続・煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
* * *
「こんにちは、お勤めご苦労様です」
昼下がりの街中、商店が並ぶ通りで声をかけられた土方はそのほうに目をやった。近藤が熱を上げている例の女だ。買い物中らしく、店の名が印刷されているビニール袋を手にしている。今日の近藤は休みだ。どうせその辺に潜んでいるのだろう。土方はほんの僅か、お妙と目を合わせると、市中見廻りを再開させた。すれ違う土方にお妙は言う。
「怖い話をしましょうか」
問いかけられ、土方の足は止まる。出し抜けであるし怪談の類は得意でない。
「いや、そういうのは間に合ってる」
土方が顔をお妙へ向けると、彼女はにこやかに笑っていた。よく見かけるいつもの笑顔だ。
「そうおっしゃらずに」
と、笑顔のままで言う。
前々から思っていたが、この笑顔、本物なのか偽物なのかどちらであるのか見分けがつきにくい。近藤は得体の知れないお妙をよく相手にしているものだ。いや、近藤もそれ以上に曲者であった。自分とただならぬ仲であったのにも関わらず、よくもお妙に手を出せたものだ。全くあの男ときたらどちらにもいい顔をする八方美人で困ったものだ。お妙の近辺にいるであろう近藤はどこにいるだろうと目を配る。近藤のことに気を取られた土方は近くにやってきたお妙にはっとする。
「あの人なら向こうの通りで寝たふりしてますよ。さっき、一発殴ってきたんで」
近藤を探していたことを言い当てられ、ひやりとする。
「仕事中でもあの人の心配をされるのね。ほんと大変ですねェ。おバカな上司がいると、その上司の休日の動向まで心配しなきゃならないんですもの、ほんと大変ねェ」
先ほどの笑顔とは打って変って心配している顔だ。わかりやすい小芝居に見てとれた土方はこぼす。
「怖い話はどこ行ったんだよ……」
「ええ、ですから怖い話ですよ」
と、小首を傾げて微笑む。
それのどこが怖い話だというのだ。
「あなたの煙たい置き土産のせいで、どうにかなりそうなんです。というか、もうどうにかなろうとしてるんです。だから、責任取ってあの人から手を引いてください」
だから、それのどこが怖い話だというのだ。全く何を考えているのかわからない。しかし、敢えてこんな回りくどい切り出し方をするのだから何かあるのだろう。
「……嫌だと言ったら?」
「あなたに拒否権はありませんよ、土方さん」
「怖い話じゃなくて勝手な話の間違いだろう」
土方は制服の胸ポケットから煙草の箱とライターを取り出した。が、この話の発端でありそうな煙を上げるものは持ち出さないほうがいいと判断し、一度取り出した煙草とライターを制服へと戻す。
「いいえ、怖い話ですよ」
と、また小首を傾げて微笑む。
何かあるのはわかるが、果たして何なのかわからない。不気味な女だ。
不意に桜の花の香りがした。唇の端を上げた笑顔をつくる頬に手を添えていたお妙だったが、その細い女の手首から桜が香っている。土方は目を見張った。
不気味だというのは撤回しよう。正体は見えた。お妙の言うようにこれは怖い話だ。自分の男をよくも女にしてくれたなと云っている。この間の移り香は挑戦状で、今日の怖い話は果し状というわけか。
土方はお妙を見たまま乾いていた唇を噛んだ。
しかし、はいそうですかと素直に頷かないし、手など引きはしない。自分はもう、近藤がいなければ生きていけない。過去にぽかりと空いた心の穴を埋めてくれたのは近藤なのだ。離しはしない。そもそもこちらが先に近藤と親密になっていたのだ。そこへ今、目の前にいるお妙が割り込んできた。割り込ませたのは他の誰でもない近藤なのだから性質が悪い。
「そうだったな。怖い話だな」
先ほどは躊躇った煙草を取り出し、煙草に火を点ける。
「手を引くと口約束したところで、俺はアンタと違って毎日顔を合わせるんだ。本当に手を引いたと信じられるのか」
「土方さんが約束してくれるなら信じます。……ということは、約束してくださるんですか?」
「いや」
と、煙を吐き出して首を横に振る。肩すかしをくらったお妙はじとりと睨んだ。風上にいることに気づいた土方は、体と煙草を挟む手の向きを変えて煙を吸い込む。気遣われたお妙は溜息をついた。
土方は憎い相手であるのに、これだから憎み切れない。誰が悪いということではないのだと、お妙は改めて思う。近藤も土方も自分も相手に魅かれて求め合っただけだ。
「ごめんなさい、土方さん。私、あなたの大事な人の首を掴んで腹上死させようとしてしまったの……」
と、お妙は両手で自分の顔を覆った。
演技でも縁起でもないことだ。
土方は、再び咥えようとした煙草を口元に近づけたまま固まり、先端の灰は燃え尽き落下する。
いや、演技ではないだろう。冗談にしては笑えない。それに心当たりがある。この間の移り香より前、近藤が思い出し笑いをしていたのはそういう訳か。
近藤のすべてを愛しているのはお妙よりも自分のほうだと思っていた。想いが強ければ強いほど、どんな醜態をも愛せると。けれど、元から愛し方が違うのだ。比べて優劣をつけるのは誤っている。
土方は顔を覆ったままのお妙を横目で見やった。
お妙は近藤を独占したい愛し方なのだろうか。しかし、嫉妬が故の矛先は邪魔者であるはずの自分ではなく、近藤であった。道理で自分に拒否権がないはずだ。愛情も劣情も殺意までも抱かせるよう、色情に不慣れな娘をたらしこんでその様を愉しんでいるのだから相当な悪漢だ。
すべてを晒しているかのように見せかけ、自分に服従を装った色狂いの男の欲深さが恐ろしい。まさに怖い話である。
しかし、よくもここまで用意周到にやってのけたものだと感心する。やはり、火を点ける手法が下衆のやることだ。
土方は携帯灰皿に煙草を押し付け、最後に吸った煙をゆっくりと静かにこぼした。消えゆく煙は、遠くにその姿を現せる。着物に砂埃をつけた大男であり、この怖い話の中で最も恐ろしい人物だ。
