オビワン兄様の月命日に志村家居間でお酒をかっくらうお妙さんで一←妙→近。
忌明け後数か月経過設定。お妙さんが近藤さんを誘ってます。
ヌルすぎる妙近フェラーリあります。
若干、近→鴨あります。
尾美一篇、二年後篇、動乱篇前提です。

誘惑

 尾美の保険金を景気よく宇宙旅行土産に使ってやった。初めての宇宙旅行。気が晴れるかと思ったけれど、ちっとも晴れるには至らなかった。空元気――それは互いにわかっていた。
――痛みも悲しみも全部抱えて、それでも笑って奴らと一緒に歩いていくのさ――
 兄貴分と慕った尾美の遺した言葉を胸に、空元気でもなんでもいいのだと新八と笑い合った家族旅行はそれなりに楽しかったのは事実だ。
 普段から仕事に差し障ると日焼け対策を怠らなかった妙の肌は、常夏の星の強い日差しに焼かれた。肌が炎症を起こし、熱を持って悲鳴を上げる。けれど、妙も新八もバカンスを楽しんだ。
身を焼き尽くし、そのすべてを無にしてしまった兄の苦しみより遙かに生易しい。ただの焦げだ。それで充分だった。いくら兄と慕っていたとも、初めて恋した相手であっても、その後を追うほど酔狂な女ではない。
「尾美一兄様、ごめんなさいね。女はしたたかなのよ」
 もう一目でもいいから、あなたに会いたいと、何度も何度も思った。半分ロボっ子でも構わなかったの。ただ、私はあなたの帰ってくるところになりたかった。でも、師であるあなたを裏切ることになるのなら私は女を捨てる。そう思ってたのよ。なのに、揺らいだ。木刀を腰に差したちゃらんぽらんで死んだ魚の目をしてるなんちゃって侍は、心に本物の刀を収めていた。だから、新ちゃんはあなたを待たずに自分の道へ進んだ。
 私もそろそろ進まないといけないと思ったのよ。でも、ある日突然、あなたがひょっこり帰って来るんじゃないかって、その時にはうちの道場がないとって、そればかり。あなたが帰ってきた時にがっかりさせたくなかった。それがあなたに伝わったのか、私が設定に向き合おうとしたら、帰って来てくれた。嬉しかった。ほんのわずかな間でも、失った日々を取り戻せた。
「ありがとう、尾美一兄様……」
 妙は尾美の写真を眺め、涙をこぼしながら笑った。
 ていうかなんで尾美一兄様あんなガッハッハッ系に育っちゃったの?かっこいい少年塾頭だったのにどこでそうなったの?私、美男子系が好みなのに。ビーズの稲葉さんみたいなイケメンがいいの。なのに、ガッハッハッ系尾美一兄様を見ていたらまるであの男を見ているようで、内心すごく複雑だったんだけど。だから、いろいろ落ち着いてきた今、すごく複雑なんだけど。初登場の時から、あの男に苛立ってた理由とか、現在進行形な苛立ちの理由とか、すごく複雑なんだけど。それと、夢を見てたくらいの現実味のない感じなんだけど、あの男とバカ夫婦みたいな暮らししてたとか、すごく複雑なんだけど。
――もっと早くに勲さんの優しさに気づいていたら、私たちもっと早くに幸せになれたのに――
 とかなんとか言ったような言ってないような、それもすごく複雑なんだけど。それにあの男と子供ができるようなことするとか、あーもう信じられない!考えたくもない!なのに性転換した敵だったはずの攘夷志士と不倫ってあの男、馬鹿なの?!私はちょっと二コマヨ中系イケメン摘み食いしただけじゃない!私しか眼中にないとか言っときながら性転換した攘夷志士と不倫って本物の馬鹿なの!?
