近はすでに経験済みで妙は初体験だったりする他、捏造設定があります。
イケメン勲とおバカ勲、デレ妙とバイオレンス妙がいます。
男性向け描写と女性向け描写が混在してます。
以上、ご注意を。
立つ鳥跡を濁す
その日、男は玄関先に現れた。先日も勤め先に客として来店した男だ。包帯を巻き、ガーゼをあちこちに貼りつけた怪我人でありながら通常より羽振りよく注文し、飲酒していた。数か月ぶりの来店だからと、こちらが引き止めるのを聞かずにだ。
妙は、真顔で頭を下げる近藤を玄関内へと招き入れた。
「どうぞ、お上がりください」
と、手の平を廊下へ向ける。
「いや、こちらで結構です。お構いなく」
「そうはいきません。狭い所ですが、どうぞ」
近藤は首を横へ振った。
「すぐにお暇します。用件だけお伝えしたかった」
普段からは考えられないほどのかしこまり方だ。そして、自分を見つめる近藤の瞳は何かを決意している。
「かぶき町四天王であるあなたにお願いがあります。新しい時代へ向かう人々の指針となってもらえませんか」
乞われて妙の鼓動が大きく鳴った。
「組織では護りきれないものがきっとある。それをあなたに護っていただきたい」
あなたが好きだ、愛している、結婚してくれ―いつも愛の告白と交際の懇願だった。それが、今日は不法侵入ではなく、玄関から現れ、好きだのなんだのとは口にしない。まるで泣く子も黙る真選組局長の私用ではないか。
「何をおっしゃってるんですか。そんな大それたことはできません。私はただの一般市民です。廃れた道場の家の小娘ですよ」
「ご謙遜を。あなたは年齢の割にしっかりされている。弟さんを育てながら、この廃刀のご時世、ご家族が遺した道場を懸命に護ってらっしゃる」
やめて―と叫びたくなった妙は代わりに唇を噛んだ。
「ご立派です。……いや、失礼しました。年頃のお嬢さんにとっては褒め言葉じゃありませんでしたね」
くすりと笑う近藤を、ただ視界に入れているだけだった。心が置いていかれる。こちらの気持ちなど、何も考えていない。考えようとしない。もとより真選組局長の私用なのだから当然といえば当然だ。一町娘の気持ちなどどうでもいいのだ。ガーゼだらけの顔に社交的な笑みを浮かべる男が憎い。
先日の近藤は、いつもの近藤だった。あれが最後だというのだろうか。この男は、もう自分のことなど本当にどうでもよくなってしまったのだろうか。
「どうか、真選組近藤勲の頼みをお聞き入れいただきたい」
と、背を屈め、目を閉じ、頭を下げる。
「考えておきます」
怒りを抑えて吐いた言葉が情けなかった。がぶりと噛みついてやりたいのに、うまく考えられずに言葉が出てこない。
「それでは御免」
再び頭を下げ、出て行こうとする近藤の目に自分が写っていないことに妙の胸が痛む。痛みは怒りと悲しみとなり、それは妙の頬に流れ落ちた。感情の噴出口を手の平にし、それは男の左頬を打つ。
「あなたは女を馬鹿にしすぎてます!」
声を張り上げたせいで息を切らす妙は、こちらを見下ろす動じない目に悔しさを滲ませる。
「私は確かにかぶき町代表のひとりだけど、その前にどこにでもいるようなキャバ嬢です!あなたは確かに真選組局長だけど、その前にどこのジャングルにでもいるようなゴリラでムサい男の人です!そのあなたは、何度も私のことを……!」
大きな手が妙の顔半分を覆った。妙がそれ以上いうのを遮るように口元が隠される。近藤は何も言わずに首を横に振った。
政権交代によって変動する世を憂いでのこの訪問は、あくまで社交的なものであり、その上、私的であることは理解している。だが、それとこれとは別だ。ただの勘であって思い過ごしであろうと頭の隅で考えていても、嫌な予感が心から消えない。知人同士であるのにもかかわらず、かしこまった申し出にその対応。あからさまだ。
「あなたが警察のトップなら、みんな護ってくれるんでしょう?ただの馬鹿なら隊士の方たちからあんなに慕われない。そんなあなただからこそ……」
口端を上げるが、目が笑っていない。諦めたような笑顔に妙の口が止まる。
「真選組は特殊な組織です。政権が変わればその在り方も変わるでしょう」
「でも……!」
再び首を横に振る。
