「憧れと親愛と」の続き。
非合体なえろ近妙です。
近藤さんがmankoとか豆とか言ってますのでご注意を!
非合体なえろ近妙です。
近藤さんがmankoとか豆とか言ってますのでご注意を!
切なさと深さと
コンビニエンスストア大江戸マートで出会った銀時と別れた妙は帰宅後、居間で一服していた。座卓の下に何者かの気配を感じた妙は、わざと着物の裾を肌蹴させる。
「ふー、今日は暑いわね」
婚前交渉で孕むようなことすると思えないわよ、あのゴリラ。私に答えを出させないんだから。ほんと、どういうつもりなのかしら。くるなら来なさいよ。ただし、嫁入り前の娘を押し倒す度胸があるならね。
「あの、お妙さん……」
座卓下から女の声がし、妙はびくりとした。
「それでゴリラを誘惑してるつもりなの?」
「え」
「ダメダメ、なってない。てか、銀さんはどこなのよ。ん?来てないの?」
銀時を尾行していたらしいあやめが、呆れ顔で座卓下から出てきた。
「ええ、来てないわ」
妙の肯定に気分をよくしたあやめは、嬉しそうに咳払いをして態度を切り替えた。
「そんなんじゃあダメよ、お妙さん!」
と、あやめは妙の両肩を掴む。
「あの、猿飛さんが、なんでうちに潜んでるんです?」
「なんでって、あなた、さっきまで銀さんと一緒にいたでしょう?大江戸マートで苺牛乳買ったお妙さんが銀さんを連れ込んでいかがわしいことするんじゃないかって思って先回りしたのよ。そしたら、銀さんは来てないって言うし……。私以外にこの家に潜入するのってあのゴリラでしょう?まさかと思ったけど、わざとらしく裾をヒラヒラ肌蹴させて……。誘おうとする割には不自然よ。そんなのいくら相手がゴリラであっても勃つものも勃ちゃァしないわよ。いい?こうするの」
あやめは、妙の腰を引き寄せて体を密着させた。
「ちょっと、猿飛さん」
「立ってる時は必要以上に体を密着させるのよ。それで、こう」
妙の両手首を掴み、自分の衿に触れさせる。
「衿を直すふりして鎖骨のくらいの高さの衿に触れるの。そうすると男側から腕が見えるでしょう。普段は見えない所が見えるのはどきっとするけど、さっきのお妙さんみたいに、わざとらしくヒラヒラさせるのは違うの。それで、胸を押しつけるようにしながら上目づかいで男の目を見つめる」
妙がぎこちなくあやめを見つめると、あやめはまだまだ硬いと駄目を出した。次に妙を座らせ、その横で胡坐を掻く。
「あなた慣れてないから、座ってる時のほうがいいかもね。太腿にそっと触れるのよ。でも、いきなり際どい所を触っちゃダメよ、男が引いちゃうから。だから、この辺り」
手を引っ張られて触れさせられたところは膝の上だった。
「内側なんか触っちゃダメよ、それじゃあ痴女になるから。軽いボディタッチって感じでするの。じゃ、私はこれで」
「あ、ちょっと、猿飛さん」
「ゴリラを誘惑しようとするあなたに銀さんの元へ行こうとする私を止める権利なんてないわよッ!」
妙が引きとめるのも聞かずにあやめは行ってしまった。
「それくらいなら私だって知ってるわよ……」
男性の誘い方くらい、私だって知ってるわよ。夜の蝶をやってるんだから。
視線をやった座卓の上の冷めた茶を飲む。
ん?ということは、ぶりっ子しながらいちゃつけってことよね?あのゴリラと?そんなの無理よ!どんな顔していちゃつけっていうのよ!ていうか、すでに潜んでたとかないわよね?猿飛さんと話してた内容がゴリラに知れてたら面倒なことになるわ!
妙は、そわそわしながら自宅をくまなく捜索した。が、案ずる必要はなかった。近藤はどこにも潜んでいなかった。脱力した妙は、居間に戻って茶を淹れ直す。
ほら、やっぱり私のことなんてどうでもいいのよ。私の反応を面白がってるだけ。普通なら初めのプロポーズを断った時点で終わりでしょう?なのに、50巻もずるずるずるずる……。あの人、結局は何がやりたいの?どうなりたいの?どうしたいの?
