「んっ、だって、近藤さんがいっぱいいやらしいことする、か、ぁ、らぁ」
近藤は一度そこから指を離した。恥骨、下腹部へと中指で撫で上げる。臍まで行くと、くすぐったかったらしい妙は体を揺らした。胸の間まで来ると左、右と胸の先を撫でて自ら中指を咥えて濡らした。その指を妙の下着の中へ潜り込ませる。蜜をすくって潤いを足すと中指全体を秘裂にぴたりと当てた。背を反らせた妙の肩が近藤の胸にもたれかかる。それでも指は動かず、じれったくなった妙の膝が揺れた。指の先がそこへ入りそうだ。
「近藤、さん……？」
近藤に振り向くと指が左右にぬめった。覆われた花芽が刺激され、短く声が上がる。更に蜜がこぼれだすと中指が花芽を弄びだす。与えられる刺激に膝は揺れ、下腹部は波打ち、息は切れ切れになる。もう一方の手が潜り込むと花芽が覆われていた皮が左右に伸ばされ、揃えた中指と人差し指の先に挟まれて揺らされた。
「あっ、ダメっ、はぁ、そんなの、だめぇっ、やぁあぁっ……！」
頭のてっぺんから手足の爪先、全身の末端から快感が一気にそこへ駆け集まった。すでに近藤の指が離れていた花芽がじんじんと疼いている。胸を上下させて呼吸を整える妙は、背を近藤に預けたまま呆然とする。初めての絶頂がこんなにも容易く成されてしまった。若者向けの雑誌特集で見かけた絶頂を向かえたことがある経験者は過半数だったのにと、恥ずかしさを誤魔化すために考えてみたが、やはり恥ずかしさは拭えない。顔が熱くなり、後ろにいる近藤に顔を見られたくない。確か大きな声で駄目だとか言っていたはずだ。
「お妙さん」
不意に声がかけられ、ぎくりとする。
「大丈夫ですか？」
「え、あ、はい。大丈夫です」
ぎこちない返事をしながら妙は姿勢を正した。近藤は片足を抜き、体を回転させながら一度離れた妙の背に左手を回す。右手で妙の首を支えて押し倒すと、背の左手を抜き、頭を揺らさないようにそっと右手も引き抜かれた。大切に扱われていることに妙の心が温まる。優しく微笑む近藤につられて微笑んだ。額を撫でる手の平は相変わらず温かい。恋しさを募らせた妙は一度瞳を閉じてからこちらを見下ろす近藤を見つめた。
「好きです」
先程、好きだと伝えた時は、近藤の切ない口づけに応えた時だった。あの時、心は切なく苦しい思いが占めていたが今は穏やかだ。触れ合うことで満たされている。
「俺も好きです。そして今、幸せです」
と、額に口づける。妙は照れを誤魔化すように冗談めかして訊ねた。
「まだ繋がっていないのに？」
目を丸くした近藤は妙の顔を見て笑った。
「はは、こりァ一本取られたな」
と、頬に口づける。
「そうだなァ、繋がったらもっともっと幸せかなァ。ま、今からするんだけどね」
浮つく気持ちを自覚すると円滑に事を運びにくいが、あえて自ら茶化す。互いに構えるより明るい雰囲気のほうがいいはずだ。
耳に、首、肩に、脇、腕に、手の甲、胸元に、臍と笑顔で口づけを落とし、すっかり緊張が解けている妙の顔を見やった。
「あそこ舐めていいですか」
我ながらやらかしてしまったとすぐに後悔した。妙は固まり、今までよかった雰囲気が瞬時に凍りついた。まるで台詞を棒読みだ。そして非常に直接的だ。もっと包み隠しつつ色っぽく訊ねられたはずだ。
「すみません。実はすごく緊張してます」
と、言った近藤はかちこちの真顔だ。近藤に大人の余裕を感じていた妙は瞬きを繰り返してまじまじと近藤の目を見た。黒目がぎこちなく動いてこちらを見返す。あまりにも滑稽で妙は吹き出してしまった。その見事な吹き出しっぷりに近藤の後悔は募る。
「大人の人でもこういう時は緊張するんですね」
「……はい」
返事をして妙の足袋を脱がせた。
「年食ってても好きな人とするってなると、そりァもう……」
と、近藤は妙の右足を上げて足の甲、指に口づける。指先から上へと唇は移動し、内腿に差しかかったところで右足は下ろされ、今度は左足が持ち上げられた。同じように口づけを落とされる。