「夢は、もう覚めたんです。田舎から出てきた芋侍が掴んだ夢は叶って、直に散る」
顔は笑っているのに目が笑っていなかった。惰性で生きるその目を再び見ることになろうとは思っていなかった妙の胸は締めつけられる。
まだ道場に門下生が大勢いた頃、母はなくとも父の笑顔に寂しさを吹き飛ばしてもらっていた。やがて廃刀令が布かれ、門下生が少なくなり、病に伏した父は、時折、輝きをなくした瞳でどこか遠くを見ていた。
今、それと同じ目を見ている。
「……あなたもまた私を置いて行くんですか……」
一度つぶやくように言った妙は、息を吸い込み言葉を吐き出した。
「将来を夢見て旅立った兄は本来の夢を掴めませんでした。刀を取り上げられた父は、そんな目をしていました。夢を掴んでおきながら、ちょっとうまくいかなくなったからってすぐに諦めるんですか?すべてに頷いて、ただ受け入れるだけなんですか?違うでしょう?!あなたは何度断られようが、殴られようが、踏まれようが、簡単に諦めたりする人じゃなかった!」
近藤は何も返さず、妙をただ見つめていた。
「なんとか言ったらどうなんです?!私の心を盗んだ人は、そんな腑抜けた人じゃありません!」
言ってしまってから我に返った妙は、押し黙る。何も言えなくなってしまった妙に近藤は言う。
「そいつはえれェふてェ野郎だ」
崩れた口調を耳にして妙は顔を上げた。
「あなたの心を奪った罪で俺が逮捕して二度とお天道様を拝めねェようにしておきます」
「何言って、私が好きなのはあな、た……んっ」
腰を引き寄せられ、妙の唇が近藤のそれに塞がれた。不意のことで強張っていた妙の体から余分な力が抜ける。唇を離した近藤は困ったように笑った。
「なんで言うかなァ。言わせたくなかったのに」
作っていた表情が崩れ、本来の近藤に戻る。妙は安堵の涙をこぼし、近藤の指は優しくそれを拭った。
「言わないで行くなんて許しませんよ。自分だけ楽になろうとするなんて虫がよすぎるわ。近藤さん、言ってください」
少し赤くなった瞳に真っ直ぐ見つめられ、観念する。
「お妙さん、あなたが好きだ」
近藤は、妙を抱き締め、妙もそれに応える。
「私もです。……本当にいつの間にか、あなたを好きになってた……」
包まれる温もりが夢のようで、それを払拭しようと妙は厚い胸に顔をすり寄せる。やっと手に入れた温もりが、明日にはなくなっているかもしれない。そんなのは嫌だ。心の底からこの温もりを失いたくないと思う。だが、いくらこちらが引き止めようがやはり行ってしまうのだろう。駆け落ちなどしようものなら、ふたりとも斬り捨てられるだろうし、近藤が許すはずもない。いっそのこと、心中でもとそそのかそうとしても、やはり近藤は頷きはしないだろう。この恋は、もう終わっている。始まってもいないのにすでに終わっているのだ。
「好きです、近藤さん。あなたが好き」
気づかぬうちに始まっていたのかもしれないが、何も知らないまま、もう終わる。
「好きなの、好きなんです、だから、離れたくない……」
はいと返事はするが、自分もそうだとは言わない近藤が憎い。憎いのに、それを上回る愛が自分から溢れ出る。涙は止まらず、泣きじゃくる妙の帯が解かれた。その拍子に張っていた気がどこかへ吹っ飛ぶ。唐突な出来事に妙の思考が停止する。が、我に返って制止する。
「ちょっと、こんなところで何するんですかっ」
「思い詰めてるみたいだから、気を逸らせたんです」
制止は叶わず、襦袢の上から胸に触れられて妙の肩が竦む。
「やだっ、やめてくださいっ」
「本当にそう思ってますか?」
ちゅっと音を鳴らせて首に口づけ、両胸を両手で覆う。
「熱烈な告白して、離れたくないと縋って、誘ったのはあなただ」
「でもっ、こんな玄関で、ぁんっ」
上がった女の声に驚き、妙は自分の口を両手で押える。
「後がない恋路の行く先なんざ決まってる」
口づけられ、妙の眉が寄る。
「俺と一緒に逝きましょう」
「え、逝くって……」
「ただ死ぬより、ずっといい。何度でも逝けるから」
