ドロドロ愛憎土近妙の続きです前回同様、三人とも頭のネジがどこかへ飛んでます。土近でもあり、近妙でもあるのでご注意を。
前項と次項で文体が違いますがどうかさらっと流してくださいませ。
柚木麻樹さんありがとうございます!

続・煙も眉目よい方へならでは靡かぬ

 昔ながらの住居が広がる道を着物が衣擦れる音と草履の足音が忙しなく鳴る。
 お妙は暮れゆく陽を背にして駆けていた。向かうは自宅だ。我が家に辿り着けば、背後を追ってくる闇からも、腹からせり上がってくる黒いものからも、きっと逃げられる。
 お妙の目の先には灯の点いている恒道館があった。
 新ちゃん……。
 あそこには希望の光がある。幼い頃より自分の夢を賭けた弟がいる。あんな心の奥底まで暴くような鋭い眼光を放つ男はいない。いくらあの男の身体能力が高かろうが、潜伏能力が高かろうが、自分は全力疾走してきた。追いつかれてはいない。大丈夫だ。
 息を乱しながらお妙は我が家へ駆けこんだ。が、門を通り抜けるほんの少し、たったひとつ瞬く間、目蓋裏に眉を寄せた近藤の顔を思い出す。
『構いま、せっ、ぅぐ……あなたに、逝かされるなら、俺は……かはっ』
 苦しげに表情を歪めながら、それでも自分を貫こうと近藤は腰の動きを止めなかった。
 何度飲み込んでも注いでくる近藤の肩にしがみつく。細腰を抱いていた大きな手は背を上り、太い指はか細い首を撫で上げた。近藤に促されるまま口づけ、舌を絡ませ合う。ようやくあの煙の味が消えたのを確認すると、お妙はやっと近藤は自分だけのものになったのだと安心した。けれど、翌日にでもこの熱い舌にあの男の吸う銘柄の匂いが舞い戻るであろう。近藤を独占できた喜びも束の間、お妙は腹の中にあった黒いものに唆されて近藤の肩を掴んでいた手を移動させた。
 出っ張っている喉仏を舐め上げて髭を蓄えた顎を甘噛みする。甘えた声で抽送をねだり、彼の首に触れていた両の指に力を込める。呼吸を乱す近藤を見下ろすと、驚く瞳にいやらしく笑う女がいた。苦痛に歪む近藤はそれでも荒しく息をし、女を突き上げる。ままならない呼吸に追い打ちをかけるようお妙の指は近藤の指に喰い込む。が、今までに味わったことのない感覚に浸る女の笑みは壊される。内側にいたものが更に硬さを増したのだ。太さまで増した近藤に擦られて濡れた唇ががだらしなく緩む。こぼれた唾液は細く紡がれて近藤の歪んだ唇の中へと垂れた。達しているところを突かれ続けて朦朧としていたお妙の下、上から落ちてきた唾液を飲み込んだ近藤は我に返って言った。
『構いま、せっ、ぅぐ……あなたに、逝かされるなら、俺は……かはっ』
 自宅の玄関先で先ほどの情事を思い返していたお妙は寒気を覚えて自分の腕を抱いた。
 我に返ったから、いつものように帰ってこれたのだろうか。我に返らなければ、自分はあのまま近藤の精も息も絶していただろうか。土方への嫉妬を近藤にぶつけ、その結果、色情を刺激されて肉欲に溺れて最愛の男を自らの手で途絶えさせようとしてしまうなんて馬鹿げている。そうは思うのにあの感覚は初めてのものだった。先ほどの快楽を体に呼び起こしたお妙はうっとりとして自分の腕を抱き直す。近藤の骨張った指に優しく力強く抱かれるのを思い起こして。
 いくら土方さんが憎いからって、今更あの人から離れられない。私はもう、あの人がいないとダメなのよ。
「あれ?姉上ー?」
 遠くで自分を呼ぶ弟の声がしてはっとする。それでも情事を回想していたお妙は頭を振って草履を脱いだ。
 * * *
「なァ、女クサイ」
 夜も寝静まった屯所は副長室、土方は深夜帰宅の近藤を呼び止めて招き入れた。仕事の話が済んでどちらからともなく胡坐を掻く膝を寄せ合う。が、土方の片眉が上がった。近藤の着物から香水が匂ったのだ。桜の花をイメージした香りだ。仕事の合間に選んでいた女への贈り物で、自分が近藤に助言したそれだった。香水を贈った相手の勤めるスナック帰りだとわかっていて敢えて土方は不満を洩らした。
「ごめん。すまいる行ってた」
「今月の売上に貢献してやったのか」
「うん」
 満面の笑みで頷かれ、大きな溜息をつく。
「そんなにあの女っていいのか」
と、土方は近藤に口づけた。
「うん、いいよ」
 臆面もなく肯定されては面白くない。土方は唇を尖らせた。
「へー、そーかよー」
 まるで台詞を棒読みだ。近藤は顔を綻ばせた。
「ん~?どしたの、トシ。妬いてるのかなァ?」
 にやつかれ、ますます面白くなくなった土方は間近でじとりと睨むと無遠慮に近藤の両耳にそれぞれ指を差し込んだ。驚いた近藤は肩を竦ませる。
「妬いてますけど何かー」
と、また起伏のない声で言う。
「近藤さん。アンタ、俺の火の点け方、ゲスい」
と、今度はいつもの調子で言い、耳の襞を優しく指でなぞってやる。時、肩をびくつかせる近藤がかわいらしい。