「しかも、ずっと好きだった人が相手だ」
拗ねながらも触れてくる近藤に物を申したいが、変な声が上がりそうだ。
「緊張しますよ」
と、小指が口に含まれた。
「ひぁっ」
妙はくすぐったさに身を捩る。
「やめっ、あっん」
小指を舌で撫でまわされ、襲われた感覚が末端から中心へと上がって腰が浮く。小指と薬指の隙間を舌が往復し、口元を両手で押えたが声が止まらない。くすぐったいのか気持ちがいいのかわからない愛撫に涙が滲んだ。よくわからない感覚なのに、先程弄られた敏感なところは疼いている。
「やぁ、んんっ、はぁ、やめぇっ」
切なげな声に懇願され、近藤は我に返った。左足をそっと下ろして頭を下げる。
「すみません。怖がらせたくなかったから抑えてたんですけど、辛抱が足らなくて……」
近藤は奥歯を噛み締めた。想いが通じ合ったことで、それまで抑えていた気持ちも欲望も、もうはち切れそうだ。本能のままに動くなという自制が効きにくいのを踏まえていたが、もっと覚悟が必要だった。
「私なら、大丈夫です。すごく気遣ってくださったんでしょう？キスも指もすごく優しくて、すごく嬉しかった。だから、逝ったんです。あなたに逝かされたんです。もっと私を逝かせてください。私は、あなたに何度も逝かされたい……」
涙を含んだ声に近藤の胸に切なさが込みあがった。
「お妙さん……」
目頭が熱くなり、近藤は下唇を噛む。連れて行かない代わりに愛を以って逝かせると宣言したのは自分のほうなのに、己の不甲斐なさが情けない。どんな愛し方でも受け止める―肝が据わっていたのは妙のほうだった。すべての不浄を包み込むまるで菩薩だ。初めて会った時から変わらない。
「好きだ、お妙さん。初めて会った時から、俺はずっとあなたに惚れっぱなしだった。こうしてる今も、そうだ。何度も惚れまくってる。だから、俺があなたに惚れ直した分だけ逝かせたい」
玄関たたきに両膝を突き、妙の下着を脱がせると近藤は妙の両太腿を抱えた。
「覚悟してください。キリなんざありゃしねェ」
と、足の付け根に口づける。
「それに俺の愛は陰湿で陰険な上に不純だ。お妙さんの怯えた顔にそそられる」
目の前の淫らに濡れ光る女陰を眺めて舌なめずりをする。そこへ顔を寄せると妙の両足に力が入った。
「やっぱり怖いですか？」
太腿の間にいる近藤の目がこちらを向く。こんな格好でいるのに自分だけが恥ずかしくて内心、慌てている。近藤はさぞかし慣れているのだろう。だが、今、その目に写るのは自分のみだ。
「大丈夫です。信じてますから」
真っ直ぐな言葉に近藤は表情を和らげた。肩眉を上げて困ったなと声なく笑う。優しい人だ。口では悪ぶっていても根が優しい。妙の表情も和らぎ、余分な体の力も抜けた。近藤はまた口づけを何度も落とす。内腿や足の付け根を往復し、ようやくそこへ唇が寄せられると、嬌声を上げた。上げずにいられなかった。心が感じすぎていておかしくなりそうだ。もっと確かに近藤を感じたい。
「んぁ、あぁぁ、ふぁ、ん、そんなに、吸っちゃっ、あぁっ……！」
膨らんだ花芽を吸い上げられながら指を浅く差し込まれ、蜜を掻き出そうとする太い指に体を強張らせた。奥が熱くなり、花芽はやはり疼く。
「やぁ、また、いっちゃった」
思ったままを口にしてしまい、羞恥を感じるがほんの一瞬だった。熱が治まらないことのほうが辛い。
「ねえ、近藤さん、もっと」
肩で息をしながら訴える妙に頷き、指を増やす。
「ちがうの、指じゃなくて、近藤さんの、あぁっ」
ゆっくりと進んだ中指と薬指は奥へと届く。角度を変えて内壁を撫でられると妙の腰が揺れた。
「痛くないですか？」
「は、いぃ……んっ」
「苦しい？」
優しい声に妙の最奥が熱を上げる。首を横に振った。
「だい、じょうぶです、はぁ」