「アンタが手を引くか?」
顔を隠したままのお妙は動きをとめたまま土方の出方を待っている。
「痴情のもつれは他当たってくんないかなァ。お巡りさんに言われても困るんだよねー」
と、土方は頭を掻いた。まるで刑事ドラマの制服警官だ。演じられていることを踏まえてお妙は尚も土方の出方を待っている。
「ああ、もう、わかったよ。近藤さん、こっち来そうだから顔上げろよ」
「……何か、あるんですか?」
「俺もアンタもあの人に狂わされたんだ。それ相応の報復は受けてもらおうじゃねーか」
「報復って……」
穏やかでない物言いにお妙の瞳が戸惑う。
「逝かせてやるんだよ、天国という名の地獄にな」
追い打ちをかける言葉にひやりとしたお妙は案ずるが、耳元で提案されて瞬きを繰り返した。
「俺とアンタで近藤さんを愛してやるんだ」
* * *
宵の口、お妙は締めた雨戸を解錠した。自宅の庭から家へと上がれるようにと。弟が勤務先で泊る晩、都合のついた近藤が上がって来れるようにいつも密かに鍵をかけていない箇所だ。しかし、今晩、招き入れるのは近藤のみではない。
始め、土方の提案を受けたお妙は乗り気ではなかった。が、あの日から三日間、街で土方と顔を合わせてはその都度、誘われた。
このまま事なきを過ごすならそのうち近藤を手放すことになる、それで後悔しないのかだの、間違ってもそちらに手出しはしないから安心しろだの。
こうして土方の言う手筈を整えても、やはり渋っている自分がいることをお妙はわかっていた。
近藤は自分を独占することで愛を確かめている。また、自分がそれを返した分ほど愛を感じている。自分の中に入るのは近藤以外に認めないと言ったその近藤が、土方と結託する自分を受け入れてくれるだろうか。そう心配はしても、ひとりきりでこの愛を抱えたままでいるのは苦しく、誰かと似た想いを共有して楽になりたいのがお妙の正直なところであった。
夜も遅く、自室で就寝の準備をしていたお妙は居間へ向かった。物音を聞いたのだ。きっと近藤だ。そして、近藤の後をつけていた土方もそのうち現れる。
「近藤さん」
薄暗い中、まるでコソ泥のように抜き足差し足の歩みである。不格好な出で立ちを見られた近藤は愛想笑いで謝りながらお妙を引き寄せた。
「お妙さん、逢いたかった……」
背中を両腕で抱いて風呂上がりの首筋に顔を寄せる。石鹸の香りに誘われた近藤は、しっとりとした肌に吸いついた。
「んっ、昼間も私の後をつけてたでしょう?」
「そうですけど、こうやって抱き締めたかったんです」
と、お妙を抱き締め直し、反対側の首筋にも唇を押し付けて顔を上げる。
「お妙さん、逢って早々ですけどしてもいいですか?」
確認をと、お妙を見つめる。
「……ごめんなさい……」
間を置いて謝られ、近藤は焦り出す。
「この間のことなら気にせんでください。前の時にちゃんと言っときたかったんですけど、慌てて帰っちまってすみません」
この間のこととは、今晩のように志村家に忍び込もうとしてたのにちょうど戸締りをしようとしたお妙に出くわした晩のことだ。嫉妬され、独占されることに悦びを感じて興奮した。前の時とは、我を忘れて自分を求めることに恐れながらも自分を欲しがり、お妙の勤務先の化粧室の個室に連れ込まれたことだ。着衣のまま裾を捲り、互いの大事なところを擦り合わせた。お妙は繋がりたいのを我慢し、自分が贈った桜色の紅を引いた美しい唇で自分の欲を飲み干してくれた。
嫉妬するほど愛して独占したいがための暴走に怯え、今度は逃げ腰とは。いつもの後追いにはいつものように遠慮なく制裁をかましてくれるのに。その落差と自分に反応しすぎるお妙が更に愛おしくなる。
「いえ、閉店の片付けがあったのに……、私のほうが悪かったんです……」
と、反省する。やはり素直でかわいらしい。
「お妙さん、やっぱりダメ?」
「……ダメっていうわけじゃないんですけど……」
お妙が視線を余所へやると、外で物音がした。自分がここへやって来る時に引いた雨戸の音だ。お妙の弟がまさかの帰宅なのかと冷や汗を掻くが、自宅であるのだから玄関から上がるだろう。ということは、誰だろうと近藤は振り返った。半開きになっていた障子戸の向こうに見知った男がいて近藤は目を見開く。
「ごめんなさい」
再びお妙が言った。
「トシ、なんでここに……?」
お妙の腰を抱いたまま呆然とする近藤に土方は溜息をついた。
「年貢の納め時だよ、近藤さん」
「え……?」
近藤にとって思わぬ人物の登場だったらしいが、土方は気にせず居間に入った。近藤の前にいるお妙に構わず、ぽかんと開いたままの唇に舌を差し込む。
「んぅっ?!」
驚き戸惑う近藤は、お妙を抱いたまま背を逸らせて土方の口づけから逃れた。
「そこの街娘から通報があったんだよ。悪代官に弄ばれて身も心も狂いそうだってな」
と、近藤の唾液で濡れた唇を拭う。近藤は真意を確かめようとお妙の目を見つめた。申し訳なさそうに大きな瞳が揺れている。
「違う、そうじゃないです、お妙さん」
と、近藤はお妙から土方へと視線を移す。
「俺は、弄んでなんかねェ!」
近藤の叫びに束の間、静寂するが土方とお妙は落胆した。
「そこじゃねーだろ」
「そこじゃないです」
同時に言われた近藤は理解できず「え?」と、繰り返しながら土方とお妙を交互に見ている。
「不貞を働く様をこんなド修羅場で暴いてやってるのに、言い訳するところがズレてんだよ」
土方は大きな溜息をつき、お妙は頷いた。土方の誘いに乗るかどうか迷っていたお妙だったが、それも吹っ切れる。自分も土方の言う天国という名の地獄へ近藤を突き落としてやりたくなった。
「そうですよ」
と、お妙は近藤の袴の紐を解いた。
「えッ、お妙さん?!」
近藤の袴が畳に落ちるのを見た土方は、一連の所業への仕返しを承諾したと受け取り、突っ立ったままの近藤の背後へ回った。