銀時と話していた時は、比較的穏やかで晴れていたはずの心に靄がかかり、苛立つ。
ああ、もう。そばにいないのに、どうしてこんなにもイライラさせられるのかしら。
鼻息を荒げながら湯呑みを取ろうとしたが、手元が狂って湯呑みを倒してしまった。入っていた飲み頃の茶が座卓に広がり、妙は咄嗟に座卓前から飛び退く。
ふう、危なかった。
「って、畳にお茶がっ」
慌てて覗き込んだ座卓の下に近藤の顔があり、妙はびくりとした。
「なっ、なんでいるのよっ、さっきはいなかったのにっ」
「お妙さん、いるっぽいけど用事しにいってるのかなって、ちょっと驚かせちゃおうっかなァなんて」
大きな図体を無理に丸めて潜んでいた近藤は、微動だにせず能天気な声で言った。妙は殴りたい気持ちをぐっと堪える。まずはこぼれてしまった茶を始末せねばいけない。ストーカーを始末するのはそれからでも構わない。台所へ向かった妙は布巾を持って足早に戻った。すると、近藤は座卓の端に両手を当てて、茶が流れ落ちるのを止めていた。
「お妙さんッ、はやくッ、畳ッ」
その姿に妙は思わず吹き出した。前にもこんなことがあった。幼い新八が茶をこぼし、自分が布巾を持って戻ってくると、父が今の近藤のように茶を堰き止めようとしていた。
近藤さん、父上そっくり。
「え?お妙さん、なんで笑ってるの?てか、とりあえず、畳ッ」
言われて、妙は慌てて畳を拭く。
ああ、そうなのね。銀さんは尾美一兄様で、近藤さんは父上。確かにどちらも大切な人には変わりないわ。あーあ、ますますわからなくなっちゃったじゃない。
くすくすと笑う妙を不思議がり、近藤は妙の顔を窺った。座卓の茶を拭きとった妙は、近藤の視線に気づき、どうかしたのかとにこりと微笑む。優しく包み込むような笑顔に見惚れた近藤は、思ったそのままを告げる。
「あ、その、お妙さん、かわいいなって思って……」
間近で照れられては、こちらも照れてしまう。気恥ずかしさで視線を逸らせた妙は、思った。この緩んだ雰囲気ならば聞けるかも知れない。妙は一息つくと顔を上げた。
「本当にそう思って言ってるんですか?」
「はい、もちろん」
屈託のない笑顔で頷く近藤に怯むが、気を奮い立たせる。
「わ……私のこと、本当に好きなんですか?」
「もちろん、大好きです」
「どういうふうに好きなんですか?」
「どういうふうにって……」
「ほら、友達としてとか、妹としてとか、娘みたいとか、あるじゃないですか」
そういうと近藤は動きを止めた。
「あの、近藤さん……?」
妙が自分を男として見ている状態での問答ではない雰囲気に近藤の心が折れる。
「あれ、お妙さん、俺のことお父さんとか思ってました?確かに総悟あたりによく言われますけどね、うん!確かに俺の財布はあなたの財布ですけど、パパ的な?いや、俺はそれでもいいんですけどね!」
話している最中に涙声になる近藤に妙は訊ねた。
「違うんですか?」
「違いますよ、当たり前じゃないですか!パトロンでもいいですけど、俺は今でもお妙さんと結婚したいと思ってます!」
て、あれ、俺、なんで今お妙さんに改めてプロポーズしたの?!え、何コレ?!いよいよ改めて振られる感じなの?!
面と向かって言われ、妙の頬が熱くなる。すぐに顔が赤くなるだろうと予測した妙は、近藤に背を向けた。
今まで、いろいろあったけど、本当に、ずっと私だけのことを好きでいてくれたの……?
胸が熱くなり、顔が火照る。こんな顔を後ろの近藤にだけは見られたくない。なのに、近づきたいと思ってしまう。
「……それなら……もっと、教えてください……」
消え入りそうな妙の声に、近藤は妙の後姿を見やった。
ん?何を?