近藤は背を屈め、再び妙の敏感なところを優しく舌で撫でた。指は探るように動き、いい声が上がるところを探し当てると、丁寧に撫でる。妙は二本の指を締めつけ、痺れた花芽は熱い舌が快感を舐めとり、転がす。
「はぁっ、やぁ、またきちゃうぅ」
「いくの、辛いですか？」
「ちょっとだけ……でも、気持ちいい、です、そこ」
妙が言うと、近藤は指の動きを止めた。擦られていたところがじんと疼く。今度は指の腹が臍へ向かって奥壁を撫でた。
「ここはどうですか？子宮の近く」
「え、あ……わからない、です……ごめんなさい……」
恥ずかしくなった妙は近藤から目を逸らせた。
「謝らんでください」
と、奥から入口近くの上壁を掻くように撫でる。
「んあっ！」
急に迫る快感に妙の背が反る。
「やっぱり、ここですね」
ゆるゆると上壁を撫でては奥へ手前へと指を往復させる。赤く充血した花芽に誘われた近藤はそれに口づけ、指を曲げた。緩やかな刺激によってぼやかされていた快感が鮮明になり、下腹部は波打ち、腰が震えた。敏感な突起は優しく愛撫され、追い詰められる。
「や、んっ、はぁん、こんどぉさぁん、また、い、いっちゃうぅ……!!」
妙の最奥に集まった快感は弾けて全身に広がった。閉じることを忘れた唇からは涎がこぼれる。くったりとした妙は呼吸を整えようと勃たせた胸先を揺らしている。
近藤は無言で立ち上がって帯を解き、袴を脱いだ。妙の帯の近くへと適当にそれを置く。そういえば妙の帯びは解いたものの、着物は着せたままだ。皺を防ぐために脱がせておけばよかった。確か今着ている着物は妙のお気に入りだったはずだが、とっくに皺だらけだ。そして、こんなところで致せば妙の背中や腰を痛めてしまうかもしれない。だが、もう遅い。
玄関上がり口に膝を突いた。妙の太腿下に膝を差し込み、肌蹴た裾からものを取り出す。
「すまねェ、お妙さん」
と、妙の脇下から耳へと腕を差し入れる。謝られた意味が理解できなかった妙は近藤を見つめた。
「こんなところで盛っちまってすまねェ。もっとちゃんとしたところで、っ」
妙は近藤の唇に触れた。
「今さらもういいですよ。あなたの愛は陰湿で陰険で不純なんでしょう？所構わず愛されるなんて幸せなことですよ」
微笑む妙に近藤は眉根を寄せて目を閉じた。目頭が熱い。感極まり、泣いてしまいそうだ。幸せにしてもらってるのはこちらのほうだというのに、これだからこの女には敵わない。口の片端を上げて瞼を上げる。
「お妙さんには頭が上がらねェな」
微笑む近藤に妙も笑顔を返す。
「じゃあ、入れますね」
「はい」
と、返事した妙は歯を食いしばる。分身に手を添えて入口に先を当てた近藤は、改めて見た妙の構える硬い表情に苦笑した。
「力抜いてください」
ちゅっと音を鳴らして口づけ、蜜で潤っている柔らかな粘膜へと分身を押し進めた。繰り返し軽く口づけ、先端が入ると妙の唇を割って深く口づける。肩が揺れ、くぐもった声が洩れだすと、近藤は一気に押し進めた。痛みを覚悟していた妙は目を見開く。
「えっ？」
予想外の言葉に近藤は唇を離した。
「入ってます？」
問われて近藤は体を起こし、確認する。膨らんだ花芽を覆っていた皮と繋がる襞はすっかり開いて桃色の粘膜が涎まみれで自分のものを咥えている。
「はい、入ってます」
根元までは入っていないが壁には当たっている。熱くぬめった粘膜に包まれて気持ちがいい。
「本当に？」
確認され、近藤は妙の手を繋がっているところに触れさせた。指二本とは比べものにならないほどのものが確かに入っている。入れられていることを意識した妙は、近藤を締めつけた。喉を上下させた近藤は一息ついて訊ねる。
「痛くない、とか？」
「はい……。多分、いっぱい慣らしてくれたから……」
「それならよかったです」
照れながら笑った目の前の男はいつもの近藤だった。大人の男性とは思えない気の抜けた声で会いに来ましたと年甲斐もなくはしゃぐあの男だ。