「えッ、トシ?!」
土方は近藤の顎に指を添え、後ろへ顔をやると唇を合わせた。衿元へ右手を差し込み、肌を優しく撫で始める。
「んっ、おい、ぁうむ、トッ……んんっ」
後ろへ向くことで露わになった首をお妙の舌が這う。
「ちょっ、はぁ、おたっ、ふぅうっ……」
口づけられながら耳の襞を撫でられ、首筋がぞくりとする。着物の上からもう片方の胸をお妙に撫でられ、肩が揺れた。土方に舌を吸い出されてようやく唇を解放されると、着物を肌蹴させられた胸の突起の周囲を土方とお妙の指でなぞられていた。
「あっ、やめ……トシ、お妙さん、やめて、くれ……」
眉根を寄せて肩で息をし、すでに嫌がっているという説得力に欠けている。土方の指は構わずに胸の突起を転がし、お妙の指は優しく引っ掻く。
「あぁっ」
腰を下ろしたお妙は畳に両膝を突いた。着物の下で膨らんでいるそれに触れると近藤の体が揺れる。その形を確かめるように動く指に自然と近藤の腰が動いた。
「お妙さん、まで、なんで……?」
切なげな声で問われる。が、お妙は更にと撫でていた近藤を着物の上から唇で挟んだ。
「んっ」
上下に擦って唇を離す。
「あなたなら受け止めてくださるんでしょう?」
と、着物の中へとお妙の手が差し込む。
「どちらに対しても本気なんだから、もちろん受け止めてくださいますよね?」
訊かれているはずなのに、同意が前提だ。下着の上から扱かれてびくびくと背を揺らす。返事をしようとすると土方に耳元で囁かれた。
「殺したくないのはお互い様なんだ。アンタだってそうだろう?俺たちのどちらかを殺せと乞われたって、アンタはどちらも殺せない。自分自身までも……違うか?」
と、土方は近藤の耳朶を舐めた。
「昔からそうだったろ。アンタは刀を握っておきながら、本当は誰も殺したくない。だから、総悟や俺が持て囃されるんだ」
唾液をたっぷり含んだ舌に耳を撫でられて近藤の息が大きく乱れる。
「一見、自分勝手なことをやっておきながら、アンタはいつもどこか遠慮してる。中途半端に踏み止まってねェでもっと曝け出せよ、近藤さん」
「そ、んなこと言われたって、あッ、お妙さん、やめ、咥えられちゃったら、何も考えられなくなっ、ぁうっ」
下着から取り出して口に含んでいたお妙は口内から解放すると近藤の根元を指で締める。
「い、いくらバカな俺でも、ここまで望んでねーよ、マジで。なのに……んんっ」
根元を指の輪に捕らえられたまま、先を振られて先端をお妙の舌が弾く。後ろから伸びてきた土方の指に着物の上から尻を撫でられた。反射的に腰が熱くなって、頬が火照る。
「だからって、こんなこと……」
戸惑う頼りない声に土方とお妙の手が止まった。
「こんなこと?俺たちにこんなことをさせたのはアンタだ」
と、土方の手が近藤の着物の裾へ潜る。腰の脇を通って筋肉質な尻をやんわりと掴んだ。
「アンタが自分の欲に呑まれるまま動いた結果だよ。どちらにもいい顔するから、どちらにもいい顔しなきゃいけねーことになるんだ」
指に力が入り、びくりとする。近藤の期待通りに土方の指先は窪みに触れた。同時に裏の筋をお妙の舌で愛撫される。気分的には達しているのに刺激の足りなさから達することが出来ず、物欲しそうに腰がひとりでに揺れる。体がもっと欲しいと云っている。
こんなつもりではなかった。土方にもお妙にも魅かれて、熱烈に愛し合いたかっただけだ。だが、自分では選べず、相手に選択を押し付けた。どちらかに刺されるのだと思っていたのに、どちらからも刺されることなく、刃先はそれぞれの首に自ら当てられてしまった。
『殺したくないのはお互い様なんだ。アンタだってそうだろう?俺たちのどちらかを殺せと乞われたって、アンタはどちらも殺せない。自分自身までも……違うか?』
土方の言葉を思い出した近藤は喘いだ後、一度閉じた唇を噛んだ。
土方の言う通り、どちらも捨てられず、自分の欲望も捨てられないことを改めて思い知る。
「……かった……」
再び喘がされた近藤は涎をこぼし、目尻に涙を浮かべて天井を仰いだ。前はお妙に咥え込まれ、後ろは土方の指を咥えさせられ、蕩けそうな感覚の中、なんとか続ける。
「もぅ、わかった……んぁ、わかったから……お妙さん、入りたいから舐めさせて……、ぅん、トシ、指増やして、もっと慣らして……」
ずっと立たされたままだった膝が笑う。まるで自分自身を嗤っているかのようだ。やっと畳に膝を突くことができたが、一息入れることなく後ろの土方に腰を掴まれて引かれた。指とは違う熱くてねっとりとしたものが触れる。驚いて後ろをみると両方の尻を掴んだ土方が、そこに顔を埋めていた。
「ちょっ、トシッ、指って言ったけど俺ッ、あっ」
「細かいこと気にすんなよ。ほら、ほっといていいのか?ご奉仕してやるんだろ」
と、顎でお妙を差すと近藤の窪みを舌で撫でる。土方の舌がそこに入り込みそうになる度、お妙にかわいがられていたものが空を打つ。お妙に吸われたはずの蜜が、再び先端から溢れ出てしまう。
後ろから迫りくる鬼気に期待しながら分身を震わせ、すべてを包み込む美しいものに赦されようと近藤は目の前に正座するお妙に手を伸ばす。
「お妙さん……」
愛おしげに頬に手を添えられ、誘われるままお妙は近藤に唇を重ねた。優しく甘く溶かされ、唇を離したお妙はとろりとした眼差しで近藤を見上げた。が、近藤は甘い雰囲気を自ら壊す。お妙の肌に傷がつかないように、しかし、強引に着物を肌蹴させた。
「すみません、もう、早く、入りたい……んっ」
やや乱暴にお妙の胸に吸いつき、乳首を立たせて音を鳴らして離す。
「やっ」
泡立った肌に近藤の熱い手が這い、それだけでお妙の体は慣らされてゆく。すっかり脱力したお妙の膝を割り開くとすでに蜜でいっぱいの紅い花が咲いていた。後ろからの愛撫に息をつき、目の前の花に喉を鳴らして近藤は小さな芽にかわいらしく口づけた。次に、ねっとりと愛撫をする。