「つーかあのゴリラ、全然、店に来ないって何様のつもりだァ?」
 ドスの利いた声で呟いた妙は、座卓の上のグラスに一升瓶を傾けた。酒をグラスに並々と注いで一升瓶を下ろす。卓上と瓶底が当たった別の物音を聞き逃さなかった妙は、酔いの回った声で言った。
「オイこらゴリラァ、出てきやがれコノヤロォ」
 しんと静まり返った居間の障子が、すすっと音を鳴らして開かれた。
「いやァ、さすがはお妙さん。俺が潜んでたのやっぱりわかっちゃいましたか」
 久しぶりに顔を見せた近藤は、ダッハッハッと言わんばかりに豪快に笑う。妙は、ちくりと痛んだ胸に構うことなく苛立ちの元凶である男にひと泡食らわせてやろうと立ち上がった。しかし、酒の回った体は言うことを聞かない。一度立ち上がったはずの妙だったが、近藤にひと泡吹かせることなく、畳へ尻餅をつく羽目となった。
「お妙さん、いくら大事な人の月命日だからって、夕方から飲みすぎですよ」
 苦笑した近藤によって膝上まで捲れ上がった裾を整えられ、妙の苛立ちは更に募る。片膝をついてしゃがんでいた近藤の目をじとりと睨んでぼそりと言った。
「なんで、触らないのよ……」
 立ち上がろうと腰を浮かした近藤の動きが止まると、妙は先程、直された裾を自ら捲った。ピンク色の着物の乱れた裾から、細く白い足が覗く。
「お妙さん、女子は足を冷やしてはいけませんよ。ちゃんとしまわないと」
と、再び近藤の手は妙の乱れた裾を直す。が、妙は近藤の手を掴んで、捲れていない着物の奥へ引っ張った。分厚い手の甲を太腿へと押さえつける。
「どうしたんです、お妙さん?あなたらしくない」
 起伏しない近藤の様子に妙の苛立ちは募る一方だったが、ここまで来てはもう後に引けない。
「私らしくないって、何よ。あなたは私の何を知ってるって言うんです?私がどんな思いであなたを待ってたと思ってるんですか」
 張り裂けそうな胸の痛みから逃れようと、もう片方の妙の手が近藤の頬に触れる。
「弱みにつけ込んで私をさらってくださいよ、近藤さん。どうしてあなたも私から遠ざかるの……?」
 しばらく妙と距離を置いていたのは自分のみではない。ビームサーベ流へ同時期に入門した九兵衛も、ワイハー星土産のマカデミアンナッツをたらふく頂戴してからは自分と同じように距離を置いていたはずだ。寂しさを曝け出す妙が『あなたも』ということは、他にも距離を置いていた者が複数いるのだろう。職場の同僚だろうか、はたまたあの銀髪だろうか。
 近藤は寂しげに微笑んだ。
「お妙さん、大事な人の死はね、誰かに手を引かれてではなく、己で乗り越えないといけないんですよ」
 ああ、やっぱりこの人も自分の武士道にのっとって侍の道を行く人なのね。
 近藤との心の距離を感じた妙は、太腿を触れさせていた手の力を緩めた。
「いや、別に乗り越えないといけないってわけじゃねェ。乗り越えなくてもいいんです。俺ァ、いつまでも未練がましく引きずってますから」
と、近藤は妙の頭を優しく撫で、妙の太腿からすっと手を引いた。妙の横で胡坐を掻く。
「俺には剣の師とは別に先生がいたんです。俺なんか足元にも及ばなねェくらい頭のいい奴でね、同志だと信じて疑わなかった。けど、ひとりでいつの間にか別の道に進んじまいやがった。気づいたら引き返せねェ所まで行っちまってた」
 悔やむ近藤の横顔に、妙はその横顔から視線を落とした。
「だが、そいつは殴られに戻ってきたんです」
 妙は、視線を近藤の顔へと戻した。
「嬉しかったですよ。最後の最後で、俺たちァ同じ道に戻ることができた」
 声に明るさを戻した近藤の表情は、暗くはなかった。寂しさはあれど、悲観していない。
「尾美一塾頭は幸せもんですよ。新八くんとお妙さんにブン殴られて最後には己を取り戻せたんだ」
 近藤は妙の顔を見て微笑んだ。
「もしお妙さんが……いや、んなことあるわけねェな、それに……」
 あの銀髪が傍にいるのなら妙は道を間違えはしないだろうと、近藤は頭を振って言い直す。せめて自分は妙にとって同志であると実感したい。
「お妙さん、俺がねじ曲がったら俺をブン殴りにきてくれますか?」
 どこか寂しさを含んだ近藤の笑顔に、尾美の顔が重なる。
「そんなの、いつも殴ってるじゃないですか」
 視線を落とした妙は、畳をぼんやりと見つめる。
「それに、あなたの周りにはたくさんの人がいるじゃないですか。私がわざわざ殴りに行かなくても、土方さんや沖田さんに……」
「そうですよね」