「あぁっ、んっ」
あの近藤と、こんなところでこんなにいやらしいことをしている。背徳に膝を震わせ、その存在を意識すればするほど締めつける。
「ちょっ、お妙さん、そんなに締めたらダメだ」
呼吸を乱す近藤は、妙の腰を掴んで分身に意識を集中させた。
「だって、近藤さんが、入ってる、はぁ、んぁ、んっ」
乱れる妙は熱い涙を流した。最奥は疼き、熱い蜜がとろとろと近藤を濡らす。その熱さに近藤の視界が霞んだ。根元まで入ってもいないのに、敏感すぎる妙にすぐにでもすべてを搾り取られそうだ。
「ん、はぁー、あー」
近藤は、気を逸らせるように声を出す。
「お妙さんにはやられるなァ。こんなにいやらしい娘だとは思いもしなかったですよ」
と、妙に覆い被さる。耳に口づけ、囁いた。
「堪らねェ。すごくいいです」
艶を含んだ低い声と熱い吐息に妙の肩が竦む。ぞくりとした快感は胸で弾けた。近藤の長着に胸の先が擦れ、気持ちがいい。甘い声で鳴く妙は近藤の首に手を回し、しがみついた。近藤は更に腰を押し進め、根元まで来た熱い粘膜に溜息をつく。妙は眉を寄せ、唇を開いたまま、声なく喘ぐ。中心を捕らえられ、身体はおろか思考まで自由を奪われた。頭の隅で駄目だともうひとりの自分が言っているような気がするが、もう近藤のことしか考えられない。できるのは酷く甘い声で鳴くことだけだった。内壁を擦りながら腰を打ちつけられる度、絶頂の寸前で漂っている感覚が堪らない。連続する膣のひくつきに酔っていた近藤は、一息つこうと体を起こした。妙がこぼす透明の液が自分の陰毛にまで付着している。もちろん妙のものにも。先程、見た時よりも赤く充血し、自分が腰を引くと離れまいと濡れ光った粘膜が食いついてくる。
「はぁー……、ん」
感嘆の溜息をつき、人差し指と親指を舐め濡らす。指を引き抜くと口内に溜まっていた唾液が糸を引いて妙の栗色の毛に落ちた。粘ついた己の唾液に、ふっと笑う。男性経験が初めてにも関わらず、感じすぎている妙のことを言えたものじゃない。自分も感じすぎている。
近藤は、突起として現れている花芽に濡らした人差し指と親指を添えた。びくりとした妙は、一度逃げたが戻るように腰を寄せた。近藤は引いていた分身に意識を集中させた。突き上げながら妙がよがるところを往復し、最奥で突いたまま腰を小刻みに揺らす。
「あっ、だめっ、あっ、いっちゃう、そんなのしたら、またっ、あんっ」
「いい、ですよ、俺も一緒に逝きますから、お妙さんの一番奥で、逝きます、んっ、はぁ」
と、花芽を揺らして刺激する。
「ひぁっ、ぁはっ、やぁ、もうだめぇっ……!!」
膣が痙攣しだすと近藤は妙の腰を両手で掴んで上壁から子宮口近くへと強く擦り、妙から引き抜いた。達して上下している下腹部へと精を吐き出した。赤みがかった白い肌と栗色の毛に白く濁った液がかかる。肩で息をしながら周囲を見回す。拭う物は何か持ってなかっただろうか。
「どうして……？」
「え？」
訊かれて近藤は妙を見た。悲愴な表情だ。思ってもいなかった妙の反応に驚く。
「どうして、私の中で出してくれなかったんですか？」
「え、それは……」
と、近藤は視線を泳がせながら下ろした。拭う物の存在を思い出した近藤は着物の袖からポケットティッシュを取り出した。下腹部のそれを近藤が拭うと、妙は強い声で言う。
「私はそのつもりでした」
近藤は俯いたままで返事をしない。
「あなたが生きた証を、私が繋いでいこうと、私が……っ……」
妙は目元を拭った。が、涙は溢れだす。
「ありがとうございます。お妙さんがそんなに俺のことを想っていてくれたなんて知らなかった。すごく嬉しいです」
近藤は、感動のあまりうっかり涙を一筋こぼしてしまった。口の両端を引き下げ、涙を堪える。目を閉じて気を静めてから口を開いた。
「だが、俺にその気はない。あなたひとりに荷物を背負わせたくない」