「……ごめん……」
 素直に謝られ、咎める気も失せた。土方は耳をなぞりながら近藤の唇を自分のそれで挟む。優しく食べるように口づけ、近藤の唇が自然と開くと舌を差し込んだ。ゆっくり絡めては唇を合わせて角度を変え、舌だけで撫で合う。合わさった唾液は互いの口端を濡らし、口づけを終えると互いの唇から透明な糸を引かせた。ほんの少し口づけただけなのに、近藤の目元は潤んでいる。確認のためにと触れた近藤のそこは完全に立ち上がっていた。口づけだけで反応することはあってもここまで立ち上がっているのは初めてだ。
 不意に桜の花の香りが土方の鼻を掠めた。いくらスナック帰りだからといっても今までこんなに移り香が濃かったことはあっただろうか。疑念は一気に膨らみ、土方の中で弾けた。
 あの女、この人を弄んだな。
 土方は近藤の袴の紐を解くと言う。
「俺の指舐めて。アンタの指も舐めさせて」
と、近藤の唇に人差し指と中指を差し込み、もう一方の手は近藤の衿元へ潜り込ませた。唇を薄く開いて舌なめずりをする土方の口元に近藤の指が寄せられると、土方はその二本の指を咥えた。人差し指の腹を撫で、中指の腹を撫で、指の隙間をちろちろと撫でる。近藤は、土方の指を咥えたままくぐもった声を洩らした。土方の指が微かに引かれると近藤の口内は離すまいと吸いつき、唾液を啜る水音が鳴る。
「近藤さん、そのまま吸ってて」
土方は近藤の指を解放すると首に口づけ、二本の指は近藤の口内を行き来しながら舌を愛撫した。くぐもった嬌声が上がりだすと、二本の指を唇から抜き去り、近藤の着物の裾を開く。土方は近藤の前に両膝を突いて背を屈めた。慌てた近藤は土方の顔を上げさせようと彼の肩を押す。が、下着から取り出されたものを咥えられて体を揺らした。力などもう入らない。あとは土方の為すままだ。
「ん、トシ、どうした……?」
「どうもしねー、ただ、余裕ないだけ……」
と、土方は根元から優しく吸って先をきつめに吸った。
「はぁっ、んぁ、や、めっ」
「ああ、ごめん」
と、後ろの窪みに近藤の唾液まみれの指を添える。
「ちょ、トシ?」
 嫌な予感がしたらしい近藤の声音が微かに怯えを含む。
「ごめんな、近藤さん、早くアンタの中に入りたい……」
 むにむにと指先で刺激すると頬に揺れた近藤が当たった。
「だから、まずはいっとこうか」
 元気な近藤に口の片端を上げた土方は、三白眼の瞳に微笑むと先ほど頬を打ったそれを口内で捕らえた。
「っはぁぅ……!」
 ぬるついた熱い粘膜に撫でられ、圧迫され、後ろの窪みに埋め込まれた二本の指には中を優しく掻かれ、近藤の限界は早かった。達した近藤は乱した息を静かに整えながらくったりと横たわっている。その足を掴み、ゆっくりと引き上げた。転がされた近藤は肩で息をしながら戸惑いの眼差しを土方に向ける。
「後ろ、もうトロトロになってるから入らせて」
「そんなの……なんで聞くかな……」
と、近藤は視線を横へやる。
「どうせ、ダメだって言ってもするんだろ……?」
 恨めしそうな眼差しで近藤の視線が戻ってきた。目尻には涙が浮かんでいる。
 なんでそんな反応するんだよ、近藤さん。あの女に現を抜かすアンタが憎いのに、憎みきれねーじゃねェか。
「するよ」
 近藤の太腿下に両膝を差し入れ、尻を浮かす。着物の裾から自分のものを取り出すと濡れていた先を窪みにあてがった。期待でひくつくそこは小さく口を開いている。
「優しくするから吹こうか、近藤さん」
と、囁いて耳に口づける。ぞくりとした近藤は小さな瞳を揺らした。
「え。吹くって、まさか……」
「まさか?まさかでもないよな、近藤さん」
 今度はもう片方の耳元で囁く。
「アンタ、射精した後に潮吹くの好きだろ」
 愉しげに笑う土方に観念した近藤は視線を泳がせながら言った。
「まァ、嫌いじゃねーけど……」
「じゃあ、遠慮なく……っと」
 途中まで入った土方に再び息を乱され、近藤は抗議する。
「遠、慮しねーって、いう割に、……んっ、途中で止まって……、あっ、あっ、トシぃっ」
 抗議中にゆっくりと土方に分け入られ、近藤は身悶えた。口端に涎をあふれさせ、唇を震わせている。土方は近藤を指で愛撫し始め、ひりつく快感に近藤はよがった。
 いくらあの女がそこそこよくても、この人をここまで愛でてやれないだろう。
 そう高を括っていた土方だったが、そのお妙に度胆を抜かされてしまうことなど、この時は露にも思っていなかった。
続・煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
Text by mimiko.

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