つまりは交わることを言っているのだと理解し、妙の顔が熱くなる。深く口づけられ、妙のくぐもった声が洩れた。舌を撫でられ絡ませられ、合わさった唾液が妙の口端からこぼれ落ちる。近藤は唇から引き抜いた舌を這わせて後を追った。微かに息の上がった妙の左胸を右の手の平で優しく包んでもう一方の腕で腰を支えつつ、その手も優しく妙を撫でる。唇で妙の舌を包み、唾液を潤滑にゆるゆると扱くと妙の肩が揺れた。
「んぅ、ふぁ、んっ」
涙を滲ませながら目の前の近藤を見やった妙は、こちらを窺っていた近藤の目に捕えられ、涙を溢れさせた。感じている自分の顔をこんな間近で見られていたことが恥ずかしくて堪らない。
「やっ、ぅん、ん」
近藤の右の手は、目をつむる妙の左胸から離れて背中に回り、左の手は右胸を覆う。舌の根元と先を濡れた近藤の唇が往復すると、下腹部はじわりと熱を持ち、体がびくびくと揺れる。
「っ……!」
声にならない妙の嬌声が玄関先に響く。こんなところでこんなに感じさせる近藤を酷いと思うのに抗えない。こんなふうに触れられて悦んでいる自分がいる。
「近藤さん……」
とろりとした瞳に見上げられ、近藤の胸に愛おしさが込みあがる。啄むような口づけを重ねながら襦袢の中に両手を差し入れた。左右の脇下に潜り込ませ、背中に回った両手で下着のホックをはずすと襦袢の中から両手を抜く。が、すぐに胸には触れず、妙の前髪を梳いて額に口づけた。眉、瞼、頬、顎と口づけ、顎下を舌で撫でられる。
「んぁ……」
妙は声を洩らし、これから触れられるところが下がっていくのだと予感したが外れた。鼻先にちゅっと口づけられ、目を丸くする。小さく驚く妙が可愛らしく、近藤は笑みをこぼした。
「はは、お妙さん、かわいい」
素直に褒められ、妙の顔が赤くなる。
「んもうッ」
頬を膨らませて口を紡ぐ妙がまた可愛らしい。近藤は微笑み、自分の鼻先と妙のそれを突き合わせた。
今まで散々やってきた骨肉がぶつかるじゃれ合いではない恋人同士のじゃれ合いに近藤の心が満たされる。だが、それも束の間、すぐに切ない思いが込みあがり、誤魔化すように口づけた。深く甘い口づけが終わると妙はゆっくりと目を開いた。
「私も好きです」
小首を傾げ、にこりと微笑むその瞳は濡れている。近藤は見て見ぬふりで明るく言った。
「俺は大好きですけどね」
むっとした妙は参戦する。
「私だって大大好きですけど」
「俺のほうが大大だーい好きですよ」
「私のほうが大っ、あっ」
話している途中に甲高い声が上がった。下着が除けられた襦袢越しに胸の先に触れられたのだ。親指、人差し指、中指が頂付近を互い違いに優しく揉みこまれる。
「はぁっ、あっ、んっ」
先が硬くなり始めると手の平全体で小振りな胸を持ち上げる。五本の指がゆっくりと揉みしだきだし、上がろうとする声を堪えようと、妙は唇を左右に引く。
「んっ……、っ……」
縋るような瞳がこちらを向く。近藤は、妙を安心させるように穏やかに笑った。唇を重ね、妙の口内を甘く犯す。一度、両胸から両手を離すと襦袢の合わせに両手を差し込み、左右に肌蹴させた。白い双丘の頂は、すでに色を濃くして待っている。妙の舌先を己のそれで弄びながら中指、薬指で探り、人差し指でそれを弾いた。
「ぁんぅっ」
妙の肩がびくりと揺れた。再び弾かれると背が軽く反る。親指の腹で二、三度押し込んだ後、親指と人差し指に摘ままれ、肩が震えた。胸の先を刺激されたまま近藤の唇と熱い舌に翻弄され、熱い涙をこぼす。混ざり合わさった唾液で唇がぐっしょり濡らされ、淫らで恥ずかしいのにもっとして欲しいと思ってしまう。唇が放されると妙は口で酸素を吸って吐いた。触れられているところが火照っている。近藤の顔が耳元に寄り、耳朶を甘噛みされた。
「はぁんっ」
指で挟まれた乳首を転がされ、喘ぐ。
「あんっ、や、はぁ」
「痛いですか?」
囁くように訊ねられ、耳にかかった吐息にぞくりとする。
「んっ、大丈夫、です……あの、気持ちいいのが、恥ずかしくて……」
妙が答えると中断していた胸先への刺激が再開した。ふっと笑った息が耳にかかり、妙の肩が竦む。
「これからもっと恥ずかしいことしますよ。乳首なんて序の口です」
と、首筋に口づけ、舌を這わせる。近藤の唾液に濡れた首筋が空気に晒され、ぞくりとする。丁寧に撫でる熱い舌と優しく弄ぶ指の気持ちよさと心地よさが妙を酔わせ、甘い溜息をつかせる。