近藤は一度そこから指を離した。恥骨、下腹部へと中指で撫で上げる。臍まで行くと、くすぐったかったらしい妙は体を揺らした。胸の間まで来ると左、右と胸の先を撫でて自ら中指を咥えて濡らした。その指を妙の下着の中へ潜り込ませる。蜜をすくって潤いを足すと中指全体を秘裂にぴたりと当てた。背を反らせた妙の肩が近藤の胸にもたれかかる。それでも指は動かず、じれったくなった妙の膝が揺れた。指の先がそこへ入りそうだ。
「近藤、さん……？」
近藤に振り向くと指が左右にぬめった。覆われた花芽が刺激され、短く声が上がる。更に蜜がこぼれだすと中指が花芽を弄びだす。与えられる刺激に膝は揺れ、下腹部は波打ち、息は切れ切れになる。もう一方の手が潜り込むと花芽が覆われていた皮が左右に伸ばされ、揃えた中指と人差し指の先に挟まれて揺らされた。
「あっ、ダメっ、はぁ、そんなの、だめぇっ、やぁあぁっ……！」
頭のてっぺんから手足の爪先、全身の末端から快感が一気にそこへ駆け集まった。すでに近藤の指が離れていた花芽がじんじんと疼いている。胸を上下させて呼吸を整える妙は、背を近藤に預けたまま呆然とする。初めての絶頂がこんなにも容易く成されてしまった。若者向けの雑誌特集で見かけた絶頂を向かえたことがある経験者は過半数だったのにと、恥ずかしさを誤魔化すために考えてみたが、やはり恥ずかしさは拭えない。顔が熱くなり、後ろにいる近藤に顔を見られたくない。確か大きな声で駄目だとか言っていたはずだ。
「お妙さん」
不意に声がかけられ、ぎくりとする。
「大丈夫ですか？」
「え、あ、はい。大丈夫です」
ぎこちない返事をしながら妙は姿勢を正した。近藤は片足を抜き、体を回転させながら一度離れた妙の背に左手を回す。右手で妙の首を支えて押し倒すと、背の左手を抜き、頭を揺らさないようにそっと右手も引き抜かれた。大切に扱われていることに妙の心が温まる。優しく微笑む近藤につられて微笑んだ。額を撫でる手の平は相変わらず温かい。恋しさを募らせた妙は一度瞳を閉じてからこちらを見下ろす近藤を見つめた。
「好きです」
先程、好きだと伝えた時は、近藤の切ない口づけに応えた時だった。あの時、心は切なく苦しい思いが占めていたが今は穏やかだ。触れ合うことで満たされている。
「俺も好きです。そして今、幸せです」
と、額に口づける。妙は照れを誤魔化すように冗談めかして訊ねた。
「まだ繋がっていないのに？」
目を丸くした近藤は妙の顔を見て笑った。
「はは、こりァ一本取られたな」
と、頬に口づける。
「そうだなァ、繋がったらもっともっと幸せかなァ。ま、今からするんだけどね」
浮つく気持ちを自覚すると円滑に事を運びにくいが、あえて自ら茶化す。互いに構えるより明るい雰囲気のほうがいいはずだ。
耳に、首、肩に、脇、腕に、手の甲、胸元に、臍と笑顔で口づけを落とし、すっかり緊張が解けている妙の顔を見やった。
「あそこ舐めていいですか」
我ながらやらかしてしまったとすぐに後悔した。妙は固まり、今までよかった雰囲気が瞬時に凍りついた。まるで台詞を棒読みだ。そして非常に直接的だ。もっと包み隠しつつ色っぽく訊ねられたはずだ。
「すみません。実はすごく緊張してます」
と、言った近藤はかちこちの真顔だ。近藤に大人の余裕を感じていた妙は瞬きを繰り返してまじまじと近藤の目を見た。黒目がぎこちなく動いてこちらを見返す。あまりにも滑稽で妙は吹き出してしまった。その見事な吹き出しっぷりに近藤の後悔は募る。
「大人の人でもこういう時は緊張するんですね」
「……はい」
返事をして妙の足袋を脱がせた。
「年食ってても好きな人とするってなると、そりァもう……」
と、近藤は妙の右足を上げて足の甲、指に口づける。指先から上へと唇は移動し、内腿に差しかかったところで右足は下ろされ、今度は左足が持ち上げられた。同じように口づけを落とされる。
