成すがまま、こちらは受け入れるしかないのだ。
明日からまたどんな仕返しをしてやろう。どうせ負かされるのはこちらなのだから、こちらの気が済むまでさせてもらおう。まったく、最中に何度も左手の薬指に口づけるなんて、今すぐ結婚できないことへの罪滅ぼしのつもりなのだろうか。
妙は仕返しのつもりで自分に腕枕をする近藤の左腕を無理に曲げて薬指に唇を押しつけて離した。近藤は変わらず眠っている。好き勝手に抱くだけ抱いて、こちらが目を覚ましても起きない。やはり近藤が恨めしい。どうしてこうもこちらのペースを乱すのか。許し難いのに許してしまう自分もまた恨めしいけれど、そんな自分もそれほど嫌いではない。から困ったものだ。
堂々巡りの思案に規則正しく打つ近藤の鼓動と寝息に誘われ、妙もいつしか近藤と同じように寝息を立てた。
***
明け方、妙は目を覚ました。自分に腕枕をする近藤はまだ眠っている。
「近藤さん、起きて」
と、近藤の腹部に添えていた手を動かす。筋肉で盛り上がる腹部から胸へと撫でて鎖骨、首へと上げる。肘をついて体を起こし、口をぽかんと開けて寝ている顔を見る。
「いいんですか? きっともう明るくなってますよ」
声をかけるが返事はない。
「ねえ、起き、んっ……!」
いつの間にか背中に回っていた腕に抱き寄せられ、首に吸いつかれる。
「ぁん、ダメ」
「んん~、おひゃへひゃぁん~、ちゅっちゅっ」
音を立てながら首筋から肩へと口づけられる。
「ダメよ、近藤さん。もう行かないといけないでしょう?」
「そうですけどォ」
甘えた声で言われ、妙は目を細めた。昨夜はあんなに男らしかったのに。
「あ。そういえばお妙さんに言い忘れてました」
と、近藤は起き上がった。布団から出て裸で畳に正座する。改まる近藤に妙も寝間着を整えて向き合い、畳に正座した。背筋を伸ばして膝に手を置いて頭を下げる。
「ただいま帰りました。そしておはようございまぐゥゥゥゥ?!」
鼻に妙の片膝を食らった近藤は鼻を押さえて妙を見上げた。
「あら、この間の来店からこっち、いつの間に今生で結ばれない道が断たれたんです? 私にただいまと言うには百万年早いんじゃありません?」
いつもの菩薩のような般若のような笑みである。
「だ、だよねェ、お妙さん、すみませんでした。すみませんついでに朝立ちしてるんで残ってたゴム使ってもいいですか」
鼻を覆っていた手は払いのけられ、再びその鼻に衝撃を受けた。今度は右手の拳である。
「ダメです」
と、微笑む。会えない日々に思い返した妙の笑顔だ。妙の膝元に帰れたことを実感する。
「今日、仕事あるから」
と、妙は立ち上がって新しい寝間着とバスタオルを取り出した。身支度を整えるらしい。
「じゃ、じゃあ、仕事ない日は朝からやってもいいってことですか」
こちらに背を向けたまましばし無言の後こくんと頷かれ、その照れて赤くなった頬が愛おしくなって妙へと寄った。背後から顔を寄せて妙の頬に口づける。かわいらしく肩を竦まれ、求婚の言葉を発しない代わりに左の薬指に口づけた。それでも愛おしい気持ちが抑えきれず妙の脇からくぐらせた両手で胸に触れながら首に口づけると結局、調子に乗るなと妙に鉄拳制裁された。
離れられない罠
Text by mimiko.
2016/08/06
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