妙の言っていることがさっぱりわからない近藤は、ぽかんとしている。言ってしまった妙は、後には引けないと心を決める。
私の知りたいことは、きっとこうすることでわかる。
自分自身に言い聞かせるように頷いた妙は振り返り、正座をしている近藤の首に手を回した。
「あなたのこと、もっと私に教えてください」
そう言って近藤の唇の先に自分の唇の先を触れさせて、すぐに離した。口づけとは呼べないほど、軽いものだった。だが、妙にはそれが限界だった。速まる鼓動がうるさいほど耳に響く。
何か言ってよ、近藤さん。どきどきして、もういっぱいいっぱいなんだから。
「えっと……相手、俺で合ってます?」
そちらが大好きらしいこちらから口づけたというのに、いやに落ち着いた態度に妙は悔しくなり、視線を落として下唇を噛んだ。
「また、はぐらかすんですか」
「え……?」
「いつもそうじゃないですか。待ち伏せしたり、後をつけまわしたりしてるくせに、ちっとも私に依存してない。そんなんで、ストーカーっていうんですか?からかって、私の反応を面白がってるだけにしか見えないんです。本当に私のこと好きなんですか?さっき、今でも結婚したいと思ってるなんて言ってたけど、本当なのか信じられな、きゃっ?!」
妙の手を掴んで引き寄せた近藤は、妙を抱きながら畳へと押し倒した。その手際ときたら無駄は一つもなかった。妙は逃げ出したくなったが、自分を見下ろす近藤の目から視線を逸らせることも、体を動かすこともできなかった。
「お妙さんの中で、もう答えが出たんですか?新八君のこともあるから、いつまでも待ってようと思ってたんですけど」
優しく髪を梳かれて鼓動が跳ねる。
「待って……」
額に口づけを落とされ、再び鼓動が跳ねる。
「近藤さん、待っ、んっ」
唇に重なった近藤の唇が柔らかい。一度、唇が引き離れると顎をそっと下げられ、開かれた唇が近藤の唇によって塞がれた。ちゅっと音を鳴らして角度を変えられると妙の体がびくりと揺れる。触れる舌が絡み合うと、また体が揺れる。
こんなキス、知らない。こんな近藤さん、知らない。
「んっ、ふぅ」
閉じた瞼が熱くなり、涙が滲むのを感じる。
やだ、声が洩れちゃう。なのに、舌が気持ちいいって言ってる。近藤さんのこと、好きかどうか、まだわからないのに、こんな……。
離れた自分の唇を名残惜しそうに見つめる妙に近藤は、一息ついた。
「これ以上は教えられません。やめときましょう」
と、近藤は、妙から離れる。
「どうして……?」
舌への甘い愛撫に潤んだ瞳は、見上げた天井を微かに揺らす。
「答えが出たわけじゃないでしょう?」
質問を質問で返されが、痛いところを突かれた。何も言い返せないのだから押しとどまるしかない。
「お妙さんのことだし、新八君が一人前になるまでは嫁にいかないって思ってるんだろうなって。なのに、どうしたんです?」
そうなのよ、この人、わかってる。私のことは一方的にわかってる。私には、何も教えてくれないのに。それが嫌だから、今日は私から仕掛けたっていうのに、また逃げる。
「逃げないでください」
近藤は、天井を見上げたまま、ぽつりと言った妙を見やった。
「逃げないで、私に教えてください」
「男と女は一線を越えることだけがすべてじゃないですよ、お妙さん。変に焦って越えたって、得られる答えがいいとは限らねェ」
「だから、それを教えて欲しいんです。私にとって、あなたは何なのか、知りたいんです」
埒があかねェ。困ったな。好きだって自覚してねェうちに抱いたって、情が移るだけで本物かどうかわかり辛くなるだろう。やっちまった後でやめときゃよかったなんてことになるのは御免こうむりてェんだって。
「後悔しますよ」
「しません」