「しかも、ずっと好きだった人が相手だ」
拗ねながらも触れてくる近藤に物を申したいが、変な声が上がりそうだ。
「緊張しますよ」
と、小指が口に含まれた。
「ひぁっ」
妙はくすぐったさに身を捩る。
「やめっ、あっん」
小指を舌で撫でまわされ、襲われた感覚が末端から中心へと上がって腰が浮く。小指と薬指の隙間を舌が往復し、口元を両手で押えたが声が止まらない。くすぐったいのか気持ちがいいのかわからない愛撫に涙が滲んだ。よくわからない感覚なのに、先程弄られた敏感なところは疼いている。
「やぁ、んんっ、はぁ、やめぇっ」
切なげな声に懇願され、近藤は我に返った。左足をそっと下ろして頭を下げる。
「すみません。怖がらせたくなかったから抑えてたんですけど、辛抱が足らなくて……」
近藤は奥歯を噛み締めた。想いが通じ合ったことで、それまで抑えていた気持ちも欲望も、もうはち切れそうだ。本能のままに動くなという自制が効きにくいのを踏まえていたが、もっと覚悟が必要だった。
「私なら、大丈夫です。すごく気遣ってくださったんでしょう？キスも指もすごく優しくて、すごく嬉しかった。だから、逝ったんです。あなたに逝かされたんです。もっと私を逝かせてください。私は、あなたに何度も逝かされたい……」
涙を含んだ声に近藤の胸に切なさが込みあがった。
「お妙さん……」
目頭が熱くなり、近藤は下唇を噛む。連れて行かない代わりに愛を以って逝かせると宣言したのは自分のほうなのに、己の不甲斐なさが情けない。どんな愛し方でも受け止める―肝が据わっていたのは妙のほうだった。すべての不浄を包み込むまるで菩薩だ。初めて会った時から変わらない。
「好きだ、お妙さん。初めて会った時から、俺はずっとあなたに惚れっぱなしだった。こうしてる今も、そうだ。何度も惚れまくってる。だから、俺があなたに惚れ直した分だけ逝かせたい」
玄関たたきに両膝を突き、妙の下着を脱がせると近藤は妙の両太腿を抱えた。
「覚悟してください。キリなんざありゃしねェ」
と、足の付け根に口づける。
「それに俺の愛は陰湿で陰険な上に不純だ。お妙さんの怯えた顔にそそられる」
目の前の淫らに濡れ光る女陰を眺めて舌なめずりをする。そこへ顔を寄せると妙の両足に力が入った。
「やっぱり怖いですか？」
太腿の間にいる近藤の目がこちらを向く。こんな格好でいるのに自分だけが恥ずかしくて内心、慌てている。近藤はさぞかし慣れているのだろう。だが、今、その目に写るのは自分のみだ。
「大丈夫です。信じてますから」
真っ直ぐな言葉に近藤は表情を和らげた。肩眉を上げて困ったなと声なく笑う。優しい人だ。口では悪ぶっていても根が優しい。妙の表情も和らぎ、余分な体の力も抜けた。近藤はまた口づけを何度も落とす。内腿や足の付け根を往復し、ようやくそこへ唇が寄せられると、嬌声を上げた。上げずにいられなかった。心が感じすぎていておかしくなりそうだ。もっと確かに近藤を感じたい。
「んぁ、あぁぁ、ふぁ、ん、そんなに、吸っちゃっ、あぁっ……！」
膨らんだ花芽を吸い上げられながら指を浅く差し込まれ、蜜を掻き出そうとする太い指に体を強張らせた。奥が熱くなり、花芽はやはり疼く。
「やぁ、また、いっちゃった」
思ったままを口にしてしまい、羞恥を感じるがほんの一瞬だった。熱が治まらないことのほうが辛い。
「ねえ、近藤さん、もっと」
肩で息をしながら訴える妙に頷き、指を増やす。
「ちがうの、指じゃなくて、近藤さんの、あぁっ」
ゆっくりと進んだ中指と薬指は奥へと届く。角度を変えて内壁を撫でられると妙の腰が揺れた。
「痛くないですか？」
「は、いぃ……んっ」
「苦しい？」
優しい声に妙の最奥が熱を上げる。首を横に振った。
「だい、じょうぶです、はぁ」