 ぽつりと言った近藤の声に、はっとする。妙は言ってしまってから後悔した。近藤は立ち上がり、妙に向かって頭を下げる。その長身で頭を下げられても座ったままの妙には覗きこまれているだけにしか見えない。けれど、近藤の双眼は閉じられ、表情に迷いはない。嫌な予感だけしかしないが、言葉が何も出てこない。
「ありがとうございました、お妙さん。次からはビームサーベ流門下生として道場にお邪魔します」
 な、によ……それ……。
 予感は見事的中した。今後、近藤は自分のもとへやって来ない。
「それじゃ、これで」
 目を閉じたまま踵を返し、行こうとした近藤の袴を掴んで引っ張って動きを封じると、足止めのために両ふくらはぎに抱きつく。去ろうとした近藤の足は取られ、予想外の衝撃に顔面から畳に突っ伏した。
「お、お妙ひゃん、ひたひれす……」
 妙は抱きついていた足を放すと、近藤をひっくり返して仰向けにした。着物の裾が肌蹴るのも構わずに近藤に跨る。
「逃げるの?」
 眉を寄せた妙は近藤を睨んだ。後ろ手に肘を突いた近藤は体をやや起こして腰をずらす。跨る妙から逃げようとするが、気づいた妙に腰を下ろされ、妙の体重分の重石に動きが止まる。
「私は、あなたのことが好っ」
 唇に近藤の右の人差し指と中指が触れ、言葉が遮られた。
「お妙さん、それは勘違いですよ」
 妙は、目を見開いた。
「大事な人がいなくなってしまった寂しさで、おかしなほうに考えちまっただけです。俺ァもう、あなたのことを女として好きじゃねェ。今後、あなたにつきまとうこともしねェ。だから、お妙さんは安心して好きな奴と幸せになってください」
 何よ、それ。もう、女として好きじゃないって何よ。そんなの、信じない。嘘よ。
 告げられた言葉が胸に刺さって呼吸が詰まる。下唇を噛んで胸の痛みを堪えようとするが、痛くて痛くて堪らない。
「だから、そんな顔しないでください」
 瞳に涙を溢れんばかりに溜める妙の頬に優しく温かい手が触れる。痛んだ胸を和らげる温もりに、涙が頬を濡らす。妙は咄嗟に近藤の手を覆った。
「いや……そんなの、嘘よ」
「すみません、今回ばっかりは嘘じゃないです」
「いやです、信じません。な、慰めるだけでいいから、一度きりでいいから、私のこと」
「っはァ……」
 近藤は溜息をついた。呆れた表情の近藤に、妙は言葉を失くす。
「お妙さん、何言ってるかわかってますか。嫁入り前の娘が自ら慰み者になるなんて、がっかりです」
「じゃ、じゃあ、結婚したらいいじゃないですかっ」
 聞きたくなかった言葉を妙の口から聞いてしまい、近藤は苦虫を噛み締める。
「近藤さん、いつも私と結婚したいって言ってたしっ」
 苦渋の心持ちでいるのを気取られないように近藤は無表情を装う。
「すみません。男として、こんなオイシイことになってるのに、反応してないのわかりますよね?こんなんじゃ、結婚したとしても跡取りをつくれねェ」
と、近藤は、乱れた妙の裾から除く下着を見やった。
「それなら、私が頑張りますから」
 泣いて縋る妙の腰が浮き、袴の紐が解かれる。
「お妙さん、やめてください」
「いやです」
「こんなことしなくても、お妙さんにはアイツがいるでしょう」
「アイツって、誰ですか」
「尾美一塾頭も言ってたじゃないですか」
 銀さんのことを言ってるの?
「やめてくださいよ、近藤さん。銀さんは、そんなんじゃありません。私が好きなのはあなたなんですよ?なのに、そんなこと言って……」
 妙は、力のない近藤を取り出し、それに口づける。
「あなたも私の前から去るというのなら、私に残してからにしてください」
 妙の口元を見てしまった近藤は、眉根を寄せた。
 ぐぬゥゥゥ燃えるなァ俺の小宇宙ォォォ!ここで勃ったら男が廃るゥゥゥ!そうだ俺はとっつぁんに銃口向けられてんだッ!三つ数えて、一……ぎゃァァァ!お妙さん裏筋舐めないでお願いィィィ!ていうかお妙さん処女じゃねーの?違うの?もう経験済みなの?あの野郎に貫通されちゃったの?くそォォ銀時ゆるさねェェ!
「お妙さん、無駄ですよ。いくら舐めてくれようが、勃ちはしません。俺ってこう見えてデリケートなタチなんです」
 近藤は着物を直し、妙に一礼すると立ち去った。
 なんなのよ、いつでもガチガチのくせに。原作コマの見えない所で隙あらばさりげなく股間を押しつけてきたことだってあるのに、私が触ってもあんなフニャフニャのままだなんて、なんなのよ。本当に、私のこと好きじゃなくなったの?ちっとも興味なくなったの?
 妙は肌蹴た膝の上に惨めな涙をこぼした。
誘惑
Text by mimiko.
2013/03/01

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