後ろの舌とどうしても同じように動いてしまう。中指を差し込まれ、お妙にもその指を咥えさせ、襞を舌でなぞる。体を震わせるお妙の快感が伝染したように近藤の腰も揺れた。
「トシ、指、増やすの、やめ」
と、お妙の中へ人差し指を足す。
「ん、指増やせっつったの、アンタだろ」
「でも、集中できない」
「やだ。精々我慢したら?そしたら堪んないのくるだろ」
冷たく言い放つ土方は追い打ちをかけるように揺れていた近藤を捕まえた。
「アンタが入ってる時に俺も入る」
耳元に土方の唇が寄った。
「一緒に逝くんだ」
今度は艶のかかった熱い声だった。吐息をかけられた近藤は肩を竦ませる。土方は口の片端を上げて言った。
「生き地獄へ逝くんだ、近藤さん」
ぞくりとした近藤は土方のほうへ顔を向ける。
「おっと、アンタの大事な女の大事なところを俺が見てもいいのか?」
はっとした近藤は素早くお妙のそこを唇で塞いだ。
「ふぁめっ!」
その刺激にお妙の両足がびくつく。
「何言ってんのかわからねーよ。ていうか、そろそろいい?近藤さんもだいぶトロトロだし」
と、土方は四つん這いになっている近藤の窪みに押し進んだ。
「あう、ちょっ、ダメだって、いきなり……!」
遠慮なく根元まで入られてしまい、体中を駆ける気持ちよさに思考が溶けかかる。ここでお妙の熱いところに包まれたらと想像するだけで達してしまいそうになる。身震いした近藤は、開かれたままのお妙のそこを見下ろした。
やはりお妙の中に入りたい。しかし、一度味わってしまえばきっと抜け出せない。危険な誘惑だと思うのに、そこからもう目が逸らせなかった。自分はわかったと言ってしまっていたし、土方は一緒に生き地獄へ逝くのだとも。
近藤は分身に手を添えて訊ねる。
「お妙さん、俺のコレ欲しい?」
訊かれたお妙は近藤に寄る。挿入しやすいようにと自ら足を開き直した。
「私も一緒に逝きますから……」
と、近藤の首に両腕を巻きつける。
「……ください」
囁かれ、導かれるまま近藤はお妙へと沈めた。
「あっ、いつもより、やっ、あ、だ……っ、おおきいので奥、まで、やぁあんっ……!!」
入れただけですぐに達してしまったお妙の蠢動に抗いきれず、近藤も後を追うようにお妙の中で達した。猛ったままの土方に突かれた近藤は、肩を揺らす。
「近藤さん、早すぎだ。いつもはそんな早くないだろう。そんなに興奮してるのか。いやらしい男だな」
と、近藤の粘膜を小さく擦り動かす。
「あっ、トシ、急いで立たせるのやめっ、んんっ」
「じゃあ、そこから抜いて吹かせようか?」
「やだ、俺もまだ足りないもん」
「それなら早々に出すなよ」
「だって、しょーがないじゃん、お妙さんの中いいんだもんッ!」
と、開き直る近藤は我に返ってお妙を窺う。なんと、気を失っていた。失神することなどそれほどないお妙なのに、いつもと違う雰囲気にお妙も興奮していたという訳か。
近藤はさきほどひん剥いたお妙の胸元から肩へと舌を這わせた。気づいたらしいお妙を窺いながら口づけを落とす。
「今日は抜かないままずっと入っていてもいいですか?っていうか、そうさせてくださ、んぐぅっ……!」
と、土方に突かれた近藤はお妙の肌に涎をこぼす。だらしなく緩んだ口から唾液が溢れ出し、胸の谷間に水溜りを作った。その水を舌で掬って胸の頂きへ塗りつけ、硬くなった先を舌と歯で愛撫する。
「んぁ、お妙さん、俺また勃起っ……するっ、はぁあ、ぅん」
ぴちゃりと水音を鳴らし、もう片方の頂きにもこぼした唾液を運んで先に吸いつく。
「ぅあっ、トシ、勝手に逝ったらぁ……!」
土方に遠慮なく放たれ、快感を誤魔化すようにお妙の胸を寄せ掴む。
「悪い……、いつもと締まり方が違って、いいんだ……ん……」
と、土方は背を屈め、近藤の背中に口づける。
「あ、なんでまだそんな硬いの、トシ、んんっ」
「逝き地獄って言っただろ。一緒に逝けるようになるまで終わらねーからな」
土方の存在感がゆっくりと行き来する。近藤は声にならない嬌声を噛み締めた。突かれてお妙の中の分身が起き上がる。
「ん、近藤さん……」
お妙の甘い声に呼ばれて近藤は口づける。ゆっくり舌を絡ませ合っていると、股関節を開いたお妙に腰を絡め捕られていた。
「ちょっとお妙さん!そんなのダメです、だいしゅきホールドとかダメっ!んぁっ」
お妙の熱い肉に膨らんだばかりのものが圧迫される。近藤が大きくなるごとに形を変え、とろついた粘膜が吸いつく。
「あぁ、お妙さんの中……熱い……」
恍惚とした表情もすぐに崩れ、後ろのものの動きに蜜が掻き出される卑猥な音が暗闇に鳴り響いた。
「あん、トシぃ」
名前を呼ばれて土方は両手を伸ばした。いくつもの傷跡が残る美しい背を撫で、もう一方は耳を撫でる。
「逝き地獄って、ん、どこのアダルトビデオ……はぁ、あぁあっ……」
「そういうの好きだろう?ん?」
顔を見ずともわかる。土方はきっと優越たっぷりに笑っていることだろう。
「嫌いじゃ、あっ、逝きそっ、お妙さん、ダメだって、そんなふうにしたら……!」
土方に返事をしようとした近藤だったが、お妙の膣でびくついた。
「あ、ちがっ、うぅんん」
土方に押された近藤が、奥も更に奥へと入ろうとしている。近藤にはいつも苦しいほど感じさせられているのだから、今日くらいは逆に苦しいほど感じさせてやろうと思っていたのに、それもできなさそうだ。
「こんどうさぁ……らめ、いっちゃうぅ、もぅ、わたしいくの……!!」
「俺も、逝くっ、またお妙さんの中に……ぁあ、出るっ……!!」
温かく柔らかいお妙にしがみつかれ二度目の絶頂を味わった。土方は、お妙と近藤の後に達する。二股の仕置きを終わらせないようにわざと遅らせて自分の中で精を放つ土方が恨めしい。一言言ってやろうと振り返ろうとしたが、いつの間にか頬を寄せられていた。
「地獄はこれからだよ、近藤さん」
美しい鬼の囁きに近藤は鳥肌を立たせた。
「こんにちは、お勤めご苦労様です」