きっぱりと言い放つ妙に溜息をつく。妙は早鐘を打つ鼓動を落ち着けようと深く息を吸って静かに吐いた。
まだ残ってるの、近藤さんのキス。私の舌に、近藤さんの舌が絡む感触が残ってる。すごく気持ちよくて、この人になら奪われたいって、感じたの。これっきりなんていや。
「だって、キス、気持ちよかった……だから、後悔なんてしない……」
頼りげのない妙の声に、近藤の眉根が寄る。
「そうじゃないですよ。まあ、こう見えてお妙さんよりは場数踏んでるから、それなりにいいってだけです。ちょっと感じただけであって、俺がお妙さんにとって何者であるかわかるってのとは別ですよ」
「ほら、やっぱり逃げる」
今後の自分たちの関係を明らかにするであろう境界線の前までやっと来たというのに、近藤は踏みとどまろうとする。妙は怒りで胸をじりりと焦がせた。
「あなた、それでもお侍さんなんですか?あ、そういえば泣く子も黙る真選組もその局長でしたっけ?小娘ひとり満足に抱けないだなんて、それでもタマついてるんですか?ああ、それともご自分の得物に自信がないんですか?」
見事な煽りっぷりに、大抵の罵倒を受け流せる近藤もかちんときたらしい。眉が酷く引き攣っている。
「わかりました。いいでしょう、その決闘、受けてたちますよ」
近藤は、妙を抱き起こして帯紐を解く。帯を外して着物を脱がせ、襦袢姿にすると妙を再び寝かせ、口づける。ゆっくりと嬲り、優しく舌を吸い上げて離す。頬に口づけを落として耳を甘噛みすると妙の甘い溜息がこぼれた。
やっぱり慣れてるのね、近藤さん。
首に口づけられ、肩が揺れる。ぞくりとした快感が耳に疼き、肩を竦ませる。
「首、弱いんですか?」
落ち着いた声で囁かれ、かかった吐息にびくっとする。
「ぁんっ」
「ああ、首じゃなくて、耳ですか?」
耳に差し込まれた舌と吐息に甘い声が洩れる。
「んっ、や、息っ」
ふっと笑った近藤の息が唾液の跡を冷やし、ぞくぞくとする。
「はぁん、やぁ」
「耳、弱いんですね」
囁く声に肩を揺らす。
「お妙さん、敏感ですね。肩が震えて、かわいいです」
再び耳に舌を差し込まれ、妙の体が揺れた。
ああ、遊ばれてる。やっぱり、敵わない。
近藤の肩にしがみつき、また涙を滲ませる。小さく反応していた妙が、しんとし、近藤は声をかける。
「やっぱり、やめときますか?」
優しい声音に妙の気が弛む。優しさは嬉しかったが、近藤にしがみついたまま首を横に振る。近藤は頷き、襦袢の衿を引っ張り上げてから捲った。下着のフロントホックを外して襦袢の上から両胸をやんわり撫でる。びくりとした妙は口元に手をやり、唇を結んだ。
「ダメですよ、お妙さん。こういう時は黙るもんじゃないです」
そんなこと、言われても……。
近藤を見上げた妙は、彼の瞳に映る自分と目が合った。その近さにどきりとする。
あ……。
「は、恥ずかしいんですっ」
妙は思い切り顔を逸らせた。
「自分から誘っておきながら、よく言いますね」
「それは……あなたが、意気地なしだから……」
「ははは、それは確かにそうかもしれねェな……」
と、下着を退けた襦袢の上から胸を掴まれ、その先を口に含まれる。
「っ……」
「お妙さん、黙らないでください。男ってのはね、女のいい声に興奮するんですよ」
間近で言われて顔を熱くする。
「そんなの、やっぱり、恥ずかしいです。それに、私の胸、小さくて、余計に恥ずかしい……!」
妙は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。
「前にも言いましたよね。俺は乳首があればいいですよ。少し刺激したらビンビンに尖って、触って欲しそうに疼いてる乳首があったら、胸の大きさなんて、なんにも気にならねェ」
薄い布の上から少し硬くなった胸の先を摘まんで転がされ、妙の息が上がる。