近藤は背を屈め、再び妙の敏感なところを優しく舌で撫でた。指は探るように動き、いい声が上がるところを探し当てると、丁寧に撫でる。妙は二本の指を締めつけ、痺れた花芽は熱い舌が快感を舐めとり、転がす。
「はぁっ、やぁ、またきちゃうぅ」
「いくの、辛いですか？」
「ちょっとだけ……でも、気持ちいい、です、そこ」
妙が言うと、近藤は指の動きを止めた。擦られていたところがじんと疼く。今度は指の腹が臍へ向かって奥壁を撫でた。
「ここはどうですか？子宮の近く」
「え、あ……わからない、です……ごめんなさい……」
恥ずかしくなった妙は近藤から目を逸らせた。
「謝らんでください」
と、奥から入口近くの上壁を掻くように撫でる。
「んあっ！」
急に迫る快感に妙の背が反る。
「やっぱり、ここですね」
ゆるゆると上壁を撫でては奥へ手前へと指を往復させる。赤く充血した花芽に誘われた近藤はそれに口づけ、指を曲げた。緩やかな刺激によってぼやかされていた快感が鮮明になり、下腹部は波打ち、腰が震えた。敏感な突起は優しく愛撫され、追い詰められる。
「や、んっ、はぁん、こんどぉさぁん、また、い、いっちゃうぅ……!!」
妙の最奥に集まった快感は弾けて全身に広がった。閉じることを忘れた唇からは涎がこぼれる。くったりとした妙は呼吸を整えようと勃たせた胸先を揺らしている。
近藤は無言で立ち上がって帯を解き、袴を脱いだ。妙の帯の近くへと適当にそれを置く。そういえば妙の帯びは解いたものの、着物は着せたままだ。皺を防ぐために脱がせておけばよかった。確か今着ている着物は妙のお気に入りだったはずだが、とっくに皺だらけだ。そして、こんなところで致せば妙の背中や腰を痛めてしまうかもしれない。だが、もう遅い。
玄関上がり口に膝を突いた。妙の太腿下に膝を差し込み、肌蹴た裾からものを取り出す。
「すまねェ、お妙さん」
と、妙の脇下から耳へと腕を差し入れる。謝られた意味が理解できなかった妙は近藤を見つめた。
「こんなところで盛っちまってすまねェ。もっとちゃんとしたところで、っ」
妙は近藤の唇に触れた。
「今さらもういいですよ。あなたの愛は陰湿で陰険で不純なんでしょう？所構わず愛されるなんて幸せなことですよ」
微笑む妙に近藤は眉根を寄せて目を閉じた。目頭が熱い。感極まり、泣いてしまいそうだ。幸せにしてもらってるのはこちらのほうだというのに、これだからこの女には敵わない。口の片端を上げて瞼を上げる。
「お妙さんには頭が上がらねェな」
微笑む近藤に妙も笑顔を返す。
「じゃあ、入れますね」
「はい」
と、返事した妙は歯を食いしばる。分身に手を添えて入口に先を当てた近藤は、改めて見た妙の構える硬い表情に苦笑した。
「力抜いてください」
ちゅっと音を鳴らして口づけ、蜜で潤っている柔らかな粘膜へと分身を押し進めた。繰り返し軽く口づけ、先端が入ると妙の唇を割って深く口づける。肩が揺れ、くぐもった声が洩れだすと、近藤は一気に押し進めた。痛みを覚悟していた妙は目を見開く。
「えっ？」
予想外の言葉に近藤は唇を離した。
「入ってます？」
問われて近藤は体を起こし、確認する。膨らんだ花芽を覆っていた皮と繋がる襞はすっかり開いて桃色の粘膜が涎まみれで自分のものを咥えている。
「はい、入ってます」
根元までは入っていないが壁には当たっている。熱くぬめった粘膜に包まれて気持ちがいい。
「本当に？」
確認され、近藤は妙の手を繋がっているところに触れさせた。指二本とは比べものにならないほどのものが確かに入っている。入れられていることを意識した妙は、近藤を締めつけた。喉を上下させた近藤は一息ついて訊ねる。
「痛くない、とか？」
「はい……。多分、いっぱい慣らしてくれたから……」
「それならよかったです」
照れながら笑った目の前の男はいつもの近藤だった。大人の男性とは思えない気の抜けた声で会いに来ましたと年甲斐もなくはしゃぐあの男だ。