昼下がりの街中、商店が並ぶ通りで声をかけられた土方はそのほうに目をやった。近藤が熱を上げている例の女だ。買い物中らしく、店の名が印刷されているビニール袋を手にしている。今日の近藤は休みだ。どうせその辺に潜んでいるのだろう。土方はほんの僅か、お妙と目を合わせると、市中見廻りを再開させた。すれ違う土方にお妙は言う。
「怖い話をしましょうか」
問いかけられ、土方の足は止まる。出し抜けであるし怪談の類は得意でない。
「いや、そういうのは間に合ってる」
土方が顔をお妙へ向けると、彼女はにこやかに笑っていた。よく見かけるいつもの笑顔だ。
「そうおっしゃらずに」
と、笑顔のままで言う。
前々から思っていたが、この笑顔、本物なのか偽物なのかどちらであるのか見分けがつきにくい。近藤は得体の知れないお妙をよく相手にしているものだ。いや、近藤もそれ以上に曲者であった。自分とただならぬ仲であったのにも関わらず、よくもお妙に手を出せたものだ。全くあの男ときたらどちらにもいい顔をする八方美人で困ったものだ。お妙の近辺にいるであろう近藤はどこにいるだろうと目を配る。近藤のことに気を取られた土方は近くにやってきたお妙にはっとする。
「あの人なら向こうの通りで寝たふりしてますよ。さっき、一発殴ってきたんで」
近藤を探していたことを言い当てられ、ひやりとする。
「仕事中でもあの人の心配をされるのね。ほんと大変ですねェ。おバカな上司がいると、その上司の休日の動向まで心配しなきゃならないんですもの、ほんと大変ねェ」
先ほどの笑顔とは打って変って心配している顔だ。わかりやすい小芝居に見てとれた土方はこぼす。
「怖い話はどこ行ったんだよ……」
「ええ、ですから怖い話ですよ」
と、小首を傾げて微笑む。
それのどこが怖い話だというのだ。
「あなたの煙たい置き土産のせいで、どうにかなりそうなんです。というか、もうどうにかなろうとしてるんです。だから、責任取ってあの人から手を引いてください」
だから、それのどこが怖い話だというのだ。全く何を考えているのかわからない。しかし、敢えてこんな回りくどい切り出し方をするのだから何かあるのだろう。
「……嫌だと言ったら?」
「あなたに拒否権はありませんよ、土方さん」
「怖い話じゃなくて勝手な話の間違いだろう」
土方は制服の胸ポケットから煙草の箱とライターを取り出した。が、この話の発端でありそうな煙を上げるものは持ち出さないほうがいいと判断し、一度取り出した煙草とライターを制服へと戻す。
「いいえ、怖い話ですよ」
と、また小首を傾げて微笑む。
何かあるのはわかるが、果たして何なのかわからない。不気味な女だ。
不意に桜の花の香りがした。唇の端を上げた笑顔をつくる頬に手を添えていたお妙だったが、その細い女の手首から桜が香っている。土方は目を見張った。
不気味だというのは撤回しよう。正体は見えた。お妙の言うようにこれは怖い話だ。自分の男をよくも女にしてくれたなと云っている。この間の移り香は挑戦状で、今日の怖い話は果し状というわけか。
土方はお妙を見たまま乾いていた唇を噛んだ。
しかし、はいそうですかと素直に頷かないし、手など引きはしない。自分はもう、近藤がいなければ生きていけない。過去にぽかりと空いた心の穴を埋めてくれたのは近藤なのだ。離しはしない。そもそもこちらが先に近藤と親密になっていたのだ。そこへ今、目の前にいるお妙が割り込んできた。割り込ませたのは他の誰でもない近藤なのだから性質が悪い。
「そうだったな。怖い話だな」
先ほどは躊躇った煙草を取り出し、煙草に火を点ける。
「手を引くと口約束したところで、俺はアンタと違って毎日顔を合わせるんだ。本当に手を引いたと信じられるのか」
「土方さんが約束してくれるなら信じます。……ということは、約束してくださるんですか?」
「いや」
と、煙を吐き出して首を横に振る。肩すかしをくらったお妙はじとりと睨んだ。風上にいることに気づいた土方は、体と煙草を挟む手の向きを変えて煙を吸い込む。気遣われたお妙は溜息をついた。
土方は憎い相手であるのに、これだから憎み切れない。誰が悪いということではないのだと、お妙は改めて思う。近藤も土方も自分も相手に魅かれて求め合っただけだ。
「ごめんなさい、土方さん。私、あなたの大事な人の首を掴んで腹上死させようとしてしまったの……」
と、お妙は両手で自分の顔を覆った。
演技でも縁起でもないことだ。
土方は、再び咥えようとした煙草を口元に近づけたまま固まり、先端の灰は燃え尽き落下する。
いや、演技ではないだろう。冗談にしては笑えない。それに心当たりがある。この間の移り香より前、近藤が思い出し笑いをしていたのはそういう訳か。
近藤のすべてを愛しているのはお妙よりも自分のほうだと思っていた。想いが強ければ強いほど、どんな醜態をも愛せると。けれど、元から愛し方が違うのだ。比べて優劣をつけるのは誤っている。
土方は顔を覆ったままのお妙を横目で見やった。
お妙は近藤を独占したい愛し方なのだろうか。しかし、嫉妬が故の矛先は邪魔者であるはずの自分ではなく、近藤であった。道理で自分に拒否権がないはずだ。愛情も劣情も殺意までも抱かせるよう、色情に不慣れな娘をたらしこんでその様を愉しんでいるのだから相当な悪漢だ。
すべてを晒しているかのように見せかけ、自分に服従を装った色狂いの男の欲深さが恐ろしい。まさに怖い話である。
しかし、よくもここまで用意周到にやってのけたものだと感心する。やはり、火を点ける手法が下衆のやることだ。
土方は携帯灰皿に煙草を押し付け、最後に吸った煙をゆっくりと静かにこぼした。消えゆく煙は、遠くにその姿を現せる。着物に砂埃をつけた大男であり、この怖い話の中で最も恐ろしい人物だ。
「アンタが手を引くか?」
顔を隠したままのお妙は動きをとめたまま土方の出方を待っている。