「尖ってきましたよ。ほら、コリコリしてる。あ、ゴリゴリじゃないですよ、ゴリラじゃないからね」
不意に挟まれたゴリラネタに、妙の笑みが思わずこぼれた。顔の両手を離して近藤を見る。
「ふー、今日は暑いわね」
婚前交渉で孕むようなことすると思えないわよ、あのゴリラ。私に答えを出させないんだから。ほんと、どういうつもりなのかしら。くるなら来なさいよ。ただし、嫁入り前の娘を押し倒す度胸があるならね。
「あの、お妙さん……」
座卓下から女の声がし、妙はびくりとした。
「それでゴリラを誘惑してるつもりなの?」
「え」
「ダメダメ、なってない。てか、銀さんはどこなのよ。ん?来てないの?」
銀時を尾行していたらしいあやめが、呆れ顔で座卓下から出てきた。
「ええ、来てないわ」
妙の肯定に気分をよくしたあやめは、嬉しそうに咳払いをして態度を切り替えた。
「そんなんじゃあダメよ、お妙さん!」
と、あやめは妙の両肩を掴む。
「あの、猿飛さんが、なんでうちに潜んでるんです?」
「なんでって、あなた、さっきまで銀さんと一緒にいたでしょう?大江戸マートで苺牛乳買ったお妙さんが銀さんを連れ込んでいかがわしいことするんじゃないかって思って先回りしたのよ。そしたら、銀さんは来てないって言うし……。私以外にこの家に潜入するのってあのゴリラでしょう?まさかと思ったけど、わざとらしく裾をヒラヒラ肌蹴させて……。誘おうとする割には不自然よ。そんなのいくら相手がゴリラであっても勃つものも勃ちゃァしないわよ。いい?こうするの」
あやめは、妙の腰を引き寄せて体を密着させた。
「ちょっと、猿飛さん」
「立ってる時は必要以上に体を密着させるのよ。それで、こう」
妙の両手首を掴み、自分の衿に触れさせる。
「衿を直すふりして鎖骨のくらいの高さの衿に触れるの。そうすると男側から腕が見えるでしょう。普段は見えない所が見えるのはどきっとするけど、さっきのお妙さんみたいに、わざとらしくヒラヒラさせるのは違うの。それで、胸を押しつけるようにしながら上目づかいで男の目を見つめる」
妙がぎこちなくあやめを見つめると、あやめはまだまだ硬いと駄目を出した。次に妙を座らせ、その横で胡坐を掻く。
「あなた慣れてないから、座ってる時のほうがいいかもね。太腿にそっと触れるのよ。でも、いきなり際どい所を触っちゃダメよ、男が引いちゃうから。だから、この辺り」
手を引っ張られて触れさせられたところは膝の上だった。
「内側なんか触っちゃダメよ、それじゃあ痴女になるから。軽いボディタッチって感じでするの。じゃ、私はこれで」
「あ、ちょっと、猿飛さん」
「ゴリラを誘惑しようとするあなたに銀さんの元へ行こうとする私を止める権利なんてないわよッ!」
妙が引きとめるのも聞かずにあやめは行ってしまった。
「それくらいなら私だって知ってるわよ……」
男性の誘い方くらい、私だって知ってるわよ。夜の蝶をやってるんだから。
視線をやった座卓の上の冷めた茶を飲む。
ん?ということは、ぶりっ子しながらいちゃつけってことよね?あのゴリラと?そんなの無理よ!どんな顔していちゃつけっていうのよ!ていうか、すでに潜んでたとかないわよね?猿飛さんと話してた内容がゴリラに知れてたら面倒なことになるわ!
妙は、そわそわしながら自宅をくまなく捜索した。が、案ずる必要はなかった。近藤はどこにも潜んでいなかった。脱力した妙は、居間に戻って茶を淹れ直す。
ほら、やっぱり私のことなんてどうでもいいのよ。私の反応を面白がってるだけ。普通なら初めのプロポーズを断った時点で終わりでしょう?なのに、50巻もずるずるずるずる……。あの人、結局は何がやりたいの?どうなりたいの?どうしたいの?