「あぁっ、んっ」
あの近藤と、こんなところでこんなにいやらしいことをしている。背徳に膝を震わせ、その存在を意識すればするほど締めつける。
「ちょっ、お妙さん、そんなに締めたらダメだ」
呼吸を乱す近藤は、妙の腰を掴んで分身に意識を集中させた。
「だって、近藤さんが、入ってる、はぁ、んぁ、んっ」
乱れる妙は熱い涙を流した。最奥は疼き、熱い蜜がとろとろと近藤を濡らす。その熱さに近藤の視界が霞んだ。根元まで入ってもいないのに、敏感すぎる妙にすぐにでもすべてを搾り取られそうだ。
「ん、はぁー、あー」
近藤は、気を逸らせるように声を出す。
「お妙さんにはやられるなァ。こんなにいやらしい娘だとは思いもしなかったですよ」
と、妙に覆い被さる。耳に口づけ、囁いた。
「堪らねェ。すごくいいです」
艶を含んだ低い声と熱い吐息に妙の肩が竦む。ぞくりとした快感は胸で弾けた。近藤の長着に胸の先が擦れ、気持ちがいい。甘い声で鳴く妙は近藤の首に手を回し、しがみついた。近藤は更に腰を押し進め、根元まで来た熱い粘膜に溜息をつく。妙は眉を寄せ、唇を開いたまま、声なく喘ぐ。中心を捕らえられ、身体はおろか思考まで自由を奪われた。頭の隅で駄目だともうひとりの自分が言っているような気がするが、もう近藤のことしか考えられない。できるのは酷く甘い声で鳴くことだけだった。内壁を擦りながら腰を打ちつけられる度、絶頂の寸前で漂っている感覚が堪らない。連続する膣のひくつきに酔っていた近藤は、一息つこうと体を起こした。妙がこぼす透明の液が自分の陰毛にまで付着している。もちろん妙のものにも。先程、見た時よりも赤く充血し、自分が腰を引くと離れまいと濡れ光った粘膜が食いついてくる。
「はぁー……、ん」
感嘆の溜息をつき、人差し指と親指を舐め濡らす。指を引き抜くと口内に溜まっていた唾液が糸を引いて妙の栗色の毛に落ちた。粘ついた己の唾液に、ふっと笑う。男性経験が初めてにも関わらず、感じすぎている妙のことを言えたものじゃない。自分も感じすぎている。
近藤は、突起として現れている花芽に濡らした人差し指と親指を添えた。びくりとした妙は、一度逃げたが戻るように腰を寄せた。近藤は引いていた分身に意識を集中させた。突き上げながら妙がよがるところを往復し、最奥で突いたまま腰を小刻みに揺らす。
「あっ、だめっ、あっ、いっちゃう、そんなのしたら、またっ、あんっ」
「いい、ですよ、俺も一緒に逝きますから、お妙さんの一番奥で、逝きます、んっ、はぁ」
と、花芽を揺らして刺激する。
「ひぁっ、ぁはっ、やぁ、もうだめぇっ……!!」
膣が痙攣しだすと近藤は妙の腰を両手で掴んで上壁から子宮口近くへと強く擦り、妙から引き抜いた。達して上下している下腹部へと精を吐き出した。赤みがかった白い肌と栗色の毛に白く濁った液がかかる。肩で息をしながら周囲を見回す。拭う物は何か持ってなかっただろうか。
「どうして……？」
「え？」
訊かれて近藤は妙を見た。悲愴な表情だ。思ってもいなかった妙の反応に驚く。
「どうして、私の中で出してくれなかったんですか？」
「え、それは……」
と、近藤は視線を泳がせながら下ろした。拭う物の存在を思い出した近藤は着物の袖からポケットティッシュを取り出した。下腹部のそれを近藤が拭うと、妙は強い声で言う。
「私はそのつもりでした」
近藤は俯いたままで返事をしない。
「あなたが生きた証を、私が繋いでいこうと、私が……っ……」
妙は目元を拭った。が、涙は溢れだす。
「ありがとうございます。お妙さんがそんなに俺のことを想っていてくれたなんて知らなかった。すごく嬉しいです」
近藤は、感動のあまりうっかり涙を一筋こぼしてしまった。口の両端を引き下げ、涙を堪える。目を閉じて気を静めてから口を開いた。
「だが、俺にその気はない。あなたひとりに荷物を背負わせたくない」
立つ鳥跡を濁す