「痴情のもつれは他当たってくんないかなァ。お巡りさんに言われても困るんだよねー」
と、土方は頭を掻いた。まるで刑事ドラマの制服警官だ。演じられていることを踏まえてお妙は尚も土方の出方を待っている。
「ああ、もう、わかったよ。近藤さん、こっち来そうだから顔上げろよ」
「……何か、あるんですか?」
「俺もアンタもあの人に狂わされたんだ。それ相応の報復は受けてもらおうじゃねーか」
「報復って……」
穏やかでない物言いにお妙の瞳が戸惑う。
「逝かせてやるんだよ、天国という名の地獄にな」
追い打ちをかける言葉にひやりとしたお妙は案ずるが、耳元で提案されて瞬きを繰り返した。
「俺とアンタで近藤さんを愛してやるんだ」
* * *
宵の口、お妙は締めた雨戸を解錠した。自宅の庭から家へと上がれるようにと。弟が勤務先で泊る晩、都合のついた近藤が上がって来れるようにいつも密かに鍵をかけていない箇所だ。しかし、今晩、招き入れるのは近藤のみではない。
始め、土方の提案を受けたお妙は乗り気ではなかった。が、あの日から三日間、街で土方と顔を合わせてはその都度、誘われた。
このまま事なきを過ごすならそのうち近藤を手放すことになる、それで後悔しないのかだの、間違ってもそちらに手出しはしないから安心しろだの。
こうして土方の言う手筈を整えても、やはり渋っている自分がいることをお妙はわかっていた。
近藤は自分を独占することで愛を確かめている。また、自分がそれを返した分ほど愛を感じている。自分の中に入るのは近藤以外に認めないと言ったその近藤が、土方と結託する自分を受け入れてくれるだろうか。そう心配はしても、ひとりきりでこの愛を抱えたままでいるのは苦しく、誰かと似た想いを共有して楽になりたいのがお妙の正直なところであった。
夜も遅く、自室で就寝の準備をしていたお妙は居間へ向かった。物音を聞いたのだ。きっと近藤だ。そして、近藤の後をつけていた土方もそのうち現れる。
「近藤さん」
薄暗い中、まるでコソ泥のように抜き足差し足の歩みである。不格好な出で立ちを見られた近藤は愛想笑いで謝りながらお妙を引き寄せた。
「お妙さん、逢いたかった……」
背中を両腕で抱いて風呂上がりの首筋に顔を寄せる。石鹸の香りに誘われた近藤は、しっとりとした肌に吸いついた。
「んっ、昼間も私の後をつけてたでしょう?」
「そうですけど、こうやって抱き締めたかったんです」
と、お妙を抱き締め直し、反対側の首筋にも唇を押し付けて顔を上げる。
「お妙さん、逢って早々ですけどしてもいいですか?」
確認をと、お妙を見つめる。
「……ごめんなさい……」
間を置いて謝られ、近藤は焦り出す。
「この間のことなら気にせんでください。前の時にちゃんと言っときたかったんですけど、慌てて帰っちまってすみません」
この間のこととは、今晩のように志村家に忍び込もうとしてたのにちょうど戸締りをしようとしたお妙に出くわした晩のことだ。嫉妬され、独占されることに悦びを感じて興奮した。前の時とは、我を忘れて自分を求めることに恐れながらも自分を欲しがり、お妙の勤務先の化粧室の個室に連れ込まれたことだ。着衣のまま裾を捲り、互いの大事なところを擦り合わせた。お妙は繋がりたいのを我慢し、自分が贈った桜色の紅を引いた美しい唇で自分の欲を飲み干してくれた。
嫉妬するほど愛して独占したいがための暴走に怯え、今度は逃げ腰とは。いつもの後追いにはいつものように遠慮なく制裁をかましてくれるのに。その落差と自分に反応しすぎるお妙が更に愛おしくなる。
「いえ、閉店の片付けがあったのに……、私のほうが悪かったんです……」
と、反省する。やはり素直でかわいらしい。
「お妙さん、やっぱりダメ?」
「……ダメっていうわけじゃないんですけど……」
お妙が視線を余所へやると、外で物音がした。自分がここへやって来る時に引いた雨戸の音だ。お妙の弟がまさかの帰宅なのかと冷や汗を掻くが、自宅であるのだから玄関から上がるだろう。ということは、誰だろうと近藤は振り返った。半開きになっていた障子戸の向こうに見知った男がいて近藤は目を見開く。
「ごめんなさい」
再びお妙が言った。
「トシ、なんでここに……?」
お妙の腰を抱いたまま呆然とする近藤に土方は溜息をついた。
「年貢の納め時だよ、近藤さん」
「え……?」
近藤にとって思わぬ人物の登場だったらしいが、土方は気にせず居間に入った。近藤の前にいるお妙に構わず、ぽかんと開いたままの唇に舌を差し込む。
「んぅっ?!」
驚き戸惑う近藤は、お妙を抱いたまま背を逸らせて土方の口づけから逃れた。
「そこの街娘から通報があったんだよ。悪代官に弄ばれて身も心も狂いそうだってな」
と、近藤の唾液で濡れた唇を拭う。近藤は真意を確かめようとお妙の目を見つめた。申し訳なさそうに大きな瞳が揺れている。
「違う、そうじゃないです、お妙さん」
と、近藤はお妙から土方へと視線を移す。
「俺は、弄んでなんかねェ!」
近藤の叫びに束の間、静寂するが土方とお妙は落胆した。
「そこじゃねーだろ」
「そこじゃないです」
同時に言われた近藤は理解できず「え?」と、繰り返しながら土方とお妙を交互に見ている。
「不貞を働く様をこんなド修羅場で暴いてやってるのに、言い訳するところがズレてんだよ」
土方は大きな溜息をつき、お妙は頷いた。土方の誘いに乗るかどうか迷っていたお妙だったが、それも吹っ切れる。自分も土方の言う天国という名の地獄へ近藤を突き落としてやりたくなった。
「そうですよ」
と、お妙は近藤の袴の紐を解いた。
「えッ、お妙さん?!」
近藤の袴が畳に落ちるのを見た土方は、一連の所業への仕返しを承諾したと受け取り、突っ立ったままの近藤の背後へ回った。
「えッ、トシ?!」
土方は近藤の顎に指を添え、後ろへ顔をやると唇を合わせた。衿元へ右手を差し込み、肌を優しく撫で始める。
「んっ、おい、ぁうむ、トッ……んんっ」