銀時と話していた時は、比較的穏やかで晴れていたはずの心に靄がかかり、苛立つ。
ああ、もう。そばにいないのに、どうしてこんなにもイライラさせられるのかしら。
鼻息を荒げながら湯呑みを取ろうとしたが、手元が狂って湯呑みを倒してしまった。入っていた飲み頃の茶が座卓に広がり、妙は咄嗟に座卓前から飛び退く。
ふう、危なかった。
「って、畳にお茶がっ」
慌てて覗き込んだ座卓の下に近藤の顔があり、妙はびくりとした。
「なっ、なんでいるのよっ、さっきはいなかったのにっ」
「お妙さん、いるっぽいけど用事しにいってるのかなって、ちょっと驚かせちゃおうっかなァなんて」
大きな図体を無理に丸めて潜んでいた近藤は、微動だにせず能天気な声で言った。妙は殴りたい気持ちをぐっと堪える。まずはこぼれてしまった茶を始末せねばいけない。ストーカーを始末するのはそれからでも構わない。台所へ向かった妙は布巾を持って足早に戻った。すると、近藤は座卓の端に両手を当てて、茶が流れ落ちるのを止めていた。
「お妙さんッ、はやくッ、畳ッ」
その姿に妙は思わず吹き出した。前にもこんなことがあった。幼い新八が茶をこぼし、自分が布巾を持って戻ってくると、父が今の近藤のように茶を堰き止めようとしていた。
近藤さん、父上そっくり。
「え?お妙さん、なんで笑ってるの?てか、とりあえず、畳ッ」
言われて、妙は慌てて畳を拭く。
ああ、そうなのね。銀さんは尾美一兄様で、近藤さんは父上。確かにどちらも大切な人には変わりないわ。あーあ、ますますわからなくなっちゃったじゃない。
くすくすと笑う妙を不思議がり、近藤は妙の顔を窺った。座卓の茶を拭きとった妙は、近藤の視線に気づき、どうかしたのかとにこりと微笑む。優しく包み込むような笑顔に見惚れた近藤は、思ったそのままを告げる。
「あ、その、お妙さん、かわいいなって思って……」
間近で照れられては、こちらも照れてしまう。気恥ずかしさで視線を逸らせた妙は、思った。この緩んだ雰囲気ならば聞けるかも知れない。妙は一息つくと顔を上げた。
「本当にそう思って言ってるんですか?」
「はい、もちろん」
屈託のない笑顔で頷く近藤に怯むが、気を奮い立たせる。
「わ……私のこと、本当に好きなんですか?」
「もちろん、大好きです」
「どういうふうに好きなんですか?」
「どういうふうにって……」
「ほら、友達としてとか、妹としてとか、娘みたいとか、あるじゃないですか」
そういうと近藤は動きを止めた。
「あの、近藤さん……?」
妙が自分を男として見ている状態での問答ではない雰囲気に近藤の心が折れる。
「あれ、お妙さん、俺のことお父さんとか思ってました?確かに総悟あたりによく言われますけどね、うん!確かに俺の財布はあなたの財布ですけど、パパ的な?いや、俺はそれでもいいんですけどね!」
話している最中に涙声になる近藤に妙は訊ねた。
「違うんですか?」
「違いますよ、当たり前じゃないですか!パトロンでもいいですけど、俺は今でもお妙さんと結婚したいと思ってます!」
て、あれ、俺、なんで今お妙さんに改めてプロポーズしたの?!え、何コレ?!いよいよ改めて振られる感じなの?!
面と向かって言われ、妙の頬が熱くなる。すぐに顔が赤くなるだろうと予測した妙は、近藤に背を向けた。
今まで、いろいろあったけど、本当に、ずっと私だけのことを好きでいてくれたの……?
胸が熱くなり、顔が火照る。こんな顔を後ろの近藤にだけは見られたくない。なのに、近づきたいと思ってしまう。
「……それなら……もっと、教えてください……」
消え入りそうな妙の声に、近藤は妙の後姿を見やった。
ん?何を?