「首、弱いんですか?」
「ん、そう、かもしれません」
素直な返答に近藤の顔が綻ぶ。あんなにつっけんどんだったのが嘘のようだ。
「お妙さん、玄関、施錠しましょうか」
と、近藤は不意に離れて、玄関扉中央へ立った。妙は施錠の仕方を訊ねる近藤をぼんやりと眺める。
「お妙さん?」
改めて声をかけられて我に返った妙は、愛撫の熱が残っている胸の先を意識しながら施錠の仕方を伝えた。近藤が側に戻ってくると胸先は疼く。
触れて欲しい―変化する自分の体のいやらしさに妙は顔を熱くした。何を考えているのだろう。いや、近藤が言う通り、これからもっといやらしいことをするのだからこんな気分でいるのは正しいはずだ。
上がり口に腰掛けた近藤は妙へと手を差し伸べた。
「お妙さん」
肩幅に開いた両足の間を指差す。妙は差し出された手に指を置き、行儀よく両足を揃えてそこへ座った。近藤はこちらの出方を窺う緊張した細い肩の前に腕を回し、ぎゅっと抱き締める。
「あの、しないんですか……?」
問われて近藤は、ふっと笑った。
「しますよ」
と、首筋に軽く口づける。
「あの、本当にここで……?」
膝の上の白い手に浅黒い手が重なる。優しく撫でた浅黒い指が白い指の間に差し込み、白い手をぎゅっと握った。
「かしこまると緊張するでしょう。だから……」
と、首元からうなじへと口づけを繰り返し、目の前にある妙のうなじを見つめた。白い肌から栗色の髪が綺麗に生え揃っている。
「うなじ、綺麗ですね」
後れ毛は細く、柔らかそうだ。
「え……ありがとうございます……」
すぐに舌を這わせたくなったがおしとどまる。妙を落ち着かせるより、まず自分が落ち着いたほうがいい。近藤は心内で自嘲し、続けた。
「だから、ゆっくりしようと思って……」
と、うなじに舌を押し当て撫で下げた。
「ひぁあぁんっ」
性急な愛撫にあられもない声が上がる。
「や、全然ゆっくりじゃないですっ」
「すみません。お妙さんにこんなことしてるのが嬉しくて」
肩に口づけ、吸いつく。
「あんっ……」
手を繋いでない右手で妙の胸に触れる。掴んで放された反動で小振りだが柔らかい胸が揺れた。
「はぁ、あっ」
気持ちがいい力加減で触れてくる指が妙の心も掴む。
「ぁん、近藤さぁんっ」
甘い声で呼ばれ、近藤は組み重ねていた手を妙の左胸へとやった。広げた指の間から、こぼれようとする温かく柔らかいものを捕らえようと、指に力が入る。男にはない女の柔らかさが気持ちいい。手は止まらず、ひとしきり柔らかさを堪能すると硬い頂を人差し指の腹で転がした。妙の声が、もっとと欲しがっている。誘われるまま、近藤の右の手は襦袢の裾へと滑り、柔らかい太腿に触れた。我に返った近藤は妙の内腿にあった手を止めて膝へと撫でた。急ぐつもりはなくとも体が急いている。近藤は、ふうっと息を吐いて太腿の外側を撫でる。
「お妙さん、俺のほう向けます?」
声をかけられ、妙は後ろへ振り返った。半開きの桜色の唇に近藤の舌が差し込まれる。誘われた妙は舌を唇から覗かせ、体を震わせながらも懸命に近藤に応える。ぴちゃぴちゃと鳴る水音と、胸と太腿の温かい手に妙の全身が熱くなる。舌が擽られると最奥はより熱くなった。男性に触れられればどう変化するのかは知っているが、それをまざまざと実感する。まだそこには触れられていないというのにすでに充分反応し、おそらくそれは下着にまで届いている。恥ずかしくて知られたくないのに、まだ知らない快感がそこにあると確信し、早く触れて欲しいと思う。相反する気持ちが渦巻く妙は助けを求めるように胸を覆う近藤の左の腕に触れた。手を止めた近藤は口づけに専念し、深く舌で愛撫する。近藤が唇を離すと、もっとと欲しがる妙が近藤の唇を舐めた。とろりとした瞳に上気した頬、綺麗な唇は濡れて薄く開いている。胸を熱くした近藤は眉を寄せ、まだだと言い聞かせていたそこに触れた。ぐっしょりと濡れた下着の上から中指を中へと入れようとする。
「お妙さん、濡らしすぎですよ」
と、首筋に吸いつく。
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