後ろへ向くことで露わになった首をお妙の舌が這う。
「ちょっ、はぁ、おたっ、ふぅうっ……」
口づけられながら耳の襞を撫でられ、首筋がぞくりとする。着物の上からもう片方の胸をお妙に撫でられ、肩が揺れた。土方に舌を吸い出されてようやく唇を解放されると、着物を肌蹴させられた胸の突起の周囲を土方とお妙の指でなぞられていた。
「あっ、やめ……トシ、お妙さん、やめて、くれ……」
眉根を寄せて肩で息をし、すでに嫌がっているという説得力に欠けている。土方の指は構わずに胸の突起を転がし、お妙の指は優しく引っ掻く。
「あぁっ」
腰を下ろしたお妙は畳に両膝を突いた。着物の下で膨らんでいるそれに触れると近藤の体が揺れる。その形を確かめるように動く指に自然と近藤の腰が動いた。
「お妙さん、まで、なんで……?」
切なげな声で問われる。が、お妙は更にと撫でていた近藤を着物の上から唇で挟んだ。
「んっ」
上下に擦って唇を離す。
「あなたなら受け止めてくださるんでしょう?」
と、着物の中へとお妙の手が差し込む。
「どちらに対しても本気なんだから、もちろん受け止めてくださいますよね?」
訊かれているはずなのに、同意が前提だ。下着の上から扱かれてびくびくと背を揺らす。返事をしようとすると土方に耳元で囁かれた。
「殺したくないのはお互い様なんだ。アンタだってそうだろう?俺たちのどちらかを殺せと乞われたって、アンタはどちらも殺せない。自分自身までも……違うか?」
と、土方は近藤の耳朶を舐めた。
「昔からそうだったろ。アンタは刀を握っておきながら、本当は誰も殺したくない。だから、総悟や俺が持て囃されるんだ」
唾液をたっぷり含んだ舌に耳を撫でられて近藤の息が大きく乱れる。
「一見、自分勝手なことをやっておきながら、アンタはいつもどこか遠慮してる。中途半端に踏み止まってねェでもっと曝け出せよ、近藤さん」
「そ、んなこと言われたって、あッ、お妙さん、やめ、咥えられちゃったら、何も考えられなくなっ、ぁうっ」
下着から取り出して口に含んでいたお妙は口内から解放すると近藤の根元を指で締める。
「い、いくらバカな俺でも、ここまで望んでねーよ、マジで。なのに……んんっ」
根元を指の輪に捕らえられたまま、先を振られて先端をお妙の舌が弾く。後ろから伸びてきた土方の指に着物の上から尻を撫でられた。反射的に腰が熱くなって、頬が火照る。
「だからって、こんなこと……」
戸惑う頼りない声に土方とお妙の手が止まった。
「こんなこと?俺たちにこんなことをさせたのはアンタだ」
と、土方の手が近藤の着物の裾へ潜る。腰の脇を通って筋肉質な尻をやんわりと掴んだ。
「アンタが自分の欲に呑まれるまま動いた結果だよ。どちらにもいい顔するから、どちらにもいい顔しなきゃいけねーことになるんだ」
指に力が入り、びくりとする。近藤の期待通りに土方の指先は窪みに触れた。同時に裏の筋をお妙の舌で愛撫される。気分的には達しているのに刺激の足りなさから達することが出来ず、物欲しそうに腰がひとりでに揺れる。体がもっと欲しいと云っている。
こんなつもりではなかった。土方にもお妙にも魅かれて、熱烈に愛し合いたかっただけだ。だが、自分では選べず、相手に選択を押し付けた。どちらかに刺されるのだと思っていたのに、どちらからも刺されることなく、刃先はそれぞれの首に自ら当てられてしまった。
『殺したくないのはお互い様なんだ。アンタだってそうだろう?俺たちのどちらかを殺せと乞われたって、アンタはどちらも殺せない。自分自身までも……違うか?』
土方の言葉を思い出した近藤は喘いだ後、一度閉じた唇を噛んだ。
土方の言う通り、どちらも捨てられず、自分の欲望も捨てられないことを改めて思い知る。
「……かった……」
再び喘がされた近藤は涎をこぼし、目尻に涙を浮かべて天井を仰いだ。前はお妙に咥え込まれ、後ろは土方の指を咥えさせられ、蕩けそうな感覚の中、なんとか続ける。
「もぅ、わかった……んぁ、わかったから……お妙さん、入りたいから舐めさせて……、ぅん、トシ、指増やして、もっと慣らして……」
ずっと立たされたままだった膝が笑う。まるで自分自身を嗤っているかのようだ。やっと畳に膝を突くことができたが、一息入れることなく後ろの土方に腰を掴まれて引かれた。指とは違う熱くてねっとりとしたものが触れる。驚いて後ろをみると両方の尻を掴んだ土方が、そこに顔を埋めていた。
「ちょっ、トシッ、指って言ったけど俺ッ、あっ」
「細かいこと気にすんなよ。ほら、ほっといていいのか?ご奉仕してやるんだろ」
と、顎でお妙を差すと近藤の窪みを舌で撫でる。土方の舌がそこに入り込みそうになる度、お妙にかわいがられていたものが空を打つ。お妙に吸われたはずの蜜が、再び先端から溢れ出てしまう。
後ろから迫りくる鬼気に期待しながら分身を震わせ、すべてを包み込む美しいものに赦されようと近藤は目の前に正座するお妙に手を伸ばす。
「お妙さん……」
愛おしげに頬に手を添えられ、誘われるままお妙は近藤に唇を重ねた。優しく甘く溶かされ、唇を離したお妙はとろりとした眼差しで近藤を見上げた。が、近藤は甘い雰囲気を自ら壊す。お妙の肌に傷がつかないように、しかし、強引に着物を肌蹴させた。
「すみません、もう、早く、入りたい……んっ」
やや乱暴にお妙の胸に吸いつき、乳首を立たせて音を鳴らして離す。
「やっ」
泡立った肌に近藤の熱い手が這い、それだけでお妙の体は慣らされてゆく。すっかり脱力したお妙の膝を割り開くとすでに蜜でいっぱいの紅い花が咲いていた。後ろからの愛撫に息をつき、目の前の花に喉を鳴らして近藤は小さな芽にかわいらしく口づけた。次に、ねっとりと愛撫をする。
後ろの舌とどうしても同じように動いてしまう。中指を差し込まれ、お妙にもその指を咥えさせ、襞を舌でなぞる。体を震わせるお妙の快感が伝染したように近藤の腰も揺れた。
「トシ、指、増やすの、やめ」