妙の言っていることがさっぱりわからない近藤は、ぽかんとしている。言ってしまった妙は、後には引けないと心を決める。
私の知りたいことは、きっとこうすることでわかる。
自分自身に言い聞かせるように頷いた妙は振り返り、正座をしている近藤の首に手を回した。
「あなたのこと、もっと私に教えてください」
そう言って近藤の唇の先に自分の唇の先を触れさせて、すぐに離した。口づけとは呼べないほど、軽いものだった。だが、妙にはそれが限界だった。速まる鼓動がうるさいほど耳に響く。
何か言ってよ、近藤さん。どきどきして、もういっぱいいっぱいなんだから。
「えっと……相手、俺で合ってます?」
そちらが大好きらしいこちらから口づけたというのに、いやに落ち着いた態度に妙は悔しくなり、視線を落として下唇を噛んだ。
「また、はぐらかすんですか」
「え……?」
「いつもそうじゃないですか。待ち伏せしたり、後をつけまわしたりしてるくせに、ちっとも私に依存してない。そんなんで、ストーカーっていうんですか?からかって、私の反応を面白がってるだけにしか見えないんです。本当に私のこと好きなんですか?さっき、今でも結婚したいと思ってるなんて言ってたけど、本当なのか信じられな、きゃっ?!」
妙の手を掴んで引き寄せた近藤は、妙を抱きながら畳へと押し倒した。その手際ときたら無駄は一つもなかった。妙は逃げ出したくなったが、自分を見下ろす近藤の目から視線を逸らせることも、体を動かすこともできなかった。
「お妙さんの中で、もう答えが出たんですか?新八君のこともあるから、いつまでも待ってようと思ってたんですけど」
優しく髪を梳かれて鼓動が跳ねる。
「待って……」
額に口づけを落とされ、再び鼓動が跳ねる。
「近藤さん、待っ、んっ」
唇に重なった近藤の唇が柔らかい。一度、唇が引き離れると顎をそっと下げられ、開かれた唇が近藤の唇によって塞がれた。ちゅっと音を鳴らして角度を変えられると妙の体がびくりと揺れる。触れる舌が絡み合うと、また体が揺れる。
こんなキス、知らない。こんな近藤さん、知らない。
「んっ、ふぅ」
閉じた瞼が熱くなり、涙が滲むのを感じる。
やだ、声が洩れちゃう。なのに、舌が気持ちいいって言ってる。近藤さんのこと、好きかどうか、まだわからないのに、こんな……。
離れた自分の唇を名残惜しそうに見つめる妙に近藤は、一息ついた。
「これ以上は教えられません。やめときましょう」
と、近藤は、妙から離れる。
「どうして……?」
舌への甘い愛撫に潤んだ瞳は、見上げた天井を微かに揺らす。
「答えが出たわけじゃないでしょう?」
質問を質問で返されが、痛いところを突かれた。何も言い返せないのだから押しとどまるしかない。
「お妙さんのことだし、新八君が一人前になるまでは嫁にいかないって思ってるんだろうなって。なのに、どうしたんです?」
そうなのよ、この人、わかってる。私のことは一方的にわかってる。私には、何も教えてくれないのに。それが嫌だから、今日は私から仕掛けたっていうのに、また逃げる。
「逃げないでください」
近藤は、天井を見上げたまま、ぽつりと言った妙を見やった。
「逃げないで、私に教えてください」
「男と女は一線を越えることだけがすべてじゃないですよ、お妙さん。変に焦って越えたって、得られる答えがいいとは限らねェ」
「だから、それを教えて欲しいんです。私にとって、あなたは何なのか、知りたいんです」
埒があかねェ。困ったな。好きだって自覚してねェうちに抱いたって、情が移るだけで本物かどうかわかり辛くなるだろう。やっちまった後でやめときゃよかったなんてことになるのは御免こうむりてェんだって。
「後悔しますよ」
「しません」
きっぱりと言い放つ妙に溜息をつく。妙は早鐘を打つ鼓動を落ち着けようと深く息を吸って静かに吐いた。
まだ残ってるの、近藤さんのキス。私の舌に、近藤さんの舌が絡む感触が残ってる。すごく気持ちよくて、この人になら奪われたいって、感じたの。これっきりなんていや。
「だって、キス、気持ちよかった……だから、後悔なんてしない……」
頼りげのない妙の声に、近藤の眉根が寄る。
「そうじゃないですよ。まあ、こう見えてお妙さんよりは場数踏んでるから、それなりにいいってだけです。ちょっと感じただけであって、俺がお妙さんにとって何者であるかわかるってのとは別ですよ」
「ほら、やっぱり逃げる」
今後の自分たちの関係を明らかにするであろう境界線の前までやっと来たというのに、近藤は踏みとどまろうとする。妙は怒りで胸をじりりと焦がせた。
「あなた、それでもお侍さんなんですか?あ、そういえば泣く子も黙る真選組もその局長でしたっけ?小娘ひとり満足に抱けないだなんて、それでもタマついてるんですか?ああ、それともご自分の得物に自信がないんですか?」
見事な煽りっぷりに、大抵の罵倒を受け流せる近藤もかちんときたらしい。眉が酷く引き攣っている。
「わかりました。いいでしょう、その決闘、受けてたちますよ」
近藤は、妙を抱き起こして帯紐を解く。帯を外して着物を脱がせ、襦袢姿にすると妙を再び寝かせ、口づける。ゆっくりと嬲り、優しく舌を吸い上げて離す。頬に口づけを落として耳を甘噛みすると妙の甘い溜息がこぼれた。
やっぱり慣れてるのね、近藤さん。
首に口づけられ、肩が揺れる。ぞくりとした快感が耳に疼き、肩を竦ませる。
「首、弱いんですか?」
落ち着いた声で囁かれ、かかった吐息にびくっとする。
「ぁんっ」
「ああ、首じゃなくて、耳ですか?」
耳に差し込まれた舌と吐息に甘い声が洩れる。
「んっ、や、息っ」
ふっと笑った近藤の息が唾液の跡を冷やし、ぞくぞくとする。
「はぁん、やぁ」
「耳、弱いんですね」
囁く声に肩を揺らす。
「お妙さん、敏感ですね。肩が震えて、かわいいです」
再び耳に舌を差し込まれ、妙の体が揺れた。
ああ、遊ばれてる。やっぱり、敵わない。
近藤の肩にしがみつき、また涙を滲ませる。小さく反応していた妙が、しんとし、近藤は声をかける。
「やっぱり、やめときますか?」
優しい声音に妙の気が弛む。優しさは嬉しかったが、近藤にしがみついたまま首を横に振る。近藤は頷き、襦袢の衿を引っ張り上げてから捲った。下着のフロントホックを外して襦袢の上から両胸をやんわり撫でる。びくりとした妙は口元に手をやり、唇を結んだ。
「ダメですよ、お妙さん。こういう時は黙るもんじゃないです」
そんなこと、言われても……。
近藤を見上げた妙は、彼の瞳に映る自分と目が合った。その近さにどきりとする。
あ……。
「は、恥ずかしいんですっ」
妙は思い切り顔を逸らせた。
「自分から誘っておきながら、よく言いますね」
「それは……あなたが、意気地なしだから……」
「ははは、それは確かにそうかもしれねェな……」
と、下着を退けた襦袢の上から胸を掴まれ、その先を口に含まれる。
「っ……」
「お妙さん、黙らないでください。男ってのはね、女のいい声に興奮するんですよ」
間近で言われて顔を熱くする。
「そんなの、やっぱり、恥ずかしいです。それに、私の胸、小さくて、余計に恥ずかしい……!」
妙は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。
「前にも言いましたよね。俺は乳首があればいいですよ。少し刺激したらビンビンに尖って、触って欲しそうに疼いてる乳首があったら、胸の大きさなんて、なんにも気にならねェ」
薄い布の上から少し硬くなった胸の先を摘まんで転がされ、妙の息が上がる。
「尖ってきましたよ。ほら、コリコリしてる。あ、ゴリゴリじゃないですよ、ゴリラじゃないからね」
不意に挟まれたゴリラネタに、妙の笑みが思わずこぼれた。顔の両手を離して近藤を見る。
切なさと深さと
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