と、お妙の中へ人差し指を足す。
「ん、指増やせっつったの、アンタだろ」
「でも、集中できない」
「やだ。精々我慢したら?そしたら堪んないのくるだろ」
冷たく言い放つ土方は追い打ちをかけるように揺れていた近藤を捕まえた。
「アンタが入ってる時に俺も入る」
耳元に土方の唇が寄った。
「一緒に逝くんだ」
今度は艶のかかった熱い声だった。吐息をかけられた近藤は肩を竦ませる。土方は口の片端を上げて言った。
「生き地獄へ逝くんだ、近藤さん」
ぞくりとした近藤は土方のほうへ顔を向ける。
「おっと、アンタの大事な女の大事なところを俺が見てもいいのか?」
はっとした近藤は素早くお妙のそこを唇で塞いだ。
「ふぁめっ!」
その刺激にお妙の両足がびくつく。
「何言ってんのかわからねーよ。ていうか、そろそろいい?近藤さんもだいぶトロトロだし」
と、土方は四つん這いになっている近藤の窪みに押し進んだ。
「あう、ちょっ、ダメだって、いきなり……!」
遠慮なく根元まで入られてしまい、体中を駆ける気持ちよさに思考が溶けかかる。ここでお妙の熱いところに包まれたらと想像するだけで達してしまいそうになる。身震いした近藤は、開かれたままのお妙のそこを見下ろした。
やはりお妙の中に入りたい。しかし、一度味わってしまえばきっと抜け出せない。危険な誘惑だと思うのに、そこからもう目が逸らせなかった。自分はわかったと言ってしまっていたし、土方は一緒に生き地獄へ逝くのだとも。
近藤は分身に手を添えて訊ねる。
「お妙さん、俺のコレ欲しい?」
訊かれたお妙は近藤に寄る。挿入しやすいようにと自ら足を開き直した。
「私も一緒に逝きますから……」
と、近藤の首に両腕を巻きつける。
「……ください」
囁かれ、導かれるまま近藤はお妙へと沈めた。
「あっ、いつもより、やっ、あ、だ……っ、おおきいので奥、まで、やぁあんっ……!!」
入れただけですぐに達してしまったお妙の蠢動に抗いきれず、近藤も後を追うようにお妙の中で達した。猛ったままの土方に突かれた近藤は、肩を揺らす。
「近藤さん、早すぎだ。いつもはそんな早くないだろう。そんなに興奮してるのか。いやらしい男だな」
と、近藤の粘膜を小さく擦り動かす。
「あっ、トシ、急いで立たせるのやめっ、んんっ」
「じゃあ、そこから抜いて吹かせようか?」
「やだ、俺もまだ足りないもん」
「それなら早々に出すなよ」
「だって、しょーがないじゃん、お妙さんの中いいんだもんッ!」
と、開き直る近藤は我に返ってお妙を窺う。なんと、気を失っていた。失神することなどそれほどないお妙なのに、いつもと違う雰囲気にお妙も興奮していたという訳か。
近藤はさきほどひん剥いたお妙の胸元から肩へと舌を這わせた。気づいたらしいお妙を窺いながら口づけを落とす。
「今日は抜かないままずっと入っていてもいいですか?っていうか、そうさせてくださ、んぐぅっ……!」
と、土方に突かれた近藤はお妙の肌に涎をこぼす。だらしなく緩んだ口から唾液が溢れ出し、胸の谷間に水溜りを作った。その水を舌で掬って胸の頂きへ塗りつけ、硬くなった先を舌と歯で愛撫する。
「んぁ、お妙さん、俺また勃起っ……するっ、はぁあ、ぅん」
ぴちゃりと水音を鳴らし、もう片方の頂きにもこぼした唾液を運んで先に吸いつく。
「ぅあっ、トシ、勝手に逝ったらぁ……!」
土方に遠慮なく放たれ、快感を誤魔化すようにお妙の胸を寄せ掴む。
「悪い……、いつもと締まり方が違って、いいんだ……ん……」
と、土方は背を屈め、近藤の背中に口づける。
「あ、なんでまだそんな硬いの、トシ、んんっ」
「逝き地獄って言っただろ。一緒に逝けるようになるまで終わらねーからな」
土方の存在感がゆっくりと行き来する。近藤は声にならない嬌声を噛み締めた。突かれてお妙の中の分身が起き上がる。
「ん、近藤さん……」
お妙の甘い声に呼ばれて近藤は口づける。ゆっくり舌を絡ませ合っていると、股関節を開いたお妙に腰を絡め捕られていた。
「ちょっとお妙さん!そんなのダメです、だいしゅきホールドとかダメっ!んぁっ」
お妙の熱い肉に膨らんだばかりのものが圧迫される。近藤が大きくなるごとに形を変え、とろついた粘膜が吸いつく。
「あぁ、お妙さんの中……熱い……」
恍惚とした表情もすぐに崩れ、後ろのものの動きに蜜が掻き出される卑猥な音が暗闇に鳴り響いた。
「あん、トシぃ」
名前を呼ばれて土方は両手を伸ばした。いくつもの傷跡が残る美しい背を撫で、もう一方は耳を撫でる。
「逝き地獄って、ん、どこのアダルトビデオ……はぁ、あぁあっ……」
「そういうの好きだろう?ん?」
顔を見ずともわかる。土方はきっと優越たっぷりに笑っていることだろう。
「嫌いじゃ、あっ、逝きそっ、お妙さん、ダメだって、そんなふうにしたら……!」
土方に返事をしようとした近藤だったが、お妙の膣でびくついた。
「あ、ちがっ、うぅんん」
土方に押された近藤が、奥も更に奥へと入ろうとしている。近藤にはいつも苦しいほど感じさせられているのだから、今日くらいは逆に苦しいほど感じさせてやろうと思っていたのに、それもできなさそうだ。
「こんどうさぁ……らめ、いっちゃうぅ、もぅ、わたしいくの……!!」
「俺も、逝くっ、またお妙さんの中に……ぁあ、出るっ……!!」
温かく柔らかいお妙にしがみつかれ二度目の絶頂を味わった。土方は、お妙と近藤の後に達する。二股の仕置きを終わらせないようにわざと遅らせて自分の中で精を放つ土方が恨めしい。一言言ってやろうと振り返ろうとしたが、いつの間にか頬を寄せられていた。
「地獄はこれからだよ、近藤さん」
美しい鬼の囁きに近藤は鳥肌を立たせた。
続・煙も眉目よい方へならでは靡かぬ
Text by mimiko.
2016/06/04
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